長門型とただ駄弁るだけ。   作: junk

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猥談

 私は提督だ。

 詳細は省くが、この鎮守府で艦娘達の指揮をとって長くなる。

 

 今日の業務は全て終わった。今は長門と陸奥の部屋に来ている。業務終了後、長門と陸奥と雑談する事は私の日課なのだ。

 昔、私がまだまだ駆け出しだった頃。右も左も分からなかった私は、よく世界のビックセブンである二人に業務についての相談をしに来ていた。

 あれから時は流れ、もう業務にも慣れた。今ではこうして、二人の部屋に行く習慣だけが残っている。

 

「なあ長門、猥談しないか」

「いいだろう。望むところだ」

 

 望むところなのか。

 試しに言ってみたら、思いの外長門がノリノリで困った。

 「女性に何を言ってるんだ!」というツッコミか、あるいは「そ、そんな事話せるわけないだろっ!」という乙女的リアクションを期待していたのだが。

 

「実は前々から気になっていたんだがな、この鎮守府は女所帯ではないか。やはり、提督はムラっとくるのか? ムラっと来たとして、性処理はどうしているんだ」

「ふむ。まあぶっちゃけた話、ムラっとは来るな。夕立とか時雨はボディ・タッチ激しいし、金剛なんかは好き好きアピールしてくるから。そもそも長門、お前も服の露出度高すぎるだろ」

「私は肌を露出する事に興奮するタチだからな。これでも譲歩してるんだぞ? むしろ、最低限の部分だけでも隠している事を褒めて貰いたいな」

 

 こいつ、度し難い変態だな。

 

「話が逸れたな。提督よ、それで性処理はどうしているのだ」

「なんだ、お前やけにグイグイ来るな」

「ビックセブンだからな」

「他のビックセブンに謝った方がいいと思うぞ」

「この長門、己の発言に恥ずべき事など一つとしてない。故に、私は謝らない」

「そうか」

 

 どうやら自覚がないらしい。

 

「話が逸れているぞ」

「そうだな。私も覚悟を決めるよ。ぶっちゃけ、鎮守府内で抜いていないな。というか、不可能だ。朝から夕方までは秘書艦の一航戦が付きっ切り。夜は軽空母や戦艦達の飲み会、もしくは駆逐艦や軽巡洋艦が突発的に遊びに来る。深夜は深海棲艦がいきなり攻め込んでくる可能性があるし、金剛や榛名が夜這いしようとするからな。隙がない」

「そのまま襲ってしまえばいいのではないか?」

「バカ。ケッコンカッコカリしていない艦娘と行為に及ぶ事は、軍規で禁止されているだろ」

「む、そうだったか……。では、結局どうやって性処理をしているのだ。店か?」

「まあ、そうなるな。後は外回りの仕事の時、トイレでチョチョっととかだな」

 

 私の言葉を聞いた長門は「ほお……」と言って目を瞑った。想像しているな、こいつ。

 

「そう言う長門はどうなんだ。陸奥と同室だろ」

「私の場合はぶっちゃけくちく──」

「真顔でなんて会話してるのよ」

 

 湯呑みと急須を持って、陸奥が話に入ってきた。

 私と長門が淹れるお茶より、陸奥が淹れたお茶の方が格段に美味しい。同じ道具とお茶っぱを使ってるのに、何故だろうか。

 陸奥が湯呑みにお茶を注ぐ。

 ふむ。陸奥のようなパッと見奇抜な女性が急須を手に持ってると、何故か魅力的に映る。

 

「ありがとう、陸奥」

「いえ、いえ」

 

 お茶を飲んだ後、コタツの上に常備されているみかんを食べる。落ち着くなー。

 

「さて、何の話をしようか」

「そうだな、この長門が抱腹絶倒でありながら泣けて、人生の教訓にもなる話をしてやろう。この間私が扶桑と買い物に行った時の事なんだがな──」

「ちょっと、ちょっと待って」

 

 長門の抱腹絶倒でありながら泣けて、人生の教訓にもなる話を陸奥が止めた。

 一体なんなんだ。

 

「さっきまで猥談していたでしょ。どうして私が入った途端、止めるのかしら?」

「そりゃあお前、なあ?」

「ああ、うむ。そうだな。その、妹よ。言い辛いんだが、お前はちょっと……生々しい」

「生々しい!?」

「長門と猥談した場合、ゴリラも性に興味あるんだな〜程度にしか思わないが、陸奥と猥談した場合、確実に催す」

「催す!?」

「おい、今私のことをゴリラ扱いしなかったか……?」

「例えば私が長門にお前性処理はどうしているんだ、と聞いたとするだろう。これは笑い話ですむ。しかし陸奥に聞いた場合、確実にセクハラかAV前のインタビューになる。R─18だ。まあそんな訳で、陸奥とそう言う話をするのは躊躇われるわけだ」

 

 長門と私の言葉を聞いた陸奥は、ぐでーとコタツに突っ伏した。

 

「私っていっつもそういう扱いなのよね……。カフェに行くのには誘われるのに、居酒屋には誘われない、とでも言えば良いのかしら。私だって安酒飲んではっちゃけたり、猥談をして盛り上がったり、火遊びがしたいのよ!」

「そう言えば確かに、陸奥はあまり軽空母主催の飲み会であんまり見ないな」

「そうなのよ。その点、ここ以外では仏頂面で堅物な提督や長門は、何故か毎回誘われてるわよね。どうしてかしら」

「仏頂面で堅物なんじゃない。コミュニケーションの必要性を感じないだけだ。なあ、ナガト・ナガト」

「おい、今私のことをゴリラ扱いしなかったか……? 私だって、乙女なんだぞっ!」

「そうか。すまなかったな、メスゴリラ」

「よし、分かった。表に出ろ」

「だってさ、陸奥」

「どう考えても提督でしょ」

 

 陸奥に呆れられた。

 そう言う大人っぽいというか、一歩引いたところが飲み会に誘われない原因だと思うぞ。

 ここで「上等だゴラァ!」とか言って長門に掴みかかってたら、きっと鎮守府の人気者になれていた。

 

「ふっと気になったんだが、長門と陸奥は、他の船だと誰と仲が良いんだ?」

「私はよく武蔵や那智と一緒に鍛錬をするな。他には球磨や多摩、二航戦なんかとお茶をしばくぞ。逆に仲が悪いのは大和だな」

「しばくぞってお前……。それに、仲悪い奴の名前とかあげるなよ。次艦隊を編成する時、頭をちらつくだろう」

 

 いや、長門と大和の仲が悪いことにはなんとなく気がついていたがな。それでも明言してほしくなかった。

 

「なあ、お前は鍛錬というか、筋トレを良くしてるが、筋肉がついて何か意味はあるのか? 腹筋とかバッキバキだけど」

「ないな。私の力は82000馬力、筋力が多少向上した所で全く意味はない。ぶっちゃけ趣味だ」

 

 趣味なのかよ。

 

「私は愛宕や高雄、翔鶴、鳳翔、赤城と仲良くさせてもらってるわね。昨日も一緒に、新しく出来たカフェに行ったわ」

「なんだ、その婦人会は」

「婦人会!? ──婦人会!?」

「二回ツッコンだな」

「一応聞くが、その婦人会ではどんな会話をするんだ? 夫の愚痴とか、子育ての大変さとか、幼稚園のママ友がギスギスしてるって話とかか?」

「だから、婦人会じゃないわよ! いえ、婦人会でそう言った話をしているのかは知らないけれど。でもそうね……その時はそのカフェの雰囲気の話をした後、鎮守府のお話をしたわね」

「へえ、どんな」

「姉妹の話や、提督のお話よ。日常会話ですもの、そんなに内容を覚えているわけではないわ」

「ふーん」

「尋ねておいて興味なし!?」

「まあ陸奥の話は置いておいてだな。提督よ、貴方は誰と仲が良いんだ?」

 

 それはなんとも、難しい質問だ。

 艦娘達とは、できるだけ平等に接するようにしている。何処から不和が出るか分からないし、その不和が戦いにどんな影響を及ぼすかわからないからだ。

 というか、そもそも答えて良いものなのだろうか。上に立つ者が特定の誰かと仲良くしている、と明言するのはダメな気がするが、しかし……

 まあいいか。この二人だし。

 

「比叡と青葉、北上、瑞鶴あたりだな」

 

 金剛や羽黒なんかにも仲良くしてもらってるが、あれはまたちょっと別な気がする。

 

「へえ。お姉さんちょっと意外かも。どんな話をするの?」

「うむ。比叡とはもっぱら、金剛についてだな。後は一緒にキャッチボールしたりする。青葉からは鎮守府内で出た不満を聞かせてもらってる、上司の私に面と向かって意見を言うのは難しいだろうからな。北上とは一緒にぐでーっとしてるだけだ。瑞鶴とは、一緒に加賀に全力でイタズラを仕掛けている。この間は加賀の歌をこっそり録音して、CD化したものを二人で勝手に売ったな。勿論、売り上げは加賀に送っておいたぞ」

「何してるのよ……」

「私もCD出そうかな」

「ちょ、長門?」

「ゴリラの鳴き声CDか。マニアに売れそうだな」

「良し、お前ちょっと表に出ろ」

「すみませんでした」

「許さん」

「あの、ホント勘弁して下さい。この後塾とかあるんで……」

「塾て。どれだけ追い詰められてるのよ」

「許さん」

「貴女も頑固ね……」

 

 会話を止め、お茶を飲む。落ち着くなー。

 今更だが、陸奥はちゃんとオシャレなクリーム色のセーターを着ているのに、どうして長門はいつも通りの高露出度ファッションなんだ。

 露出狂なのか?

 ああ、露出狂だったな。

 

「って、あー! 話が逸れてるわよ! 猥談しましょうよ、猥談!」

 

 修学旅行で夜寝る前にやたらテンションの高い男子高校生か、お前は。

 そんなに気合入れてするものではないだろう、猥談って。

 

「言い出しっぺの法則だ。陸奥から話せ」

 

 長門も随分グイグイ行くな。妹の猥談とか、聞いて大丈夫なのか?

 

「この間、愛宕と高雄と銭湯に行ったのだけど、お風呂上りの高雄を見てたら、物凄くムラムラしちゃったのよね。それで思わず揉んだのよ、尻とおっぱいを。高雄と私のスタイルってほとんど同じなのに、どうして他人の尻とおっぱいだとああまで触り心地が違うのかしらね」

「すまん。ちょっとトイレ行ってくる」

「止めろ。もう一度言う、止めろ。今のは陸奥が悪いが、それは止めろ」

 

 立ち上がろうとする私の腕を、長門が掴んで止めた。

 上官命令を使ってこの手を解かせるかどうか、人生で最も難しい問題であった。

 

「陸奥、やはりお前はちょっと生々しすぎる」

「そうだな。次はもうちょっとこう……抑えめにしてくれ」

「そうねえ。この前、提督の執務室に行ったら加賀さんが提督の椅子で──」

「止めろ! 止めろ、止めろ! はい、もうこの話終わり! 陸奥、お前ホント、今日ちょっとおかしいぞ」

「提督の言う通りだ。何があった」

「何もないわよ! 私は元々こんな性格なの! 私だって、私だって偶にはツッコミを止めて、はっちゃけたいのよ! 今日は好きなだけ火遊びするんだから! 提督、長門付き合いなさい!」

 

 

 

※この後めちゃくちゃ“夜戦”した。


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