君のためなら俺は   作:アナイアレイター

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感想で褒められたので調子に乗って書いちゃいました。おかげで日曜日の更新は無理だと思います。


第8話

 悠斗と一夏の戦いの場はいつもの篠ノ之道場となった。勝負は勿論、剣道で。

 これには箒達が行くまでの期限が残り少ないというのもそうだが、快斗だけじゃなく、他の人にも証人になって欲しかったからというのもある。どちらが勝ったのかの証人を。

 

「悠斗……言っておくが手は抜かないぞ」

「当たり前だ。全力で来いよ。そうじゃなきゃ意味がない」

「はっ、それで負けても文句言うなよ?」

「言わせてみろ」

 

 お互い対面した状態で防具を着けながら軽口を叩き合う。何て事はない、いつもの光景。

 それも今日で終わってしまう。それがどうにも寂しいと二人に思わせた。

 この場に箒がいれば五年間を共に過ごしたこの場所で、三人で思い出話にでも華を咲かせるのだろう。

 

 しかし、それも今はお互い頭の片隅に追いやる。そう、そんなのは必要じゃない。そんなのは後で幾らでも話し合う事が出来る。

 それよりも今はただ、目の前の相手にどうやって勝つかに集中するのみ。如何にして自らが持つこの竹刀を叩き込むか。その一撃をどうして防ぐか。

 そう、ただ――――

 

『(あいつよりも早く斬り込む!)』

 

 これ程悠斗が燃え上がる事は初めてだった。いつしか負け癖が身に付いていたのかもしれない。一夏には負けて当然だと思っていたのかもしれない。だが今は違う。それを克服し、箒のために戦う悠斗に負けという考えは一切なかった。

 

 対する一夏も同様だった。悠斗との勝負にはただひたすらに勝ちを狙う男が一夏だ。一番の親友であるが故、幼馴染であるが故に悠斗には負けたくない。

 だがそれも悠斗の負け癖のようなもののせいで張り合いがなかった。相手が最初から負けると思っていれば負ける。何の不思議もなかった。

 しかし、今はどうだ。その親友がこれまで感じた事のない程の気迫で自分に挑もうとしているのだ。燃え上がらない訳がなかった。

 

「んー……」

「どうした、束?」

 

 悠斗と一夏の二人が睨み合う中、見学者の一人である束が分からなそうに首を傾げる。それを隣に立っていた千冬が訊ねた。

 

「いや、どう考えてもこれいっくんが勝つでしょ? 何だってこんな無意味な事をやるのかなって」

 

 実際問題、束の言う通りだった。密かに稽古風景を覗いた時、彼女は悠斗が一夏に負けているところしか見た事がないのだ。そう思っても無理もない。

 更に言うなら、ここ最近の一夏の戦績は悠斗だけでなく、箒に対しても負ける事はなかったのだ。箒にも勝てない悠斗が一夏に勝てるはずがない。これまでの戦績がそう物語っている。

 

「さて、それはどうだろうな……?」

「まさかちーちゃんはあっちの子が勝つって思ってるの? ないよ、ないない。あんな凡人にいっくんが負ける訳ないよ」

 

 才能主義の束は一夏が勝つと信じて疑わない。自身のこれまでがそうだったし、千冬もそうだった。凡人が天才に勝てるはずがない。

 それに対して千冬は何処か含みのある言い方で二人を見た。立ち上がり、向き合って、竹刀を構える。

 

「試合時間は三分間、一本先取だ。いいね?」

『はい!』

「では……始め!」

 

 審判役を請け負った柳韻が今回の試合に併せた特別なルールを二人へ簡単に説明する。

 通常、剣道の試合は五分間、三本勝負で二本先取した方を勝者とする。だが今回は時間がないため、短縮されたルールとなったのだ。

 二人の重なった返事を聞いた柳韻は手を上げて漸く出したのだ。二人の戦いの開始の合図を。

 

「おおおおッ!!」

「ずあああッ!!」

 

 お互いが雄叫びと共に繰り出した渾身の一撃が結び、鍔迫り合いの形に持ち込む。奇しくも最初の一撃は全く同じ面だった。

 

「(負けられない!)」

「(負けたくない!)」

 

 竹刀を通じて負けられない、負けたくないという意地を押し合う二人。柳韻が通常の試合通りに分かれと言う前だった。

 

「ぐっ!?」

「っ、めぇぇん!!」

「ちぃっ!!」

 

 押し切られた悠斗が後ろに倒れ込んだ。そこに空かさず一夏の一撃が見舞われる。しかし、何とか防ぐと柳韻から待てが掛かる。

 それを見て束が再度首を傾げた。

 

「何で今いっくんは倒れた相手に打ち込んだの? 反則じゃないの?」

「倒れた直後で、一度だけなら反則じゃない」

「ふぅん……そんな卑怯な事しなくても、いっくんなら勝てるのにね」

「卑怯ではない。それにそれだけあいつも本気だという事だ。しかし……」

 

 束の疑問に千冬が説明する。確かに束のように何も知らない人間からすれば一夏の取った行動は卑怯なものかもしれない。

 しかし、剣道を知っているものからすれば、せっかくのチャンスを無駄にする事は相手に失礼だ。

 もしもこれで悠斗が勝っても、手を抜かれた相手に勝利したという事実は何の意味もない。だからこそ、全力で勝ちに行く。

 

「しかし?」

「悠斗の様子がおかしい。今まで一夏に押し切られる事なんてなかったんだが……」

 

 体格も力もほぼ同じ二人のはずなのに、始めたばかりだというのに悠斗は押し切られた。

 それもそのはず、悠斗はこの三日間まともに食事もしてなければ、睡眠もろくに取っていない。おまけにここまで走ってきたのだ。既に体力はほぼないに等しい。

 単純な実力だけじゃなく、体力まで大きな差を付けられていた。

 

「う、ぐぅ……!」

「はぁぁぁ!!」

 

 また鍔迫り合いに持ち込まれ、押し切られた。何とか倒れ際の一撃を凌ぐも、平然を装っていた悠斗のメッキは徐々に剥がれつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、何も知らない箒は自室で着替えを済ませていた。期限までもう十五分もない。

 この部屋での着替えもこれで最後かと思い、少しの寂しさを胸に部屋を後にした。

 

「父さん……? 母さん……? 姉さん……?」

 

 家に誰もいない事にそこで気付いたが、時間が時間なので外で待っているのだろうと考えた箒は洗面所へ。

 

 この三日間、ずっと泣いてばかりだった箒は洗面所に向かい、鏡に映る自分を眺める。両頬には涙の流れた後が残っており、目は泣きすぎたのだろう、少し腫れていた。

 

「酷い、顔だ……」

 

 力なく呟くと冷たい水で顔を洗った。何度か洗うと多少はましに思える程度には回復したらしい。

 ポタポタと水が滴る中、ふと悠斗の事を思い出した。もうすぐ、彼と二度と会えなくなる。顔を見合わせぬまま、この地を去る。

 そう思うとまた視界がじわりと滲み出した。慌てて水で顔を洗って誤魔化した。

 

「ここにもいないのか? じゃあ、何処に……?」

 

 外に出ても出迎えるはずの政府のボディーガードはおろか、家族さえもいない。規則正しい生活を心掛けたおかげか、時間まであと十分はある。

 

「ん? 道場か?」

 

 そこで道場の方から竹刀を打ち込む音が聞こえてきたのに気付いた。まさか今日という日に稽古でもしているのだろうか。

 歩み寄りながら、道場にいるのは誰かと箒は考える。恐らく一夏か、千冬か……それとも。

 

「いや、それはないな」

 

 一瞬、箒にとって愛しい彼の姿を思い浮かべるが、頭を振って否定した。

 そうだ、来るはずがない。他の誰でもない自分が来るなと拒絶したのだから。三日前の事を思い出して、途端に箒の前に進む足が重くなる。

 

 それでも何とか前に進み、靴を脱いで道場に足を踏み入れようとした時だった。

 

「あっ……!」

 

 箒と同じくらいの背格好の子供二人が試合をしている。それを見た瞬間、箒の口から思わず声が漏れ出ていた。勿論、嬉しくて。

 

 もう会えないと思っていた人が目の前にいる。例え防具で顔が分からなくても、好きな人の剣を箒が見間違えるはずがない。という事は、相手はきっと一夏なんだろう。

 

「ぜらあああっ!!」

「ぐっ、う、ぅ……!」

 

 一夏が裂帛の気合いでもって悠斗に斬りかかる。悠斗はそれを防ぐも耐えきれず、押し切られて後ろに倒れた。すかさず倒れた相手に斬りかかるも寸でのところで防がれる。

 

「やめ」

「ふぅ……ふぅ……」

「はぁっ! はぁっ! はぁっ!」

 

 箒の父の柳韻が止めて、開始線まで二人が戻る。先程優勢だった一夏は軽く呼吸を整えているのに対し、劣勢だった悠斗は満身創痍なのか、肩で息をしていた。呼吸も離れた場所の箒がいる、ここまで聞こえてくる程荒い。足元も覚束ないのか、ふらふらしている。

 

「(何で、どうして悠斗がここに? いや、それよりも何故二人は試合を?)」

 

 来るなと拒絶した悠斗がここにいる嬉しさよりも、何故試合をしているのかと疑問の方が強くなる。何のためにか、それは途中から来た箒には分からない。

 それでもあれだけ必死に戦う悠斗は初めて見る。余程の事だとは容易に想像出来た。だから――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめ」

 

 再び柳韻の声が掛かる。また悠斗が倒れたのだ。開始線に戻っていく一夏を見て、悠斗は内心悪態を吐く。

 

「(あの野郎……浮かれてやがる……)」

 

 悠斗の視線の先には小手を付けているものの、左手を閉じたり開いたりを繰り返す一夏の姿があった。浮かれた時にやる、一夏の癖。今にも死にそうな相手に浮かれるなという方が難しい話である。

 上手くそこを突けば勝てるかもしれない。脳裏に漸く僅かに現れた勝利の目に喜ぶも、体が限界を迎えようとしていた。

 

「ぐっ、く……!」

 

 遂に体力が底を着いたのだ。立ち上がろうにも思うように動いてくれない。自分の体だというのに。

 

「まだ、まだだ……!」

 

 震える体に鞭を入れ、竹刀を杖代わりに立ち上がろうとしてもダメだった。これが白井悠斗の限界だと、暗に告げられている気がした。

 

「(やっぱり俺には無理なのか……?)」

 

 幼稚園の頃から抱いていた一夏に勝つという夢。それすら叶えられないようでは箒の側にはいられない。そう思って挑んだこの戦いは時間稼ぎをしている悠斗の反則負けと、思わぬ形で幕を引く事になりそうだった。しかし――――

 

「悠斗っ!!」

「えっ……あ、ほ、箒……?」

「箒……?」

「箒ちゃん?」

 

 声がした方、道場の入り口を見ればここにはいないはずの箒が立っていた。この勝負が終わってから部屋にいる箒を迎えに行く予定だった悠斗は呆気に取られてしまう。それはこの場にいる全員が例外なくだった。

 急に声を掛けてきてどうしたのかと思うが、それも続く箒の言葉にどうでも良くなってしまった。

 

「負けるなっ!!!」

「――――うぅおおお!!」

 

 負けるな。箒から贈られた短いその言葉に不思議と悠斗の体に力が入った。あれだけ動かなかった体はすんなりと立ち上がり、開始線に戻ると竹刀を構える。既に戻っていた一夏と短く言葉を交わした。

 

「箒も来たし、これで最後にしようぜ」

「……賛成だ」

 

 一夏からの提案に息も絶え絶えな悠斗は短く返事した。

 

「――――俺の、勝ちだ」

「――――お前の、負けだ」

「始め!」

 

 開始の合図と共に一夏が踏み込んだ。振りかぶって相手の頭上に振り下ろす面。

 対して悠斗は最早体力がない。一夏に倒れ込むようにして前に出て、繰り出したのは胴。

 

「めぇぇん!!」

「どおぉぉぉ!!」

 

 竹刀は交差する事なく、互いの防具に吸い込まれていき、そして。

 

「……胴あり、一本!」

「……ありがとう、ござい、ました」

「ありがとうございました」

 

 軍配が上がったのは悠斗だった。拍手が巻き起こる中、二人は防具を外していく。

 その結果にあり得ないものでも見たかのように目を見開き、束がぼそりと漏らした。

 

「いっくんが、負けた……?」

「最後、あいつは浮かれていた。そのせいで僅かに大振りになったんだ。その逆に悠斗は極度の疲労から必要最小限の動きをした。となればどちらの剣が早く届くか、分かるだろう?」

「それでもいっくんが負けるはず……わ、態と負けたの?」

「……あれを見てもそう言えるのか?」

 

 千冬が顎で示した先には防具を外し終えた一夏が俯き、立っている姿だった。いや、ただ立っているだけじゃない。

 手は固く握り締められ、力が入りすぎて皮膚が白くなっている。唇を噛み締めて必死に何かに耐えていた。

 

「悠斗は全力でやった。勿論、一夏もだ。だからあれだけ悔しがれるんだ」

「いっくん……」

「まぁ、悠斗だけじゃ勝てなかったろうがな」

 

 今度は千冬が示したのは二人が話している間に悠斗がぼろぼろの体を引き摺り、箒の元へ歩んでいる姿だった。

 やがて箒の前に辿り着くと悠斗は荒い呼吸のまま、箒に話し出した。

 

「初めて、一夏に勝った……」

「……ああ、おめでとう」

「ありがとう。箒の言う通りだった……」

「私の?」

 

 首を傾げる箒に悠斗は呼吸を整えながらその疑問に答える。

 

「諦めなければ、夢は必ず叶う……だろ?」

「あっ……」

 

 それは二人が初めて出会った日に箒が自身の夢と共に教えた言葉だった。諦めなかったから一夏に勝つという夢を叶えられたのだと。

 箒も五年前の事を覚えてくれていたと嬉しくなる。大切な人との、大切な思い出。

 

「ところで箒は最近、一夏に勝ったか?」

「い、いや……随分前から勝てなくなった」

「じゃあ、俺は箒より強いんだな?」

「む、そんなのはやってみなければ――――」

「強いんだよな?」

 

 自分よりも強いと、勝負してもないのに言われて少しムッとするが、確認するように訊ねてくる悠斗に負けて首を縦に振った。

 

「そうだな。悠斗は私よりも強くなった」

「そうか……なぁ、俺の新しい夢を聞いてくれるか?」

「何だ?」

 

 何度か深呼吸を繰り返すと悠斗は漸く切り出した。先程、ここに来る前に出来たばかりの、新しい夢を。

 

「俺、ボディーガードになるよ。それで箒の側にいれるよう頑張る」

「っ!!」

「守りたいんだ、箒を」

 

 保護プログラムの対象者には必ずボディーガードが付く。快斗の調べていたのはその募集要項だった。

 簡単な話だった。狙われる危険があるのだから保護プログラムが存在する。だがそれで安全が確保出来た訳じゃない。その側にはボディーガードが付いているはずなのだ。

 

「どんな危険な相手か分からないんだぞ……?」

「勿論、そいつらからも守る。でも俺が本当に守りたいのはそういうのじゃない」

「えっ……?」

「箒が泣かなくて済むように、寂しい思いをしなくて済むようにしたいんだ」

「あっ、あっ……!!」

 

 ただ命を守るだけなら誰でも出来るだろう。でもそういう精神的な部分までは守れない。だから自分が側にいると、悠斗は言ったのだ。

 嬉しさのあまり箒の頬に涙が伝う。この三日間で流れた涙とは違う種類だ。しかし、そんな気持ちとは裏腹の言葉を口にする。

 

「ど、何処にいるのか分からないんだぞ?」

「見つけ出す!」

「何処か遠いところにいるのかもしれない」

「駆け付ける!」

 

 一瞬の間も、一切の迷いすらも感じさせない悠斗の返事にまたぽろぽろと涙が溢れる。

 

「悠斗と離れたくない……!」

「っ、ごめん……今は出来ない……! でも!」

 

 分かっている。箒もこれが意地悪だとは分かっている。でもそれでも言わずにはいられなかった。

 そんな箒の願いに申し訳なさそうにして謝る悠斗。本当は自分だって離れたくない。でも今はそれがどうやっても出来ないのだ。

 

「でも、必ず、必ず迎えに行く! だから……待っててくれないか?」

「……はいっ!!」

 

 悠斗がくれた返事に華が咲いたような笑顔で箒は応えた。

 

「あっ……」

 

 その会話している様子を見て、束が声を出してしまった。

 この三日間、自分がどれだけ頑張っても、千冬や一夏が頑張っても出来なかった、箒を笑顔にさせる事。それが何の才能もない、凡人が容易く成し遂げてしまった。

 

「……あはっ」

 

 何時だったか、千冬が言った人を幸せにするのに特別な才能はいらない。という言葉を思い出した。

 

「あは、あはははっ!!!」

「束?」

 

 完全に想定していなかった存在に束は歓喜の笑い声を上げる。こんなに良い意味で裏切られたのは初めてだったのだ。

 アイザックに騙されて以来、妹を苦しめた罪もあって、ずっと良い気持ちじゃなかった束の心は初めて喜びを思い出した。

 そうなると話は早い。束はるんるん気分で二人の元に近寄るとこれまでにない最上級の笑みで質問した。

 

「ねぇねぇ、君の名前はなんていうの!?」

「えっ、し、白井悠斗ですけど……」

「ね、姉さん?」

 

 以前にも名乗った事がある悠斗は再度名前を聞かれた事に困惑し、箒も束がお気に入り以外にこんな態度をするという初めての事態に困惑する。

 

「うんうん、じゃあゆーくんだね!」

「は、はぁ……」

 

 前に話した時との態度の違いにますます困惑する悠斗。だがそんな悠斗を差し置いて、束は話を進める。

 

「箒ちゃんを笑顔にさせてくれてありがとう、ゆーくん!」

「ど、どうも」

「このお礼は必ずするから! 楽しみにしててね!」

「は、はぁ」

 

 生返事しか出来ない悠斗を尻目に束はまたるんるん気分で去っていく。事情がさっぱり分からない悠斗はこう思った。嵐のような人だと。

 

「悠斗、将来の事を言うのはいいんだけど、ちゃんと今の気持ちも伝えなきゃダメだよ」

「え、えぇぇぇ!?」

「当たり前でしょー?」

 

 快斗が言った今の気持ちとは箒に対する好意の事だろう。ぶっちゃけてしまえば箒は随分前から知っているが、悠斗は箒がどう思っているか知らない。

 周りにはバレバレだったが、ともかくそれをこの場で口にしろと言っているのだ。

 

「娘の事を何とも思ってない男を側に置くわけにはいかんな」

「あなた……」

「ぐっ、おお……!?」

「ほら、言えよ悠斗」

「い、一夏まで……」

 

 退路は塞がれた。まさかの柳韻まで乗り気になったのだから観念するしかない。ちらりと見ると千冬と束はにやにやと眺めているのみ。言うしかなかった。

 

「ほ、箒!」

「は、はい!」

「えっと、その……す、すすす……」

 

 返事は分かっていても箒もどうしても緊張していた。分かっている箒で緊張しているのだから悠斗の方は計り知れない。

 しかし、遂に五年間の想いを口にした。

 

「ふきれふ!!」

『(噛んじゃった)』

「……私も、好きだ!」

 

 悠斗は本番に弱かった。盛大に噛んでしまい、悠斗と箒以外の面々から噛んだと突っ込まれるも、本人達はとても幸せそうに抱き合っているから良しとした。

 

 その後、本当に最後だと二人で写真を撮るとお互い写真データを保存。

 移動中、箒は悠斗と二人で並んでいる写真を見て顔を綻ばせた。

 

「悠斗……ふふっ」

 

 距離は離れていても心は近くにある。それが箒は嬉しかった。




くぅー!疲れました!
まじで疲れました。

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