RE:世界一可愛い美少女錬金術師☆   作:月兎耳のべる

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メリークリスマス!
1人で食べるケーキとチキンは美味しいか!?美味しいよなぁ!(血涙)


第六十五話 黄金時間(前編)

 

「役者は揃った……って事でいやがりますかね?」

 

「あぁ。何とかな」

 

 煩わしい風のざわめきが、二人の間に流れる。

 声の主はカペラ、そしてスバルだ。

 カペラは黒いドレスを纏った妖艶な女性姿。

 一方のスバルは相も変わらず縛られたまま。

 

 ラインハルト邸から少し離れた草原。

 約束された殺戮の場所。そこで彼らは再び顔を合わせていた。

 予告では昼に行われる筈の凄惨な一幕。しかし未来を知る/過去を知る者たちはその運命を捻じ曲げて睨み合っている。

 

 黒幕カペラの後ろにはずらりと並んだ黒ローブ姿の魔女教徒達。

 対するスバルの傍にはやる気に満ちたエミリア。冷徹な目のカリオストロに、落ち着き払ったラインハルトの4人のみ。

 

 混じり気しか無い殺意と、志に燃える敵意のぶつかり合い。

 もしも第三者がここに立ち寄れば涼し気な気温と裏腹に、異様な熱を感じた事に違いないだろう。

 

 そしてその第三者こそが――今も信じられないという顔で二陣営を見る、リカード率いる『鉄の牙』の一団だった。

 

「……本当に、そうだっていうんかい……!」

 

 幸いなことにスバル一行は先回りに成功していた。

 早朝、ロズワールからの手紙が届いた段階でラインハルトはスバルらの策に乗ることを決め、すぐに4人を抱えて草原へ向かっており。予定ポイントへ向かうリカードらと一息で合流していたのだ。(なお山向こうから飛んできた三人を抱えたラインハルトに、リカードは大変驚いたのだが、それは割愛する)

 

 説明も程々に奇襲を警戒する一行だったが、予想と裏腹に魔女教は予言どおりの昼に出没。大胆不敵な登場にカリオストロ達も驚かざるを得なかった。

 

「お前達がここに来るとは思ってたけど……まさか律儀に提案に乗ってくれるとは思ってなかったぜ」

 

「ぺッ――! 契約なんてなければ誰が。アタクシの高貴な耳に腐れマゾ犬がクソを垂れやがったせいで、こちとら気分最悪ですよ」

 

 ラインハルトの念話は正しく届いていたようだ。

 吐き捨てたカペラが鉄の牙率いる商人達を眺めれば、傭兵達が一斉に武器を構えだす。しかしそんな敵意溢れる相手にカペラはやる気なさそうにため息をつくばかりだ。

 

「で。お前達の要望は契約の更新――でしたっけ?」

 

「そうだ」

 

「このクソ共も、攻撃対象に含めるなって? 恥知らずここに極まれりですねぇ……一度交わした契約も満足に履行出来ないでいやがるんですか? それにコイツらはお前らの(ライバル)でしょう?」

 

「このまま死なれても寝付きが悪くなるだけなんだよ。行き掛けの駄賃ってやつだ」

 

「うぇぇぇぇ鳥肌が立つゥ~~~ッ、気持ち悪いったらありゃしねえでしょ。オエッ。何自分に酔ってやがるんですか? 馬鹿なんですか? 自分が主人公だって言いたいんですかお前? 誰にでも手を差し伸べて英雄気取り? あっきれた」

 

 カペラは心の底から信じられないとスバルを侮辱する。その考え、その思考こそ彼女がもっとも唾棄すべきモノであり、今この時点でスバルへの好感度はぶっちぎって下になっていた。

 

「俺の性格なんてこの際関係ないだろ。どうなんだ? お前達はこの契約の更新を飲むのか、飲まないのか」

 

「さっすが童貞。会話を楽しむ余裕もないと? 早漏は嫌われますよぉ?」

 

「初物には初物なりの良さがあるんだよ」

 

「マジで気持ち悪い」

 

「う、うるせえ! いいから返答はどうなんだ!」

 

 商人達は困惑していた。ここルグニカで──いや、この大陸で魔女教という存在を知らぬ人などいないのは違いないが、実物を見るのが初めてだからだ。

 好き好んで魔女教のフリをする存在など勿論いないとは思っているが、信じられなかった。彼らは本当に魔女教なのか? これは盛大な戯言(どっきり)の場ではないのか? そんな疑惑は、すぐに晴れることになる。

 

「──飲むわけねえだろ」

 

 グチャッ。

 

 何かが飛び散った。

 それが人間の血肉だなんて、誰もが信じられなかった。

 

「飲むわけねえだろ飲むわけねえだろ飲むわけねえだろ飲むわけねえだろ飲むわけねえだろ頭おかしいのか狂ってんのかイカれちまってんのかァ!? 馴れ馴れしくくっちゃべったと思ったらイケしゃあしゃあと別のクズ肉共を攻撃すんなって、この全人種全生物に愛され全世界全浄土で誰よりも尊ばれるべきカペラ・エメラダ・ルグニカ様に礼儀も礼節も感謝も愛情もなしによくぞまあ生意気言えるな腐れ脳みそのゴミ屑がァッ!? 食料も金も家も土地も宝も体も人権も愛も全て(すべ)(すべ)(すべ)てを捧げて這いつくばってお願いしますって言うのが礼儀なのがわっかんねえのかッ!? なんだってお前はそこまで低能なんだクズ肉ぅぅぅぅぅぅッ――――!!!!」

 

 ぐちゃっ。ぐちゃっ。ぐちゃっ。ぐちゃっ。ぐちゃっ――!

 

 発狂し咆哮するカペラ。その直ぐ側に(かしず)いていた部下だったものが癇癪のたびに撒き散らされる。

 彼女の背後から生えた異物――漆黒かつ歪な尻尾がそれを成していた。

 商人達、いや鉄の牙の面々もこれには後ずさった。海千山千の狡猾な相手にも、如何な強敵でも魔獣相手にも引けをとらないと自負してきた彼らも、正気を逸した彼らには気圧されてしまう。

 カペラの狂気も、そして味方がミンチ肉になっても動揺一つしない部下達の異質さも、他ならぬ魔女教であることの証明になった。

 

「ッ、テメェ……!」

 

「怒りてえのはこっちの方なんですよ、こんなクソみてえな契約に縛られなきゃいけねえってだけで窮屈なのに増長するゴミも相手しなきゃいけないだなんてどんな拷問でいやがりますかァ!? 『俺の目が明るい内は誰も殺させねえー』って義憤に燃えてやがるんでしょーか!? ――クッサ! 糞みたいに糞塗れの糞目立ちたがり屋め、そんなに周りに目立ちたいんんなら誰もが羨む素敵なオブジェにしてやりましょうかねぇ!?」

 

 ほんの目と鼻の先で高らかに憎悪を撒き散らす災害。

 エミリアのすぐ側で睨み続けていたパックが、思わず吐き捨てた。

 

「それじゃ交渉決裂かい? ボクとしてはキミ達全員を仲良く氷像に仕立てあげるのも悪くないと思っているけど?」

 

「ハッ、雌肉に付きまとうゴミ精霊が何言ってやがるんですかね~ぇ。大事な大事な雌肉が虫ケラに変わっても同じ台詞を吐けるか見ものですよ」

 

「待て。手を出すなパック」

 

「なんだいカリオストロ? こんな改心の余地もない奴一刻も早く殺すべきだよ。娘の教育に悪い」 

 

「気持ちは大いに分かる。分かるが落ち着いてくれ。口ではこう言ってるが、のこのこ顔出ししにきたんだ。交渉のテーブルに付く余地はあるってことだろ?」

 

「……」

 

「そっちは何がお望みだ?」

 

 契約を無視して暴れ回るつもりがない。

 それはカリオストロにも分かっていた。

 先程の半狂乱も、こちらに手を出させるための罠なのだろう。

 

(まずは要求を引き出す。交渉のテーブルにつかせて、油断させる)

 

 こっちは契約を締結する気なんて更々無い。

 一番いいタイミングで不意を打つ。そのための撒き餌だ。

 そんな狙いを知ってか知らずか、カペラは怖気のする笑みを浮かべた。

 

「んなもん決まってるでしょーが。そこでボーっと突っ立ってる銀髪の雌肉と、内心ビビリまくってるスバル君ですよぉ」

 

「はっ、それこそ論外だ」

 

「そっちこそ通ると思っていやがんですか? 必要最低限の対価も与えずに生意気垂れる事がどれだけ分不相応な事かも分からねえ訳じゃねえでしょうに。いくらアタクシが慈悲深いっていっても限度があるって言うんですよ」

 

「秒で癇癪を起こす奴に慈悲が期待出来るとでも?」

 

「アタクシに無礼な口を聞いても尚生かしてやってる、それに越した慈悲なんてあるとお思いですかねぇ? ――いいんですよぉアタクシは決裂しても。お前達にはけっっっして手を出さず、そこで震えてるクズ肉共と遊ぼうと思いますかぁら」

 

「……」

 

 本気の発言か図りかねる。

 そもそも、今回の策はラインハルトという最強の存在がいるからこそ成り立っている。

 カペラも剣聖を前に不利を承知で挑むほど愚かではないと分析していたが……あくまで手を出させようとする挑発に過ぎないのか? それともそこまでして予言を重視したいというのか? 

 

(いや、傲慢は伝えてるはずだ。起こりうる可能性。その全てを。その警告を無視してまでのメリットはあるのか?)

 

 どう考えてもそこにメリットはない。

 しかし、確たる狙いがあると見て良さそうだ。

 

(例えば……もしも傲慢がいるなら、この交渉すら既に何度もやり直してる可能性もある。そうなるとこちらが不意打つタイミングもバレてると見ていいが……姿を見せないな。隠れているのか?)

 

 カストール。

 アイツだけが唯一の不確定要素。

 いるだけでこちらのあらゆる策を破綻させるのはまさしく傲慢がすぎる。

 

(賭けなんて言葉は大嫌いだ)

 

 でもそうせざるを得ないし、もう賽は投げられてしまった。

 ならば……突き進むしかない。

 

 カリオストロはスバルに頷いた。

 

「カペラ。お前がエミリアに固執してるのは分かってる。でもそれだけは譲れねえ」

 

「だったら交渉は破棄になりますが?」

 

「最後まで聞けよ。その代わり、俺がそっちに行く」

 

「……へぇ」

 

「契約上だとお前達と同行する事になってたんだ。ならそうあるべきだろう?」

 

「殊勝な態度じゃねえですか。お仲間もそれを承知で? はっ! 随分と美しい信頼関係でいやがりますねぇ!? ライバルのために味方を売り飛ばすなんて中々出来る芸当じゃねえですよ? けひっ、きひひひ……ね~えエミリア様? お前にとってこいつはそれくらい価値がなかったんですかねぇ? それとも信頼するに値しねえとでも?」

 

「スバルを馬鹿にしないで」

 

 ぴしゃり、とエミリアが突っぱねた。

 

「スバルに価値なんてつけられないわ。だって、スバルは私の大事な大事な友人だもの。私がスバルを送り出すのは、それだけ信じているからよ。自分の事しか考えていない貴方なんかに、スバルは負けないわ」

 

「――」

 

「スバルはすごいんだから」

 

 カペラの顔に青筋が走った。

 彼女が蔑み、嫌悪し、唾棄する信頼や友情。それを誇らしげに思うエミリアのあり方は、カペラとは正反対のものだ。エミリアの毅然とした態度は契約という盾が無くとも変わらないだろう。それが分かるからこそカペラはあらん限りの憎悪を載せて睨みつけた。

 

「あぁそうさ。俺はお前なんかに負けねえよ。それで、答えはどうだ色欲?」

 

「……それ以上恥じらいもなくほざくのやめてもらっていいですかねぇ? 分かりましたよ。このついでのクズ肉共に手を出さない。それでいいですかね?」

 

「口約束だけじゃ駄目だぞ」

 

「んなこと分かってんでーすよ……オラ、契約更新すんだろ? こっちに来いよ」

 

 バリバリと、乱雑に髪をかきむしるとカペラが手を差し出した。

 どうやら本気で契約の更新に応じてくれるようだ。

 

 カリオストロは内心で胸を撫で下ろした。

 作戦の第一段階はどうにか上手くいった。

 後は契約を交わすタイミングで不意打ちをするだけ――ラインハルトが斬り伏せ、エミリアが氷漬けにし、そして黄金錬成で物言わぬ黄金に変えてしまえばカペラはおしまい。

 

 しかして真に警戒すべき傲慢(カストール)は、幾ら見渡せど姿が見当たらない。

 まさか隠れているのではなく、本当にこの場に来ていないのか? そんな事がありえるのか?

 

(もしもオレ様が傲慢の立場なら、何度死んでもいいから最適解が出るまでやり直すだろう。ラインハルトがいるのなら尚更だ。スバルを攫い、エミリアとオレ様を殺す。あるいは無力化する道を探るだろう)

 

 グランの死がその証左だ。

 都合5千回の死を連ねてまでグランに土を着けた奴だ。やりかねないだろう。

 

 ――エミリアが見守る中、スバルが前に出る。

 ――スバルが恐る恐るカペラに近づくのが見えた。

 

(なら現状が……既に奴等にとっての最善の道だというのか?)

 

 だとしたらそれもまたおかしい。

 エミリア、カリオストロ、ラインハルトという主戦力が無傷で勢ぞろいしてる状態を甘んじて見逃すのだろうか?

 自分なら各個撃破を目指す。こちらが不意打ちを仕掛ける前に罠を張る。グランという理詰めでなければ倒せない相手を倒したからこそ、その考えに至れた。

 

 ――カペラがその手をスバルに伸ばした。

 ――その手元は魔力光に溢れている。

 

(だったら……奴に来れない理由があったのか?)

 

 ならば無策のまま色欲を寄越したのではく、十分に打開出来る策があったからこそ色欲だけ行かせたと考えられるのではないか――?

 

 薄氷の上を歩いているような感覚にぞわりと総毛立つ。

 色欲のその顔がにちゃぁ、と歪むのが見えた瞬間、カリオストロはウロボロスを色欲に向かって飛びかからせていた。

 

「伏せろ!」

 

「へ……? ――どわぁっ!?」

 

 色欲が龍を思わせるかぎ爪でスバルを肉塊に変える前に、ウロボロスがその腕を吹き飛ばしていた。

 高らかに舞い上がる色欲の腕。そして片腕が無くなっても尚もう片方の腕でスバルを亡き者にしようとしたが、直後肉薄したラインハルトがその鞘で強く彼女を打ち据えていた。

 

「げっ、ひひ――!! おーおー、やっぱり不意打ちしやがりましたか! あんだけ綺麗事を並べておいてよくぞまあ! やっぱりクズってのはどこまでいってもクズでいやがりますねェ!? ――げひゃっ?!」

 

 地面に電車道さながらの痕を残して吹き飛ばされた色欲に、カリオストロが生成した武器が殺到。瞬く間に彼女はミンチと化した。

 

「カリオストロ一体どういう……!?」

 

「いいから離れろ!」

 

 スバルは混乱の極みにあった。

 契約に裏付けされた安全。それが覆された理由が分からなかったからだ。ウロボロスで抱えられながら、すがるような視線を向けている。

 

「お前、色欲の野郎に殺されかけたぞ」

 

「だ、だとしたら契約違反になる! 今後あいつらは俺達に金輪際手を出すことは出来なくなる筈だ……なのに、なんでだ?!」

 

「……」

 

「魂の契約を無視出来る方法があるってのか……!? ――うわっ!?」

 

 次の瞬間貼られる魔力のシールド。

 殺到する火球で視界が妨げられる。

 

 それを成した下手人は魔女教徒達だった。

 折込済みだったかボスがやられたせいか。全員が思い思いの武器を手に取り、魔法を展開している。

 

「どうやら交渉は決裂のようだね? ま、こうなると思ってたけどさ」

 

「お、おい嬢ちゃんらこれって……!」

 

「分かってんだろ。今から戦闘が始まるんだ――エミリア! パック!」

 

「えぇ!」「りょーかい!」

 

 カリオストロが指示をすると同時にエミリアが両手を振りかぶり、そして横に薙いだ。

 直後、魔女教と商隊の間に巨大な氷の壁が地面から林立しだす!

 

「商隊の皆さんはすぐに逃げて! ここからは私達の仕事!」

 

「はぁ……!?」

 

「わからないかな、キミ達を守ってる暇はないってこと! これからも元気に積荷を運びたいならさっさと行ってくれないかな! 邪魔だからさ!」

 

 ぽかんとしたリカードの顔。

 しかしその顔はすぐに憤怒に染まる。

 他ならぬ『鉄の牙』が狙われたってのに、それを助けられた挙げ句とっとと逃げろと? 

 

 ――そんなの、許せる訳がない。

 

「……言うてくれるやないかァ、邪魔や言われても勝手に邪魔したるわ……! お前ら商隊の撤退を急げや! そして分かっとるやろな!?」

 

「「「「応ッ!!!!」」」」

 

 その思いは傭兵団の面々も同じだったようだ。

 歴戦の戦士達である彼らは異常事態を前にすぐに冷静を取り戻し、何を為すべきなのかを見定めた。 

 

「ぎゃはっ! 誰も逃さないですよ! 楽しいパーティの始まり始まりいぃっっ!!!!」

 

 直後、破壊される氷の牢。

 身の丈以上の黒く不気味な尻尾を揺らし、高らかにカペラの宣言が木霊する。

 号令を待っていたローブ姿の下僕達はその宣告に雄たけびも上げずに静かに前進を始めた。

 

 

 ――そして混戦が始まった。

 

 

 商人達は逃げ惑い、傭兵らは応戦を始める。

 一帯に巻き起こる砂埃に、響き渡る剣戟と怒号。

 

 魔法が、剣が、平和な平原を荒らしていく。

 

 しかしながら情勢は圧倒的にカリオストロ側に傾いていた。

 なにせこちらには剣聖(ラインハルト)が居る――。

 

「はぁ~……?」

 

 スバルは開いた口が塞がらなかった。

 目まぐるしい勢いで敵の中を走る白い残像。そしてラインハルトが走り抜けると、敵は糸が切れたかのように次々と倒れ込んでいく。

 ラインハルトの実力は伝聞でしか聞いた事はなく。また誇張が過ぎると思っていたが……嘘偽りではないと認識を改めざるを得なかった。そしておまけに――、

 

「これをどこかに捨てておいてくれ!」

 

 ラインハルトがどさどさと積み上げていくものがあった。

 自害用の爆弾だ。

 魔女教徒の体に縫い付けられたそれを、気絶させると同時に抜き取っていたのだ。神業が過ぎる。

 これには『鉄の牙』の面々も口をあんぐりと開けていた。

 

「よそ見してんじゃねえよスバル」

 

「って言われてもな……動けない俺にどうしろと?」

 

「動けなくても考えられるだろ。オレ様の代わりに考えろ。まだ謎は沢山あるんだ」

 

 スバルはいまだ蒼のウロボロスに抱えられたままの状態。そして目の前に立っているのは無傷に戻ったカペラだ。彼女はこちらを値踏みするような眼を見せながら、エミリアとカリオストロの二人に対峙している。

 

「――なぁ~~に警戒してやがるんですかねぇ? 契約違反しちまってるんで、もうそちらには手は出さねえですよぉ?」

 

「真っ先にスバルを殺そうとしやがったのにか?」

 

「やだなぁ、ちょっと力が入っちまっただけじゃねえですか。なのにが、――ぴぎゅ」

 

 直後。カペラの全身が氷漬けになった。

 

「君達に先人のありがたい教えを授けよう。『魔女教と話すくらいなら、壁と話してる方がマシ』」

 

「はっ! 確かにな、たまにはいい事いうじゃねえかパック!」

 

 絶好のチャンス。

 パックのアシストを見てカリオストロが魔力を練る。

 スバルを退避させたと同時に、氷漬けのカペラめがけて二対の龍が無限()を舞う。

 カペラという存在を紐解き、その有様すらも変えてしまう秘奥義――『黄金錬成(アルス・マグナ)』!

 

 ――周りに巻き散らされる極光と暴風!

 

 暴威に晒されたエミリアとスバルが腕で顔を覆い、しばらくして中心部が晴れれば……そこには全身を黄金に変成させられたカペラの姿があった。

 

「うわ……マジで金ぴかだな……」

 

「すごーい……ねえ、カリオストロ。これでもう復活出来ないの?」

 

「粒子一つ残らず黄金に組み替えてやったつもりだ。これで復活するんだったら……もうお手上げだな」

 

 日光を浴びて光り輝く黄金の像は、美しい……というより野暮ったい印象を与えた。興味深そうに眺めていたパックも「うーん。下品」と零す程だった。

 

「念のため更に凍らせて地中深く埋めて周りも鉄で囲ってやるか……」

「念の入れ用!?」

 

 しかしながら妥当な判断ではあるとスバルは思い直した。煮ても焼いても灰にしても復活する化け物には妥当な処置だろう。

 

「あとは哀れな子羊達を同じ目に合わせてやればいいだけかにゃ~」

 

「漏れなく全員金ピカか……いや、待てよ。これもしかして資金源に出来ないか!? ほら王選には色々入用になるだろうし……」

 

「ダメよスバル。流石に元人間を売るのは気分が悪いわ」

 

「う……まあそうだよな。……あ、じゃああいつらの武器とか服だけ売るのは?」

 

「スバル。もう!」 

 

「勝手に話を進めんじゃねえ。流石に全員を黄金にする余力はねえぞ」

 

 黄金に目が眩んでしまう理由は分かるが、自らを政治基盤に組み込んでもいいとは許可していない。念のため釘をさしておかねば、とカリオストロが語れば、

 

「――へぇ、それはいいことを聞きましたねぇ」

 

 聞きたくない声が響き、瞬時に声の方に魔法を放っていた。

 黄金像。その横合いから一行を覗いていたカペラは、再び数多の槍で串刺しにされる。

 

「げふっ、げひ、ひひ……! こんにちわ、ぁ。さみしくなっ、てまたもどっでぎまし――」

「もう戻ってこなくていいんだけど?」

 

 追撃したのはパックとエミリアだった。

 エミリアの足元から氷が伝ったと思えばカペラの全身が霜で覆われて氷結。そして直後に空中に現れた巨大氷塊が落下し、硝子が割れるような音と共に砕け散った。

 

「お、おい……あれ(黄金錬成)でもダメだったっていうのか?」

「……いや」

 

 カリオストロの顔が苦々しく歪んだ。

 思い至った想像。それは最悪中の最悪。

 しかしながら当たって欲しくない想像に限って当たってしまうのは、世の常だった。

 

「効果はあった。だが、奴は最悪な方法に切り替えてきやがった」

 

「――分かりましたか? わかっちまいましたか?」「けらけら」「けたけた」「よく辿り着けちまいましたねぇ。褒めてあげましょうかぁ?」「きゃははっ! ならこれから待ち受けるのがどんな結末なのかも。分かっちまいますよねぇ~え?!」「そっちがその気なら、アタクシ達だって本気を出さなきゃ失礼ってなもんですよ」「そうでしょう?」「その通りですよねぇ!」

 

 ずるり、ずるりと現れる5つ、いや10の影。

 それは全員がうり二つの姿で、うり二つの声で、そして等しく神経を逆なでする声で嗤う。全員がカペラ・エメラダ・ルグニカ。分身たちの笑い声が声高く響き渡る。

 

「嘘。だろ……!」

「スバル、下がってて!」

 

 咄嗟に前に出たエミリアがスバルを庇い、パックもまた憎々しく彼女らを睨む。

 

『『『――さぁさぁさぁ、役者は十二分に揃いましたねぇ? それでは始めましょう銀髪ハーフエルフのエミリア様。試練のお時間ですよぉ!』』』

 

 取り囲んだカペラ達が繰り出す耳障りな合唱を皮切りに、草原に再び激闘が繰り広げられんとしていた。

 

 

 




カペラ様他人を変身できるなら他人に意識植え付けぐらい出来そう!
ってところから考え付いたオリジナル技です。

スバル「つよくね?」
カリオストロ「ナーフしろ」
カペラ「ラインハルトをナーフしろ」
ラインハルト「常に上方修正しか受けません」

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