うちのカルデアに星5の鯖がようやく来たんだけど、全クラス揃えるとか夢物語だよね?   作:四季燦々

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わあ、いつもの2倍ぐらい量がある(白目)

さて、今回は前書きでは多く語りません。うちのカルデアのマスターの最終章をご覧あれっ!(なおまだ1部のもよう)

そして、できれば活動報告を覗いてほしいです。とても大事なことをご相談したいので。ちょっと困った事態が発生してしまって。いやあ、まさかまさかですよ。

あっ!前回に引き続きネタバレ警報発生中ですので気を付けてくださいね!

では、どうぞ!


冠位時間神殿ソロモン 後編

戦いが始まってどれくらいたっただろうか。5分?10分?いや、もしかしたら1時間かもしれないし、2時間かもしれない。崩壊していく世界と微塵も気を抜けない戦いの影響で、カルデアのマスターである少年の時間の感覚は酷く曖昧なものになっていた。

 

彼の周りには彼と共に戦うサーヴァント達がいる。いや、現状を『いる』と表現するのは些かズレていよう。何故なら彼ら彼女らは1人残らず地に伏していたからだ。

 

魔神王ゲーティアの力は絶大であった。ロマニ――魔術王ソロモンの宝具により弱体化したとはいえ、その身は原罪の獣だ。マスターである少年とサーヴァント達はゲーティアと互角の勝負を繰り広げた。閃光のように魔術を放ち、鋼の刃を翻し、岩のような拳をうち放つ。その全てが人の領域を超えた中で繰り広げられた。

 

しかし、やはり持久戦ともなると少年の方に分が悪かった。世界の崩壊が進んだせいか、いつのまにかカルデアからの魔力の支援も無くなり徐々に押され始めたのだ。ゲーティアも好機とばかりに宝具を発動。その威力に疲弊しつつあったサーヴァント達は軒並み倒れてしまう。弱体化したおかげで霊基こそ消滅していないものの、全員が満身創痍。すでに体力も気力も限界だった。

 

しかし――

 

 

 

 

 

 

「はあ……!はあ……!はあ……!」

 

「くっ、たかが人間風情が諦めの悪い!」

 

少年はまだ諦めていなかった。急激な魔力の消費、人間である身の限界、人類の命運がかかっているという重圧、ありとあらゆる事柄が少年の枷となる。人外の戦いの采配という立場にあり、そのために脳の血管が切れるのではないかと錯覚するほどフル回転させて指示を出し、心も身体も凄まじく摩耗していた。このまま意識を手放してしまえたらどんなに楽だろうかと甘い囁きまで聞こえてきそうだった。

 

――それでも、少年はゲーティアから目を逸らさない。勝つまでは、絶対に。

 

あちこちが引き裂かれた魔術礼装を身に纏い、身体にできた細かい傷から血を流しながらも少年は立っている。人理を滅ぼす獣を前にしても、残された思いを携えたその身は決して崩れ落ちることはなかった。

 

「何故立ち上がるッ!?我らの邪魔をするッ!?マシュ・キリエライトは死んだッ!ロマニ・アーキマンを名乗ったソロモンもすでに無いッ!それなのに何故貴様は我に歯向かうのかッ!?そこまで生に執着しながら何故永遠を否定するッ!?」

 

「……マシュやロマンも言ってただろうが。オレ達が見たいのは未来だ。人の、限られた時間の中で輝く命。永遠なんか手にしちまったらそれはオレ達の物語じゃない。物語ってのは先があるからこそ見てみたいって思うんだよ」

 

「どこまでも愚かで傲慢な考えだカルデアのマスターよッ!僅かな生しか生きていない貴様に何が分かる!?そんなものはお前達のような限られた者達が口にできる戯言だ!」

 

ゲーティアが残像を残す速度で腕を振るう。直感的に少年はこの戦いの中決して手放さなかった盾を正面へと構えた。その瞬間、とても耐えられるような威力ではない衝撃に襲われ、少年はボールのように弾き飛ばされる。崩壊しつつある世界の地面を数度バウンドし、やがて止まった。傍から見たらとても無事とは言えない状態だったがそれでも少年は盾を支えにしてふらふらと立ち上がる。蒼空を思わせる瞳はゲーティアから逸らず、眩しい程輝いていた。

 

 

 

 

 

 

「――愚かでもいい。傲慢でもいい。だって、そんなところも含めて人間だ。どこか不完全で、だからこそ互いに支えあう命だ。誰かを想い想われる、そんな人間が作る先をオレは見る。マシュが信じた未来を信じる」

 

 

 

 

 

 

少年は支えにしていた盾をその場へと突き立てる。そして、令呪が刻まれた右手を持ち上げ、限界を迎えていながらもこちらを気遣う視線を送るサーヴァント達へと微笑み、自身の全神経を手の甲に刻まれた令呪へと注ぎ始めた。

 

「――まさかッ!?この状況になってまだ勝とういうのかッ!?」

 

ゲーティアが焦った声を上げる。させるものかと両腕からレーザーのような屈曲する魔力を放つが、それらはボロボロの身でありながらもマスターを守ろうと立ち塞がったサーヴァント達によって防がれる。ボロボロに状態での捨て身の防御だ。いかに英霊といえど限界点を突破してしまった。ついにその意識が途絶えようとした瞬間、サーヴァント達は自らのマスターである少年の声を聞く。最後の最後まで取っておいた、聖杯戦争における最大の切り札を切る声を。

 

「令呪3画を以てマスターが命ずるッ!皆ァ!もう一度だけでいい!オレに力を貸してくれッ!」

 

「グゥゥゥッ!き、さまぁぁぁぁぁ!!」

 

少年は右手に刻まれた令呪に生命力すら使っているのではないかと言わんばかりの魔力を注ぎ込み詠唱の言葉を紡ぐ。その瞬間、マスターとサーヴァントを繋ぐ確かな絆を辿り、戦友たちへと漲る魔力が供給された。その温かい魔力に口元を弧に綻ばせ、サーヴァント達は一斉に供給されたばかりの魔力を己が(宝具)へと込め始めた。

 

「これで最後だゲーティアッ!サーヴァント宝具展開ッ!出し惜しみはなしだ!全力でぶっ放せッ!」

 

「ふざけるなぁッ!貴様らのような弱き者達に我等の3000年の計画を瓦解されてなるものかぁッ!」

 

マスター率いる英霊達の宝具が炸裂する。歴戦の英雄たちが己が生の全てをかけて磨き上げ、昇華させてきた必殺の一撃。人類の誇る最強の矛。それらがいくつも束ねられ、極光に等しき輝きを見せる。対するゲーティアも、再び第三宝具を展開してこれに応戦した。しかし、圧倒的な力を放ったはずのゲーティアの宝具は、英霊達の宝具の前に徐々に飲まれ始める。

 

「馬鹿な……!馬鹿なぁ!?何故我々の力が届かないッ!全能者となった我らの力がッ!?たかだか人間1人、何故消去することができんのだぁぁぁぁ!?」

 

「終わりだァァァァァァァァァ!」

 

 

 

 

――――やがて、ゲーティアは眩き宝具の閃光に飲まれる。人理崩壊を図った魔神王の姿はすでになかった。英霊達も力を使い果たし、強制的に光に包まれ先にカルデアへと戻っていく。崩壊する世界で少年と、そしてずっと共に旅を続けてきた少女の盾のみが残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲーティア消滅後、少年の下にカルデアにいるダヴィンチから通信が入る。どうやら、崩壊が進み過ぎているようでほとんど時間がない。完全に世界が消え去る前に帰還せよと。カルデアから新しく魔力の補給が行われ、どうにか少年の体力と傷は回復することができたのは幸いだった。

 

少年は少女の盾を持って、レイシフトの拠点である正門へとひた走る。走って、走って、とにかく走る。魔力で身体を強化してはいたがギリギリだった。途中で魔神柱達と交戦した場所も通ったが、誰一人として残ってはいない。夥しい数の魔神柱も、少年との縁を辿って駆け付けた英霊達も。彼らがどうなったのか、少年には知る術もない。だがきっと大丈夫。ちゃんと帰ってお礼を言うんだと走る足に力を込めた。

 

ダヴィンチの指示のもと最短距離で走っていた少年だったが、急にその足を止める。少年のこの状況では自殺にも等しい行為に、カルデアの通信室で目を見開く英霊だったが、現れた霊基の反応に苦虫をかみつぶしたような表情をとった。

 

「――そう簡単に逃がすつもりはねえってか」

 

「――その通りだ。ようやく共通の見解が持てたな、――よ」

 

現れたのは消滅したはずのゲーティアだった。その姿は先程のようなビーストとしての獣のような姿ではなく、ソロモンとしての姿に近い物だった。白色だった髪は金色へと染まり、目は酷く虚ろ。だが、特筆すべきはその身体の状態だろう。彼の右半分はひび割れた容器が少しずつ欠けていくように今もなお崩壊しつつある。その範囲は止まることなく広がっていることから、このまま時間が経てば彼はそのまま消滅し尽すだろう。

 

「――ここで何をしようとも我らの敗北は覆らない。人間に敗北した結果は何も変わらない。落ちぶれたものだ、今から私がしようとしている戦いは、以前の私であれば考えようのない選択だ」

 

「だけど、お前にも戦う理由くらいはある。そういうことだろ?」

 

「そうだとも。この姿はすでに人間だ。だからこそ真に理解できた。限りある命を得て私にも意地ができた。3000年という時間の中で初めての感覚だ」

 

「そうか、人間に……」

 

「命を賭してなど、この口が語ることになろうとは思わなかったぞ。……私は私の譲れないものの為に君を止める。君は君の生還の為に、一秒でも早く私を止める。人類最後のマスター……。いや、人理を守護する『グランドマスター』よ。私が君へ言葉にするべき敬意は以上だ」

 

静かにゲーティアは少年を見据える。一方称えられた少年は、その評価に対して何もなかった。例え自分がそんな大層な存在として認知されようとも、今ここにいるのは2人の()()。互いの思想がすれ違うのならば、それを貫くためにぶつかるしかないのだ。そんな両者の間に位など意味を成さない。

 

「――はっきり言ってお前のやってきたことを許すことはこの先絶対にない」

 

それは旅を経て少年が出した結論だった。たくさんの人が死んだ。特異点を修復しても、死んだという事実だけは覆らない。結局は何かしらの要因で死亡したと運命の糸は収束する。それらを引き起こす原因を作ったゲーティアを許すことなど、決してできなかった。

だけど――

 

「――3000年なんて途方もない時間を見続けてきた奴の敬意、そいつだけはありがたく受けとっておく」

 

少年の言葉に満足するかのように、ゲーティアは僅かに頷いた。虚ろな目をして表情筋など死に絶えているような面持ちだったが、少年には彼がほんのわずかに笑ったように見えた。

 

「――それでは、この探索の終わりを始めよう。人理焼却を巡るグランドオーダー。七つの特異点、七つの世界を越えてきたマスターよ。我が名はゲーティア。人理を持って人理を滅ぼし、その先を目指したもの」

 

空気を変化させたゲーティアの周りで魔力の渦が湧き上がる。それは先程までのゲーティアのような禍々しい魔力ではなく、どこまでも澄み切った純粋な魔力だった。色で例えるなら、黒が無色透明へと変化しているといった感じだろうか。ビーストとしての力はもう消えた。今ここにいるのは、魔神の名を捨て人間の王――『人王』と呼ばれるに相応しい存在だった。

 

その人王にグランドマスターと評された少年だが、もうすでに英霊を召喚する魔力は残っていない。残されたのはボロボロの魔術礼装と身体能力を強化できる程度の魔力、そして共にこの長い旅路を歩いた少女が残した盾のみ。戦力の差は歴然であったともいえよう。

 

それでも少年は引いたりはしなかった。どれだけ圧倒的に不利だったとしても、そんな状況は今まで経験し尽した。特異点を巡る旅が少年を大きく成長させたのだ。いつだって少年がやることは1つだけ。前に進み、自分達の未来を掴み取る事のみ。

 

少年は盾をもう一度強く握りしめる。負けられない、負けるわけにはいかない。これは人間同士の戦いだ。例え勝機が極僅かだったとしても引けない。少年は必ず勝つからと携えた盾に向けて誓う。

 

そして――人王ゲーティアとたった1人のちっぽけな人間による戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いは見るまでもなくゲーティアの優勢だった。天から授かったという十の指輪の力を存分に発揮する人王。人間という器に収まったものの、魔術を扱うものとしては間違いなく頂点に君臨する者だった。それに対して少年はひたすらに耐える。魔術で肉体を強化し、後輩から受け継いだ盾を用いて的確に攻撃を捌いていった。伊達にずっとマシュの背中を見てはいなかった。

 

「くっ!ちっくしょうがぁ!!」

 

一体いくつの指輪の攻撃を受けただろうか。いまだに一向に有効打の1つも打ててはいない。こちらは徐々に削られて行っているというのに、むしろ人王に関してはその場から全く動いてすらいないというのに、少年には近づくことすらできなかった。その人王も身体の崩壊は確実に進んでいる。

 

「あと少し、あと少しだ。付き合ってもらうぞ」

 

「冗談じゃねえ!」

 

地を抉り、空を裂く。閃光は瞬く間もなく放たれ、音は遅れるように鳴り響く。一方的な蹂躙としか表現のしようがなかった。

 

「――九の指輪」

 

小さくゲーティアが詠唱する。その瞬間、少年にかかっていた魔力強化が一瞬にして消え失せてしまう。続けて衛星が恒星の周囲を回るように指輪が少年の周囲に集い始めた。マズいッ!と少年は受け身すら取ることもできず反射的に前へと転がる。コンマ数秒の後、後方で爆発のような衝撃。一瞬でも判断が遅れていれば今頃ただの肉塊になっていただろう。

 

「はあ……!ゴホッ!ゴホッ!」

 

「……我らの命運が尽きるまで残り僅か。私も、お前も。それでもなお進むか?」

 

「はあ……!はあ……!と、当然だ……!オレはお前をぶっ倒して、カルデアに帰る。こんなところでくたばってたまるかよ」

 

「――そうか。貴様ならそう言うと分かっていた。では、そろそろこの聖杯探索に幕を引くとしよう」

 

そう告げると、ゲーティアの周りを漂っていた指輪が突き出した手へと集まる。

 

「――十の指輪」

 

ソロモン王が天から授かった最後の指輪。その力により、ゲーティアの魔力が爆発的に上昇する。突き出された手の中で高密度の魔力が今にもはち切れんばかりにうごめき出す。今までの比ではない圧力。例え盾で防御しようとも、これは耐えられないと少年は直感的に気づいた。

 

バチバチと紫電のような光を放つ魔力越しに、ゲーティアは少年へと虚無感漂う瞳を向けた。

 

「これで、終わりだ――よ」

 

――『主よ、生命の歓びを』

 

魔神王の時のような広範囲のものではない。どこまでも一点に集中した魔力の一閃を少年は判断をし切る間もなく盾で受ける。今までで受けたことのないような衝撃が少年を襲った。身体強化を付与し直したとはいえ、とても耐えきれるものではない。

 

「うおああぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

歯を食いしばり、目を固く閉じ、全力で身体に魔力を供給し続ける。これだけの威力、人王も全てをかけた一撃のはず。これさえ耐えきれば……!

 

ガガガガッと削岩機のように盾を削る音が聞こえる。ズズッと踏ん張っている足が後方へと下げられていく。それこそ永遠を感じるような時間に、少年はとうとう耐えきれずに片膝をついてしまった。

 

もう駄目なのかと、少年は折れそうになる。もういいじゃないかと誰かの声が聞こえた。人理修復は成った、全ては終わった。人王だってそのうち勝手に消滅するだろう。ここで諦めても、自分の使命は終わっているのだと。

 

盾を持つ手から力が抜けていく。このままゲーティアに殺されても、人々は救われる。その先を見ることができないのは残念だが、いなくなってしまった人達の下へ行けるのなら――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――駄目ですよ、先輩。貴方は、生きてください

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭の中で鈴のような綺麗な声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故だ……」

 

先程までのゲーティアの様子からは絶対に考えられない動揺だった。そして、その時になってやっと自身に降りかかっていた重圧が全く感じられないことに気が付く。少年が何か特別なことをしたわけではない。何が起こったのかと俯いていた顔を上げ、その目の前で起こる神秘的な光景に思わず息を飲んだ。

 

「『いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)』だと……!?何故その宝具が……。まさか、その身体を失ってもなお、自身の主を守るというのか……!?」

 

少年の目の前で展開されるのは騎士達の円卓。金城鉄壁にして崩れ落ちることのない雪花の盾。少年がその宝具を見間違うはずがない。それは紛れもなく、マシュの宝具だった。

 

何ということだろう。少女の守護は決して失われてなどいなかった。身体を失おうとも、命を落とそうとも、少女の思いは少年を救っていた。盾に込められたその決意は、人理だけではなく自らと共に歩んでくれた存在(マスター)の未来までも守ろうとしていた。

 

それに対して己は一体何をしているのかと少年は自身に悪態をつく。まだ生きている自分よりも彼女の方がもっと未来を信じているではないか。諦めそうになったこの背中を押してくれるではないか。

 

大丈夫。腕も動く。足も動く。言葉だって話せるし、心臓だってまだ動いている。この命はまだ失われていない。

 

「――情けない話だよな、ゲーティア」

 

「なに?」

 

「これでも必死に足掻いたつもりだったんだけどな、どうやらうちの後輩はそれだけじゃ許してくれないらしい。もっともっと頑張って生きろってさ。まったく、先輩として後輩に叱責されるなんざ情けないったらありゃしねえ」

 

「馬鹿な。マシュ・キリエライトは消滅した。消滅した者のことが何故分かる?」

 

「分かるさ。オレがマシュとどれだけ共に在ったと思う?言っとくけど時間だけのことじゃねえぞ。こいつはそれだけに左右されるわけじゃねえ。どれだけ相手のことを信じたか、どれだけ相手に信じてもらえたか。その絆さえ結べれば人は何度挫けても立ち上がれる。それこそが――誰かと共に生きるって事だ」

 

「…………また、人間にしか分からぬ道理というやつか」

 

いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)』が完全にゲーティアの魔力を防ぎきる。残されたのは魔力と言う神秘を失い、空っぽの存在として残るゲーティアの姿だった。それと同時に、白亜の盾もその役目を終え、まるで雪が解けていくように静かに消滅する。

 

「――ありがとう、マシュ」

 

少年は走り出す、ただの人間となったゲーティアに向けて。身体の強化などできるだけの魔力もすでに残っていない。完全に人としての領域の中での一歩。ゲーティアも己が全てを出し切ったと、ゆっくりと瞳を閉じた。少年はこの戦いで初めてゲーティアの眼前へと踊り出ると――

 

「――そして、これでさよならだ。ゲーティア」

 

自身の全てをもって人王へとぶつかるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――いや、まったく。……不自然なほど短く、不思議なほど、面白いな。人の、人生というやつは――」

 

それだけを言い残し、ゲーティアの身体は完全に崩壊。人理焼却を目論み、カルデアの最大の敵はこうして消滅した。ふらふらとしながらも、しっかりと立つ少年は、ゲーティアが消えた虚空に向かって言葉を投げかける。

 

「――ゲーティア、お前もほんの少し。あとほんの少しだけ人間に愛と希望が持てていたら、この結末は変えられたのかもしれないな」

 

それが無意味な結果論だったとしても、少年は口にせずにはいられなかった。

 

しかし、いつまでも感傷に浸っているわけにもいかない。こうしている間にも刻一刻と世界崩壊は進んでいるのだ。少年は再び聖門に向けて走り出す。ダヴィンチからの通信でこの世界、『時間神殿ソロモン』がカルデアから離れ始めていると告げられ、その走りには焦りも見えた。

 

レイシフト地点までもう少しというところまで少年は駆け付けた。しかし、その地点へと続く道は今にも崩れ落ちようとしている。一歩間違えれば宇宙のような空間に投げ出されそうな細い道を必死に駆ける。

 

……早く!……早く!と気持ちがこれ以上ない程高ぶっていた。そして、あと一歩踏み出せば間に合うという地点で――

 

 

 

 

 

――ガララララッ!!

 

 

 

 

 

「――ちぇっ、あと少し、だったんだけどな……」

 

無情にも、レイシフト先へと続く道は完全に瓦礫となり途切れてしまった。今までの経験から完全に打つ手がなくなったと分かってしまった少年は、ドサリと腰をその場に落とす。持っていた盾へと視線を落とすと、それを抱えるようにして呟いた。

 

「ゴメン、マシュ。あれだけ生きろって言ってくれたのに駄目だったよ」

 

不思議と悲壮な感情は生まれなかった。その表情には穏やかな笑みすら浮かんでした。このまま、崩壊する世界に身をまかせるのもいいのかもしれないと、少年は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――まだです、手を伸ばしてッ!先輩、手をッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

諦めていた少年の耳に確かに聞こえた声。誰よりも大切の想っていた少女の声。どこかくすぐったくて、でも芯はしっかりと通った鈴のような綺麗な声。その声を、確かに聞いた。

 

目の前に桜色の髪を揺らめかせ、こちらに必死に手を伸ばす存在がいる。鎧をモチーフにしたサーヴァントとしての服装も、あのアメジストのように輝く紫の瞳も、見間違うはずがなかった。

 

「――ああ……ッ!」

 

――少年の伸ばした手は、確かにその手を掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……」

 

何かに頬を舐められたような感覚。そして、聞き覚えのある鳴き声。知らない間に意識を失ってしまっていたようだと少年は目を覚ます。上体を起こすと、覚醒しきっていないその瞳に映ったのは2つの存在。いつの間に戻ってきたのか分からないフォウ。もう1つは――

 

「――先輩ッ!」

 

ガバッと抱き着かれる。その瞬間、再び倒れそうになるのをこらえると同時にほんのりと甘い香りと柔らかな感触が身体全身を包み込む。

 

「マ、シュ……?マシュ、なのか……?本当に……?」

 

「はい、おはようございます、マスター!マシュ・キリエライト、生還しています!」

 

確かな返事。その言葉を聞いた瞬間、少年の瞳からはボロボロと涙が零れ始める。

 

「なん、で……。マシュはあの時……」

 

「……その理由は後で説明します。ですが、大丈夫です。私はこうして、先輩の下へ戻ってきました」

 

――もう限界だった。少年はギュッと自分を包み込んでくれている少女を抱きしめ返す。トクンッ、トクンッと確かな鼓動がマシュから伝わってきた。それを感じて、さらにギュッと抱きしめる。この少女を手放さないように。もう2度と失ったりしないように。

 

「マシュ……!マシュ!マシュが生きてる……ッ!本当に……本当に良かった……ッ!」

 

「はい……!私はここにいます……!貴方(マスター)と共に、生きています……!」

 

「ごめん、ごめんな……!辛い思いをさせて……怖い思いをさせて……!オレ、マシュに頼ってばっかりで……。マシュに守られてばっかりのダメなマスターで……!」

 

「いいえ、そんなことありません。先輩と居られれば私に辛いものなんてなかったです。怖いものだってへっちゃらでした。それに、先輩はダメなマスターなんかじゃないですよ。人理焼却から数え切れないほどたくさんの人々を救った、私の自慢のマスターです」

 

「う、うぅぁ……あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

それから、少年は喉も涙も枯れ果てるまで泣き続けた。何度も何度も少女の名を口にし、そのたびに少女は自身の存在を示すように優しく言葉を紡いでいく。

 

 

 

 

 

 

物語の始まりは偶然だったのかもしれない。少年がカルデアに来たことも、カルデアの廊下でマシュと出会ったことも。だが、偶然の始まりだったとしても少年少女の綴った物語はこの瞬間を確かに迎えている。失われたものもあった。目を逸らしたくなることもあった。それでも、2人の道は確かにここにあり、どこまでも遥かなる未来へと続いている。

 

ならば、それはもはや偶然などではないだろう。そう、敢えてこの始まりを言葉にするならば――――

 

 

 

 

 

「ううぅ……マシュゥ……!」

 

「はい、先輩。私はここにいますよ」

 

 

 

 

 

――――『運命(フェイト)』と、呼ぶべきなのかもしれない。




終わったぁぁ!長かった!マジで長かった!でも、楽しかった!

今回は色々とオリジナルの会話が増えていますが、どうでしょうか?うちのぐだ男ならこんな感じのことを言うだろうと思い筆を進めました。ゲーティアに関してはおかしな点があったら教えてほしいです。

次回の投稿に関しては、まずは活動報告を覗いてほしいです。そこに次回の更新についてご説明をさせていただいておりますので。

とりあえず、シリアスはこれで終わりッ!というか、こんなに真剣なうちのぐだ男が違和感があります(笑)
やっぱり、彼には幸運Eのツッコミでいてもらわないと!

では、よろしければ活動報告でお会いしましょう!

PS:キングハサンピックアップ?単発で1回しか引けてないよッ!石も呼符も足りないよッ!仮に来たところで素材が恐ろしく足りてないよッ!

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