うちのカルデアに星5の鯖がようやく来たんだけど、全クラス揃えるとか夢物語だよね? 作:四季燦々
お察しの通り、第7章のネタバレがほんのちょっとだけ含まれるのでご注意を!
結局今年は1人として星5のサーヴァントが来なかったなぁ……。来年こそは……来年こそは絶対に……!(爆死フラグ)
その日、オレは聖晶石と呼符が入った箱を抱え召喚部屋へと出向いていた。その隣にはすでに一心同体と言っても過言ではない相棒ことマシュも随伴している。
マシュを連れ立って無言のまま部屋へとログインし、召喚サークルの前に立って持っていた箱を降ろす。そのまま身軽になった両腕のうちの1本を天井に突き刺されと言わんばかりに高々と振り上げ――
「――バビロニアピックアップがぁぁぁ!キタァァァァァ!」
「わー、今日はまた一段とテンションが高いです」
抑え込んでいたテンションを解放する。そんなオレの天元突破しそうなオーラとは逆に、何故かマシュは非常に疲れたような雰囲気を醸し出していた。
「おーい、マシュー。なんかテンション低くなーい?もっとアゲアゲでいこうぜー」
冷静になって後で改めて思い返すと、この時のオレ相当ウザかった。ダビデと同じくらいウザかった。ほら、遠足の前とかワクワクするじゃん?それと似たようなもんだよ。
そんなオレのハイテンションな様子に、突如マシュは無表情になる。えっ、どしたん?
「――ここ数日このピックアップのせいで先輩のテンション高くて他のサーヴァントの方々やカルデアスタッフに多大なご迷惑をおかけしてましたよね?いえ気持ちは分かるんですよ、私もお会いしたい方々がたくさんいらっしゃいますから。ですが流石に少しくらい落ち着いて欲しかったです。私がどれだけ頭を下げたと思ってるんですか。ここ数日で私の謝罪スキルがどれだけ上がったと思ってます?すでにスキルレベル10ですよ、分かってますか」
「あっ、はい。ごめんなさい」
ヤバい。ハイライトのない目で息継ぎ無しで捲し立てられると超怖い。清姫と同じ雰囲気を感じた。あれだね、声が似てるからだね(メタ)
「と、とりあえず召喚してみてもいいでせうか、マシュ様?」
「何故様付けなんですか。……はあ、もちろんいいですよ。このために石や呼符を先輩が頑張って貯めてきたことは知ってますから」
呆れたように息を吐きつつも、どこか母性を感じさせる優しい笑みを浮かべるマシュ。ようやくいつもの様子に戻った彼女の様子に強張っていた身体の緊張が抜け落ちる。
そう、オレはこの日の為に石と呼符を貯めてきていた。聖晶片をかき集めてダヴィンチちゃん工房に足良く通って聖晶石変えてもらったり、なんかこう
「先輩のその言葉、召喚する度に聞いていますが1度として最後まで信じられたことってないんですよね」
「大丈夫、今回こそはいける。だってこんなに石も呼符もあるんだぜ。下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる作戦だ!」
「そこで下手な鉄砲って言ってしまってるところからして、自覚はしてるんですね」
もちろん。ここまで引き悪くて自分運良いですとは決して言わんよ。自分の幸運Eな感じは槍ニキとかとタメ張れると自負している。やだ、なんか悲惨な死を遂げそう。『自害せよマスター』とか言われたらどうしよう。いや、誰にだよ。
最初の石30個を召喚サークルの中に放り込む。今回は20連と呼符7回分溜め込んできた。何?少ない?これでも頑張ったんだよ、文句あっかこのやろー。それにこれだけあればきっと呼べる……いや、呼んでみせる!オレが、オレ達がサンタムだっ!(意味不)
グルグルと周り光球が召喚サークルの周囲を回り出す。まるで太陽の周囲を公転する星々のような煌めきを見せる光の球は、やがて中心へと集いて金色のカードを浮かび上がらせた。
このクラスは――ランサー!
「キタァァァァ!これ絶対エルキドゥさんだよね!?あの人ランサーだもんね!?今回これバビロニアピックアップだし、そうだよね!?」
「まさか、ついにうちのカルデアに星5のサーヴァントさんが……!」
うっしゃオラァ!誰が幸運Eだ!そんな不名誉撤回じゃあ!ついに、ついに星5が……!勝った!第3部完!まだ1部だけど!
これ以上無いというくらいテンションを昂らせるオレと、もはや感動にその菫色の瞳をウルっとさせるマシュ。対極的な反応を示しているようだったが、オレ達の心は1つだった。
長かった、ここまで本当に長かったんだ。ようやく、この堂々巡りから解放され――
「エリンの守護者。栄光のフィオナ騎士団の長。ヌアザに勝利せし者……フィン・マックール、ここに現界した。よろしく頼むよ、マスター」
「誰だてめぇぇぇぇ!!」
「おおっと!?はっはっは!相変わらず威勢がいいな、マスターよ!」
「うっせえよこの親指噛む噛むロン毛違いがぁ!猪ぶつけんぞオラァ!」
「それはやめてくれたまえ。猪はなにかと私に効く」
女性かと見紛う艶のある金色の髪を揺らめかせ、今までに何人もの女性を落としてきたであろう不敵な笑みを浮かべる騎士。オレが召喚したのはそんなナルシストなサーヴァントだった。違う、オレが来てほしかったロン毛はお前じゃないんだ……。
思わずガクリと膝をつく。足の皿が割れるのではないかと思うぐらい勢いよくついてしまったが、今はショックの方が勝っていた。
「せ、先輩大丈夫ですか!?色々とすごい顔してますよっ!?えっ?もうダメかもしれない?しっかりしてくださぁぁい!」
「まあまあ、お嬢さん。マスターはどうやら私の美しさに酔ってしまったらしい。心の底から謝罪しよう。これも私が美しいからだ。……それはそれとして、今から一緒にお茶でもいかがかな?優雅で可憐なひと時を届けることを約束しよう」
「うちの大切な後輩いきなり口説いてんじゃねえ!張っ倒すぞ!」
マスターが心底落ち込んでいるというのにこの態度。絶対に粛清せねばと拳だの蹴りだのを繰り出すが、流石は腐っても騎士団の長。自前の回避スキルもあって一切当たらない。チックショー!これだから回避持ちのランサーはっ!
「――あっ!先輩!またランサーのカードが出てきましたよ!」
「なぬぅ!?おわっ、マジだっ!これは1発逆転かっ!?」
ナルシストのマイペースっぷりにあははと苦笑いを浮かべていたマシュだったが、ふと慌てたように召喚サークルを指差した。彼女の言うようにそこにはランサーのカードが現れている。うおぉぉぉぉ!?今度こそキタんじゃねえかこれっ!?
「フィオナ騎士団が一番槍、ディルムッド・オディナ、推参いたしました。これより貴方を守るサーヴァントとなります」
「オイィィィ!?1回の10連でフィオナ騎士団揃っちゃったじゃねえかぁぁぁ!!」
うちのカルデアを中から瓦解させる気かよ!?お前らがいると内部崩壊のフラグ立っちまうだろうが!
「おおっ!ディルムッド・オディナ!我が栄光の騎士団随一の騎士よ!再び共に戦えることを嬉しく思うぞ!」
「わ、我が王フィン・マックール!?貴方様もこちらにいらしていたとは!もちろんです。我が双槍存分に振るいて、フィオナ騎士団一番槍の名に恥じぬ戦を見せましょう!」
勝手に身内だけで盛り上がらないでくれませんかねえ……!完全にオレとマシュ置いてかれてんだけど。というか残りは全部礼装だったし、最初の10連終わっちゃったんだけど。
一応星4のサーヴァント出て幸先は悪くないはずなのに、ハズレ引いた感が半端ないのはどうしてだろう……。
その後とりあえず2人には歓迎の言葉を投げつけ、部屋を後にしてもらった。宝具レベルすでにMaxのディルムッドさんはまだしも、フィンさんは初めての召喚である。後でブーティカさんと共に歓迎パーティーでも開こう。ほら、なんだかんだで相手は英霊さんだからね。敬意は払わないと。
「はいはい、そんじゃさっさと次の10連行くぞー」
「ものすごくやる気を失われているのが分かります……。大丈夫ですか、先輩?」
「いや、もうなんか来る気がしなくてさ。どうでもよくなってきた」
「あんなにやる気になってたのに……」
しょうがねえじゃん。正直さっきの対応で疲れたんだよ。早くマイルームに戻りたいんだよ。フィンさんじゃないけど、マシュとお茶でもして癒されたいんだよ。うちの後輩、セラピー効果抜群だから。あの笑顔見るだけで周回とか余裕だから。
ほーら、もう誰でもいいからさっさと終われーと石を投げこむ。社畜のように働きまくる召喚サークルさん、いつも本当にご苦労様です。心の中で無機物に労いの言葉をかけていると、バチバチと一際大きな光が部屋の中に迸る。その中心から現れたのはまたしてもランサーのカード。しかも金色。えっ、嘘マジで?
「おいおい、オレ明日辺りに死ぬんじゃねえの?2回連続でランサーの金枠ってどういうこと?」
「縁起でもないこと言わないでください。ですが、本当に珍しいですね。先輩にしては当たりが来すぎな気がします」
「ついにオレの運気が覚醒したのかな?」
「それはないかと」
わーバッサリ切られたー。でも、言っといてなんだがオレもそう思う。緊張感など全くない会話をマシュとしている間に光は中心点へと収束していき、その中に小柄な影が現れた。
頭の先が猫の耳のように尖った黒いマントに三つ編みにした濃い紫色の髪。その手には小柄な身長の身の丈ほどもあろうかという大鎌が握られている。別名不死殺しの刃とも呼ばれるその鎌の持ち主は――
「――ランサーのクラスで現界しました。真名、メドゥーサ。よろしくお願いします」
「アナさんっ!?」
跳ね上がるようにマシュの驚愕の声が上がる。現れたのはメドゥーサ。つい先日ウルクで共に戦い、最終的にゴルゴーンとなって原初の母――ティアマト神の右角を折り、オレ達への道を開くために消滅していった少女だった。
「私はアナと言う存在ではありません。貴女の知る英霊とは違いますよ」
「あ、そう、ですよね……。すみません、メドゥーサさん」
「いえ、気にしていないので」
メドゥーサの返答に見るからに落ち込んでしまうマシュ。無理もない、マシュはアナとも仲が良かったし、最後もきちんとお別れを伝えることができなかったのだ。英霊は同じ人物であろうと、記憶がなかったり別の側面を持っていたりする。一括りに同じ人物でもオレ達のことを必ず知っているとは限らないのだ。
……うん、暗いのはやめにしよう。彼女は自身をアナではないと言ったのだ。にも拘らず彼女をアナとして見てしまうのは失礼だろう。せっかく来てくれたんだし、居心地の悪さを感じてほしくはない。
「ほら、マシュ元気出して。じゃあ、メドゥーサさん……って言い方はすでにいるライダーのメドゥーサさんと被っちゃうな。メドゥーサちゃんって言ってもいい?」
「マスターの意志にお任せします。大きい私共々これからよろしくお願いします」
「うん、じゃあよろしくメドゥーサちゃん。あ、うちにはステンノさんはいないけどエウリュアレさんはいるからあとで会ってくるといいよ。きっと君の姿を見て驚くんじゃないかな?」
「お心遣いありがとうございます。では、後で行ってきますね」
小さく笑うメドゥーサちゃん。その笑みがアナと被ってしまい、つい目の前が滲みそうになってしまった。いかんいかん、さっき決断しといてオレの涙腺緩すぎだろ。
そんなオレの様子を察してくれたのか、マシュが制服の袖を軽く引いてくれる。それだけのことだったのに彼女の優しさに包み込まれたようで、少しだけ心が軽くなった気がした。
「あれ?せ、先輩!召喚サークルの方を見てください!」
突然、慌てたようにマシュが召喚サークルを指さす。ほんの数分前にも同じやり取りをしたような……と思いつつ彼女の指の先へと視線を移す。
「おいおい、マジかよ。今日のオレの運勢どうなってんだ……?星座占い1位だったとか?」
そこには新しい金色のカードが浮かんでいたのだ。だが、今度のクラスはランサーではない。その表面に刻まれているのは魔人の刻印。つまりバーサーカーのクラスだった。
「――バーサーカーか。マシュ、一応警戒しといてもらってもいいか?メドゥーサちゃんは後ろに下がってて。まだ霊基再臨もしてない君じゃ、バーサーカーは荷が重すぎる」
「了解です、マスター」
「……分かりました、マスターの指示に従います。ですが、いざという時は私も戦いますからね」
「ああ、ありがとう」
何故ここまでオレが警戒の色を示しているのか。それはバーサーカーの特性の狂化に関係している。狂化はサーヴァントの能力を飛躍的に向上させるが、その分その理性までも奪ってしまう。そのため、召喚と同時に襲い掛かってくるサーヴァントも極稀にいるのだ。令呪を使えばすぐに抑え込むこともできるのだが、万が一ということもある。召喚の場にオレがいつもマシュを連れ立っている理由もそこにある。マシュにバーサーカーを抑えてもらい、その間にオレが令呪で落ち着かせるのだ。
……別にマシュと一緒にいたいからこうして連れまわしているわけじゃないからね?ちゃんとした理由があったんだからね?誤解しないように!
「先輩、バーサーカー現界します!」
アホみたいなことを考えているうちについにその姿が現れる。神々しく輝く光の中から現れた狂化された英霊。その正体は――
「――■■■■■■■■■■■■!」
灰色の丸太のような巨体。盛り上がる筋肉はそれぞれが鋼の鎧となっており、逆立つ髪や狂暴そうな表情からは彼の尋常ではない気迫を感じる。手にした巨大な斧剣は無骨ながら、有りとあらゆる武器に対抗できそうなほど頑強に見えた。
オレが召喚したのはそんな、ギリシャ神話の頂点に立つ大英雄――ヘラクレスだった。
「アイエエエエ!ダイエイユウ!? ダイエイユウナンデ!?」
「これは……流石に抑え込むのは難しい気がします、マスター」
「た、たたたたぶん大丈夫だと思うよ?へ、へヘラクレスさんはまだ理知的な方だとお、思うし……。バーサーカーだけど……!思いっきりバーサーカーだけど!」
「そういえばそうですね。今のところ襲い掛かってくる気配がありません」
「ヘラクレス……!ペルセウスと同格の大英雄……!」
「お願いだから今すぐ襲いかかるなんてことは止めてね、メドゥーサちゃん。君の不死殺しと大英雄との戦いなんて止めれる気がしないからね?オレ死んじゃうからね?」
と、とりあえず、ヘラクレスさんと会話してみよう。大丈夫、ネロ祭の時に唯一突破できた試練がヘラクレスさんの12の試練だったけど、勝った後に何もしてこなかったし大英雄としての器のデカさに賭けよう。
「ヘラクレスさん、オレと契約を結んでもらえますか?」
「――■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■!」
「えっと、OKということでいいんですかね?」
「■■■■■■■■■■■■!」
「…………」
「先輩?」
「…………」
なんて言ってるか分かんねえよっ!?唸り声しか聞こえねえよ!?誰か翻訳こんにゃく持ってきてよ!
会話のキャッチボールが全くできず、オレがうおぉぉぉ……と頭を抱えているのを見たからだろうか。不意にヘラクレスはオレの前へと片膝を付き、持っていた斧剣を床に置くと手を差し伸べてきた。
「――■■■■■■■■■■■■(ニヤリ)」
「ヘラクレス……!」
一瞬、ヘラクレスが笑った気がした。狂化がされている状態で笑うなどとは想像もできないが、確かに彼は笑った。そこまでしてくれて、その真意を悟れないほど未熟なマスターではない、彼が何を伝えたいのかを察したオレは、警戒によって入っていた肩の力を抜き、意趣返しをするかのようにニヤリと笑うと彼の大きな手を取る。
「――ああ、これからよろしく大英雄!」
「■■■■■■■■■■■■!」
オレの言葉に咆哮でヘラクレスは答える。マシュはその様子を見てパチパチと手を叩いていたし、メドゥーサちゃんは仕方がないと言わんばかりの表情で構えていた鎌を下げていた。
なんにせよ、今日だけで随分と新しい仲間が増えた。きっと彼らは魔術王との戦いに大きく貢献してくれるだろう。
……とりあえず、彼らの歓迎パーティーを盛大に行うとしますかね。さあ!頑張って腕を振るうぞー!
――後日談――
「それにしても、フィオナ騎士団の御二人が同時に来たのはまだ分かりますが、なんでメドゥーサちゃんとヘラクレスさんは同時に来たんですかね?」
「うーん、言われてみれば」
「御二人の共通点と言えばギリシャ神話です。ですが、直接的に関わりはなかったと思うんですが」
「……意外とヘラクレスは子ども好きだったりして」
「えっ?へ、ヘラクレスさんがですか?そのようには見えませんが……その、随分と迫力のある方ですし」
「分かんねえぞー。意外とああいうタイプって世話好きな一面持ってたりするし。もしかしたら、どっかの世界でそういうマスターと一緒に戦ったのかもしれないぞ」
「ふふっ。もしそうだとしたら、凸凹コンビになりそうですね。きっと素敵な絆で結ばれていたと思います」
「『やっちゃえバーサーカー!』とか命令されてたりな」
「なんだか夢のあるお話ですね」
「まあ、冗談だけどな。あははっ!」
「そうですね。ふふふっ」
「……■■■■■■■■■■(……何故分かったのだろうか)」
はい、ということでバビロニアピック時のカルデアの様子でした。本来であればバビロニアピックアップは第一弾と第二弾があったのですが、本小説では同時に行えているということになっています。
それにしても、最終決戦。本当に素晴らしかった。ストーリーもキャラクターもBGMも戦闘も全てが良かった。まさか、ソシャゲで泣かされるとは……。恐るべしFGO!
来年からは第2部がスタートするっぽいですねー。今のうちに皆を育てておかないと!
今回の内容ですが、本当であればメドゥーサ召喚のところでシリアスを挟むつもりでしたが止めにしました。理由としてはこの次のお話が最終決戦のお話になるからです。つまりはドシリアス。そういうことから、今回は比較的緩めにいきました。
では、次の更新は年越し後かなと思います。皆さん、最後まで良い1年にしていきましょう。年末はFGOの特番もありますしね!
ではでは!良いお年を!