デスマーチからはじまる迷宮都市狂想曲   作:清瀬

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14話:魔法発現

 しばらく、リリと一緒にダンジョンに潜った。今までとは比べものにならないくらいの金額が稼げている。

 より下の階層に潜ることにより、魔石自体の買い取り価格も上がったこともあるが、ベル君が戦闘に集中でき、身軽なままというのが大きい。リリの知識もかなりのものだ。的確にダンジョンについての知識を教えてくれる。

 心配していた別の冒険者のちょっかいも今のところ発生していない。危ない場面がなかったこともないが、オレの投石のフォローやリリのリトルバリスタでのフォローで切り抜けた。

 

「じゃ、今日も山分けで」

「お二方は、もう少し、物欲とか常識というものを知ったほうがいいと思います。ありがたく頂戴しているリリが言える立場ではありませんが……人が良過ぎです。

 リリはサトゥー様はともかく、ベル様のことが危なっかしくて見ていられません」

 

 リリのお小言も増え、リリとの間にあった溝も少しは埋まってきたと思う。

 ただ、時折見せる、リリの苦しい状態を思わせる言葉や表情にベル君は心を痛めているようだ。

 特にソーマと呼ばれる酒に関しては顕著だった。ソーマは市場に流れている失敗作で、一瓶6万ヴァリスという魔刃剣アイリス以外のオレの装備一式より高い価格を誇る。

 失敗作と聞いたベル君が、完成品を飲みたいといった時に「止めておいた方がいいと思います」とつぶやいた時の、リリのあの無理をした笑顔は印象深い。

 

「申し訳ありませんが明日は用事があり、リリはダンジョンに潜ることができません」

「用事なら仕方ないね。ベル君、明日はダンジョン探索は休みにしようか?」

「そうですね。ここのところダンジョンに通いっぱなしでしたから、いい休息です」

 

 リリのことは気になるが、お金も溜まってきたし色々やりたいことがある。

 

 ホームに戻り、食後、身だしなみを整える。

 

「ベル君、すまないけど、少し出てくるよ。たぶん、明日の朝までにはホームに戻ると思う」

「えっ、サトゥーさんも用事ですか?」

「まぁ、そんなところだよ。じゃあね、ベル君」

 

 軽い足取りでホームを後にし、適当な路地から南東のメインストリートを目指す。

 目指す場所は歓楽街、もっというなら綺麗な女性とイチャイチャするお店だ。

 色んな様式の建物が立ち並び、防音性がないのか、聞き耳スキルがオフでも甘い声が聞こえている。

 ヒューマンやアマゾネス、獣人に小人族(パルゥム)、様々な娼婦が客引きをしている。

 

「待ちな、そこの黒髪」

 

 客引きにしては強気の声がかかった。

 そちらを見ると、紫の透けている衣装を身にまとった美脚の女性がいた。長身の引き締まった褐色の肌、豊かな胸、整った顔立ちに漆黒の長髪。なかなか素敵な女性だ。

 

「どうかされましたか?」

 

 腰に手を回し、抱き寄せられた。おお、素晴らしいサービスだ。彼女はこちらの顔を覗きこみ、不思議そうな表情を作った。

 

「んー、表情が変わらないね。この私が抱きしめてやってるってのに」

「とてもうれしいのですが、あまりお金を持ってないものですから。あなたのような美人と一晩過ごせるのか不安なのですよ」

「ほほう……今日は、あんたに一晩買われるとしようか。足りないとしても有り金全部で許してやる。その余裕そうな表情をめちゃくちゃに変えてやるよ」

 

 無表情(ポーカーフェイス)が娼婦としての癇に障ったのか、そんなことを言い出した。こんな美人と一晩過ごせるのである。願ってもないことだ。

 

 その後、適当な部屋に入り、彼女と一晩を過ごした。彼女、アイシャさんはとても情熱的であった。レベル310のおかげか、かなりスタミナがあり色々と堪能できた。

 

>「性技」スキルを得た。

>「睦言」スキルを得た。

>「誘惑」スキルを得た。

 

 なお、これらのスキルにはポイントは振ってない。ここでズルはつまらないだろう?

 

 

「なかなか気に入ったよ。サトゥー。また来な。可愛がってあげるよ」

「また、お金が出来たら遊びにきます」

 

 翌朝、スッキリしたオレは、アイシャさんのお見送りを背に、非常に軽い足取りでホームに戻った。

 ホームに戻ると、ベル君が手持無沙汰な感じでソファーに寝転がっていた。

 

「おかえりなさい、サトゥーさん」

「ただいま。といっても、またすぐに出るけど」

「え?またですか?」

「ああ、今度はちょっと本を買おうと思ってね」

 

 前々から買いたかったレシピ本に、服飾関連の本を買おうと思っている。

 裁縫スキルはミシンを使っているかの如く高速で縫うことはできるのだが、服の作り方まではわからなかったため、以前に、相場価格以下の捨値で買った生地がストレージ内に死蔵されたままなのだ。

 見よう見まねでそれらしい服は作れたのだが、情報スキルによると質がよくないらしい。どうも、この手のスキル補正というのは、一動作が完璧にこなせるようになるものの、全体の流れといったものは別にキチンと学ぶ必要があるようなのだ。

 

 書店で本を買い、ストレージにしまった際に気付いたのだが、ストレージには電子書籍のような機能もあった。

 取り込んだ本のスキャンデータを作り出し、メニュー内での閲覧が可能になるのだ。検索機能も存在しており、暗くても、目をつむっていても読める本。なかなか夢が広がる機能である。

 ホームに帰った際に、ベル君とヘスティア様がいなかったので、ヘスティア様の本をすべてストレージに突っ込み、スキャン作成後、元に戻した。

 これで、いつでもヘスティア様の蔵書が読めるようになった。色々と危険な機能ではある。ヘスティア様には読む許可をもらってるし、書店で買ってない本をコピーするような真似はしないので許してほしい。

 服飾本を元に、シャツを作っていると、ベル君が分厚い本を持って帰ってきた。

 

「サトゥーさん、服を作ってるんですか?」

「ああ。ダンジョンに着ていくような丈夫な服じゃなくて、寝間着代わりだけどね」

 

 ベル君はベッドにうつ伏せになり、本を読み始めた。

 あとで貸してもらおうかなどと思いつつ、俺はチクチクと布を縫い合わせていく。

 ……よし、シャツとズボンが出来た。

 特に飾りっ気のないシンプルな服だが、自作のモノということもあり、なかなかうれしい。

 鑑定スキルによる品質もなかなか評価がいい。特に問題なさそうだ。実際に着替えてみて、体を動かし不備がないか確認してみたが、いい出来ではないだろうか。

 ベル君の分も作るかと、再び、布を切り始めた。

 

「ただいまーっ!」

「おかえりなさい、ヘスティア様」

「へぇ、サトゥー君は服を作ってたのかい?

 炊事洗濯掃除はもちろん、服まで作り出すか。

 あれだね。一家に一人のサトゥー君が欲しくなるね」

 

 まるで家電製品の宣伝みたいだ。

 こっちにも魔石製品があるし、似たような宣伝文句はあるのかもしれないね。

 

「ほほう、さすが!

 いい出来じゃないか。今度、ボクの服も作ってくれないかい?」

「構いませんが、ヘスティア様、サイズとかオレに教えていいんです?」

「いいさ。君はからかっても仕方がない程度に、老成しているからね」

 

 褒められてるのか、けなされてるのかどっちだろうね。

 

「あれ、ベル君は本読んでると思ったら、寝ちゃってるのか?

 慣れないことをしてまんまと睡魔に敗北を喫したってところかな?さ、起きな、ベル君?」

「ん……?か、神様?」

 

 こめかみを押さえつつベル君が起き上がる。

 

「そうだよ。君のお茶目な姿を見られて、ボクの仕事疲れも吹っ飛んだよ」

「お、お茶目って……」

 

 ベル君が顔を真っ赤にしている。

 

 レシピ集を元に、オレが作った夕食はなかなか好評だった。

 また、今度違うメニューに挑戦しよう。時間ができれば、日本のメニューの再現研究を進めてもいいかもしれないね。

 食後、ステイタスの更新をしてもらったが、オレはさほど伸びていなかった。

 

サトゥー

 Lv.1

 力:I38 耐久:I2 器用:I93 敏捷:I45 魔力:G210

 《魔法》【】【】【】

 《スキル》

 【異界之理(アナザールール)

  ・異世界での理と恩恵(ファルナ)の理、共に適用される。

 

 例外的に魔力が伸びているが、魔刃の使用で、魔力の経験値(エクセリア)を稼いでいるのだろうか?

 それにしても、ほぼ同じ期間でBとかいってるベル君の別格の伸び率が目立つ。

 

 

「ええええええっ!魔法!」

 

 廃教会でメニューの本を見ていたオレに、ベル君の叫びが聞こえた。聞き耳スキルを確認したが、無効化してあった。察するに魔法が発現して思わず叫んでしまったんだろう。しばらくすると、ベル君が地下室から走ってきた。

 

「サトゥーさん、ボク、魔法が発現したんです」

「ああ、ベル君の叫びがこっちにも聞こえてたよ。おめでとう」

「ええ、そんな叫んでました?恥ずかしいなぁ……」

 

 ベル君はほほを赤くして、うつむいた。

 

「それで、どんな魔法か聞いていいかい?」

「ええと、ファイヤボ……と、もしかしたら、魔法の名前を言うだけで発動するかもしれないので、魔法名は言えないです。試してないので、まだどんな魔法かはわかりません」

 

 まるで、新しいおもちゃをもらった子供のようだ。

 

「今から試しに行くのかい?」

「いいんですかっ!いや、ええと、神様に魔法は逃げたりなんかしないぜ、って言われちゃったんですけど、気になっちゃって……」

 

 ポリポリと恥ずかしそうに頬を書きながらベル君が言った。

 

「気持ちはわかるよ。というか、オレも気になる。

 ベル君が行きたいというならついていくけど?」

「はい。試し撃ちに行きましょう!」

 

 ヘスティア様に一声かけると

 

「まったく、しょうがないね……。気をつけていっておいで」

 

 と苦笑交じりに送り出された。

 手早く装備を身に着け、バベルに向かって走り出したベル君を追いかけオレも走り出す。

 ダンジョン1階層でゴブリンと遭遇した。ベル君は緊張した面持ちで、右手を真っ直ぐに突き出し、手を開いた。

 

「【ファイヤボルト】!」

 

 ベル君の手のひらから稲妻のようにジグザグを描く炎がゴブリンに着弾、爆発した。

 ファイヤボ○○と聞いていたから、ファイヤボールとばかり思っていたが、どうやら違ったらしい。

 ベル君は自分の手のひらを眺め、何度も何度もガッツポーズをした。

 

「すごいな。これが魔法か」

「見ましたか?サトゥーさん、魔法ですよ!僕が魔法を使ったんですよ!」

 

 興奮冷めやらぬようにベル君がいう。

 

「ああ、かっこよかったよ。せっかくだ、色々試してみよう。

 左手で撃てるかとか、放つ場所を変えられるかとか」

「放つ場所を変える、ですか?」

「手のひらからしか撃てないなら、ベル君の両手にナイフを持つ戦闘スタイルだと一度納刀する必要がでてくるだろう?」

「ああ、それは重要です!拳から打てればナイフを握ったまま撃てますもんね!

 よーしっ、次行きましょうっ!」

 

 走り出したベル君をメニューをオフにしながら追いかける。ベル君の魔法の発動過程を集中してみれば、何か得るものがあるのではないかという試みだ。

 集中……集中……なにかベル君の手の平にうっすらと色が集まり、放たれる様子が見えた。メニューを再度表示する。

 

>「魔力視」スキルを手に入れた

 

 さっそく、スキルにポイントを振る。

 どうやら普段見えない魔力を可視化するスキルのようだ。

 ベル君の手のひらに魔力が集まり、色や流れが変わり炎と一緒に撃ちだされる様子が見て取れた。

 この魔力の流れ方は、魔力弾を飛ばすという目論見の参考になりえるかもしれない。よくよく観察しておこう。

 さて、ベル君だが、左手から打つことはできたが、今のところ、撃つ場所を変えることはできなかった。

 指先から魔法が出るイメージを描いたのだが、無理だったそうだ。

 ただ、魔力の流れる感覚というのはわかり、その場所をうまく変更できれば、撃つ場所も変えられるかも、とベル君は話してくれた。

 その後も、調子に乗って、ベル君は魔法を放ち続けた。オレも少し調子に乗っていたことは否めない。

 なんせ、ベル君が倒れるという危険性に気付けなかったのだから。




レシピ本や服飾の初心者用の本がダンまち世界にあるのかは微妙ですが、あるということでお願いします。

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