そろそろアポロン様に会いに行こうかというとき、アポロン様の声が響いた。
「諸君、宴は楽しんでいるかな?
盛り上がっているようならば何より。こちらとしても、開いた甲斐があるというものだ」
そういいつつ、こちらに歩み寄ってくる。
「遅くなったが……ヘスティア、先日は私の
「……ああ、ボクの方こそ」
「私の子は君の子に重傷を負わされた。代償をもらい受けたい」
そういうと包帯を全身に巻いたミイラ状態の
これ、神様の嘘を見抜ける能力で、別に痛くもなんともないってわかるんじゃないかな?
かすり傷が痛いで嘘だとバレないなのか?
ヘスティア様に視線を向けると明らかに動揺していた。
ああ、わからないみたいだ。
「更に、先に仕掛けてきたのはそちらだと聞いている。証人も多くいる、言い逃れはできない」
そういうと、数柱の神とその眷属が前に出てきた。
準備のいいことだ。しかし面倒だな。
ヴェルフの主神であるヘファイストス様がヘスティア様の援護をするが、人数の差とヘスティア様と仲がいいこともあり、意味を為さない。
「団員を傷付けられた以上、大人しく引き下がるわけにはいかない。ファミリアの面子に関わる……。ヘスティア、どうあっても罪を認めないつもりか?」
「くどい!そんなものは認めるものか!」
「ならば仕方がない。ヘスティア――君に『
『
勝利を得た神は敗北した神からすべてを奪う。通常なら、団員を含めた派閥の資材を全て奪うことが通例だ。
オレが本気を出せばアポロン・ファミリアには負けないと思うが、表向きの能力に限定すると、レベル2が二人、レベル1が一人に対してレベル3を含む100名近くの団体との対決だ。まるで話にならない。
「我々が勝ったら……君の眷属、サトゥーをもらう」
はい……?
なにいってんの、こいつ。
「駄目じゃないかぁ、ヘスティア~、こんな可愛い子を独り占めしちゃあ~。
あのジャガ丸くんという安っぽい軽食すらあの美味しさになるんだ。一流の食材で一流の皿を君には作ってもらうよぉ。
そして、めいいっぱい可愛がってあげるとしようかぁ~」
あまりの気持ち悪さに、思わず魔刃砲を放ちそうになったが、何とか抑える。
アポロン、いや、変態神は、オレを奪うために、わざわざ色々と根回ししたらしい。なんとも面倒臭い神に好かれたものだ。
もう、ナナシモードでボッコボコにしに行ってもいいんじゃないかな?
だめだ、考えが投げやりになってきている。ベル君の一件はちょっと押す程度だがこっちが先に手を出したらしいし、さすがにオレ個人の好き嫌いで動くのはどうかと思う。
「それでヘスティア、答えは?」
「受ける義理はないな!」
ヘスティア様に腕をつかまれ、会場の外に出た。
ほんと、面倒なことになってきたものだ。
とりあえず、アポロン・ファミリアの眷属には全員、要注意人物としてのマーキングを施しておこう。
翌朝、食事を終え、装備を整え終わったくらいに、マップに敵の光点が複数、ホームを囲むように接近してくることが確認できた。弓などを持っている。まさかとは思うが、ヘスティア・ファミリアのホームを攻撃するつもりなのか?
「アポロン・ファミリアが武器を持って集まってる。路地裏に紛れ込むよ。急いで」
マップを隠すため、ちらりと外を見た後、念のため、そう告げた。
皆、少し慌てたようだが、特に質問なくオレのそばに来た。
隠形スキルを使用して先導し、うまく路地裏に紛れることができた。しばらく進むと後方から爆発音が聞こえた。
「これって……」
「ホームを魔法で攻撃したんだとリリは思います」
「お、おのれぇ……!?よくもボクたちの帰る場所を……!」
さすがに、やり過ぎだ。木造の仮設部屋とかはもう駄目だろうな。
オレ単独なら反撃に行きたいところだけど、今はとにかくギルドに向かって身の安全を確保すべきだろう。
「いたぞ!こっちだ!」
声を聞かれたのか、見つかってしまった。弓兵が数人こちらを狙っている。
ベル君はヘスティア様、オレはリリを抱えて、駆け出した。マップを見ながらギルドへ先導するが、どうしてもヘスティア様を運んでいるベル君より、相手のほうが足が速い。
リリが
というか、ベル君、人相手にファイヤボルトって結構容赦ないな。
いや、攻撃されてなお、投石程度の怪我がない反撃で済まそうというオレが、この世界ではおかしいのかもしれないけどさ。たしかに、このままいけば、ヘスティア・ファミリアの誰かが怪我をしかねない。
何とか身を隠すことができたが、そのうちまた見つかるだろう。
もう全力を出してあの変態神を殴るべきなのかもしれない。
「もう、
意を決してそう言うと、3人は驚いた表情でこちらをみる。
「どのみち、ギルドに駆け込んでも、アポロン・ファミリアにペナルティが与えられても、あの神は諦めないだろう。だったら、叩き潰すしかない。
最悪負けても、オレがアポロン・ファミリアに行くだけだ。もっともそんなことになりたくないから、それ相応の手を使ってでも勝たせてもらうつもりだけど」
ヘスティア様に、場合によっては本気で対処することを言外に伝える。能力がバレることになるとしても、これ以上、ベル君たちを危険に巻き込むことになるほうが嫌だ。
「……ええい、ボクの
ベル君、サポーター君、ボクは『
なんとか一週間稼ぐから君たちは準備や策を整えてくれ!
みんななら、きっと勝てるはずだ!」
ヘスティア様は顔を歪ませた後、そう言った。オレだけに全てを解決させるつもりはないようだ。
「わかりました、神様!サトゥーさんのために全力を尽くします!」
「リリは力ではお役に立てませんが、策を考えてみます!」
皆、真剣な表情でそういってくれた。
……まったく、オレにはもったいないくらいのファミリアだ。
「ありがとう。ただ、怪我はしないように気を付けてくれよ。オレのために怪我なんてしたらそっちのほうが落ち込むから」
一応、あまり危ないことをしないように注意するように言っておいた。
「アポロン・ファミリアのホームに乗り込むぞ!あのニヤついた顔に手袋をぶつけてやる!」
ヘスティア様はアポロン・ファミリアに乗り込み、言葉通りにアポロンの顔に手袋をぶつけ、こう宣言した。
「上等だっ!受けて立ってやる、
その後、リリは各種アイテムの用意と上位者を負かす策を練ることに集中している。
ヘスティア様はミアハ様のところに向かい、仮病でしばらく時間を稼ぐ予定だ。
ベル君はなりふり構わず、ロキ・ファミリアに押しかけ、表向きは追い出されたものの、アイズさんとティオナさんの2人に稽古をつけてもらうことになった。
オレも連れてこいという話になったので、世話になることになった。
ベル君だが、
ベル君が立ち上がる時に自身を鼓舞するように言った「サトゥーさんを守るために強くなるんだ」というセリフは、少し気恥ずかしさも感じたが、うれしかった。
オレはオレでレベル2の力の制限で、格上相手に先読み:対人戦と空間把握を使ってどう立ち回るかの練習をさせてもらっている。
アイズさんが、ベル君が聞いていないことを確認してから全力での訓練は必要か聞いてきた。試合形式が決まってから、必要そうならお願いするつもりだと答えておいた。
そして、夜、ナナシとして変態神に警告に行くか迷ったが、やめておくことにした。それなりの力を出しても勝ちにいくと決めている以上、あまり警戒心を抱かせないほうがいいだろう。昨日の時点に警告しておけば、もう少し変わった展開になったかもしれないが、今更だ。
ヘスティア・ファミリアが
翌日、ヘファイストス・ファミリアからヴェルフ、タケミカヅチ・ファミリアから命さんがヘスティア・ファミリアに移籍してくれた。
命さんについては1年間限定だが、ベル君たちが18階層まで進むこととなった、かつての一件にたいして何も返せていないからとわざわざ移籍してくれた。
なお、アイズさんとの訓練の際に、オーナーさんに食材の手配を頼んで、ジャガ丸くんを作って持っていくことにした。屋台のものは揚げたてが最高においしいタイプだったが、今回のは冷めてもおいしいタイプだ。
アイズさんは違いを見抜き、とても喜んでくれた。ただ、アイズさんとティオナさんの食べる量を甘く見積もっていて、もっと欲しそうにしていたので、少し増量の必要がありそうだ。
ホームに襲撃があってから3日後、
フルメンバーの攻城戦とかなら、天駆と魔刃砲で無双することを考えるレベルの戦力差だったから、それに比べると幾分マシか。少なくとも、この試合形式なら、オレが全力を出す意味はほとんどなくなったと考えていい。
欠点としては、オレだけで勝利を掴めないことだけど、ベル君がグングン伸びている。どうにかなるはずだ。
ヘスティア様にこの手の配置について聞いたが、先鋒が一番弱く大将が一番強い配置が基本だそうだ。それを踏まえて、ヘスティア・ファミリアの代表は、先鋒、命さん、中堅、ベル君、大将、オレとなった。
命さんは武術の神、タケミカヅチ様の指導を受けただけあって、武器の扱いや対人戦に長けている。ベル君はステイタス面での急成長が期待できるため、多分命さんより強くなるだろうと中堅に配置した。大将は、恐らくアポロン・ファミリアのレベル3の団長とやりあうはずなのでオレとした。
レベル3の団長は無視して、先に命さんとベル君でファミリアの勝利を決めるという作戦を伝えてあるので、特に問題なくこの順番になった。
相手の並びは読めないが、多分、弱小ファミリアと思っている以上、特に策を弄さず、スタンダードにくると思う。
ヴェルフはベル君とオレ用の軽鎧を作ってくれるそうだ。材料代として以前の屋台の儲けからいくらか渡しておいた。魔力鎧スキルを見せて、オレの鎧は魔力と相性をよくしてくれとオーダーしておいた。ベル君を優先させてくれ、ともいってある。こちらに移籍したばかりで悪いが、ヘファイストス様の知識を分けてもらう必要があるかもしれない。
命さんはタケミカヅチ・ファミリアで対人戦の特訓をしている。武術の神による特訓だ。効果は期待できるだろう。
リリは主に、相手の情報を集めることに精を出している。変身の魔法を使っているとはいえ、あまり無茶はしてほしくないんだが……。
オレとベル君は引き続き、アイズさん達に鍛えてもらうこととなっている。
力の制限は十分できているが、技術に関しては抑えるつもりもなく全力で取り組んでいる。ティオナさんには、最初はかなり驚かれたが、面白がって色々試してくれるのは助かる。
なお、夜の魔力の扱い方の講座はリリはお休みして、ベル君の魔刃の精度を高める訓練を集中して行っている。かなり安定して魔刃を使えるようにはなっているが、まだまだ精度は高められるはずだ。
そんな風に日を重ねて、