小町ポイント クリスマスキャンペーン 作:さすらいガードマン
メグメグ・メグ・リン、と、どう考えても非現実的な効果音を立ててピンクの煙が広がり俺の視界を埋め尽くす。自分の指先も見えないほどの濃い煙だが、不思議と息苦しさは感じない。
立ち尽くすこと数秒。ゆっくりと霧が晴れていくと、そこには……
可愛らしいサンタ服をまとった、城廻めぐり先輩がニコニコしながら手を振っている。
「お~い、比企谷くーん」
さらに霧が晴れていくと、どうやらここは特別棟の校舎裏のようだ。日当たりはいいけど人のあまり通らない、俺的ベストプレイスランキング上位の場所だ。ただ、ここは天使戸塚がラケットを持って俺のために踊ってくれる(妄想)のを見ることが出来ない。それさえクリアすれば、ランキング一位も狙えるのだが。
めぐり先輩は、藤棚の下のベンチに座っている。 ……さっきからの流れで行けば、この世界では彼女が俺の恋人ということになるが……。
俺が先輩の方に近づいていくと、彼女はベンチの、自分の隣をぽんぽんと叩いて、
「座って座って、比企谷くん。今日はよろしくね~」
と、相変わらず天然のぽわぽわとした笑顔。
「……っす」
勧められるまま、少しだけ距離を開けて彼女の隣に腰をかける。
めぐり先輩は、もこもことしたあたたかそうなワンピースタイプのサンタ服を着ている。スカート部分からスラリと伸びた脚は黒のストッキングに包まれ、足元はふかふかの、お菓子でも入ってそうなサンタブーツ。
頭の上にちょこんと乗せた、ヘアピンで止めるタイプの、アクセサリのような小さなサンタ帽が可愛らしい。
このひとは、こういう可愛い格好がいちいち似合うなー。もう、心がめぐめぐするんじゃ~、などと考えていると、
「私と比企谷くんが恋人だなんて、なんだか変な感じだね~」
特に照れるでもなく彼女はそう言う。
「はあ、そうっすね」
「相変わらずテンション低いなぁ。もっと元気よく、盛り上がっていこう、おー!」
「……おー」
「……ね、比企谷くん。比企谷くんには、文化祭でも体育祭でも、いっぱい、いーっぱい頑張ってもらって、とっても感謝してるんだ。……だから、今日は特別に、私にできることならなんでもしてあげるよ。私からのクリスマスプレゼントってことで。どうかな~?」
彼女は、むふーっ、となんだか得意気に胸を張る。
はあ――って、ええぇ! こ、この先輩、可愛い顔して、とんでもないことをさらっといいやがりましたよ? 「なんでもしてあげるよ」 ……
え、マジ。本当に何でもしてくれるんですかね? 男子高校生の性欲舐めすぎじゃないですかね?
「……何でもっすか?」
動揺を隠して、なるべく自然にそう聞くと、めぐり先輩は、
「うん! なんでも言って」
と、ぽわぽわ笑って答える。
よっしゃぁ、
「じゃあ、そにょ……」
噛んだ……。でも八幡負けない! とりあえず、痩せてる割に意外とありそうな胸を揉ませ……
――めぐ・めぐ・めぐりん・めぐりっしゅぱわー――
ぐわっ、めぐり先輩の後ろから後光が射している。光に当てられ俺の煩悩が浄化されていく……。そんな、せっかくのチャンスなのに……。
「どうしたの? 比企谷くん」
くっ、胸が駄目なら、そのストッキングに包まれた太腿の間にっ……。
「ふ、ふともも……」
――めぐ・めぐ・めぐりん・めぐりっしゅぱわー――
ぐわあぁぁぁっ。な、何もしていないのに賢者タイムとか、そんな馬鹿な……。
「んん? 脚がどうかした? あ、それなら、ちょっと恥ずかしいけど、膝枕してあげる」
そう言うと先輩は、もはや腑抜けになって力の入らない俺を、よっこらせ、というかんじに引き倒し、俺の後頭部を彼女の膝の上にのせた。ストッキング越しにじんわりとめぐり先輩の体温が伝わってくる。サンタ服の裾のファーのところが耳に当たって少しくすぐったい。
「どうかな、気持ちいい?」
覗き込むようにして先輩が聞いてくる。
「……はい。すごく気持ちいいッス……」
「そう。良かった~」
彼女は、えへへっと微笑う。だが、貴重な、「なんでもしてあげる」これだけでは終われな……
――めぐ・めぐ・めぐりん・めぐりっしゅぱわー――
先輩の体温と、後光の光を浴びる爽やかな心地よさの中で、俺はゆっくりと意識を手放した……。
俺は……