小町ポイント クリスマスキャンペーン   作:さすらいガードマン

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 ポワポワポワンと、どう考えても非現実的な効果音を立ててピンクの煙が広がり俺の視界を埋め尽くす。自分の指先も見えないほどの濃い煙だが、不思議と息苦しさは感じない。

 立ち尽くすこと数秒。ゆっくりと霧が晴れていくと、そこには……

 

 

「……葉山。……お前何やってんの?」

 

「やあ、遅かったじゃないか。少し退屈し始めてたところだよ」

 

 自分の席に、所在なげに座っていた葉山は、そう言って俺の方に向き直った。

 

 見慣れた風景。二年F組、俺の、葉山の教室。八ヶ月ほども通っているが、ここでこいつと二人だけ、という状況は初めてかもしれん。

 

「勝手に人の夢に出てきてんじゃねーよ」

 

 学校一の嫌われ者から、最近ようやく学校一認識されない男の座に返り咲いたこの俺が、なんで夢の中でまで、校内カーストの頂点、「ザ・リア充」みたいなやつと過ごさなきゃならんのか。

 

「夢? 何の事だい?」

 

 どうやらこいつには夢の中という認識は無いらしい。

 

「だいたい、小町、じゃなかった、天使コマチエル様は、恋人をプレゼントする、とか言ってたぞ。なんかエラーでもあったのか……?」

 

「だから、俺だよ」

 

「……は?」

 

「俺が、比企谷の、一夜限りの恋人さ」

 

「お、お、おま、お前、何いってんのん?」

 

のんのん。頭おかしいのん? おかしの国の住人なのん? おかしいのは俺ですね。れんちょんに謝れ。

 

「俺は、さ。 俺は、『みんなの葉山隼人』なんだ。だから、何も選ばない。みんながこうあってほしいという俺であるように行動するだけだ」

 

 おいおい、自分語り始めちゃったよ。これだからリア充ってやつは。

 

「だから、この状況を相談してみたんだ。SNSのアンケートで」

 

おい。

 

Q:小町ポイントのキャンペーンで、俺が比企谷の恋人に選ばれちゃったんだけど、これって有りかな? 【HAYATO 17♂】

 

A:有り!有りだよー。ホモが嫌いな女子なんていませんっ。ぜひ、比企谷くんのヘタレ受けをキボンヌ 【H.E 17♀】

 

A:せんぱいと葉山先輩が……。はっ。もしかして私の好きな人二人並べればすぐ有りって言うと思ってるんですか見たいか見たくないかって言ったら見たいですけどでもやっぱり目の前でってのはドキドキしちゃいそうなのでこっそりしてるのを内緒で覗かせて貰う形にしてもらっていいですかごめんなさい。【I.I 16♀】

 

A:君たちが友情を昇華させて、そういう関係になるというのは、教師として複雑では在るが……。しかしこれも一つの形。……そう、結婚とか婚約とか結婚とか、そんなのばかりが愛じゃない! 私は勇気を持って君たちの関係を認めよう! 【S.H 2X♀】

 

回答者の人選が偏り過ぎだろ……。つーか、小町ポイントって一般的な名詞なの?

 

「ま、そんなわけだから。俺はみんなの期待に応えるよ。それが『葉山隼人』だからな」

 

 葉山が席を立ち、ネクタイを(ほど)きながらゆっくりとこっちに近づいてくる。

 

「おい、お前、何(さわ)やかにとんでもないこと言ってんだよ! 男同士とか、あり得ないだろ」

 

「比企谷、一方的に決めつけるのは良くない。そういうのはただの偏見だ。君自身がそう言ってただろう?」

 

葉山は、そう言って、正面から俺の両肩をがっしりと(つか)んだ。

 

「お、おい、やめろ……」

 

葉山の腕に力がこもる。さすが運動部のエース、振りほどけない……。

 

「いいじゃないか、めったに出来ることじゃないしな。これもいい経験だよ」

 

そう言って葉山は、ゆっくりと顔を近付けてくる……。

 

「ちょ、ま、うあぁぁ……、や、やめろおぉぉぉ……」

 

「…………」

 

「……」

 

 

 そのご、はちまんのすがたをみたものは、だれもいなかった。

 

 

 

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このまま永遠の眠りに就く

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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