怪盗団の日常   作:藤川莉桜

6 / 8
どうも!不定期ですが、これから怪盗団のメンバー一人ずつの視点で、みんなで遊びまくってる話を連載します。これまでの三人称から、各話主役の一人称に変わりますのでよろしくお願いします!


僕らの一日〜祐介編〜

 

 それはまるで決闘に挑む中世の戦士達の如き佇まいであった。

 草一つ見当たらない荒れ果てた大地にて、二人の少年が、覚悟を決めた男達が威風堂々と向き合う。どちらも微動だにしていなかった。お互いに隙を与えないと牽制しているのだろう。

 永遠にも等しい時間が流れたかと思われた頃、ついに火蓋が切って落とされる。

 風が吹いた。砂埃が舞った。大地が揺れた。同時に、少年達は駆け出した。一陣の風を合図に、二人の少年は激しくぶつかり合う。

片や大振りな日本刀を。

片や身の丈程のギターケースに銃器を仕込んだ得物を。

ぶつかり合うたびに、盛大な火花が散った。それぞれが自慢の武器を操り、幾度もしのぎを削っているのだ。

 やがて、決着の時が迫る。刀を構えるブレザーを着た青年が、その身から夥しい程の業火を吹き荒らせていく。まさに少年そのものが太陽と化したと言っていい。そして……

 

『これで終わりだ……焼き尽くせ!!!ノヴァサイザー!!!!』

 

ズババババババッ!ドーンッ!

 

 K.O!

 

 爆風が消え去ると共に()()()()()()()学ランの少年はゆっくりと地に伏す。同時に闘いが終わったことを示すゴングがけたたましく鳴り響く。勿論、俺の目の前にあるテレビのスピーカーからだ。

 

「がああああっ!!!!クソォ!また負けちまったじゃねえか!」

 

 俺の隣では、学ランの少年を操っていた竜司が、顔を赤くしながらコントローラーを握る手をわなわなと震わせている。今の敗北がよっぽど悔しかったのだろう。まあ、一応、これまであの二人が続けてきた数十戦の中では一番健闘していたからな。あくまでこれまでで一番、だが。

 

「イッヒッヒッヒ!いやー残念だったな竜司ぃ!。今回ばかりはすこーしだけ惜しかったぞ〜」

 

 子憎たらしく親指を立ててサムズアップする双葉。あまりのわざとらしさに俺も思わずため息が出てしまう。

 

「全くそうは見えなかったが。現に双葉の体力はほぼ残されている」

 

 二人のゲーム対決の間、完全な蚊帳の外と化していた俺は、今の試合のリザルト画面とやらを見つめながらぼやく。どう贔屓目に見ても双葉の圧勝だった。

 

「いやいや、これでも格ゲーのネット対戦では神なんで。私に一撃でもダメージを与えられただけでも大したもんっすよ」

 

 そう言って双葉は人差し指を立ててチッチッと揺らした。その顔は満面の笑みと形容するに相応しい。とてもではないが竜司を褒めてるようには聞こえないな。むしろバカにしてるんじゃないのか?そして、やはりだがこの盛大な挑発に短気な竜司は一瞬たりとも耐えることはできなかったようだ。

 

「ちくしょう!こいつ調子に乗りやがって!おい双葉!もう一回だ!もう一回!」

 

「ふっ……よかろう。かかってきたまえ」

 

 再び二人はゲーム画面に視線を戻す。戦いの開始が告げられると同時に、二人の操作する少年達が再度火花を散らしながらぶつかり合う。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

 

「ソイヤソイヤ♪」

 

 怒声をあげながら自キャラを突撃させる竜司。シャドウとの戦いでもないのにうるさすぎだろう。余裕綽々の双葉に対し、竜司は身を乗り出しながら、コントローラーのボタンをガシャガシャと今にも壊れそうな勢いで叩いている。

 

「まったく騒がしい奴らだな。たかがゲーム如きであそこまでは熱くなれるってのも大したもんだぜ。あいつもよくゲームはやってるが、流石にここまでやかましくはねえぞ」

 

 欠伸をかきながら、ベッドの上で転がるモルガナが愚痴を漏らした。最初は興味津々で二人の対戦を見守っていたはずなのだが、今はどうでも良いと言わんばかりにまぶたを重たそうにしている。

 まあ、さっきから竜司が双葉によって完膚なきまでに叩きのめされては吼えるという光景を延々と繰り返されていてはそうなるのも仕方ない。むしろ当人達はよくもまあ、あれだけはしゃいで疲れないものだ。

 いつも上から目線で腹に据えかねる発言も多い猫だが、今回ばかりはモルガナに同意せざるをえない。俺もじゃがりこを手に取りながら、呆れ半分でぼーっと眺めているしかなかった。

 

「ぐおおおおおお!!!今度は負けねえ!絶対に負けねえええええええええ!!!」

 

「おーう!隙だらけだぜえ♪」

 

 後ろでスナック菓子を摘んでいる俺の存在など完全に忘れて対戦に夢中になっている竜司と双葉。ゲームの知識は皆無に等しい俺だが、怒りのせいか竜司の動きは目に見えて悪くなっていることくらいはわかる。この調子だとまた竜司の負けだろうな。同じことを繰り返して、途中で飽きたりしないのだろうか?まったくもってこいつらの思考は理解不能だ。

 

 しかし、俺も俺だ。なぜ、このような騒音に満ちた場所にわざわざ休日の時間を使ってまで居座っているのだろう。次のコンクールに応募するための絵がなかなか決まらずにいた俺は、次の絵のインスピレーションが湧いて来るまで、静かに1日をルブランで過ごそうとしていたはずなのだが。

 

 それが何の巡り合わせか、偶然にも竜司が買ったばかりの最新テレビゲームで双葉と対戦するために『彼』の部屋に集まっていたところへ鉢合わせしてしまった。逃げようにも俺は拒否権を与えられず、屋根裏部屋に引きずり込まれてしまったわけである。

 

 せっかくの休日だというのに、怪盗団のメンバーの中でも特にうるさいこの二人に無理矢理付き合わされるとはまったくもって不運としか言いようがない。彼ら曰く、ゲームの参加者は大勢いた方が楽しいらしいが、今は少しでも絵を描くために集中したいだけに迷惑千万な限りだ。というか何故わざわざ『彼』の部屋を使うんだ。

 

 まったく……変な奴らだ。

 

『これで終わりだ……焼き尽くせ!!!ノヴァサイザー!!!』

 

ズババババババッ!ドーンッ!

 

 K.O!

 

 試合の終わりを告げるゴングが屋根裏部屋をこだまする。画面上で対戦者を下して決めポーズを披露しているのは、やはり双葉の操っているキャラクターだ。またしても敗北を喫する羽目になった竜司はコントローラーを放り投げ、椅子から立ち上がって頭をボリボリと大げさに掻き始めた。

 

「うおおおおお!!!!クソがっ!クソすぎんだろ!」

 

 そんな竜司の苛立つ姿は、勝者である双葉にとって蜜の味のようだ。歯を見せながらずいぶんと愉快そうに笑っている。

 

「何度やっても無駄無駄無駄ァ♪その程度じゃいくらやっても私には勝てねーな♪」

 

「もう一回!もう一回!」

 

 親子程の体格差のある双葉に必死な形相で再戦を迫る姿は、まるでガキ大将だな。俺の横でくつろいでいたモルガナもすっかり呆れ果てている。

 

「おいおい、諦めが悪いぞリュージ。さっきからお前フタバに手も足も出てねえじゃねえか」

 

 いつものことだが、竜司に足りないのは一度立ち止まって深く考え直すという行程だからな。頭に血が上ってる状態でこれ以上続けても、時間の無駄になってしまいそうだ。

 

「竜司、一度休んで頭を冷やした方が良いんじゃないのか?あまりに長時間ゲームを続けると脳の働きが悪くなると聞いているぞ」

 

 老婆心ながら忠告させてもらったつもりなのだが、竜司は歯を食いしばりながら首を横に振った。

 

「冗談じゃねえ!このまま負けっぱなしで終わってたまるかってんだよ!おい双葉!早くコンテニューを押しやがれ!」

 

「あーたんまたんま。流石に私も疲れてきた〜。それにあいつがおやつ持ってきたみたいだし、少し休憩くらいしようぜ〜」

 

 双葉が眉毛を八の字にして椅子の背もたれに倒れこんだ。丁度『彼』がジュースやスナック菓子をトレーに乗せて階段を上がってくる。これには流石に竜司も双葉に言われた通り一旦止めて、テーブルの上におやつを広げ始めた。

 ちなみに俺はゲームに参加はしていないが、せっかくだし頂いておくとしよう。こうやってお菓子を腹に溜め込んでおけば、夕食代の節約にもなるしな。

 

「クソー!なんで勝てねえんだ!」

 

 竜司はイラついた様子で『彼』が用意したコーラとポテチを交互に頬張っていく。その勢いは殆どやけ食いに近かった。いくらなんでもみっともないぞ。『あいつ』も苦笑いしてるじゃないか。

 

「竜司はなー。動きが読み易すぎるんだよなー。基本デカい声出しながら考え無しに突っ込んでいってるだけじゃんか」

 

 苦々しげにコーラを喉に流し込んでいく竜司に対し、双葉はオレンジジュースをストローでズルズルと吸いながらやれやれと肩を竦めた。彼女の語った竜司のプレイスタイルは、まさしく俺が抱いている竜司のイメージそのままだ。どうやらゲームに関しても、竜司のそういった性格は見事に反映されているようだな。

 図星を突かれて痛いのか、竜司はコーラが空になったコップを割りかねない勢いでテーブルへと叩きつける。

 

「うっせーな!攻撃は最大の防御って言うだろ?ボコられる前にボコってやるのが喧嘩の常套手段だぜ」

 

 言いたいことはわからんでもないが、結果を残していない以上負け惜しみにしか聞こえんぞ。皿のミルクをペロペロと舐めているモルガナも、どうやら俺と同意見らしい。

 

「いや、リュージお前、その攻撃一辺倒で双葉に負けてばっかじゃねえか。たまにはガード技も使いこなしとけ」

 

「防御とか回避とかそういうチマチマしたのは俺の性に合わねーの!」

 

「だろうな。お前単細胞だし」

 

「んだとこら!」

 

 自分で言っておいて逆上するのか。まあ、小馬鹿にした物言いのモルガナもあれだが。

 

「んじゃあ、お前がやってみろよモルガナ!どこまで出来るか見といてやるからよ!」

 

「おいおい馬鹿を言うなって。この猫の手でコントローラーなんて扱えるわけねえだろうが。まあでも、気分転換に別に奴のプレイを観戦しとくのは悪くねーんじゃねえか?参考くらいにはなるだろうよ」

 

「確かに、私も竜司ばっかりと勝負すんのも飽きてきた頃だったしな。たまには違う奴を相手にしたいとこだ」

 

「ん……じゃあ、お前、俺の代わりに双葉と一戦やってくれや」

 

 突然槍玉に挙げられた『彼』は困った顔で両手を広げながら首を横に振った。

 

「何言ってんだ。そいつは今、ゴシュジンから店番任されてるだろうが。やるならまた今度にしとけ」

 

「じゃあ他に誰がいんだよ!」

 

 丁度俺が手元のカップに入っていたじゃがりこを全て噛み終えた時、気づけばその場にいる全員の視線が俺に向けられていた。思わず面食らった俺は、変な声を出しながら自身を指差す。

 

「俺?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 双葉がジュースを飲み干した後、ゲームは程なくして再開された。ただし、対戦相手は竜司ではなく、俺なわけだが。

 

「いいか。◯ボタンで弱技。△ボタンで強技。×でジャンプ。んで、□でガードだ。まあ俺は使わねえけどよ」

 

 竜司が気の抜けた声で雑なレクチャーを俺に施す。毎度ながら、竜司の奴はやる気が無い時と、ある時でテンションの差が激しいな。基本的にこいつは自分の興味があること以外はいい加減だ。

 

「よくわからんが、とにかくボタンを押して、相手にダメージを与えて倒してしまえば良いんだな?」

 

「んまあそんなとこだな。てか祐介の奴、完全にトーシローじゃねえか。こんなんだと双葉に勝つどころか、瞬殺がいいとこだろうが。こいつにさせて意味なんかあんのか?」

 

 それは俺の台詞だ。そもそもこの部屋に引っ張り込んだのはお前と双葉だろう。この扱いはいくらなんでも怒るぞ。

 まったく、なぜこうなった。俺はゲームなんてまともに手に取ったことがないし、もとよりこんな騒音に等しい低俗娯楽に興味などない。実にくだらないな。適当に終わらせてそろそろ帰る準備でも……

 

「まっ、初心者イジメは可哀想だからな。少しは手加減してやっても構わないぞ、おイナリ〜」

 

 口元を釣り上げ、不敵な笑みを浮かべる双葉。明らかに俺を小馬鹿にした態度を見せつけられたせいか、なにやら俺の中で双葉への対抗意識が燃え始めていく。

 

「その必要は無い。変な気遣いは一切無用だ。さっさと終わらせてしまおう。無論、お前が辛酸を舐める結末が待っているだろうがな」

 

 自分でも信じられない程に鋭い刃のような声音になってしまった。俺の中で燻る火種はなかなか制御が難しい。これでは竜司を馬鹿にできないな。一方、双葉は俺からの宣戦布告に対して愉快そうな反応を示した。

 

「おーおー、ずいぶん強気に出たなー。そんじゃあ、お望み通り、本気で相手してやっかー」

 

 少し大人気なかったかと思ったが、こいつの子憎たらしい笑い顔を見てるとやはり容赦はいらないと思えてくるな。勝てるかはわからんが、全力で挑ませてもらおう。

 

「へへーん!ノーダメージでクリアしてやんよー!」

 

 俺達はキャラクター選択を済ませる。ちなみに俺はなにやら自分に似た容姿の少年を選んでおいた。よし、いよいよ試合開始だ。闘いの始まりを告げるゴングが高らかに鳴る。

 

 俺は攻めるよりも、とりあえずゲームの感覚に慣れるため、防御を中心とした立ち回りを繰り広げていた。双葉の操作キャラが隙の大きい強技とやらを使うたびにすぐさまガードを発動。そこを耐え凌いだら、こちらからも隙が少ない小技で堅実に攻める。おかげで竜司のように開始早々ピンチという事態には陥っていない。

 

 とはいえ、双葉も上級者のようだからな。俺もなんとか決定打を与えたいが、その隙が見つからない。一方的な展開は見られないが、その分膠着してしまった泥仕合いと言うべきだろうか。

 

「おっ!竜司よりガードを使いこなしてんなー。こりゃ良い勝負出来そうじゃね?」

 

「ちげーって。リュージがへたっぴすぎんだ」

 

「それもそうか。まっ、初心者の割に私相手で粘ってるのは少しビックリしたからな」

 

 そう言いながら双葉は余裕の態度を崩さない。負けるつもりはないということか。

 

「ふん、当たり前だ。こんなもの、シャドウの攻撃を見切るより容易い」

 

 ……後ろで竜司がぐぬぬと悔しそうに唸り声を発しているようだが、聞こえないふりをしておこう。

 その後も一進一退の攻防が続いた。

 

「ふっ!ふんっ!良いセンスだ、おイナリ!」

 

 いつも通りに傲岸不遜な口調だが、チラリと横を見た限り、表情からはいつになく焦りが見えてきている。良い気味だ。初心者の俺に苦戦することは、双葉にとってプライドを傷つけられる展開だろう。

 こいつは普段から歳下とは思えないくらい偉そうな上に、俺を何かとおもちゃにしようとする不届き者だ。お仕置きとして、ここで屈辱を味あわせておくのも悪くない。

 気づけば俺の操作キャラの必殺技ゲージとやらが限界まで溜まっていた。よし、トドメだ!

 

『受けよ!運命の翼が産みし疾風の洗礼!!!クロスフォーチュン!!!』

 

ズババババババ!

 

 俺の操作キャラによる痛烈な一撃が、双葉の操作キャラであるブレザーの少年の体力ゲージを一気に削り取る。これはもしやイケるか⁉︎そう確信した俺だったが、双葉の目はまだ死んでいないかった。

 

「なかなかやるな!おイナリ!けどな……」

 

 何だと⁉︎さっきの必殺技は微妙にゲージを空にするまで届かなかった。奴を倒すには至らなかったのだ。俺は些か必殺技を放つのが早すぎたのだろう。そして、今のブレザーの少年は必殺技のゲージが満タンになっている。

 

「こういう奥の手ってのは絶好のタイミングまで残しておくもんなんだぜーーーー!!!!」

 

 双葉が必殺技の発動ボタンを押した。今の俺は動揺しきっていて、回避する余力が無い。画面の中で、ブレザーの少年が構える。

 

『これで終わりだ……燃やし尽くせ!!!ノヴァサイザー!!!』

 

ズババババババッ!ドーンッ!

 

 地に伏すことになったのは俺の操る学ランの少年の方だった。俺は画面の中の彼とシンクロするかのように、床に手をついてこうべを垂れた。俺を下した双葉は逆にガッツポーズを決める。

 

「おっしゃー!私の勝ちぃ!」

 

「そ、そんな……」

 

「惜しかったなユースケ。まあ、動きは悪くなかったと思うんだが、経験の差はそう簡単には覆せねえってことだ」

 

 何故だろうか。モルガナの分析を俺の脳みそが処理出来ていない。ただ、勝者双葉という字面が俺を支配しているのだ。

 

「双葉の勝ち……」

 

「くっくっく……いや、違うな、おイナリ。私の勝ちじゃあない」

 

 双葉は勝ち誇った顔で、首を横に振って否定した。

 

()()()()()だ」

 

 ドヤァ……

 

 双葉の勝利宣言が俺の中で幾度もこだまする。俺の……負けだと?

 

「フタバの奴……調子に乗りやがって……」

 

 モルガナが呆れ顔で高笑いする双葉に何か言っているようだが、深い闇に落ちた俺の耳には一切入ってこない。ははは、落ち着くんだ俺。たかがゲームだぞ?ここで感情的になれば竜司と同類じゃないか。そうだ。俺はここで昂りを抑えなければならないんだ。なのに……

 なのになんだ、この込み上げてくる感情は?この地獄の底から湧き上がってくるような俺の怒りと憎しみ。まるで初めてペルソナを行使した時のような……いや、まるで()()()への怒りで俺の中が全て満たされたあの時を思い出す!

 

「いやはや、残念だったなおイナリ〜。まっ、竜司よかそれなりに楽しめたぜえ?……ってあれ?」

 

「ふ……ふふふ……ふははははははははは!!!!!!!!」

 

 実に清々しい。俺の中では凄まじい程にドス黒い感情が渦巻いている。なのにこれ程までに開放感に満ちていたことはかつてない!くくく!己の欲望に忠実になるとは実に心地良いものだな!

 

「ど、どしたよ、おイナリ?」

 

 珍しく動揺している双葉。これだけでも一泡吹かせている気分を味わえる。だが、足りないな。

 

「……もう一回勝負しろ」

 

「は?」

 

 不可思議そうに首を傾げている双葉に、俺は顔を近づけた。

 

「もう一度俺と勝負しろと言っている!」

 

「ふおおおお⁉︎お、おイナリ⁉︎」

 

 慌てふためく双葉を尻目に、俺はテーブルの上にコントローラーを全力で叩きつけた。コントローラーとテーブルがギシギシと痛みを訴えているのが聞こえるが、修羅道に堕ちることを良しとした俺にとってはむしろ刹那的破壊衝動を象徴するファンファーレに等しい!

 

「今度は負けんぞ双葉!次に敗北の二文字を味わうことになるのはお前の方だ!」

 

「お、落ち着けおイナリ!私は食べても美味しくないぞ!」

 

 なにやら命乞いが聞こえてきたが、知ったことじゃないな!なんせ社会というのは食うか食われるかだ!

 

「お、おい……なんかユースケの奴、妙なスイッチが入っちまったみたいだぞ……止めなくていいのか?」

 

「諦めようぜ。こいつが一度自分の世界に入っちまったら、俺なんか目じゃねえくれえに誰の話も聞かねえからな。あ、下の店まで祐介の声聞こえてきたって?あー悪い。多分今日はもうずっとあの調子だわ」

 

 竜司が血相を変えて階段を上がってきた『彼』と何かよくわからない話をしているがもうどうでもいい!俺は双葉を無理矢理椅子に座らせると、再びゲームのキャラクター選択画面を起動させるのだった。

 

「さあ、さっそく始めるぞ!!!俺達の戦いはこれからだぁっ!!!!」

 

「いや、もう終わりにしてくれよーーーーーー!!!!」




竜司、祐介、双葉は僕のお気に入りの組み合わせです。今後もよく出てくるかもしれません。次回は真視点で女性陣オンリーの話をします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。