小町ポイント クリスマスキャンペーン 作:さすらいガードマン
ポワポワポワンと、どう考えても非現実的な効果音を立ててピンクの煙が広がり俺の視界を埋め尽くす。自分の指先も見えないほどの濃い煙だが、不思議と息苦しさは感じない。
立ち尽くすこと数秒。ゆっくりと霧が下の方に沈んで、視界が開けてくる。
足元にはドライアイスのスモークが立ち込めている。スポットライトを浴びているのは、なんと真っ白なウエディングドレス姿の平塚静先生! おめでとう、夢の中とは言え、ついに結婚できたんですね……って、彼女と腕を組んで隣に立ってるの俺かよ……。いつの間にか、白いタキシードとか着せられてるし。
「あの……先生、」
「いや~うれしいなぁ、ついに結婚かぁ。比企谷、一緒にしあわせになろうなっ」
と、満面の笑みを浮かべている。
「いやあの、」
「やっぱり『八幡』て呼んだほうがいいか? それなら、私の事も、『
「先生!」
「んん? どうした」
「なんでいきなり結婚なんですか……。色々とすっ飛ばし過ぎでしょ」
「私くらいの歳になると……、いや、まだ私は若い。若いけれども! 両親は色々言ってくるし、同級生とか、もう小学生の子供居るやつまでいるし……」
彼女はどこか遠い目をして語る。
「そんな訳で、恋人っていうのは結婚前提で考えるもんなんだよ。ならもう、すぐに結婚でいいじゃないか」
「いやいや、そういうのはちゃんと、本当の彼氏作ってやってくださいよ。じゃ、俺はこれで」
その場を立ち去ろうとする俺の左腕が、ガチャリと音を立てて引き止められる。……ガチャリ?
見れば、俺の左手首には、鍵の掛かった金属製の腕輪がガッチリとはめられている。そこから、一メートル位の丈夫そうなクサリが伸びており、反対側はブーケで隠されていた平塚先生の左腕の腕輪につながっていた。
「……これは?」
「あー、それは、小町ポイントでもらった『婚約
ちっとも大丈夫じゃない……。つまり婚約破棄でもしようものなら、即チェーンデスマッチですね。それで、「抹殺のラストブリット」とか打ち込まれちゃうんですね。
というか、こんなモノまでもらえる小町ポイント恐るべし。
「私だってな、昔は彼氏の一人や二人……。でもさ、そっちから付き合ってくれって言ってきておいて、しばらく付き合ってこっちがその気になったら、『君は強い人だから、一人でも大丈夫』とか、あんまりじゃないかぁぁ」
ホント、この人、強いのは物理的に強いだけだからね? メンタルは大したこと無いからね? だから、誰か早くもらってあげてっ。そうしないと大変なことになっちゃうから(俺が)
「……な、なあ、比企谷。その、私と結婚するの、そんなに……イヤか?」
先生は涙目になってやけにしおらしく言う。
「それは、俺にも……」
理想とかありますし、なんて言いかけて、ふと考える。
あれ? 俺の理想って、専業主夫になって誰かに養ってもらうことだよな……。
ふむ、条件を整理しよう。
経済力 → 先生は安定・高収入の地方公務員である。
顔 → かなりのレベルの美人。
黒髪ロング → ぶっちゃけ好みだ。
スタイル → 文句なしのメリハリボディだ。
オタク趣味 → 非常に理解あり。
食の好み → 二人でラーメンの食べ歩きとかしたらスゲー楽しそう。
あれ? もしかして理想の相手?
「イヤ、じゃ無いです」
うつむいて、半べそになっている彼女にそう答えると、
「ふぇ」
びっくりしたように顔を上げた。「ふぇ」だって、かわいいな静ちゃんてば。
「その、俺なんかで良ければ……」
感極まったように、先生は真っすぐ俺に抱きついてきた。そのままキスされる……鼻腔をくすぐる独特の甘い香り……って、これワインの香りだ。さっきからおかしかったのはこのせいか。
「先生、飲んでたんですか……」
「だって、イベントのあと、学校で残ってた仕事を片付けて部屋に帰ったら、近所からは賑やかな声が聞こえてくるのに、うちだけ真っ暗でひっそりしててな。一人暮らしなんだから当たり前なんだけど……、でもっ、クリスマスイブなのにって思ったら、飲まなきゃやってられなくってさぁ……」
彼女はぽろぽろ涙をこぼしながらそんな事を言う。あー、確かにそれはせつないわ。
俺は、彼女を抱きしめながら、
「今夜は俺が一緒にいますから、そんなに泣かないでくださいよ……」
「うぐっ、ひ、ひきがやぁ~……」
先生はわんわんと子供みたいに泣き出した。
俺は優しく彼女の頭をなで続ける……。やっぱり、かわいいよ、先生……。
しかし……ウエディングドレスとタキシード着て、俺たち何やってんのかね……。それに、この腕輪どうすんの……。