久々のお湯を堪能した。ちょっと長湯し過ぎたかもしれないが、この体のせいか、のぼせたりはしないようだ。
軽い足取りでホームに戻ったが、ベル君もヘスティア様もまだ帰ってなかったようだ。
マップを調べると、ベル君がダンジョンにいた。
……え、なんで?ダンジョン!?しかもHPちょっと減ってる!?
風呂で温まった心と体が一気に冷えたような気がした。
いつかに手に入れた早着替えスキルにポイントを振って有効化して自分の装備をまるで変身のようなスピードで身に着け、ベル君の装備をストレージに放り込んで、急いでダンジョンに向かった。
ベル君は6階層で装備もつけずに戦っていたようだ。傷だらけで息がかなり乱れている。
ウォーシャドウ3匹が壁から生まれて、ベル君に迫る。縮地を使って安全を確保するほど切羽詰まってはいないが、このままでは危険なので、力を制限した状態で後ろから魔石を狙った不意打ちをしかけ1匹仕留める。
>「不意打ち」スキルを手に入れた。
便利そうなスキルだ。後で有効化しておこう。
「サトゥーさん!?なんでここに!」
「話は後、とにかくモンスターを倒してから」
初心者殺しと言われているモンスターだし、2対2になっても油断はできない。ベル君が危ないと思ったら、いつでも縮地で介入できるように気をつけつつ、モンスターを倒した。
今回の戦闘では一撃も食らっていないが、オレがくるまでに連戦したのか随分とボロボロだ。今すぐ、装備を渡したいところだけど、ストレージに入れたままだ。
「ベル君、このポーションを飲んだら、とりあえず魔石を回収してくれるかい?
君の装備を持ってきたけど、戦闘してたから通路の隅に置いて加勢したんだ。とってくるよ」
「……わかりました」
オレのレッグホルダーからポーションを手渡した。
ベル君は荒い息を整えながらも、素直に従ってくれた。
通路に移動して、ストレージからベル君の装備を取り出す。再びモンスターとの戦闘にならないうちにベル君に装備をつけてもらう。
「君が装備を着けずにダンジョンに向かったと街の人に聞いてね、慌てて装備をもって来たんだけど、理由を教えてくれるかな?」
「…………」
マップ機能を隠すための嘘をつきながら、ベル君に質問したが、ベル君は俯いたまま言葉を発しない。
ベル君のことだから、オレがどうやってベル君が6階層にいることを知ったのか?などは考えてないとは思う。どちらかというと、お金ぼったくられて、バレないようにお金を稼ぐためダンジョンに潜りました、とは言えない状態なんだろうね。
「理由を言いたくなければ構わない。
一人で戦いたいというならそれでもいい。
ただ、せめて5階層で戦ってくれるかい?
オレたちはファミリアだ。やっぱりベル君のことが心配だ」
勝手に10階層まで探索した自分のことを棚に上げて、ベル君に言う。心配なのはほんとだしね。
5階層なら二人で何度か潜っているし、ベル君のソロでも大丈夫だろうが、6階層は初心者殺しをはじめとしたまた5階層とは異なる環境だ。まだベル君に、6階層のソロ戦闘はやらせたくない。
「……心配かけてすみませんでした」
ベル君が申し訳なさそうな表情を浮かべ、頭を下げてくれた。
「構わないよ。……それでどうしたい?」
「5階層に移動します。一人で戦わせてください」
心苦しいという気持ちが声音からうかがえるが、はっきりとベル君は断言した。
「そうか。オレも5階層の別の場所で戦うとするよ。万が一危なくなったら声をあげるから助けにきてくれ。ベル君も危なくなったら大声で叫んでくれ」
「……わかりました」
少し心配だが、第5階層ならば大丈夫だろう。いざとなれば縮地で駆け寄る。
第5階層でベル君と別れて、マップを見る。しかし、この階層ならどうとでもなるけど、戦闘中にマップをチラ見するのはオレが危ない。
こう、気配を察知できるようなスキルはないだろうか?
周囲の情報を気配から感じ取って、その情報を元に戦闘を行い、マップでベル君の様子を確認する。
なんだか、おかしなことを言ってる気もするが……。イージーモードに期待しよう。
スキル取得に集中するため、一時的にメニューを非表示にする。特にダンジョンではマップから周辺の情報を得るためにメニューは表示しっぱなしにしているため、久々に視界が広い。
目は、なにかに焦点を合わせるのではなく、全体を見ることを意識する。
耳を澄まし、周囲の音を拾う。後方の通路奥からなにか静かな足音がする。
匂いからも情報を得ようとする。周囲の土の臭いに混じり、獣臭い匂いが強くなる。
肌から空気の流れを感じようとする。後方から何か押されるような感覚がある。
急に強くなった空気の流れを避けるように体を動かす。
視線を後ろに向けると、コボルトがいた。とりあえず、サクサクと目の前のモンスターを倒す。
しかし、5階層にコボルトとは珍しい気がする。
メニューを再表示して、一応、他にもイレギュラーな名前がないか、全マップ探査を使って確認したが、特にいないようだ。たまたま降りてきただけだろう。
ログに目を向けると想定以上のスキルが得られたようだ。
>「索敵スキルを得た」
>「危機感知スキルを得た」
>「空間把握スキルを得た」
>「心眼スキルを得た」
使えそうなので全スキルを有効化していく。
ふむ、目を瞑っても周囲の情報が把握できる。便利なのだがなんとも言い難い感覚だ。
目を閉じても表示されるマップでベル君の状態を確認しつつ、この感覚になれるとしよう。
大分、この感覚になれてきた。目を閉じていても普通に解体でき、モンスターが灰になる様子までわかる。
ベル君の様子を確認しつつ、戦闘なんてことをやっていたせいか、「並列思考」なるスキルを得た。このスキルは、マルチコアではなくマルチスレッドらしい。頭脳が二つになるわけでないので、脳内のもう一人のオレにベル君の様子をマップで見ててね、といったことはできず、オレが両方ともきっちり対応しなくてはならない。
並列思考スキルを一言でいうと、ながら作業の達人になれるスキルといったところだ。
おっと、ベル君が近づいてくる。会うのもなんだし、別の部屋に移動しよう。
しばらくベル君から逃げ続けた後、いい時間だしそろそろ帰ろうかと言いに来たのかもしれないと気付いた。
スキルを確かめる意味もあり、縮地からの一撃で仕留めたので魔石が少し多すぎる。適当にストレージに仕舞い、数を減らしておく。
「……やっとみつけました。……そろそろ、ホームにもどりませんか?」
別れてからHPはあまり減ってないが、スタミナは結構減っている。表情からもかなりの疲労がうかがえる。探しまわるのも疲れたんだろう。心の中で謝る。
「ああ、そうだね。帰ろうか」
「……サトゥーさんは、無傷ですね。僕も、もっと強くならないと……」
む、さすがにちょっと不自然だったか。けど、わざと攻撃を受けるのもね。
ベル君をごまかしつつ、ダンジョンを後にした。
ホームにもどると、ヘスティア様が駆け寄ってきた。
「ベル君、サトゥー君、よかった!って、その怪我はどうしたんだい!?誰かに襲われたのかい!?」
しまった。ヘスティア様に心配をかけてしまったようだ。
書き置きぐらいしておくべきだったか。
「いえ、そういうことは、なかったです」
「じゃあ、どうして!?」
「……ダンジョンに、もぐってました」
ベル君の言葉にヘスティア様は唖然としている。
「一晩中、そんなボロボロになるまで!?サトゥー君もどうして止めなかったんだよ!」
「いえ、サトゥーさんは、わざわざダンジョンまで止めに来てくれたんです。
でも、僕が無理を言って……」
ポーションがあるとはいえ、最初は装備を付けていなかったことや、長時間の単独戦闘により、ベル君はいつもよりボロボロだ。もっともポーションも渡してあるし、見た目ほど傷は深くないはずだ。
ヘスティア様はじっとベル君を見て、ひとつの服の裂け目を指差した。
「その服の裂け目、防具の下まで続いているよね。
まさか、防具を着けていなかったんじゃないのかい?」
さすが神様。まさか、防具をつけてなかったことに気が付くとは思わなかった。
「……はい。サトゥーさんが途中で防具を持ってきてくれました」
「……どうして、そんな無茶をしたんだい?
そんな自暴自棄な真似、君らしくないじゃないか?」
優しく諭すような声色でヘスティア様が言う。
ベル君は黙って下を見ている。答える気はなさそうだ。
「……わかったよ。君は意外と頑固だからね。無理やり聞き出そうとしても無駄だろう」
「……ごめんなさい」
「構わないさ。さ、シャワーを浴びておいで。その後、治療をしよう」
ベル君がシャワールームに入っている間に、ヘスティア様が声をかけてきた。
「すまなかったね。サトゥー君。ベル君が迷惑をかけたようだ」
「いえ、ファミリアですからね」
「そうか。……君も大丈夫かい?2日前からロクに寝てないんじゃないかい?」
「ええ、ただ前の仕事でも締め切りに追われてロクに寝れないことはあったので慣れてます」
「君もシャワーを浴びたら、ゆっくり眠ること、いいね」
「その前にベル君の装備を整備してもらいに行ってきますよ。結構派手に痛んでますし」
ベル君はシャワー室から出ると、すぐ眠ってしまったので許可は取れなかったが仕方ない。店で見てもらうと、明後日の朝には整備が終わるとのことだった。
ついでに換金所まで足を伸ばし、ベル君の取り分を少し多めに分けておく。
ようやく、ホームに戻りソファーで眠りについたが、存外疲れていたらしい。次の日の朝まで眠りについていた。
食後、ステイタス更新を行った。
サトゥー
Lv.1
力:I15→I27 耐久:I0 器用:I37→I62 敏捷:I18→I31 魔力:H136→H149
《魔法》【】【】【】
《スキル》
【
・異世界での理と
器用が結構伸びていた。目をつぶってマップを見ながら戦闘なんて真似をしたせいだろうか。
「ベル君にも言ったんだけど、今夜から数日、留守にするよ。友人の開くパーティーに顔を出そうかと思ってね」
「わかりました。楽しんできてくださいね」
「すまないが、ベル君のこと、よろしく頼むよ」
オレの目を見て、真剣にヘスティア様が頼み込んできた。
「はい。オレたちは
その答えに、ヘスティア様は満足そうにうなずいた。