遅くなってごめんなさい。
いろいろあっていろいろ遅れました。
遅筆ですけど完結まで目指して頑張っていきまっす。やるっす。
見渡す限りの草原を横断する一筋の道に沿って歩くのは、少年一人と少女二人、そして一匹。その中で長い青髪を背中に流した少女が、前を歩く少年に話しかけた。
「ねぇグラン、さっきの人達の事なんですけど……」
「あぁ」
グランと呼ばれた少年も彼女の言いたい事を察しているのだろう。顎に手を当てて、思案気な顔を見せる。
「今思えば、彼らの事は無理やりでもいいから手伝うべきだったかもしれない。少なくない荷車にめいっぱいの人を乗せて、あんな鬼気迫る表情をしていたんだ」
「じゃあ」
「でもごめんルリア、僕はそれでも今はカリオストロを優先したい。優劣をつける訳ではないけど彼らも手助けは不要だと言っていたし、何より……カリオストロが飛ばされてしまったのは僕の責任なんだ。彼女を真っ先に助けないと」
「はうぅ……そう、ですよね……ごめんなさいグラン」
ルリアと呼ばれた少女はしゅん、と体を縮こめ、そんな彼女を見たグランは苦笑しながらぽん、と使い古した手甲をつけた手で撫でた。
彼らはカリオストロの失踪を受けて別世界から追いかけてきた騎空団のメンバーである。
カリオストロが黒い手に誘拐されたその日から団に居る学者、軍師、占星術師、魔女、王族、星晶獣……職業も種族も問わず全ての力を総動員して彼女の形跡を探りようやく掴んだのが、こちらの日でつい先日の事。世界を特定した彼らは星晶獣を従える力を持つルリアにより、星晶獣「プロスクリスィ」の力を借りて実際にその場所へ向かう事になった。
しかし、彼女の力では向こうに行けるのはルリア含めて精々3人が限度であると分かると、派遣する人員の選出で団内は揉めに揉めた。
まず今回の件で責任を大きく感じている団長、グランが当然自分が行くと言ったが、団内のほぼ全員から反対を食らった。彼に責任の一端があるかもしれないが、そんな彼の立場は今や搭乗人数300人を超える巨大騎空団、その団長なのだ。トップたる存在が騎空団を一時的とは言え留守にするなど持っての他だと、団の補佐役を務めるカタリナ、アルタイル筆頭とした真面目グループが猛反対をし、穏健グループであるラカムやユエルと言った面子もまた難色を示した。
捜索ならとびっきりの人員を用意する、だから我慢しろと伝えてもグランは梃子でも首を縦に振らず、珍しく声を荒げて彼らに食ってかかる光景すらも見られてしまう。そんな中、折衷案を出したのは自然と団内の意見役になりつつあるオイゲンとロゼッタであった。
『やめだやめだ、我らが団長の意志はとびっきり固い。好きにさせりゃいいさ』
『皆の心配も分かるけれども、団長さんに任せてみないかしら? あなた達だって知ってるでしょう、彼の実力はそれこそ十天衆を凌ぐ力がある』
『グランは今まで不可能だと思えた道のりも可能にしてみせた、留守にするとしても数日程度だろうよ。なぁ?』
『それに私達騎空団はグランがいないと何も出来ない子供の集まりじゃあないでしょう? 数日くらいの不在、笑ってこなして見せなさい』
こうしてグランは目出度く捜索隊の面子として選ばれ、直ぐ様こちらの世界に降り立った。
飛ばされて来た先はだだっ広い草原の真っ只中。空気も澄んでいて、魔物の気配も全く無い。よく言えば普通な場所。今までありとあらゆる超常現象をフルコースで味わってきた歴戦の彼らは、最初は警戒こそしていたものの平和そのものと言っていいこちらの世界に少し拍子抜けした。
しかしながらこの草原の広い事広い事。グランの生涯の相棒である小さなドラゴン、ビィがその場で高く飛んで道を見つけて以降、彼らは丸一日歩きづくめだ。途中で目を見張るほどの大樹を見つけた以外何もなく、誰一人として出会わず、ヒントのないまま放浪するしかない状況に流石の彼らも困り果てた。
そしてこの世界に来て二日目の朝、彼らは初めて人と遭遇する。
物々しく装備した騎士達が乗り詰めた竜が牽く車、竜車が彼らの後方から大量に現れたのだ。
二日目にしてようやく人に出会えた事に安堵するグラン達は堪らず声をかけたが、竜車はそんな彼らを無視して道を大急ぎで過ぎ去ってゆく。一瞥すらせずに過ぎ去る彼らに皆一様に唖然とするも、グランが諦めずに声をかけ続け、ようやく反応を貰えたのは最後尾の竜車であった。
何があったのかと聞くグランに、兵士は答えられないと冷たく返す。
もしかして戦争でも起こったのですかと零すルリアに、兵士は首を振るだけで答えはしないものの、この先は危険だから絶対に行くなと釘を指してくる。王都に向かいたいのであれば、もう少し先に分かれ道があるから、それを右に進めとも。
大きな騒動が起きている事を察した一行のうち、もし協力出来るのであれば手伝いましょうかとルリアが手を差し伸ばすも、兵士は不要であると一言で親切を切り捨て、彼らの元から離れていく始末であった。
「私も団長さんに賛成かなー。ルリアの気持ちも分かるけど、まずはおししょーさま探しを優先しちゃおうよ。残念な事に私達はこの世界で生まれた人じゃないから身分も説明出来ないし……多分いざこざが起きちゃうだろうからね~☆」
「クラリスさん……」
グランの左隣りを歩くのは、艷やかな茶髪を後ろで纏めたカリオストロのと酷似した服を纏う少女、その名をクラリスと言った。カリオストロを「ししょー」と慕う彼女は、カリオストロを祖先とする錬金術師の家系で育った血統書付きの錬金術師、その麒麟児だ。
しかしながらカリオストロとクラリスの系統は全くの正反対。カリオストロが創造を得意とするのに対してクラリスは崩壊を得意とし、またカリオストロが理論と理屈に精通するのに対してクラリスは才能と直感を頼りにすると、性格も力も全くの真逆なのであった。
そんな彼女は団内のほぼ全員が今回の捜索隊に立候補する中、
「それにそれに~、だんちょーは多分頭の中が敬愛するおししょーさまの事で頭いっぱいだから、余計な事考えられなさそうだしねっ」
「む。そんな事は……ないとは言えないかな」
「うちとしては少しは余計な事を考えてもいいと思ってるけどね~……気持ちは分かるけど団長、思いつめ過ぎだよ? この一月の間、寝る間も惜しんでずーっと調べ物して、クエストも何時も通りこなして。あまつさえ団の管理もするだなんてほんっとうに無茶しすぎ。うちはいつグランが倒れてしまうのかと毎日ハラハラしてたんだからねっ!」
「そうですよグラン!」
「そうだぜ相棒! だいたいよぅ、気付いてねえみたいだけどだんだん顔だってやつれてきてるんだぞ? サルナーンまではなってねえけどよぉ」
「う゛。」
自分を除く全員からの声に、流石にバツが悪そうにするグラン。
人一倍正義感と責任感を持つグランが今回の件で酷く思いつめていたのは事実であった。それを悟られまいと平静を保っていた(つもり)だが……自他ともに認める多才な彼も嘘をつく才能だけはからきしだったようだ。どうしたものかと頬をかくグランにクラリスが続ける。
「それにししょーなら何だかんだで一人でもやってけるって! 数千年間封印されてケロっとしてたくらいだよ? だから焦らずゆっくり行こうよ。少しぐらいの余所事なら許される筈っ☆」
「……そう、だね。ごめんクラリス、僕はちょっと焦りすぎてたかも」
頼られる事を常としていたグランは自らを恥じた。いつもはお調子物でムードメーカーである彼女にまで心配される程であった事と、冷静な判断ができない状態に陥ってた事、その両方に。そんな反省するグランを見てにっこり微笑んだクラリスは我が意を得たり、としたり顔をすれば、
「分かってくれた? じゃあ早速余所事してみようよっ、例えば~……脚を休めるとかさっ!」
「おいおい、休憩なら一時間前にしたばっかりじゃねえか。ちょっとは見直したと思ったのによぅ」
「あ、あはは……でも気分転換にはいいかもしれませんね。ちょっと休憩しませんか?」
「分かった。ただし少しだけだよ。日が暮れる前に王都には着きたいと思ってるからね」
「やりぃ☆」
グランは道の脇にそれて、風にたなびく草原の上に皆と共に座り込む。
見上げれば曇天としかいいようがなかった空も、風によって少し晴れ間が見えてきていた。いつもはどんなに雲行きが怪しくても最後には皆の力で乗り越えて笑顔を見せれたんだ。今回の件も同じような事にはきっとならないだろう。そんな思いを込めてグランはうん、と一人頷くと力が入りっぱなしだった身体を少し休ませ始めるのであった。
§ § §
汗を吸った服が肌に張り付いて鬱陶しい。
黒と白の絵の具を縦横無尽に塗りたくったような空の下、カリオストロは眼の前に広がる現実から逃れるようにそんな事を考えた。
彼女の眼下には物言わぬラムの死体がある。うつ伏せに倒れている彼女の背から股下まで痛々しい裂傷の跡が残されており、口から一筋の血を零し、虚空を呆然と見つめる彼女の顔は未だ自分が死んでいる事に気付いていないようにも見える。
地面に広がりきった彼女の血はあらかた地に染み込んでおり、生臭い鉄錆の臭いが彼女の鼻につく。ただ、この臭いが広がっているのはここだけではない。既にこの草原一帯が濃厚な血と焼けた肉、そして焦げた香りで包まれているのは視界に広がる地獄のような光景から明らかであった。
襲撃から既に一夜明けた草原。商人の振りをしていた謎の集団――おそらく魔女教であろう――によってもたらされた被害は甚大であった。
ラインハルト陣営から派遣された兵士50人余りのうち、生存者は十数人余り。エミリア陣営で言えば生存者二人に行方不明者一人。こちらも相手にかなりの痛手を与えた筈ではあったが、如何せん向こうの勝利条件を拒む事には至っておらず、またそれはなんの慰めにもなっていない。
「カリオストロ」
思考の海に漂っていたカリオストロを澄んだ声が引き戻す。
声の主は正義の代行者、当代の剣聖だ。一瞥した彼女は「あぁ」と無骨に返した後、悲惨な結末を迎えたラムの側で屈み、未だ空虚を見つめるラムの眼をそっと伏せさせた。
「すまなかった」
「ラインハルト。よせと言った筈だ」
頭を下げる美丈夫を見もせず、ぴしゃりと謝罪を跳ね除けてしまう。これをやったのは眼の前のラインハルトではなく、別のラインハルトだ。その事はウロボロスの眼を通してカリオストロも理解している。だが理解しているからと言って納得出来るかで言えば……そうではない。人の何十倍、何百倍の経験を積んできたカリオストロだからこそ今抱いているこの
限りなく万能に近いラインハルトが不覚を取っていなければ結末は変わっていたかもしれない。だが、ラムが殺されそうになった時にその場に居たのは自分だ。これは自分が油断した結果招いた惨劇だ。機微に敏い彼の事だ、そんな自分の
「お前の兵士達は無事か?」
「戦線復帰できそうな者が11人。大きな怪我を負った者もいたが、君の回復魔法のお陰でこうして今も働いてくれている。君がいなければ間違いなく全滅していただろうね」
ラインハルトが視線を向けた先では今朝方、急ぎ派遣された追加の兵士達と傷を受けても尚働く最初から居た兵士達が手分けして骸を並べる姿があった。彼らの中で同僚の変わり果てた姿を見て涙を流す存在はいても、文句や泣き言を言う存在は誰一人としておらず、黙々と遺体を運び続けている。そんな彼らからは悲しみと同じくらいの怒りが滲み出ているように思えた。
「カリオストロ、あの襲撃者が魔女教だと言うのは本当かい?」
「あぁ。
「今回も誰かの体を隠れ蓑にして我々を襲ったという事か……狡猾かつ残忍な手口だ。卑劣極まりない」
兵士や魔女教の死骸と共に散見される魔獣達の死骸を見て、ラインハルトは無念を表すかのように瞑目する。彼が考える通り、この魔獣らは元ホーシン商会の人員で間違いないだろう。以前、スバルがこの草原で倒れていた時は分からなかったが、今ならはっきりと分かる。草原に居た商会の人らは余すことなく魔女教に襲われ、魔獣に変えられ……そして我々を貶める為の道具扱いされたのだ。そう、全てはエミリアを狙うが為に。
カリオストロは昨日の事を思い出す。
使役する朱のウロボロスを通して見た、偽のラインハルト。手をもごうが、頭を取り除こうが、まるでそよ風に撫でられたかのように気にもせず。瞬きの間に元の姿に戻るあの怪物は、間違いなくこちらに不意打ちを試みたリカードと同一人物であろう。
その人物は、あろうことか対峙したウロボロスの体を
竜を模した人造の体が、奴が触れた所から別の体構成へと瞬く間に変わっていった。
豚の蹄が生えた。猫の瞳が生み出された。昆虫の脚が作り出された。
長い時間をかけて構築した生涯の相棒が、積み上げた理論、理屈、法則、その全てをあざ笑うかのように瞬く間にありえぬ物へと変わっていくのを見て、カリオストロはウロボロスを崩壊させては再構成せざるを得なかった。
しかし度重なる崩壊と再構成は自分のマナと集中力を著しく消耗させる。数十回の交戦の後、カリオストロはついに再構成に失敗し、維持すらままならなくなってしまう。その後、急ぎ蒼のウロボロスと共に雑魚を蹴散らしながら現場に急行するも――そこにあったのは変わり果てたラムとエミリアの姿だけ。スバルの姿は最早どこにも無かった。
唯一彼女に残されたのは身を焦がす程の喪失感と、実力者であると自負していた自信がぼろぼろと崩れる感覚。こちらの世界に来てから、自分の掌から取り溢れる物が多すぎる。こんなにも自分の手は小さい物だったのか、と今も尚自問自答してしまう程だ。
しかしながらそんな絶望感に囚われながらも彼女の残された理性と真理を追い求める気質は現実的な思考を止めることはなかった。絶望する暇があれば考えろと脳が、心が自分を責め立ててくる。最早ルーティーンと化した熟考するという行為に、カリオストロは一瞬の躊躇の後にのめり込んでゆく。
いまだこの場に自分が居るという事。それすなわちスバルが死んでいないと言う事だ。そしてスバルがその場から居なくなっている事を鑑みれば、自ずと彼が攫われた事が理解出来る。
だが、その行動には謎が付きまとう。当初の考えでは奴らの目的はエミリアの筈だった。
奴の口から零された「試練」という言葉。魔女教の教義だかなんだか分からないが、奴らはそれをエミリアに強制的に課そうとしていたのがその理由だ。それであればエミリア以外の存在は全員奴らにとって不純物の筈だ。実際ラムは一顧だにせずに斬り伏せられた。なのに何故スバルだけは攫われたのだろうか?
重要な何かを見落としていると感じながらも、思考の海に溺れかけつつあるカリオストロ。
彼女の耳は先程からある声を拾い続けていた。
「――リア、リア。頼むよ……返事をしておくれよ……心を閉ざさないでおくれよ……」
ラインハルトが新たに用意させた無傷の竜車、その外から中に向けて必死に声をかけているのはエミリアのパートナーである、パックだ。かりかり、と猫がするように小さく、そして弱々しく扉を爪で引っかきながら声をかけ続けるという行為を、彼はもう二時間以上行っている。
しかし彼の努力は全く実っていない。竜車の中にいる
最初に変わり果てたエミリアを見つけたのも、またカリオストロであった。
ひと目見ただけで嫌悪を催す、あまりにも醜悪な虫がエミリアであると気づけたのは、その隣に転がっていた彼女が絶えず身につけていた魔結晶のお陰だ。助けを求めるかのように明滅するその光が、何度も踏みつけられて文字通り虫の息である変わり果てたエミリアを照らしていたのだ。
カリオストロは噛み締め過ぎた口元から血を零しながら彼女を治癒魔法で元通りに治そうと癒やし始めるも、解析した瞬間もはや人の身に戻せぬ事を理解、いや思い知らされてしまう。
彼女に唯一出来たのは外傷を治すことと。そして、慈しむようにエミリアを抱き上げる事だけだった。エミリアは半ばまで回復しきったものの、目を覚ました途端彼女の腕の中で聞くに堪えぬ奇声をあげながらも暴れ出した。まるで初めて知る自分の体の感覚と、今の現状が認められないと言わんばかりにただひたすらに。節だった脚が激しく動く度に腕や体に傷がついていくも、カリオストロはそれでも彼女を抱きしめ続けていた。
パックが出現したのは竜車の中に彼女を安置をしてから数時間後、丁度日が登り初めた頃であった。カリオストロが預かっていた結晶から唐突に現れたかと思えば、急ぎ竜車にへばりつき、ああして声をかけ続けている。最初こそエミリアも反応をしていたようだが、その反応は案の定全くの拒絶。竜車の中に入る事も許されない彼には、ああしてひたすら、ひたすらに声をかけ続ける事しか出来なかった。
契約の関係で、彼がエミリアの傍にいられる時間は9時から17時ぐらいに固定される。奇しくもエミリアが襲われたのは夕刻を過ぎた深夜――動転していたのだろうか、オドを使って彼を呼ぶ事も出来ずに、彼女は変性させられてしまったのだ。
弱々しく声をかけ続けるパックは、いつもの茶目っ気も威厳もなりを潜め、まるで高い崖から落ちた子供を気遣う事しか出来ぬ親猫のようだ。そんな事を思いながらもカリオストロは彼に話しかける。最初は話しかけても話しかけても無視をし、有ろう事か敵意を向けてきたパックだが。彼女の変わらぬ反応は身に染みてきたのだろう。忌々しそうに彼女に振り返ってくれた。
「ボクの邪魔をするな」
「無駄な行動を取り続けるお前を見るのが余りにも忍びなくてな。もう気が済んだろう」
「気が済んだか、だと。戯言を抜かすなよ人形。今のリアの状況を見てよくもまあ抜け抜けと……キミという無駄を省いてやってもいいんだよ?」
「その苛立ちがお門違いなのはお前自身がよく知っているだろ」
「だから何だって言うんだい? 今ここで口答えするキミをぶちのめす事で、多少は苛立ちも晴れるかもしれないだろう」
その視線にはっきりとした敵意を滲ませてカリオストロを恫喝する。しかしそんな中でもカリオストロは物怖じすることなくパックを睨み返し、無言の抗議を続けている。それが癇に障ったのだろう、彼の周囲の風景が歪み始め、更に周囲にこの時期とは思えぬ冷たい風が吹きすさび始めた。
「だいたい、誇示するだけの自信と強さを持ちながらも、守ると豪語しておきながらも守るべき者一人として助けられていないキミがボクに意見を言えるとでも? キミとボクが同じ立場だからこそ言えるとでも言いたいのかい? はん、何が同じなものか――キミが大切に思う
はっきりとした侮蔑の色を滲ませて、パックは吐き捨てる。
自らの無能を認めたか棚にあげたか分からないが、お互いが大切な存在を守れなかった事を挙げてカリオストロの無能をなじった。
「絆の深さで張り合うつもりはない。ここでぐだ巻く暇があったら行動に移したいだけだ」
「リアを助ける以外にすべき行動でもあるのかい? なら勝手に動けばいいじゃないか。キミがリアを治せるって言うなら話を聞いてやってもいいけど、出来ないんだろう?」
あくまで冷静を貫き通そうとするカリオストロに対して、パックはどこまでも敵対的だ。
基本的に娘本位である彼の視野はいつも以上に狭くなっている。実際にその場でエミリアを守れなかった事に加え、高位の治癒の力を持つカリオストロですら直せないという事実が、彼に不信感を募らせていた。
「あいつらの足取りを一刻も早く追わなきゃ救える奴も救えない、それは分かるだろ? 今は協力しなきゃ駄目なんだ」
「どうだかね」
「パック様。どうか我々にお力をお貸しくださいませ。カリオストロの言う通り、今は共に行動して奴らを――」
「キミという存在が居るのであればボクは不要じゃないのかい剣聖。もっとも、キミの剣もどこまで使えるかは疑問だけどね」
気がつけば自分の隣に立って援護をしてくれたラインハルトだが、彼の言葉もパックには通じない。
万の不利すらも切り抜けることが可能な彼ではあるが、昨夜はガストンによって分断されてしまいロクに力を発揮することも出来ていない。その事実に何も言い返す事の出来ぬラインハルトは悔しそうな表情を作り口を閉ざす他なかった。
意固地になっているパックには汚点のある二人での説得は無理だという予感はあった。だがそれでもカリオストロはパックの協力を諦めきれない理由がある。もう一度口を開こうとした時、彼女らの前に壁のような氷柱が突き立った。
「――いい加減にしろ。ボクは協力しないと言ったら協力はしない。さっきも言った通りボクら抜きで君たちの好きにしなよ。次はない」
「……」
「大体、お強いキミと剣聖が居てどうしてボクの力が必要になる? ボクに何をさせたいのさ?」
掌に収まるほどの小さな妖精は、透明な氷の壁越しでも伝わるほどの剣呑な雰囲気で問う。
カリオストロはその発言を受けて取り繕うか迷ったが、すぐにそれが逆効果であることを悟り正直に話す事にした。
「オレ様が真に望むのはパックが
「カリオストロ?」
ラインハルトが自らの想定と違った発言をするカリオストロに困惑の表情を向ける中、彼女は言葉を紡ぎ続ける。
「お前とエミリアの間に結んだ契約、その履行を待って欲しい。ただそれだけだ」
「……契約の事をリアからでも聞いたのかい? 浅ましい、余りにも浅ましいお願いだね。自分の命がそうまでして惜しいのかい」
パックは嫌悪の表情を隠さずに彼女を睨みつける。
「契約を破棄しろとは言ってない、ただ履行のタイミングを5日間遅らせて欲しいだけだ。お前らが交わした細かい契約は知らないが、すぐに履行するとは取り決めてない筈だろう。だから――」
ラインハルトが瞬間的にカリオストロを抱えてその場から離れるのと、彼女が居た所には大小様々な鋭利な氷が幾重にも生み出されるのは同時であった。完全に殺すつもりの一撃。パックはその小さな猫の手を向けて、唾棄するような目を見せて告げた。
「キミのお願いなど知った事か。リアが心を閉ざした時点で契約は履行される――それまで精々生き足掻く事だね」
最早言葉での説得すら出来ないのは明白だった。こうなればパックは捨て置くしかないだろう。それが分かるとカリオストロは溜息を零して次の策に取り掛かる事に決めた。
事情が掴めず困惑するラインハルトにその場に降ろして貰い、こう続けた。
「事情は後で説明する。その前にラインハルト、奴らの足取りは掴めそうか?」
「……彼らのものと思われる足跡と竜車の跡は見つけてはいる。捜索隊は夜の内に出してはいるが……正直の所厳しいという予想がある。何百年もの間神出鬼没と言われてきた魔女教徒が、そうやすやすと尻尾を捕まえさせてくれるかどうか」
だろうな、とカリオストロも半ば諦めの表情を見せてしまう。
魔女教徒の行動パターンが分かるのであれば先回りこそ出来るであろうが、当初の奴らの目的は今は果たされたと言ってもよいだろう。彼らの出現周期は文献によれば何十年単位。そんな過去の事例を鑑みてしまうと、最悪の場合次出会えるのは下手したら十年後という事にもなりかねない。
とは言え自分とスバルにはタイムリミットがある。記憶に新しいバハムートによる世界の崩壊は刻一刻と近づきつつある――その発生の地である場所には必ず赴かなければならぬだろう。
「不確かで関連性があるかも分からない情報だが、聞いてくれるか」
「藁にもすがりたい現状としては是が非でも聞きたいものだね」
躊躇することなく真剣な表情を浮かべるラインハルトを見て、ふぅ、と一息ついたカリオストロはこう言った。
「今日から二日後、王都を巨大な魔獣が襲うという予知を聞いている。それもまた魔女教徒の仕業かもしれない」
《プロスクリスィ》
カードキャプターさくらコラボイベント~さくらと不思議な空の冒険~よりさくらが集めていたクロウカードの一つ。格好いいお馬さんのような姿の存在。
その力は召喚を司るというもので、イベントではお空に連れてこられたさくらとか小狼くんとか知世ちゃんが、この星晶獣で送り返したとか。
ヴァシュロンとぶっちゃけ似てるんですけどそもそもヴァシュロンってどういう存在なんですかね……時空を操るとか?
《アルタイル》
グラブルより眼鏡を身に着けたヒューマン族の軍師兄ちゃん。背中に羽のアクセサリがついてる。
この騎空団では団員を取り纏める補佐を行っていたりする、団の影の立役者でもある。
《ユエル》
エルーン族の巫女。舞を舞うのが得意。いつもソシエとセット。
めっちゃ関西弁だけどめっちゃかわいい。尻尾もふりたい。
《ラカム》
ラッカムゥゥゥゥ!!!
《オイゲン》
御年70歳になりそうなナイスミドルなヒューマンの爺ちゃん。超ムキムキ。
長い人生でそこそこ過酷な道のりを辿ってる。オイオーイ!
《ロゼッタ》
星晶獣のお姉さん。薔薇を使って攻撃する面倒見がよくて薔薇と湿布の香りがする優しいおねーさん。
年の話をすると大変な事になる。そしてるっ!の被害者でもある。
《ビィ》
グランの相棒。幼い頃からずっと彼と過ごしている小さなドラゴン。
りんごが大好きで口調が「オイラ」なマスコット枠。
カタリナに溺愛されている。溺愛され過ぎて闇落ちしたり蜂になったりマッチョになったり箱になったり液体になったりと枚挙に暇がないのは全てるっ!のせいである。
この本編では終始そんな姿にはならないので安心してください。
《クラリス》
カリオストロを師匠と慕う少女錬金術師。
理論法則考えるの苦手で、どっかーん!って言うと相手が爆発と共に崩壊してるというヤバゲな技を持つ少女。崩壊できない物は何一つないとか。
最カワ(最強カワイイ)と自称するだけ可愛いし、団長のことは例に漏れず好きなのだけど恋愛方面はクソ雑魚なめくじであって、団に入ってからは進展の一つすらない。クラリスはさぁ…。