ダンジョンに入り、出てきたゴブリンをスキルを得るために魔力を込めた魔刃剣アイリスでサクサク倒した。
>「片手剣」スキルを得た。
>「魔刃」スキルを得た。
「うわ、すごい切れ味ですね!」
リリが賞賛しつつも、魔石を取り出そうとしてくれる。
その間に少し試しておきたい。スキルにポイントを振り、スキルによる感覚に従い魔刃を試す。
1ポイントだと、少し
10ポイントだと、刃にそって紫色の光がかなりはっきりと見える。
50ポイントだと、刃全体が紫色にしか見えなくなる。
もっと流し込めそうだが、実験はとりあえずはこの程度にしておくか。剣から魔力を吸いだして、鞘に納めた。
ベル君とリリがぽかんと口を開けて、こちらを見ていた。おっと、集中して実験しすぎたか。
「すまない、少し実験に夢中になっていた」
「い、今のは一体?」
「魔刃という技術だよ。刃に魔力を込めて、鋭い刃を作り出す技だ」
「な、なんか前見せてもらった時よりすごくなってませんか?」
スキル補正が加わったし、前より大量の魔力を流しこんでいる。たしかにすごくなってるだろう。それに剣自体もサポートしてくれているように感じる。ヘスティアナイフよりかなり楽に形成できる。
「魔刃専用の剣というだけはあるね、魔刃を使わないと棒切れと変わらないというけどこれはすごい」
いい武器を譲ってもらった。ヘスティア様とヘファイストス様に感謝をささげておこう。
ベル君とともに、新武器の能力を確かめつつ7階層まで潜った。
まず、槍を使ってみて「槍」スキルを入手した。ただ、魔力が込められるような素材ではないので、一応有効化したものの、使う機会はあまりないと思う。
メイン武器の魔刃剣アイリスのほうだが、少なくともこのあたりなら10ポイント程度流せば固い甲殻や骨すら関係なくスパスパ斬ることができた。
エイナさんからもらったナイフでも魔刃を試してみたが、ナイフのほうは魔力を流すと赤い光の刃がでる。同じポイントを流しても、紫の魔刃とくらべると、すこし切れ味が劣る気がする。やはり、神の恩恵を受けた魔刃剣アイリスやヘスティアナイフは特別ということだろうね。
剣とナイフの魔刃二刀流なんてやって赤と紫の軌跡がとても綺麗だな、と思っていたら
>「二刀流」スキルを得た。
>「演舞」スキルを得た。
>称号「舞踏家」を得た。
とログに表示されていた。二刀流はとりあえず有効化しておこう。
ただ、7階層はあまり近寄りたくない毒持ちのパープル・モスが出てくるので片手は投石用に開けていたほうが便利でいい。
仲間の様子をみると、ベル君のヘスティアナイフはスパスパ敵を斬っていた。エイナさんからもらったエメラルドのプロテクターも、きちんと盾として機能している。ベル君もヘスティアナイフと支給品のナイフでの二刀流で戦っていた。
リリもモンスターと対面して助けを求めるということもなく、周囲に注意をしつつ、死骸を手慣れた動きで一か所にまとめていた。解体速度も、かなり早い。かなり手慣れた印象を受ける。
解体はリリの仕事といって聞かないので、解体中はオレとベル君は休憩をしている。ベル君は微妙に居心地が悪そうだ。
そんな時、リリから声がかかった。
「あの壁に埋まっているキラーアントの魔石も取っちゃいましょう」
キラーアントが壁から生まれた瞬間にベル君が飛び蹴りを行い、少し高い位置の壁に半分埋まった状態のキラーアントの死骸を指さして、リリが言った。
「あの細い胴を切っちゃってください。後はリリがやっちゃいます」
そういって、リリが少し長めのナイフをベル君に差し出した。
「ああ、オレがやるよ。剣のほうがリーチ長いから」
魔刃を発生させ、胴を一閃、魔刃から魔力を抜き出す。
この魔刃を作り元に戻す魔力操作の工程も大分慣れてきた。今ではほぼ一瞬で行うことが可能だ。
ついでに、解体スキルのサポートのもとナイフを走らせてサクッと魔石を取り出し、リリに渡す。リリが微妙に引きつった笑みを浮かべていた。……何故だ?
「それでは、今日はこれぐらいにしましょうか、ベル様、サトゥー様」
「え、もう?僕、まだ余裕あるけど」
「いえいえ、それは油断です。
ベル様が沢山倒されたパープル・モスは毒鱗粉を撒き散らすモンスターです。即効性こそありませんが、ベル様は時間経過で毒の症状が発生する可能性があります」
「1本だけ解毒薬を用意しておいたから、症状が出たりさらに戦いたいというなら渡すね。
だけど、今日は新しい武装の確認やリリのお試しの意味も強いし、無理するよりここで戻ってバベルで診てもらったほうがいいと思うよ」
解毒薬はソロで潜った時、万が一、毒になった時のために購入しておいた。
ベル君の症状欄には毒の文字がないから抵抗に成功してそうだけど、これ以上毒を吸ったらどうなるかはわからない。
「サトゥーさんは大丈夫なんですか?」
「オレは投石したり、位置取りにはそれなりに注意していたから」
ベル君はほっとしたような表情を浮かべる。ああ、心配していてくれたんだね。
「わかりました。僕のせいで戻るのは少し情けないですけど、バベルに戻りましょう」
その後、リリの先導の元、バベルにたどり着いた。
冒険者の足跡をたどり進むことで、モンスターとの戦闘は少なかった。
今回はしなかったが、いざとなれば、他の冒険者にモンスターを押し付けていくことも検討すべきだとのことだ。
オレ達とは違い、リリはかなり長い時間ダンジョンに潜り、生存のための知恵や経験を身に着けているように思えた。
「リリ、報酬は約束通り、換金額の2割で構わないかい?」
「いや、待ってください。サトゥーさん、こんなに手伝ってもらったし、山分けでもいいのでは?」
換金後、報酬を払おうとしたらベル君が増額を提案する。たしかに知識といい動きといい十分な働きをしていた。
「それもそうだね。……はい、3分の1。一応、確認してくれ。」
「あの……、お二人とも、本当によろしいのですか?」
リリが金額を確認し、信じられないものを見るような目でこちらを見てくる。
「ああ、リリの働きに対する正当な報酬だ。受け取ってくれ」
「……変なの」
小さな呟きが聞き耳スキルを通して聞こえた。ベル君には聞こえてないだろう。
「さて、ベル様、サトゥー様、よかったらこれからもリリを雇ってやってくださいね?」
「うん、いい返事ができるように考えておくね」
「はい。リリはだいたいバベルにいますから、いつでも来てくださいね」
そういって、リリは満面の笑みを浮かべた。
「う~ん、他所のファミリアのサポーターかぁ……」
「やっぱり、不味いですかね?」
ベル君とオレはエイナさんに相談することにした。二人ともオラリオに来て日が浅いから暗黙のルールとかあってもわからないからね。
「互いの利益を尊重して明るい契約関係を築いている例もあるしね……二人から見てどうなの、そのリリルカさんって言う子は?」
「はい、いい子でしたよ……サポーターとしても腕はわるくなさそうですたし」
「知識や能力面では問題ないと思います。……ただ、リリによく似た人物が気にかかりますね」
正直、リリに対してどうにかしたいという感情がないこともないが、ヘスティア・ファミリアの人間を優先させてもらう。あまり危険事には巻き込まれたくない。
「昨日の子ですか?でもあの子は
「何のこと?詳しく聞かせてくれるかしら?」
オレは、リリに似た
「で、でもリリが
「けれど、そんなに似ているってことはその冒険者も勘違いして襲ってくる可能性はあるわね」
「……リリが危ないじゃないですか!?」
「私としては、彼女とサポーター契約を結んだ場合、君たちも危ないことになることを考えてほしいかしら?
私は正直、オススメできない」
「う……でも……」
エイナさんの心配する言葉に、ベル君が言葉を詰まらせている。
顔から、リリを連れていきたいと思っているのが、簡単に読み取れる。
……しょうがないね。
「……ベル君は頑固だからね。
どうしても彼女をサポーターにしたいというなら、それでもいいけど、危ない目に合うかもしれないという覚悟は決めてほしいかな」
「ちょ、ちょっとサトゥー君!?」
エイナさんが驚愕の表情でこちらを見ている。たしかにオレらしくはないかもしれない。若い体に精神が引っ張られているのかもしれないね。
いざとなれば、縮地で逃げればどうにかなるという安易な考えも含まれているけど。
「サトゥーさん……わかりました。リリにサポーターをお願いしましょう」
「ベル君まで……。なんで君たちは危ないことばっかりするのかな……」
嬉しそうに答えるベル君を心配そうな表情でエイナさんが見ている。
「……止めても無駄なんだろうけど……本当に気を付けてよね」
「はい」
ベル君は元気よく答えた。
装備でお金も使ったことだし、真夜中にまた抜け出してダンジョンに向かった。
ダンジョンは、17階層に階層主というボスがいて、18階層に街があると聞いている。ボスを倒すと目立ちそうだし、17階層は入ってマップ登録だけして、あまり足を運ばないようにした。
モンスター自体は縮地からの魔刃でどうにでもなった。シルバーバックやミノタウロスといった、少し因縁のあるモンスターも問題なくサクサク魔石になってもらった。むしろ、近接系なので狩りやすかった。
遠距離攻撃手段が投石のみなので、ヘルハウンドなどの遠距離攻撃持ちのほうがやっかいだ。一度、ヘルハウンドに囲まれた状態で火を吐かれて、位置取りが悪くて避けきれずに左腕が少しやけどした。自己治癒で元通りになったとはいえ、あの時は少し焦った。「火耐性」を得られたので良しとしておく。それ以降、真っ先に石を投げて仕留めるようにした。
魔刃について試したところ、魔刃剣アイリスは1000ポイント流し込んでも、まだまだ流せそうだった。1000ポイントまで流すと、魔刃が大剣のように大きくなり、かなり強い紫の光で周囲を照らすようになる。ライトでも持っているみたいにかなり目立つ。ここまで強い光だと目が痛くなりそうなものだけど、不思議と目は痛くならずに直視できる。
なお、エイナさんがくれたナイフは魔力を100ポイント注ぎこんだ時点で、限界みたいだった。無理矢理これ以上注ぎ込むことも可能みたいだが、ナイフが壊れるかもしれないと思うと試せなかった。
また、魔刃だが別に武器を持たなくとも、指先からも発生させられることが判明した。
なので、ソロで潜る際は右手は魔刃剣アイリス、左手は投石か魔刃を切り替えている。アニメなどでよくある、魔力弾を飛ばす攻撃ができればいいのだが、その試みはうまくいっていない。
マップで他の冒険者は避けているし、街を歩くときは適当なローブを着て、アイリスはストレージ送りにしているので、オレだとはわかっていないはずだ。
換金に関しては、ギルドの換金所ではなく、ギルド以外でやっている少し怪しめの換金所を使うことにした。訳アリの人でも換金してくれるらしく、相場より少な目の金額だが、ローブ姿で顔を隠した状態でも問題なく換金してくれた。マップや索敵スキルなどで、尾行には気を付けたので、身元が知られたということもないだろう。
さて、結構なお金も手に入れたんだ。何に使おうかな?