怪盗団の日常   作:藤川莉桜

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今回は超短編。メタネタも入ってるんで、そういうのが苦手な方は注意です。


怪盗団に名前を付けよう

「なあ……ところでさ。怪盗団の名前どうすんよ」

 

 とあるレストランで肉を頬張りながら疑問を仲間達に投げかけた竜司。唐突ながら、ケーキを貪り尽くそうとする杏は珍しく竜司の考えに賛成の意を示す。

 

「あー、そう言えば。単に怪盗団だけじゃ味気ないよね」

 

「だろー?やっぱこれからはかっこいい名前で予告状ばら撒いてやりてえからな」

 

「それならザ・ファントムってのはどうだ?」

 

 バッグの中に隠れていたモルガナが口にしたアイデアは決して悪くない。しかし、杏達の反応は芳しくなかった。

 

「うーん、カッコいいけど、ちょっとありきたり過ぎない?」

 

 悪くはないのだが、何故か世界中でこのザ・ファントムの名が使用されている気がしたのだ。却下されたとは言え、提案したモルガナ当人もどうやら同じことを考えていたらしい。

 

「まあ確かに、オリジナリティはもっと欲しいところだな。せっかくならワガハイ達だけのオンリーワンを目指すのも悪くねえ」

 

「お前はどうする?俺はリーダーの決定に従うぜ」

 

 二人と一匹の視線がメガネの少年へと注がれる。が、少年が口を開いた途端、全員が声を揃って裏返させた。

 

「「「セクシー☆ダイナマイツ!?」」」

 

 少年はネタ系の名前に走ろうとしていたのだ。皆が驚いているのが楽しくてたまらないらしい少年は、ニヤリと口元を釣り上げる。しかし、仮にも一年間背負い続けることになるであろう怪盗団の名前で悪ふざけするには、竜司達はあまりにも心が弱かった。冷や汗を垂らしながら首を必死に横に振る。

 

「いや、それは……ちょっと……」

 

「さすがにワガハイとしてもな……ていうかセクシー担当は今アン殿しかいねえじゃねえか」

 

 杏とモルガナも難色を示すが、少年の意思は揺らがない。頑として譲らないと、どんな障害にも立ち向かうであろう強い信念を見せつける。

 

「え?リーダー命令?よりによってここでリーダーシップ発揮すんのかよ!いや、確かにお前の選択に従うって言ったけどよ!」」

 

 竜司の顔面から血の気が失われていく。彼の目には、ありもしないはずの○ボタンが何故か見えていた。何故か、メガネの少年が今ここで○ボタンに指を掛けている気がしてならなった。

 竜司は必死に祈った。少年の考えが変わり、その指が✖️ボタンに移ることを。

 

「え?ちょっと?君、マジなの⁉︎」

 

「おいリュージ!なんとか止めてやれ!」

 

 だが、現実は非情だ。少年の瞳は曇り一つないほどに澄んでいて、何の迷いも感じられなかったのだ。

 

「お、おい……おいよせ……」

 

 竜司はこの世界の外で、コントローラを握って締めているであろう神に抗おうとする。

 

「今ならまだ間に合う……早くキャンセルしてもっとまともな名前に……いや、頼むから!もうザ・ファントムで良いです!まじで!やめて!やめて!やめてえっ!お願い!やめ……あー!あー!あーーーーーーーーっ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「怪盗団だ!怪盗団がまた予告を出したぞー!」

 

 街はざわめきに満ちていた。世間を賑わせる謎の存在。それが怪盗団だ。彼らに予告状を突きつけられた人間は例外なく、隠してきた罪を告白してきた。腐敗した社会に生きる者達にとって、それは決して無視出来ない存在となっているのだった。

 街中が怪盗団の噂話一色になる中で、とある四人の少年少女は不敵な笑みを浮かべる。

 

「どうやら上手くいったようだな」

 

 喜多川祐介。コードネーム・フォックス。

 

「後は計画通りに進めるだけね」

 

 新島真。コードネーム・クイーン。

 

「まあ、この程度なら朝飯前だぜ!」

 

 佐倉双葉。コードネーム・ナビ。

 

「最後まで油断しないでいこうね!」

 

 奥村春。コードネーム・ノワール。

 

 彼らは心の怪盗団。数奇な運命の巡り合わせで出会いを果たし、腐敗した現代社会に対して反逆することを決意したうら若き少年少女達である。今回も計画の一環として、自分達の反逆の意を示すために予告状を街中にばら撒いておいた。もはや誰も彼もが怪盗団の噂で持ちきりだ。ここにて彼らは勝利を確信した。

 今夜、とある欲深き咎人の心が盗まれる。

 

 まあ、それは良いのだが……

 

「ところで……俺は前々からどうしても言いたかったことがあるんだが……」

 

「あら、奇遇ね。私もよ」

 

「つーかさ、みんな思ってたんじゃね?」

 

「あははは……」

 

 四人は渋谷の街行き交う通行人達にそっと目を向ける。学生らしき通行人達はチラシを見ながら腹を抱えて笑っていた。

 

「『今宵、貴方の心を頂戴したします。心の怪盗団・セクシー☆ダイナマイツ』だってよ!」

 

「マジウケるー!いったいいつの時代のセンスだっての!」

 

 彼らだけはない。街のあちこちでチラシを目にした老若男女が揃って笑い転げていた。四人は大衆に目もはばからず、地面に膝を付いてうな垂れた。

 

「「「「なんでこんな名前にしたんだー!」」」」

 

 街全体が笑いに包まれている中、怪盗団のファン第一号だけは声を震わせつつもエールを送っていた。

 

「だ、大丈夫!俺はいつだって怪盗団の味方だ!頑張れ!セクシー☆ダイナマイツ!」


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