デスマーチからはじまる迷宮都市狂想曲   作:清瀬

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33話:愚者の意地

 戦争遊戯(ウォーゲーム)の会場である闘技場は満員だ。これに加えて、普段は使うことを禁じられている神の力でオラリオ中に中継するらしい。

 一般人にとっては数少ない冒険者の力が観られる機会ということもあるのだろうけど、思っていたより、娯楽色が強い。

 オレたち、ヘスティア・ファミリアは現在、控室で、装備の最終確認を行っている。

 オレのステイタスは、基本アビリティの器用と魔力がHになったがほかはIのままだ。だが、特に問題はないと思う。

 ベル君のステイタスは、全ステイタスSSという状態だ。これならレベル2相手ならまず負けないだろう。

 装備に関しては、ヴェルフが軽鎧を新たに作ってくれたのだが、これがなかなかいい感じだ。性能や重さ、着け心地、といったものもいいのだが、オーダー通り魔力との相性が良好なのがうれしい。魔力鎧で強化するのが簡単なのだ。

 外見は、ベル君が付けている白い軽鎧と対になるかのように黒い軽鎧だ。

 名前は烏鎧(カーキチ)だそうだ。……名前以外はほんといい性能なのにね。

 ベル君の鎧も新調し、兎鎧MK-IV(ピョンキチ マーク4)になってたはずだ。

 

「そろそろ時間だぜ、3人とも。大丈夫か?」

 

 ヴェルフが問いかける。

 

「はい。必ず勝ちます!」

 

 両手を握りしめながら命さんは答えた。かなり気合が入っているようだ。

 

「僕もがんばりますよ!」

 

 ヘスティアナイフに軽く撫でつつ、ベル君が答える。

 

「オレも問題ないよ」

 

 軽く肩を回しながら答えた。

 

「負けんじゃねぇぞ!」

「無事に帰ってきてくださいね、リリは勝利を信じています!」

 

 リリとヴェルフの声援を受けて、オレたち3人は舞台へと向かった。

 

 

「今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)実況を務めさせていただきます喋る火炎魔法ことイブリ・アチャーでございます。二つ名は火炎爆炎火炎(ファイヤー・インフェルノ・フレイム)。以後お見知りおきを」

 

 ……しかし、神々はひどい二つ名をつけるものだ。オレにはどんな二つ名がつくのか考えると嫌になる。せめて、リトル・ルーキーのような無難な二つ名であってほしい。この際、奇跡の料理人でも妥協する。

 

「さぁ、まずは、西門から登場するのは、ヘスティア・ファミリアです。先鋒は絶†影ことヤマト・命選手、中堅はリトルルーキー、ベル・クラネル選手、そして大将は今回の騒動の原因ともなった奇跡の料理人、サトゥー選手です!」

 

 騒動の原因は、あの変態神であって、断じてオレではない。

 

「絶†影ちゃ~ん!!」

「やっちまえ!リトルルーキー!」

「サトゥー!またジャガ丸くんを作ってくれー!!」

 

 オレの声援だけなんかおかしいぞ。

 

「サトゥー選手は、一時期ジャガ丸くんの屋台を開いておりました。私も食べましたが、素晴らしい味でしたね。また、屋台を開いてほしいものです」

 

 実況まで料理ネタか。

 そんな実況を聞きながら、審判の待つ舞台のそばまでたどり着いた。

 

「東門からは、アポロン・ファミリアの入場です。先鋒は、ダフネ・ラウロス選手!中堅がなんと団長、ヒュアキントス・クリオ選手!大将がリッソス選手となっております!」

 

 げ、中堅にレベル3を持ってきたか。

 参加選手はリリの情報通りで、ある程度の相手の情報も聞いているが、順番が違う。

 相手の情報を仕入れただけでリリは十分な仕事をしたと言えるが……。

 直前に変えたのか?

 というか、ベル君がレベル3相手になるのか……。

 

「解説のガネーシャ様、この組み合わせからどういったことが読み取れますか?」

「俺がガネーシャだ!」

「……両チームとも中堅に、最大戦力を持ってきていますね。こちらの勝敗がファミリアの勝敗に大きく影響するかと思われます」

 

 解説役の神、ガネーシャを無視して実況の人が喋り始めたぞ。

 

「ただ、中堅戦だけはレベル差があるからな。レベルが1つ違うということは大きな壁があるということだ。ヒュアキントス有利と見るのが普通だろう。

 だが、ベルも最速のランクアップ記録を持つ少年だ。あるいはその成長でヒュアキントスをも倒すかもしれん」

 

 おっと、意外に真っ当な解説が付け加えられた。

 

「は、はい。そうですね。ヘスティア・ファミリアには是非、健闘してほしいものです!」

 

 解説の人もちょっとびっくりしてるじゃないか。

 

「先鋒前へ」

 

 舞台上の審判がそう促した。

 

 命さんとダフネさん。女性同士の対決となった。能力的には若干、ダフネさんのほうが有利だったが、ダフネさんにない技術でもって命さんが食らいついた。

 一進一退の攻防の末、最終的には、円月投(ミカヅチ)なる太ももで相手の顔面を挟みこんで、頭から地面に叩きつける投げ技で決着がきまった。

 女相手じゃなかったら繰り出せない投げ技だね。

 

「素晴らしい投げ技でした!まずはヘスティアファミリアが一勝です!!」

「うむ。素晴らしい試合だった!俺がガネーシャだ!」

 

◆◆◆

 

 命さんが勝った!次は僕の番だ。

 リリが集めた情報によると、相手は、短文詠唱の魔法はない。魔力の円盤を投げる魔法があるそうだが、そこそこ長い詠唱があるので使うことはないだろうとのことだ。

 とはいえ、能力だけでも、頬を殴られた時の動きがまったく見えなかったレベル3が相手だ。僕に勝てるのか?

 

「ベル君、相手はレベル3だ。危ないと思ったらすぐギブアップしてくれ。オレの相手はレベル2だし、自分の手でケリをつけるのもありだと思う」

 

 サトゥーさんが僕を心配するように声をかけてきた。

 神様とサトゥーさんは、組み合わせについて、命さんと僕で2勝し、レベル3である団長は捨てると言っていた。

 けれど、今になって思えば、サトゥーさんは、始めから自分で団長を倒すつもりだったのかもしれない。

 アイズさんとティオナさんを相手取ったあの技術。速度は僕より遅いはずなのに、不思議と先を読み、僕より長い時間、攻撃を受けることなく戦っていた。攻撃を受ける際も、クリーンヒットはなく、必ずダメージを軽減した状態で受けていた。

 クリーンヒットを受け、何度も倒れて愚者足掻(フールズストラグル)で回復し、起き上がる僕とは大違いだ。

 きっと、僕が負けても、言葉通りサトゥーさんがファミリアの勝利を決めるのだろう。

 ……でも、それは嫌だ。僕は仲間を守れる男になりたい。

 

「大丈夫ですよ。いつもサトゥーさんにはお世話になってますし、今回くらい僕に決めさせてください」

 

 そう言って、舞台にあがる。

 

「まさか、ヘスティア・ファミリアごときに1敗するとは思わなかった。

 ただ、私とお前は文字通りレベルが違う。最後の一人はただの料理人だ。

 ファミリアとしての勝敗は火を見るよりも明らかだ」

 

 頭に血がのぼりそうになるが、神様が言っていたことを思い出し、なんとか抑える。

 黙って、右手に神様のナイフを、左手にヴェルフが作った牛若丸二式を構える。

 団長は不快そうに、フランベルジュを構えた。

 

「試合開始!」

 

 僕は宣言とともに、相手に向かって駆け出した。何故か、相手が驚いたような表情を浮かべる。

 様子を見るために軽くナイフを振るうと、相手はフランベルジュで防御した。右に飛び退いた後、再び近づき、左右のナイフで連撃を仕掛ける。防御はされたが、速さは若干、僕が勝っているようだ。

 アイズさんやティオナさん、サトゥーさんを見て学んだフェイントを入れつつ、相手の隙をうかがう。ギリギリ防御はされるが、僕が押している。

 だけど、アイズさんは、こういうときこそ、冷静に相手を見極める必要がある、と言っていた。

 

「何なんだお前は!私はレベル3だぞ!?」

 

 相手が明らかに隙を見せた。牛若丸二式をフランベルジュに叩き込む。キチンとした防御ができなかったフランベルジュは根元から真っ二つだ。

 団長は一瞬驚愕の表情を見せたが、すぐさま表情を切り替えた。すぐに、予備武器の短剣を抜いたので、追撃はできなかった。しかし、剣よりは慣れていない印象がある。冷静になって、隙をつけと自分に言い聞かせる。

 

「う、おおおおおおっ!?」

 

 数度の攻防の後、相手は短剣を足元に振り下ろした。

 舞台がえぐられ、石つぶてが飛ぶ。僕は後退して回避したが、相手も同様に後退した。

 距離をとって何をするつもりだ?

 

「貴様ごとき弱小神の眷属が、偉大なる太陽神より与えられし魔法を受けて立つことなどできはしまい!

 ゴミのような眷属ばかりのファミリアでは、皆、逃げることが精一杯だろう!」

 

 挑発だ。わかっている。この狭い舞台上で魔法を詠唱するには戦闘しつつ並行詠唱をできる高位の魔法戦士でないと無理だ。そのための挑発だ。落ち着け。自分に言い聞かせる。

 

「ファイヤボルト」

 

 僕は魔法を使った。

 ……ただし、相手の足元に向かってだ。

 

「くっ!」

 

 驚きの声をあげる、相手に僕は言った。

 

「詠唱を止めるのは簡単だ。だけど、僕は邪魔はしない!

 魔法を撃ってこい!真正面から受けて立ってやる!!」

 

 馬鹿なことはわかっている。

 神様も呆れているかもしれない。

 けど、言わざるえなかった。

 やっぱり、神様を、家族を、馬鹿にされて黙ってられなかった。

 僕は仲間を守れる、大切なものを守れる男になりたい。

 想いを貫き通す英雄みたいな男になりたい。

 僕は。

 英雄に、なりたい。

 

「我が名は愛、光の寵児。我が太陽にこの身を捧ぐ」

 

 怒気を含んだ声で団長が詠唱を開始した。

 僕も牛若丸二式をしまい、ヘスティアナイフで突きの体勢を取り、魔力を流し込む。

 

「我が名は罪、風の悋気。一陣の突風をこの身に呼ぶ」

 

 僕は、あの人への憧れを燃やした。そして強くイメージする。

 

「放つ火輪の一投。来たれ、西方の風!」

 

 思い描いたのは英雄ナナシ。

 絶望を打ち貫いた一撃。

 究極の魔刃。

 あの巨大な光槍が放つ光と比べればかなり弱弱しい。

 同じというにはおこがましい。

 けれども、僕の精神力(マインド)をほぼ全てを使い、紫紺に光輝く突撃槍を作り出した。

 

「アロ・ゼフュロス!!」

 

 右手に魔力を凝縮させ、光円を円盤投げのように投げつけてきた。

 同時に、僕は全力で地面を蹴った。

 

「うわあああああああああっ!!」

 

 人の上半身ほどもある巨大な光円に、紫の光槍がぶつかる。

 ほんの一瞬の均衡の後、光の槍の先端の魔刃が制御しきれずに砕ける。

 しかし、光円全体も粉々に砕け散った。

 

(ルベ)……!?」

 

 リリの情報にはなかったが、光円を強化する追加の詠唱なのかもしれない。しかし、砕いた以上もう意味はない。先端が失われ、槍というより鈍器になったが気にせず、突撃の勢いのまま、隙だらけの相手に魔刃の一撃を加えた。

 相手は場外まで大きく吹っ飛び、数度跳ねた後にようやく止まった。

 妙に静かだ。僕の荒い息だけが耳に響く。

 

「まさか、まさかの大番狂わせ!レベル2ベル・クラネルがレベル3ヒュアキントス・クリオを降した!そして、この勝利により、ヘスティアファミリア対アポロンファミリアの戦争遊戯(ウォーゲーム)は、ヘスティアファミリアの勝利に決まった!!」

 

 実況の声と同時に爆発するような歓声が聞こえた。

 その声を聞き、緊張が解けたのか、少し力が抜け、片膝をついてしまった。

 精神疲労(マインドダウン)ギリギリまで魔力を注ぎこんだから、その反動かもしれない。さいわい、倒れるほどではない。すぐに立てる程度だ。

 

「おめでとう。それと、ありがとう。これでヘスティアファミリアのままでいられるよ」

 

 サトゥーさんが駆け寄って、僕を支えるようにしつつも、そう言ってくれた。

 

「サトゥーさん、僕は、少しは、借りを返せましたか?」

 

 僕は荒い息のまま、サトゥーさんにそう尋ねた。

 

「ベル君に貸しなんて作った覚えはないけど、とても助かったよ。

 ありがとう、ベル君」

 

 少し気恥ずかしそうな笑顔でサトゥーさんはそう言った。いつも微笑を受けべているサトゥーさんのこういった表情は初めて見たかもしれない。

 

「それより、立てるかい?

 ほら、観客がベル君に声援をくれてるよ!」

 

 一つ咳払いをして、ごまかすように、サトゥーさんがそう言った。

 周りを改めてみると、たくさんの人がいる。戦う前は全然気にならなかったのに、今になって急に恥ずかしくなってきた。

 

「正直、ファイアボルトの連射で決めてほしかったけど、あの一撃はかっこよかったよ。

 英雄みたいに堂々と手でも振ったらどうだい?」

 

 サトゥーさんが、からかうようにそう言った。

 僕は、顔が熱を持ち、赤くなるのを自覚しつつ、観客に向かって頭を下げた。




◆ヴェルフ
決意する前にナナシが黒ゴライアスを倒したため、魔剣に関しての踏ん切りがついていない。
仮に魔剣を作れる状態だとしても、闘技場の戦いで魔剣を持ちだしたら周囲の視線が凄まじいことになりそうなので、使わないはず。
今作では、主に防具を作成に全力を注ぐ。
原作だと、兎鎧MK-IVはグリーブなしだが、今作は存在する。
烏鎧は、兎鎧と比べると防御力が若干低く、少し重いが、その分魔力との相性はいい。

◆リリ
リリの情報収集自体に間違いはなかった。
ただ、直前にどっかの神がちょっと暗躍しただけ。

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