RE:世界一可愛い美少女錬金術師☆   作:月兎耳のべる

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ふおおおおお!
お気に入り4000件超えやぁぁ!ありがとうみんなぁ!
メッチャクチャ励みになります!

遅筆にはなりますが、今後も頑張って書くぞー!
あと全国のラインハルトファンはごめんなs


第四十六話 和合を乱す波乱

 儂にとってフェルトは孫のような存在だ。

 

 先の亜人大戦を経てルグニカ王国の貧民街に逃げ込んでから、日々の活力の源はほとんどフェルトによって(まかな)われていたと言ってもよい。

 最初はやんごとなき理由のために渋々育てていただけだったが、共に日々を過ごす中で彼女の本質に触れていけば……もう、ぞんざいに扱うことは出来なくなった。

 奴は喜怒哀楽が激しく、負けん気が強くて生意気。何をしでかすか分からん有り余るほどの活発さを持ち、人並み以上に賢しく、小さな体で毎日を精一杯生き、それでいて根は優しくて情に厚く、誰に染まることのない眩いばかりの純真さを持っておる。

 恐らくは世界を探せば何十人、何百人と同じような人間はおるじゃろう。

 だがそんなありふれた存在が発する眩しい程の光に晒され続ければ――心中を巣食う闇が(ほぐ)され、その心地の良い温もりをもっと感じていたいと思うのに、そう長い年月は要らなかった。

 

 後に盗品蔵と呼ばれる場所で儂が後ろ暗い商売を続けられているのも彼女のお(かげ)じゃろう。

 ただそれは老骨を無駄に生き長らえさせるためではなく、純粋無垢な彼女のためだ。

 このどうしようもない我が身を十二分以上に照らしてくれた恩返しになるかはわからぬ。だが儂を救った彼女はこんな薄汚い場所で終わっていい訳がないのだ。

 

 良いこともあった。

 辛いこともあった。

 楽しいこともあった。

 苦しいこともあった。

 

 決して楽ではないが、どこか続いてほしいと思う日々も気づけば十数年続いた。

 日に日に成長していくフェルト。その彼女の仕事(ぬすみ)が軌道に乗り始めたある日の事、そいつらはやってきた。

 

 無知蒙昧(むちもうまい)を極める、癖の強そうな生意気なガキ。

 天真爛漫、唯我独尊を地で行きそうな絶世の美少女。

 白銀の雪景色を思わせる、ハーフエルフの精霊術士。

 妖艶さと残酷さを兼ね合わせた、全てを狂わす殺人鬼。

 公明正大。自らを正義と称する大英雄、剣聖。

 

 孫のように思っていたフェルトが大口の商談を取り付けたと聞いて、彼女の目標が進むことに嬉しさを、一方で彼女がここを離れてしまう事への悲しさを漠然(ばくぜん)と感じていた儂だが……よもやあんな事になると誰が想像できる?

 最初の三人は、まだ良い。当事者と介入者である奴らはあれよあれよと儂らを救ってくれた。特にあの美少女がおらんかったら儂らの命もなかった事じゃろう。

 だが最後に現れた剣聖。奴は横からぱっと現れたと思えば、命が助かった代償と言わんばかりに、かけがえのない儂の陽だまりを連れ去って行こうとしたのじゃ!

 

 正義の代行者ともあろうものが理由も特に告げずに人を連れ去る?

 許されるか? 許される筈もない愚行じゃろう。

 しかし儂の咄嗟(とっさ)の抵抗も苦にせず、やつは絹で包むように儂を気絶させて――フェルトを連れ去られてしまった。

 

 次に気づいた時には、街中の兵舎――その牢屋の中であった。

 

 目を覚ました儂は牢屋越しから兵士にフェルトの事を聞いた。

 一体彼女をどこに連れ去ったのじゃ、と。

 

「それについては答えることは出来ない。ただ彼女は絶対に安全であることは保証しよう」

 

 聞いた話によればフェルトは剣聖によって候補者であるかどうかを調べられ、恐らくはその数日後には開放されるとの事だった。兵士にとっても奴が王の候補などと信じられないのじゃろう。儂もそうだから分かる。

 ただ兵士の関心は奴よりも儂にあるようだ。騒動の際に盗品蔵を改められたのだろう。違法取引、窃盗などの余罪を洗いざらい吐き出させようと厳しく取り調べを行ってきた。

 厄介な事になったとは思う。だが悲観する程でもない。

 口には自信があるし、口が駄目でも数日間我慢すればいい。フェルトの安否が確認出来次第、すぐさまここから抜け出せばいいだけなのだ。

 そう考えて兵士に虚実を織り交ぜた証言で追求を避けていけば……あっという間に3日が経った。

 

 時に体罰を交えた尋問もあったが昔を思い出せばぬるいもの。多少の経験を積んだ兵士程度では儂に罪を認めさせるのは不可能であった。

 そして案の定兵士は悔しそうな顔をしながら自分の拘束を解いた。

 当然じゃ。儂はあくまで商品を仲介して売り払っただけに過ぎぬ。実際に盗んだ実行犯という訳ではないため、どう追求されようが軽犯罪にしか成り得ぬのだ。

 

「大きな体に反してよくぞまあそこまで回る舌を持つ……我々はまだお前の余罪を明かす事を諦めていない、ゆめゆめ覚えておけご老人」

 

 釈放間際に悔し紛れか儂は兵舎から蹴り出されたが、そのありきたりな捨て台詞が耳心地が良く、怒りは芽生えんかった。

 しかし解せぬのは釈放と同時にこちらに向けて投げつけられた見覚えのない袋である。

 この袋は一体? 儂が(いぶか)しんでいると兵士は更に苦苦しい顔をして言い放った。

 

「お前ごときには勿体無いがラインハルト様からのご温情だ。この国の礎になるかもしれぬ、5人の巫女――そのうちの一人をこれまで育てあげた事への礼だとよ」

 

 麻袋に零れんばかりに入っていたのは聖金貨の山だった。

 儂はその時ばかりは意味がわからぬと呆けた顔をしておったじゃろう。

 だが次の兵士の言葉で、瞬間的に感情が振り切れた。

 

「あの貧民街の少女、フェルトと言ったか。あの娘はラインハルト様の元で此度の王選候補の一人として(まつ)り上げられる――もうお前の元に戻ることはないだろう」

 

 聞き捨てならぬ言葉であった。

 儂はその兵士の首を衝動的に両腕で釣り上げ、壁に押し付けた。儂の周りを複数の兵士が取り囲み、一気に慌ただしくなるのが分かる。だが抑えられるぬ。

 一体どういう事じゃと、儂は努めて殺さぬように自身を抑えながら震えた声で聞いた。

 

「い、言った通りだ! あの少女は徽章(きしょう)に選ばれた巫女のお一人! ラインハルト様が探し求めていた最後の巫女よ! お前のように貧民街でみすぼらしく過ごす存在では最早ないのだ!!」

 

 アヤツが王選候補に? 誰よりも貴族を毛嫌いしていたおったフェルトが? 悪い冗談にしか思えぬ。だがそんな事よりも許せぬのは……儂が誰よりも大事にしておったフェルトを、手切れ金で忘れさせようとするラインハルトのやり口であった。

 これが正義の体現者のやり口か。これが剣聖のやり口か!!

 儂は大金が欲しくてフェルトを育てた訳ではないのじゃぞ!?

 最早ラインハルトとフェルトに直接会って話さねば納得することも出来ない。

 今すぐ合わせろと凄むも兵士は出来ぬ、出来ぬと首を横に振るばかり。

 ――そうなれば、儂の怒りは振り切れるしか道はなかった。

 

 

 気付けば儂は半壊した盗品蔵の前におった。

 拳は血に塗れ、全身は幾ばくかの傷を負っておるが気にしている暇はない。壊れた蔵の入り口を無理やりこじ開けて中に入り込む。……やはり以前より大分内装がすっきりしておるな。主が居ない隙に貧民達がこぞって漁りに来たのじゃろう。大方のめぼしい盗品は蔵の中から洗いざらい消えていた。

 だが動揺することなく儂は蔵の中央の床板を剥がし、土の中に埋め込まれた壺を掘り起こす。

 そこには今まで溜めこんでいた金品がぎっしりと詰め込まれている。流石にここに隠していることは誰も気づかぬじゃろう。

 小脇にその壺を抱え、必要最低限の荷物を身につけた儂は外に出る。

 

 恐らくフェルトが望んで王になることはないじゃろう。

 だというのに戻ってこないというのは、剣聖によって軟禁に近い状態にある事は間違いない。そしてあの兵士の反応を見るに、直談判ではいどうぞと返却される事など夢もまた夢じゃろう。

 ならばどうする? 道理が通らぬならば、無理を通す他あるまい。

 今は力を蓄え、彼女を奪うチャンスを得る必要がある。

 法を犯す事になろうとも、人理に(もと)る内容であろうとも構わぬ。最初に超えてはならぬ領域に踏み入ったのは剣聖じゃ、それであれば何を躊躇(ためら)うことがあろうか。

 決意を新たに、追手が来る前に早々と国を発とうとした――その時じゃった、

 

 

「――あぁ、何とか間に合ったみたいやなぁ」

 

 

 いつの間にか儂の前に猫耳のついた白いローブを(まと)った二人組が立ち塞がっておった。

 一人は150cm行くかどうかの身長を持ち、全身を覆うローブからは体つきは予測出来ぬが声色から年若い女性なのは明確。もう一人は幼子程の身長で身の丈以上の杖をついており、声を出した女性のすぐ近くに控えておった。

 一目してこの国の兵士とは違う外装と雰囲気に、儂は思わず拳を強く握り占めて(にら)みつける。

 じゃが目の前の存在は何ら動きを見せずに、目元まで覆うフードの中で嬉しそうにするだけじゃった。

 

「焦ったで~? 噂を聞いて即日即決。はるばるルグニカに飛んであんさんに会いに来たっちゅーのに、勾留(こうりゅう)されとる筈の兵舎の前は大騒ぎ。兵士が何十人と倒れとるやないか。

 もうこの国におらへんかな~って思ってダメ元で足労したんやけど……これは普段の日頃の行いのお陰やろなー」

 

 特徴的な訛りと話からコヤツがカララギ出身であることは明白。

 警戒を露わに沈黙を続ける儂に、少女はくすくすと笑みを絶やさなかった。

 

「あぁ。大丈夫やで~、うちは別にあんさんを兵士に突きつけるつもりはあらへん。

 むしろあんさんにとって、と~っても嬉しい提案をしに来たんや」

 

 その前に名を名乗れ。素性を明らかにもできぬ卑怯者相手に何も話すことはない。

 儂のトゲのある物言いにも少女は眉根一つ動かさず大仰(おおぎょう)に反応をするだけ。

 挑発に乗ってくれればまだ御しやすいが……これはかなり厄介な相手のようじゃな。

 

堪忍(かんにん)な~、ついついあんさんに会えたのが嬉しゅうて名乗りも忘れてもうたわ」

 

 そやつは深く被っていたフードをあっさりと取り払った。

 すると柔らかで美しい、絹のような紫の髪と翠玉(エメラルド)色の吸い込まれそうな瞳が儂の目に入った。

 

「うちの名はアナスタシア・ホーシン。ホーシン商会の主をやっとります。

 以後お見知りおきをな――亜人戦争の立役者、大参謀バルガ=クロムウェルはん」

 

 驚きを隠せなかった。

 盗品とは言え商いを行う者ならば誰しもが知るホーシン商会のトップが来た事。

 そして誰にも教えておらぬはずの儂の正体に辿りついておる事に。

 特に後者は儂の命に関わりかねぬ情報、反射的にこの少女を叩き潰そうと思い至りそうになったのだが――

 

「めーっ」

 

 言葉足らずな掛け声が足元から聞こえた瞬間、振り上げんとした儂の手首には既に杖が押し付けられており、ソレ以上振り上げることは叶わんかった。

 それを行ったのはアナスタシアの傍らにおった幼子。

 儂は目を離したつもりはなかったのに何という早業か。

 

「余計に警戒させてもうて堪忍な。でも、こうして顔を出したんはうちなりの誠意やと思ったってや。

 脅すつもりなんて毛頭ない。そもそも商人として利には拘るけど、一方的な搾取をするつもりは全くないんよ? 商いは持ちつ持たれつやしな~」

 

 何が脅すつもりはないじゃ、白々しい。その情報を持つというのは儂の生殺与奪を握ったも同然。圧倒的な高みの上から思うがままに選択肢をチラつかせる事が搾取でなければなんと言う?

 

「そこが大きな勘違いや。うちは、いや、うちらに限ってはあんさんを()()()()()()()()()()()。――ミミ、もう離したり」

 

「あいさーっ」

 

 すんなりと杖を離したミミと呼ばれた幼子は帰りはとてとてとまさしく子供らしくアナスタシアの元へと移動すれば、ぽふりとそのまま抱きつく。少女はミミの頭をひとしきり撫でてあやした後、おもむろに、彼女のフードを取り払う。そこには二対の猫耳がぴこぴこ、とくすぐったさを表すかのように動いていた。

 猫耳……亜人? 少女の言葉と見せられたヒント、その2つに考えをめぐらせていると、儂はハッとなった。ホーシン商会が抱える商人、傭兵団。その人員構成は確か――

 

「頭のめぐりが早いんは助かるわ~分かるやろ? うちらホーシン商会に人種の(へだ)たりはない。

 人も、猫も、犬も、狼も、鳥も、竜も、エルフも、なんもなーんも気にせえへん。ただそこに利があれば良い。うちはそういう所や。

 せやからうちの従業員は亜人の構成割合は非常に多い――それなのに亜人の復権を何よりも願った第一人者のあんさんを害するなんて、うちには到底出来ひんのよ。うちが従業員達に殺されてまう」

 

 おぉ怖い怖い。とおどけて自らの体を抱きしめるアナスタシアを、ミミが「だいじょぶ? だいじょぶ?」とぴょんぴょん飛び回っては元気づけようとしているのが見えた。

 成る程。確かに理屈は通る。ただ戦争自体最早何十年も前の話、どこまで効力があるか定かではないが……とりあえず載せられてやろうと儂は少女に(うなが)す。それで、お主の持ちかける提案とは何だと。

 

「うんうん♪ 交渉はスピード命。一秒の遅れが数倍の損害をもたらす! 即断即決出来るバルガはんはやっぱり商人として一流やね~。それじゃ詳しい話は移動中にしよか?」

 

 ぱんぱん、とその小さな手をアナスタシアが叩けば、辺りの家々、そして小道からミミと同じ全身白フードの人々がわらわらと現れたではないか。

 これには儂も乾いた笑いしかでない。偶然を装った風に現れたが、この有様を見れば儂の動きなど全て計算済みと思うしかあるまい。噂に聞く大商人の力を身をもって知った瞬間じゃった。

 儂が一流ならコヤツは超のつく一流と言わざるを得ないじゃろう。

 

「過分な評価おおきに。でもこんなの交渉の常識に(のっと)っているだけやからな~。

 とりあえず鬱陶しい兵士がまたぞろとこちらに向かっとるから、まずは国外逃亡から始めよか」

 

 そうして儂は少女の手を取って商会の竜車に紛れてこの国を経つことと相成り、儂にとっても、アナスタシアにとっても利となるその提案を成就させるためにその日を待ったのじゃが……その日は余りにも近い、ひと月後の事であった。

 確かに早ければ早いほど良いが、それでもあまりにも早い。

 老骨にとってひと月など瞬き程度で過ぎ去るもの。ようやくカララギの生活に慣れ親しんだところで儂の願いが身を結ぶ日を迎えることになるとは。

 動揺している儂の心を置きざりにして何十の竜車と傭兵団でカララギを発ち、一時的に傭兵団と別れた儂ら別働隊は剣聖の屋敷に向かう。

 打ち合わせ通り到着時刻は予定通り朝6時頃。

 披露宴の翌日を狙って、儂らは何時ものように屋敷に物品を(おろ)していく。

 ラインハルトの屋敷には一年前から商品を卸していたので怪しまれる要素は全くないが、アナスタシアはこうなることを見越して手を広げておったのじゃろうか。つくづくあの小娘が末恐ろしく感じる。

 儂は深く帽子を被り込み、黙々と荷降ろしを行いながらフェルトがいるであろう部屋をちらりと(うかが)う。

 屋敷の間取りについては既に聞き及んでいる。あとは内通者がフェルトを誘導するのをここで待ち続ければそれでよい。その後はフェルトの意志を儂自身が確認し、その内容如何によってはこの屋敷から脱出するだけ――

 

 その時の儂は成功を全く疑っておらんかった。

 表面は至極冷静じゃが内心では興奮が渦巻き、今か今かとその時を待ち続けていたのだが――その考えはすぐに覆される事となった。

 

「ご老人、精が出ますね」

 

「……なぁに。この程度であれば苦でもない。慣れたものよ」

 

 背後から駆けられた声に体が跳ねそうになるのを何とか抑えた。

 恐らくは屋敷住人の気まぐれであろうが、ここぞと言う時についておらん。己が運を呪いながら振り返ることなく作業に従事する様子を見せ、どうにかやり過ごそうとしたのだが……突如、その肩に手をかけられた。

 

「それは何よりです。私共も貴方の事をずっと案じておりましたから」

 

 全身にさぁと冷や汗が湧き出す。激しく打つ心臓の音を聞きながらゆっくりと振り返れば――、

 

「フェルト様がお待ちです。ご同行頂いてよろしいでしょうか?」

 

 そこには案の定、赤髪を携えた美麗な騎士、ラインハルトがにこやかな表情で立っていたのじゃった。

 

 

 

 § § §

 

 

 

「ロム爺!? お、お前っ……本当に?」

 

 ラインハルトに連れられて居間まで通されたロム爺を迎えたのは、驚愕の表情を見せるドレス姿のフェルトと、筋書き通りの展開になった事を深く噛みしめるエミリア、ラム。そして憮然とした顔を見せるカリオストロの姿だった。

 ロム爺はこの面々が一様に集まる光景を訝しみながらも久しく見なかったフェルトを見て一気に破顔し、二歩三歩と進む――前に飛び込んでいったフェルトがロム爺を強く抱きしめた。

 

「馬っっ鹿野郎、一体、一体どこ行ってやがったんだ!!

 アタシてっきり、てっきりアタシは……ッ!!」

 

「すまんかった。すまんかったフェルト。心配させてしもうたな……」

 

 巨体にすっぽりと収まる少女をロム爺は優しく抱きしめ返せば、孫娘をあやすように背中を優しく叩く。

 ひと月という長いとも短いとも言えない期間離れてこの反応なのだ、見守る面々も二人の仲が考えていた以上に親しいものであると理解するのは難しい事ではなかった。

 眼の前の感動の一幕にエミリアだけが目尻を軽く指で拭ってうんうん頷いていたが、そんな感動に水を指すようにラインハルトが口を開く。

 

「お二人の再会に水を指すようで申し訳ありませんが――ご老人、どうしてこの屋敷に?」

 

 澄んだ声は居間によく響き、再会を喜び合ってたフェルトは無粋な邪魔者の声にぴくりと反応すれば胸板から顔を離し、ラインハルトを睨みつける。ロム爺もまたふん、と鼻を鳴らした後面倒臭そうに答える。

 

「そんなもの、偶然に決まっておるじゃろう」

 

「お勤め先が偶然我々の屋敷に向かっただけと。特にそれ以外に他意はないと?」

 

「ふん、フェルトがここに囲われていた事すら知らんかったわ。知っておったら殴り込んでおる」

 

「成る程。そういう事もあるでしょうね」

 

 これからより詳しい追求が始まると考えていたロム爺であったが、意外な事にラインハルトの追求はあっさりと終わってしまい調子を狂わされてしまう。一体何を考えているのだろう? 彼は静かに目を閉じて滔々(とうとう)と語る。

 

「ご老人、私はてっきり商会の竜車に紛れてフェルト様を連れ去ってしまうのかと思いましたよ」

 

「……被害妄想(はなは)だしい。根拠のない推測をいたずらに口に出すとは、正義の体現者が聞いて呆れるぞ」

 

「それが中々どうして筋の通った推測なのです。

 ホーシン商会とグルになった貴方がフェルト様を身請けして逃亡する、それ即ち候補者の一人が脱落するということ……戦わずして勝つを体現した素晴らしい策と言えるでしょう。

 もしかすれば同じくホーシン商会の主であり、今回の候補者の一人であるアナスタシア様が考えついたのかもしれませんね」

 

「……」

 

「一年前から私らと密に取引を始め、信頼を買ち取っていたのもこの布石なのでしょうか?

 内通者も恐らくこの屋敷に居るのでしょうが……深くは追求しません。おっしゃる通りつまらぬ妄言でしかありませんからね」

 

 完全に自分達の策がバレている。それ以上口を開くことは無かったが、ロム爺は冷や汗を流して口ごもる事しか出来ない。秘密を徹底していた筈なのにどうしてこうも早く察知されたのか――その答えを知ればロム爺はきっと呆れるか怒り出す事だろう。何せ、これらの情報は未来視に近い死に戻りによって知り得た内容なのだから。

 

 『ロム爺が屋敷に現れる』

 『フェルトが攫われる』

 『ロム爺と商会はグル』

 

 死に戻りを経て戻ってきたカリオストロは昨夜、ラインハルト、フェルト、エミリア、ラムの4人に対してこれから起こるであろう未来を告げていた。

 エミリアとラムはそれを知り得ていたので理解は得られたが、ラインハルトとフェルトはつい先ほどまでその内容を信じきれずに居た。

 当然だ。未来予知が出来ると言われてすぐ信じられる人がどこに居る?

 しかしてカリオストロの『明朝、エミリア宛の手紙が届く』という言葉が実現し、実際にロム爺がこの場に現れればもう信じざるを得ず、更にロム爺の反応を見て確信を得た。スバルは本当に未来視が出来るのだと。

 

「さて……すみませんがこのご老人は我が屋敷にて身請けさせて頂きます」

 

 そしてラインハルトは同じくこの場に招き入れていた商団のリーダーに冷静に言い放てば、男は慌てて言い寄った。

 

「そ、それは困りますラインハルト様。疑わしきものがあろうとも彼は我々にとっての稼ぎ柱。

 今日もこの後何件も荷降ろしが必要になるため、その交渉に関してはまた後日――」

 

「申し訳ありませんがそうも行きません。彼は当国におきまして兵士数十人へ暴行を振るったという事実があります。罪を裁き終えるまでの間は残念ながら応じることは出来かねます」

 

 宣言と共に扉の両脇に立っていた兵士が武器をかき鳴らして動けば、商人は冷や汗を流しながら(うつむ)き、承諾せざるを得なかった。

 本来ならロム爺を現行犯で捕らえてより良い条件を突きつける事も出来た。だがそれを未遂のままで済ますのは既に十分なリターンを得られた為だ。

 今回の目論見は結果として向こうの手札を一枚むしり取り、フェルトが求めていた人物も手に入った最良のもの。そしてあえて見逃すことでアナスタシア陣営への貸しにする事も出来るのだ。

 商人もラインハルトの意図が理解できたが故か、若干苦虫を噛み潰したような顔をしてすごすごと帰ろうとしていると、そんな一幕を見守っていたカリオストロが背中に向けてあるアドバイスを投げかけた。

 

「帰るなら急いで帰った方がいいよっ☆ 草原で待っている一団が危険かもしれないからね~☆」

 

「!? ……し、失礼します!」

 

 今まで以上に反応した商人は言われた通り急ぎ玄関へと向かっていった。作戦がどこまでも筒抜けで、それでいて報復が待っているように聞こえた為であろう。意趣返しも込めた痛烈なアドバイスにはラインハルトもエミリアも小さく苦笑した。

 そうして商人の(あわただ)しい足音が聞こえなくなった辺りでラインハルトは再度口を開いた。

 

「ありがとうカリオストロ。危うく我々の陣営そのものが無くなる所だった」

 

「礼はスバル、そしてエミリアに言え。あいつがこの未来を見なければオレ様も気づくことはなかったし、そもそもエミリアの所に厄介になってなければここに来ることもなかっただろーよ」

 

「そうね、スバルが居てくれなきゃ大変な事になっていたわ……でも。カリオストロにも同じくらい感謝させて。もしもこの情報がなかったら私も危うく手紙の罠に引っかかっていたかもだから」

 

 カリオストロはスバルと自分が生き残れる道を提示しただけに過ぎない。

 故に深々と二陣営の代表に頭を下げられてもどこ吹く風、恩着せがましくも気負ったようにも見せぬ自然体のままだった。

 

「なぁ。ラインハルト――本当にロム爺をしょっぴくつもりなのかよ」

 

 だが一件落着とはまだならない。

 折角の再会を果たしたフェルトだったが、彼女はロム爺のその後の沙汰を気にしていた。

 もしかすればロム爺とはまた離れ離れになってしまうのでは余りにも意味がない。

 ラインハルトはそんなフェルトに諭すように口を開く。

 

「法という物が何のためにあるかはこの前お教えしたばかりでしょう。逸脱した者には例外なく罰を与えねばなりません。そうすることで法は法足り得ているのですから」

 

「人を体よく拉致して、王になることを強制するのは法に逸脱しねえのかよ」

 

「私のこの行いは『拉致』ではなく、巫女の一人を『保護』したに過ぎません。悲しい事にフェルト様に理解を頂けていないようですが、納得して頂くよう今後も誠心誠意説得させて頂きます」

 

「……これが当代の剣聖だって言うんだからたまったもんじゃねえよ。ロム爺が暴れた理由だって手切れ金なんか渡して誤った説得したせいだろ? アタシだって逆の立場なら暴れまくるっつーの。言っとくがあたしはロム爺を罰するってんなら何がなんでも王様なんかやんねーからな!」

 

「……」

 

「フェルト……」

 

 フェルトの怒りは一個人として至極当然のものだろう。

 だがラインハルトにも譲れぬ思いがあるのか、決して曲げることはなくただ二人の間で視線が交差されるのみ。

 そんな中、エミリアは二人に割り込むようにしてラインハルトへ声をかけた。

 

「……ねえラインハルト、部外者の私が言うのもなんだけど……お爺さんを罰するなら、せめて軽いもの出来ないかしら。暴れたって話は聞いてたけど、やっぱり今まで親身だった人といきなり離れ離れになるのはとっても苦しい事だと思うし……多分、お爺さんだって本当は暴力に訴えるつもりはなかったと思うの。

 あ、勿論人を殴ったりするのはよくない事よ? だから罰は受けないとダメだけど……きっと情状酌量(じょうじょうしゃくりょう)の余地はあると思うわ」

 

 やはりと言うべきか、人情に厚いエミリアがフェルトの言の葉を継いで嘆願しだだしたため、隣に立つラムは思わず苦い顔をしそうになった。

 確かにラム個人としてもラインハルトのやり口、更にフェルトの境遇に思うところはある。しかしながら彼女達は自陣営ではなく他所の陣営――それもゆくゆくは敵対する陣営だ。陣営の数だけ方針があるのであれば、それに口出しするのは賢いとは言えないし、その発言内容も越権行為と捉えられてもおかしくはないものだった。

 エミリア様はもう少し公人であるという自覚をもって欲しいものだと内心で苦言を(てい)するラム。

 カリオストロも相変わらずのエミリアの甘さに肩を(すく)めているが、そこに込められた意味はラムと違ってそこまで否定的ではない。彼女の純粋さは言ってしまえばエミリアをエミリアたらしめてる要素だ。下手に計算高い存在になるよりかはよっぽど好意的に思えると考えていたためだ。

 幸いな事に当のラインハルトは困ったような微笑ましそうな表情を見せている事から、彼女の発言を受けて否定的な考えには至らなかったようだ。

 

「……優しい方ですねエミリア様。確かに、(かんが)みればこちらの不手際もないとは言い切れません。今回は悲しいすれ違いがあったという事で比較的軽微な罪にすることは約束しましょう。

 ただニ、三日間の勾留は確実にしていただきます」

 

 ラインハルトの告げた裁量に、フェルトもエミリアもほっと胸をなでおろした。

 しかしながらロム爺は依然として不信感を拭いきれていないのか、懐疑的な目をラインハルトに向け続けている。

 

「ふん。納得はできぬがな……して、勾留した後ワシをどうするつもりじゃ?

 世間様に放し飼いになった後に、フェルトを脅かす材料にされるのはたまったものではないぞ」

 

「龍に誓って。我々はフェルト様の大事な親類である貴方を害することはないでしょう。

 しかしながら盗品の売買に関しては今後見過ごす事は出来ません。余罪を追求する事は致しませんが、真っ当な働き口を得ることをオススメします」

 

「お優しい事で涙が出そうになるわい!

 生先短く、更に貧民である儂に真っ当な職を見つけろというか!」

 

「ラインハルト、アタシ達貧民の境遇を知っててそれ言ってんのか?」

 

 ロム爺は心底の軽蔑を込めて、フェルトは怒気を込めてラインハルトを見据える。

 貧民達とて好き好んで貧民でいる訳ではない。

 生まれ育った境遇、身分、ただそれだけが彼らの生活を阻む大きな壁となり、自由に働くことも出来ず、貧民というだけで虐げられる。真っ当な働き口を手に入れるという事は貧民にとっては夢のまた夢なのだ。

 

「勿論、職についてもこちらで斡旋(あっせん)させていただきますが……1つ、提案があります。

 ご老人。よろしければフェルト様を共に支えるために、この屋敷で働くつもりはありませんか?

 貴方がこの屋敷にいてくださればフェルト様も大層ご安心できる事でしょう」

 

「ふん……支える、のう? 儂はフェルト自身の口から王を目指すなどと聞いてはおらぬが、フェルトよ、お主は王を目指すつもりはあるのか?」

 

「王なんざクソ喰らえだ」

 

「だそうじゃが?」

 

「……申し上げた通り、今は理解して頂けておりません。

 ですが、いずれは分かっていただけると実感しております。

 他よりも待遇が良いことは保証しますし、決して貴方に不当な扱いをしない事も――」

 

「へぇ、へぇ、へぇ。いい提案じゃねーか、ついでにあたしを神輿から降ろして別の女を据えてくれたらもっと文句はねえな!」

 

 皮肉を大いにこめて、フェルトはラインハルトへ詰め寄って見上げる。

 彼女の紅の瞳は今、本当に燃え上がっているかのように爛々と怒りで満ち溢れていた。

 

「お前の身勝手さに付き合ってやる義理がアタシらどこにある? ないだろ?

 あたしの意志も聞かずに王様にするだぁ? 人形でも代わりに神輿に担いだらどうだ!?

 いいか、あたしは王様になることなんか望んでねえ、無理矢理やらされるくらいなら超豪華な飯を毎日食えなくていいし、凍えることのないふかふかのベッドで眠れなくてもいいし、穴も開いていない変な匂いもしない高価な服が着れなくていい! 貧民街戻りでいいから今すぐ開放しろ!」

 

 フェルトは犬歯をむき出しにしてラインハルトを激烈な意志を載せて睨みつける。

 三人のやり取りを見ていた他の面子はエミリアだけが心配そうに、ラムとカリオストロは表情も変えずに見守っていた。

 ――そんな彼女らの反応が一様に変わったのは次の瞬間だった。

 

「―――」

 

「なに、やって……んだ?」

 

 今まで淀みのない美しい姿勢で屹立し、受け応えをしてきたラインハルトが。

 騎士の中の騎士、ルグニカ最強の男と呼ばれていたラインハルトが。

 フェルトの前で(ひざまず)いたからだ。

 

 それも立膝をついた形ではない。

 両膝を地につけ、その両腕もまた地にくっつけて。

 ひいては自らの身体を腹と膝くっつく程折り曲げて、頭を下げているのだ。

 

 まさしくそれは土下座に他ならない。

 自らの立場、プライドすらも投げ出すように見えるその行為は、この場に居る皆にとってあまりにも予想外なものだった。

 

「ご怒りはごもっともでしょう。ですが、私はそれでも貴方こそ王に相応しいと思い、貴方を推させて頂いているのです」

 

 頭を下げたまま喋るラインハルト。

 フェルトは最初は反応出来なかったが、やがて「へっ」と鼻白んだ顔を浮かべ始めた。

 

「今度は情に訴えようってか、無駄だ。世間一般でいう常識がないアタシが、知識がないアタシが、盗みしか知らない凡百以下のアタシがどうして王になれる?」

 

「全土にいる数え切れぬ人々の中から龍に見初められるのは5人だけ、そのうちの一人がフェルト様なのです。常識も知識も、正しい技術も今から身につけても遅くはないでしょう」

 

「何もかも胡散臭いんだよ。何が徽章が反応したからだ。何が金髪で赤目だから、だ。

 アタシは盗みを生業(なりわい)にする貧民街のフェルトでしかねえ。

 貧民が王になった試しが一度でもあるか? ないだろう?」

 

「であれば前例を今から作りましょう。史上初、貧民から王に返り咲いた少女となることも夢ではないと私は信じております」

 

「心にもない事をべらべらべらべらとよぉ……アタシはその気はねえっていってるんだ! 貧民っていう身分も、それを差別する奴も、それでいてそれを許容しているこの国も嫌いなんだ! どうしてそんな国をアタシが引っ張ってやる必要がある!? 王がおっ死んだだと!? あーせいせいする、なら早く潰れちまえ! こんな国は一度無くなっちまえばいいんだよ!」

 

「――ならば貴方様がこの国を一度壊してしまえばよろしいのです! 貴方様なら貧民、平民、貴族というくくりを無くし、同じ苦しみを広めることのない新しい国を作り上げる事も出来なくはありません!」

 

「……っ!?」

 

 ラインハルトは顔を下に向けたまま大声をあげる。

 その声は今までにない程のラインハルトの熱意が感じられた。

 

「私がこうまでしてフェルト様を推すのは徽章や身体的特徴が理由なのではありません!

 貴方様の激しい気風、心優しさ、キレの良さ……この屋敷でのひと月を拝見するに、王に値する素質があると感じ入り、そしてこの私が……アストレアの称号を持つ、我が身が真に仕えるべき相手であるとも思ったからです!」

 

「……」

 

「勿論、貴方からすればこれは私の我儘に過ぎません! 辞して元の生活に戻りたいと言えば私も諦めます……ですが! 

 そうすれば貴方様が望んだ貧困層からの脱出はまたも遠き道のりになることでしょう!

 そうすれば貴方様が憎む貧民という差別意識はいつまで立っても消えぬことでしょう!

 よくお考えくださいフェルト様、これは機運なのです! 貴方が嫌ってやまなかったこの国を自らの意のままに変える事が出来る……大いなる切欠(チャンス)なのです!」

 

「…………」

 

 今までにない熱を伴った口上が一息で出し切られれば、途端に部屋の内に沈黙が降りる。

 誰しもが何を口に出せばいいか分からない。だだ熱はここにいる全員に確かに伝播し、各々の心を静かに燃やしはじめる。全員がどこか心地の良い熱の余波を感じ取っている中、フェルトが跪いたままのラインハルトに更に近いた。

 

「お前、アタシがこの国嫌いって言ってたのは聞いてたよな」

 

(しか)と」

 

「お前たちのような善人面して平気で下を虐げるクソ野郎ども、そして貴族どもを全員追い出せって言ったらお前は従うのかよ」

 

「如何様にも。私はフェルト様のご意志に付き従いましょう。

 ただし、それを実現するには時間が必要かと思いますが」

 

 ソレを聞いてにっこり笑ったフェルトが大きく片足を後ろに引けば――勢いよく足を前にやり、パンプスに包まれたつま先を思いっきり、その頭に蹴りこんだ。

 ラインハルトは呻き声を漏らす事はなかったが、衝撃でひっくり返されて尻もちをつき……フェルトを見上げた瞬間、またもその顔に足が叩き込まれて倒れる事になった。

 さしもの展開にエミリアもラムも目を大きく見開いて驚き、カリオストロも一瞬呆けていたが数瞬後に小さく吹き出す。

 あの剣聖がただの一人の少女の手で倒されるなんて、果たして誰が予想出来る?

 食えない奴だと思ってたラインハルトのぽかんとした表情が忘れられない、見てるこっちがスカっとするような二撃だった。

 

 何が起こってるか分かっておらず、絨毯(じゅうたん)の上に倒れているラインハルトの顔を覗き込んでフェルトは言い放った。

 

「これは今までのアタシとロム爺の鬱憤(うっぷん)の分だ」

 

「――ぶっ! はぁっはっはっはっは!! フェルト、お主ようやったわい!」

 

「あぁ、あたしも澄まし顔のラインハルトのバカみてーな顔見て、ちょ~っとはすっきりしたな。まだもやもやがない訳はねーけどよ……で、さっきの話だが」

 

「…………」

 

「お前の本気は分かった。話も魅力的ではあるけど……1つだけ気に入らねー。

 お前はずーっとあたしの意志なんざ関係なしに、ただ餌をちらつかせては『なるべき』『やるべき』って(まく)し立ててるだけだけどよ、違うだろ? お前はアタシに王になってほしいんだろ? だったらちゃんと言葉に出して言えよ」

 

「――! フェルト様……」

 

 少し鼻が赤くなって薄っすらと涙目になっているラインハルトは、その言葉を聞いて直ぐ様立ち上がり、またもフェルトの前に跪く。しかしながら今度は立膝をつき、古き良き騎士の儀礼に則った美しい所作でだ。

 

「フェルト様、お願い致します。どうか私のためにも王様になってはいただけないでしょうか!」

 

「ん! お前がそこまで言うなら仕方ねえからやってやらなくもない。

 じゃ、ロム爺はこの屋敷で働いて貰うしかねーな!」

 

「……お主は本当にそれで良いんじゃな?」

 

「ま、こいつの言う通り折角のチャンスだしな。精々利用させて貰おうじゃねーか。

 王様になって一度この国をぶっ壊しちまうんだ、楽しそうだろ? ロム爺も手伝えよ」

 

「っく、はは! ははははは! 痛快、痛快じゃな! 

 それであればお言葉に甘えさせて貰おうかのう!」

 

 とうとう三人の話は転々と纏まり、ここに来てフェルト陣営はついに意志を固める事となった。

 エミリアとラムに合わせて小さく手を叩いて祝福しながら、カリオストロはこう考えた。

 彼らは今はまだ小さな芽かもしれないが、もしかすればダークホースに匹敵する存在となりうるかもしれない、と。

 

「これで一件落着だね~、本当の意味での陣営結成、おめでとうございますっ☆」

 

「改めてありがとうカリオストロ、それにエミリア様、ラム様。スバルは居ないようだが、後でお礼を言わなければならないね。キミ達がこの事態を教えてくれなければ、きっとこうは上手く行かなかっただろう」

 

「これから共同歩調を取るって言ったじゃないっ☆ 困った時はお互い様だよ~☆」

 

「そうよラインハルト、多分大変な道のりになると思うからお互いに頑張りましょうね?」

 

「深く、深く感謝致しますエミリア様……あなた方に苦難が待ち受けた時、我々は全身全霊をもって援助することを誓いましょう」

 

「いずれ敵にはなっちまうけどな~、いてっ」

 

「バカモン。大人しくありがとうぐらい言わんか。今のお主ではすぐに負けてしまうぞ」

 

「えぇ。ですので明日から本格的に指導を始めるとしましょう。

 マナーに始まり、ダンス、勉強、戦闘……どれも腕をよりにかけてお教えしましょう」

 

「はぁ!? 今までのも十分本格的だっただろ!?」

 

「乗り気ではないフェルト様を考慮し、手加減しておりましたので」

 

 柔らかな笑い声が部屋に溢れた。

 これでこちらの陣営がラインハルトと敵対する未来はなくなったと言ってもよいだろう。

 後は5日後、王都で起こるであろう騒動をなんとかして確認しなければ……そう考えていたカリオストロがふと横を見やれば、今まさに居間に入ろうとしていたスバルの姿があった。

 未だ朝6時の早朝、普段ならぐっすりと眠っている筈のスバルがどうしてここに? 

 それに、()()()()()()()()()()()()()()

 こちらの視線に気付いたスバルはこちらを一瞥すると一瞬だけこちらを睨みつけ、その後口を開いた。

 

「楽しそうな所割り込んで悪い、問題が発生した……みんな聞いてくれるか」

 

 唐突な乱入者であるスバルは、不思議そうな顔をする皆の注目を集めだす。

 声色は真剣そのもので茶化す隙はない。ようやくひとつの問題が解決したというのに何の問題があるというのか? 

 普段とはまた別種の嫌な予感を覚えたカリオストロも目を細めてスバルを凝視していれば、確かに常軌を逸する話が待ち受けていた。

 

「今朝、新しい予知を見た。ラインハルト……お前の所の徽章が三人組に盗まれたぞ」

 

「……はぁ!?」

 

 ――カリオストロの呆けた声が、部屋の中でよく響き渡った。




何でおっさんはソリになってしまうん……?

《聖金貨》
 リゼロ世界の通貨の中で一番高い価値を持つ硬貨。
 銅貨<銀貨<金貨<聖金貨の順で高くなる。
 ちなみに言えば聖金貨が『神龍』、金貨が『初代剣聖』、銀貨が『賢者』で銅貨に『王城ルグニカ』が描かれているとか。
 現在の貨幣価値で言えば……聖金貨1枚で10万ぐらいするのかなぁ?

《ミミ・パールバトン》
 オレンジ色の体毛をした愛くるしい猫の幼女。
 よくアナスタシアに可愛がられているが、愛玩キャラという訳でなくバリバリの武闘派。
 アナスタシアの率いる傭兵団鉄の牙の副長であり、リカードの次くらいに強い。
 明るく能天気で裏表のない、見たまんま行動のまんま言動のまんまの少女である。(14歳)

《土下座》
 別名、猛虎落地勢。
 異世界で伝わるか微妙なのに伝わってる所作NO.1。
 ラインハルトは剣聖なのでこういう所作も知っているのでs

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