ベル君の案内でダンジョンの第一階層についたが、印象としては意外と広い。もっと狭苦しいイメージをしていたんだけれど、天井はかなり高く、通路も十二分に広い。
それと、明かりもあり松明などの光源が要らないというのもありがたい。
「気を付けてください。モンスターがどこから出てくるかわかりませんからね」
「ああ、気を付けるよ」
キョロキョロと物珍しそうにあたりを見回していたオレにベル君が注意してくれた。うん、気を付けよう。
ダンジョンは迷宮都市オラリオとは別マップ扱いのようなので、メニューから「全マップ探査」の魔法を使う。1階層のデータのみ得られた。どうも階層ごとに別マップ扱いのようだ。
現在位置は入口近く。モンスターはいない。この階層にいるのはゴブリンとコボルトのようだ。異世界のシステムである影響か、モンスターにはレベル表記がなく、どの程度の強さなのかまではわからない。
そもそもで言えば、異世界AのステータスはSTRとかVITとかINTとかの表記で、
とにかく、相手の強さまではわからないのだ。慎重に行こう。
「2階層へ向かう最短ルート上は多くの人が通るのでモンスターがいてもすぐ倒されてしまいますが、脇道にそれるとそこそこモンスターがいますよ」
ベル君の案内の元、脇道に入る。マップを見てると、そろそろ1匹のゴブリンとエンカウントしそうだ。初戦闘か、大丈夫だと思うが、さすがにすこし緊張するね。
「……ゴブリンが1匹ですか、まず僕が戦ってみますので見ていてください」
そういって、ベル君は逆手でナイフを構えて駆け出していった。
ゴブリンは大振りのパンチをベル君に仕掛けるが、左右に動き、簡単にかわしていく。攻撃の隙をつきナイフで傷をつけていく。
何度か攻防を繰り返しているとゴブリンが大きくバランスを崩し、その隙にベル君が首に一撃を加えた。
結構、血が出る。うわ、オレ、グロ耐性がないんだよ。ちょっとダンジョンに潜り始めたことを後悔しはじめた。
「理想は一撃で仕留めることですけど、最初は無理せず敵の攻撃は大きくよけて少しづつダメージを与えて隙を見つけるまで待つのもいいと思います」
今のベル君を見る限り、速度的には問題なく対応できるはずだ。落ち着いていこう。
「さて、モンスターを倒して周囲に敵がいないことを確認したら次は魔石の回収です。魔石はモンスターの胸元に……」
ベル君がゴブリンの死体にザクザクとナイフを刺していく。うえ、だからグロ耐性ないんだよ。
「ありました。これが魔石です」
ベル君が紫色の石、魔石を取り出した。グロい死体は、魔石を抜いてしばらくすると色を失い灰となった。どうせなら、倒した時点で魔石だけ残して灰になって欲しいものだ。
「あ、ドロップアイテムです!幸先良いですね!」
そう言って、ベル君は灰の中から牙を拾い上げた。ポップアップ情報によると、ゴブリンの牙……そのままだね。
ベル君によると、モンスターはまれにこういったドロップアイテムを落とすそうだ。結構いい値段で換金してくれるらしい。
「次、モンスターとあったら1体だけ残しますので、サトゥーさんの初戦闘といきましょう」
「頑張るよ」
しょうがない。言い出したのはオレだし、初期装備を買った時の借金もある。オレの能力的には問題ないはずだ。落ち着いていこう。
しばらく歩くと、ふたたびゴブリン1体と遭遇した。
「さぁ、サトゥーさん、頑張ってください。危なくなったら僕が助けますので安心してください!」
「いってくるよ」
ナイフをベル君と同じく逆手に構え、ゴブリンと向かい合う。
大振りのパンチを放ってきた。怖い。回避。
ちょっと後ろに下がったつもりが、結構な距離があいてた。
我ながらビビりすぎである。
「落ち着いて。大丈夫です!」
ベル君の声援を受け、再び近づいてゴブリンと向かい合う。攻撃できそうなタイミングはあるんだが、なかなか踏み込めない。
「回避は上手ですよ。あとは攻撃です。落ち着いて!」
わかってるんだけど、なかなか踏み込めない。
落ち着け。よし。今だ。
無我夢中で相手の首元にナイフを振るった。
「すごいです。一撃で倒せましたよ!」
「いや、すごい緊張したよ」
「またまた、すごい余裕そうな表情じゃないですか」
「顔に出にくいタイプなんだよ」
内心どっきどきだったが、
ただ、ベル君は何度も落ち着いてとはいっていた。顔には出てないが、動きはヘタレてるのが丸わかりだったようだ。
「さ、次は魔石を回収しましょう。魔石の場所は大丈夫です?」
「胸にあるんだよね。やってみるよ」
ゴブリンの死体に向かうと死体の目と目があった。気持ちが萎えそうになったが、お金のため、胸元をナイフで切り、ベル君の指導の元、魔石を取り出した。
「おめでとうございます」
「ありがとう」
集中していたので全然見ていなかった視界隅のログを確認すると、
>称号「迷宮探索者」を得た。
>「回避」スキルを得た。
>「短剣」スキルを得た。
>「解体」スキルを得た。
との表記があった。
称号はダンジョンから出てから考えよう。使えそうな「回避」「短剣」「解体」にはポイントを振っておく。
その後、ベル君が1対1の状況を整えてくれて、何度か戦闘を繰り返した。スキルのアシストのおかげで、戦闘もかなり楽になったし、解体もスムーズに終わる。精神的にも大分マシになってきた。最初はちょっと無我夢中だったが、2戦目以降は、ベル君と同じようなステータスの範囲で戦うことを心がけた。
それでも、手際のよさはベル君も驚くほどだった。スキルレベル10というのはかなりの凄腕なのかもしれない。
ある程度戦闘に余裕をもって臨めるようになったので、戦闘系のスキルを取得しにかかる。
ナイフを持った手と、逆の手でパンチを繰り出して「格闘」スキル、拾った石をぶつけて「投擲」スキル、攻撃を回避ではなく腕でそらすようして「受け流し」スキル、受け流しスキルを得る前に受け流すのを失敗して「打撃耐性」スキルを得た。もちろん、すべてスキルポイントを振ってある。
「パンチやキック、石投げたり、動きが多彩ですね。随分と戦いなれてる感じがしますよ」
「闘うのが初めてだから色々試しているだけだよ。パンチや投石ではナイフに比べるとあまりダメージを与えられないけど、怯ませるくらいならできるだろうからね。
ベル君が言ってた『少しづつダメージを与えて隙を見つける』を試してみてる感じかな。
ベル君が複数体受け持ってくれてるし、後ろで見てくれてるから色々試せるんだよ」
「でも、僕は敵の攻撃をどうやって回避するのか、ナイフをどうやって当てるのかということしか考えてませんでした。僕も試してみようかな」
「実験の要素が強いし、1体1の状態に持ち込んでからにしてね」
「ええ、そうします」
その後、ベル君が色々試してみたり、オレが複数体を相手にしてみたり実験がてら戦闘を重ねた。途中、バベル2階の食堂で昼食をとったりもしたが、大きな怪我なく無事にダンジョンを後にした。
バベルに備え付けられた冒険者用のシャワーで汚れを落とし、換金所で魔石とドロップアイテムを売る。今日の稼ぎは、ベル君がいうには、色々実験しつつの割には、悪くない稼ぎらしい。
ホームに帰ると、ヘスティア様が出迎えてくれた。
「ただいまー!」
「おかえり、二人とも怪我はなかったかい」
「はい。僕もサトゥーさんも怪我なく帰ってきましたよ」
「ふふん、二人とも、喜びたまえ!今日はボクが売り上げに貢献したとして、いつもより多くのジャガ丸くんをもらってきたんだ!」
「神様、すごいです!」
「食事前にステイタスの更新をしようか。サトゥー君ははじめてだから、どの程度伸びたか興味あるんじゃないかな?」
「たしかに」
「じゃあ、サトゥーさんから更新どうぞ」
ベッドにオレが寝転がってヘスティア様が上に乗る。
「ヘスティア様、更新って椅子に座って背中向けるだけじゃダメなんです?」
「それでもできると思うけど、こっちのほうがやりやすいかな」
「それなら仕方ないですね」
しばらくヘスティア様の指が背中を撫でる。
「ぬぁ?んんん?これは……」
「どうかしましたか、ヘスティア様?」
「いや、
更新が終わったようなのでメニューから
サトゥー
Lv.1
力:I0 耐久:I0 器用:I0→I2 敏捷:I0 魔力:I0→I15
《魔法》【】【】【】
《スキル》
【
・異世界での理と
これはひどい。なんでこんなに成長してないのか。
「訳し終わったよ。あまり気を落とさないようにね」
サトゥー
Lv.1
力:I0 耐久:I0 器用:I0→I2 敏捷:I0 魔力:I0
《魔法》【】【】【】
《スキル》【】
ん?スキルはともかく、魔力成長も隠しているのか?
「一応、聞いておきますけど、普通はもう少し上がりますよね?」
「僕も君が二人目の眷属だから絶対とは言えないけど、始めはもう少し数値が伸びやすいはずだよ」
この伸びの悪さの理由は【
「気にしてもしょうがないですね。明日はもっと伸びるかもしれませんし。
さ、次はベル君の番だよ」
「あ、はい」
ベル君はオレと違い普通に成長していた。色々試したせいか器用が特に大きく伸びていたようだ。
その後、いつもよりも多いらしいジャガ丸くんを食べ、ソファーで横になった。ベットの上では真っ赤なベル君と幸せそうなヘスティア様がいる。
眠る前に称号について確認する。
所持している称号を確認すると、「竜殺し」「竜族の天敵」果ては「神殺し」など、色々と不味いものしかない。ログを確認すると、この世界に来る前の流星雨を使った際に、竜神アコンカグラなる神様を殺していたらしい。
うわぁ……流星雨って神様も殺せるのか……。元々、都市で使う気はなかったけど、流星雨は厳重に封印されるべき魔法だね。
称号にはなんらかの効果があるのかもしれないけど、「神殺し」なんてつけて、神様がたくさんいるこの街を歩く勇気はない。異世界のデータだから関係ないのかもしれないけど、万が一「神殺し」を設定してることが知られたら、神様から天罰でも下されかねない。
マップから町中の情報を漁っても、称号持ちはなかなかいない。基本的にレベル2以上の人にしかついていないようだ。と、いうか変な称号が多いな。なんだよ「
とにかく、レベル1なら称号:なしが無難のようだ。
所属や職種も空欄だったので、交流欄の設定を弄り、「名前:サトゥー」「種族:ヒューマン」「年齢:15」「レベル:1」「所属:ヘスティア・ファミリア」「職種:冒険者」「階級:平民」「称号:なし」「スキル:なし」「賞罰:なし」としておいた。所属と職種以外はデフォルトのままだ。
称号や
頑張ってダンジョンでお金を稼いでいこう。
攻撃を受けてもダメージはないに等しく、
仮にHPが減ったとしても自己治癒スキルですぐ回復するので危険はないのですが、
そんなことを知らない初回戦闘ということで、結構サトゥーさんはビビってました。