なお、
主神である
ベル君と戦った団長は
ただ、
「わぁ……!」
「どうだい、今日からここにボク達が住むんだぜ!?」
庭付三階建ての豪邸だ。庭付きで周囲を鉄柵で囲まれている。100名を超えるファミリアが暮らしていた館だ。馬鹿みたいにデカい。
「ヘファイストスにボロい地下室を押し付けられてから、よくぞここまで……!」
ヘスティア様が男泣き(女泣き?)をしている。
たしかに、あの地下室から考えれば大きすぎる飛躍だ。あの教会にはなんだかんだで思い入れもあったが、こうして広い屋敷に住めることは素直に嬉しい。
ゴブニュ・ファミリアが改装を担当し、各自の要望をキチンと叶えてくれたそうだ。
オレの要望は、主に調理室絡みだ。風呂は命さんが要望したようなので、こちらからは特に言っていない。
キッチンを確認すると、大型冷蔵庫に、業務用の魔石コンロ、大きなオーブンに、各種特殊な包丁などなど、要望以上の道具の揃いっぷりだ。
これから入団試験を受ける人達に、軽食でも振るまってやれとのヘスティア様の指示があったので、ソーマ様の厨房を借りて前もって仕込んでおいた食材を、新たな厨房で仕上げにかかる。
今回はツナっぽい魚と自家製マヨネーズとレタスなどの野菜を巻いたクレープだ。
配膳用のワゴンがあったので、100人分を乗せて前庭に向かうと、もうすでに結構な人数が集まっていた。
「見てくれよ!サトゥー君、ついに零細ファミリア脱出だよ!」
ヘスティア様が嬉しそうにペシペシとオレの背中をたたく。
「お、おい。奇跡の料理人がなにか持ってきてるぜ」
「クレープか?」
「葉物野菜が見えるぞ」
入団希望者を見回すといかにも戦士風の剣と盾を持った冒険者や旅装の者、サポーターのような大きなバッグを背負った者がいた。これらはわかる。
ただ、何故かコックコートを身にまとった料理人が混じっている。いや、あなたたちは何しに来たのかな?
「料理でランクアップしたお前目指して、料理人まで来てるぜ、サトゥー」
うん。そう思いたくなかったけど、そうなんだろうね。
神の酒と対抗できる料理ということで、弟子入り希望とかなんだろうね。
「さて、今日はヘスティア・ファミリアの入団試験によく集まってくれたねっ!ボクはこんなにたくさんの子が集まってくれて嬉しいよ!
来てくれた子にはサトゥー君が作った軽食をプレゼントしよう。今回だけの特別だぜ!」
入団希望者から歓声が上がる。
クレープを配ると早速嬉しそうにかぶりつく。
「ヘスティア・ファミリアに入ったら、毎日こんな料理が食べれるんですか?」
「特に用事がないときは大体オレが作ってるよ。
洒落た料理だけじゃなくて、質素な時も結構あるから食べ物目当ての入団はオススメできないけどね」
入団希望者が聞いてきたので、クレープを配りつつも答える。
「おい、聞いたか、奇跡の料理人のお手製料理が食えるんだぜ!」
「この美味しい料理が食べられるなら、気合い入れないとね!」
あれ、この人たち話を聞いてないよ?
配り終わって一息ついていると、ベル君が声をかけてきた。
「サトゥーさん、すごい人気ですね!」
「ベル君こそ、最速のレベル3だからね。ほら、あの子たちを見てごらん。ベル君のことを憧れの眼差しでみてるよ」
ベル君は変態神との闘いで偉業を成し遂げ、ランクアップを果たした。最速のランクアップを2回。
それに、
一方、オレは料理をしてランクアップ。
ファミリアとしての勝敗は決したが、数少ない冒険者の力を示す機会ということで大将戦も行われた。ただし、先読み:対人戦スキルを使って、隙を見せるタイミングで相手の首元に剣を置いたため、10秒くらいの決着だ。
すでにファミリアの勝敗が決した後だったので、技術について秘密にするか迷ったが、ベル君がアレだけ意地を見せて適当に戦うのもどうかと思ったので、技術だけは全力で戦った。
見る人が見ればわかるかもしれないが、料理人がマグレ勝ちしたという見方が多い。
「頑張ってくれよ、団長さん」
オレは顔を赤くしたベル君にそう声をかけた。
オレは帰り方がわかれば一時的に抜けるということもある。
ベルくんは、ヘスティアファミリア唯一のレベル3、かつ移籍ではない元々の眷属ということで、ヘスティア様の指名もありヘスティア・ファミリア団長となった。
なお、レベル3に上がると同時に、
少し照れたようなベル君を見ていると、屋敷から命さんの叫び声が聞こえた。
「ど、どうしたんだい、命君?」
「に、に、荷物の中から……借金4億ヴァリスの契約書がぁ――――――!?」
ヘスティア様とヘファイストス・ファミリアの間で交わされた借金の契約者が入団希望者の前に掲げられる。
オレは自室に置いた魔刃剣アイリスを思い浮かべつつも、ベル君の腰に差してあるナイフに目を向ける。
魔刃剣アイリスが誰が作ったかは聞いてないが、神が絡んでいることは間違いないだろう。ヘスティアナイフは言うに及ばず。
神自ら作り、
そんな風にまるで他人事のように考え現実逃避していると、ベル君があまりの衝撃に意識を失った。慌てて、ベル君を受け止める。
そして、入団希望者から阿鼻叫喚の絶叫が放たれ、皆、逃げるように去っていった。
「どーいうことですか!説明してください!」
リリの声が新しいホーム1階のリビングに響く。
神様を含めファミリア全員がここにいる。
ヘスティア様は、オレの剣とベル君のナイフの対価として借金をしたと説明した。
「先ほど街に出て偵察してきましたが、ヘスティア・ファミリアは借金漬けの爆弾ファミリアだと、そう認知されています」
「それは、ともすると……」
「ええ、もう入団希望者は現れないでしょう」
空気がさらに重苦しいものとなる。
「派閥の資産は、少しは残っていますが、派閥のランクは一気に上がってEランク。ギルドへ納める税も上昇します。年間で100万ヴァリスは用意しないといけないでしょう」
「屋台の利益がかなりの額だったから、いざとなれば本格的に料理人に転職すればどうにかなるだろうけど……」
あまり、ベル君たちを放置したくないんだよね。どうも、トラブルに巻き込まれやすいみたいだし。
「か、勘違いしてもらっちゃ困る!これはボクの借金さ、ボクが自分の手で返す!いや、ボク一人で返さなきゃいけないんだ!!」
「でも、借金までして、このナイフをくださったんですよね?」
ベル君はナイフを優しく手でなぞった後、神様の目を真っ直ぐに見る。
「神様……僕は一緒にお金を返していきたいです」
「オレも、同じ気持ちです」
貰った以上、さすがに返さないといかないだろう。
魔刃剣はいい剣だ。色々剣を見て回ったが、剣としてのバランスで魔刃剣を超える剣はそうそうない。
ヘスティア様は苦笑して、ベル君がプレゼントした髪飾りを弄り出す。やがて、微笑んで結論を出した。
「お金はボクが何年かかっても必ず返す。だからベル君達は……こんなボクを倒れないよう支えてほしい。……借金まみれの主神で悪いけど……いいかなぁ?」
「も、もちろんです!」
オレも他の眷属もそれに続いた。できるだけ安くて美味しい食事を用意しよう。
「では、ヘスティア・ファミリアの現状と方針の確認です。目下、目標は十分な生活費の確保と、ギルドへの税に備えた貯金。これ以上借金を増やさないため、資金集めは必須です」
「今後の派閥の活動も、迷宮探索が主導というわけですね」
「オレの屋台はまた時期を見てってことで。オレもヘスティア様にもらった魔刃剣が錆びつかない程度にはダンジョンに潜りたい」
さすがに、あれだけのお金がかかった魔刃剣を死蔵して料理人に転職するのもね……。
夕食は、様々な具材が詰まった豪華なお鍋にした。
言葉にしていないが、個人的には、ヴェルフと命さんの移籍祝いも兼ねている。今まで、宿住まいだったせいで、基本、オレが食事を作らなかったしね。ヴェルフのためちょっといい酒を用意し、命さんのため締めは雑炊にしてみた。
鍋を作っている最中に、家族で鍋を囲んだことを思い出した。少しぼんやりと昔を懐かしんでいたら、料理を手伝ってくれていた命さんに腕を揺すられた。
自分としては、ほんの10秒足らずのつもりだったが、命さんが声をかけても反応がなかったらしく、心配したそうだ。
自分で思ってたよりもホームシックなのかな?
アラサーで結構一人暮らしも長いから、自分ではあまり気にしていないつもりなんだけど……。
なお、結構いい食材を使い浪費をしている点がリリに睨まれたが、前もって用意していたものだ。仕方がない。
皆で笑いあいながら鍋を囲んでいると、ヘスティアファミリアが新しい家族なんだと思える。日本に未練はなくはないが、オレの居場所はここだ。
にぎやかな食卓は夜遅くまで続いた。
◆ベル君のランクアップ
ミノタウロス戦では、英雄というより身近な存在に負けたくないという思いが強かったために、
◆今後
以前、感想での返答でも少し書きましたが、今作はダンまち7巻で最終となり、オレたちの戦いはこれからだエンドになる予定となっています。
あまり、サトゥーが大活躍、といった感じにはならないかもしれません。
多分、あと5,6話くらいかと思いますが、よろしければお付き合いください。