うちのカルデアに星5の鯖がようやく来たんだけど、全クラス揃えるとか夢物語だよね? 作:四季燦々
いや、本当にすみません。何分リアルが忙しくて忙しくて。今後も遅れることが多々あると思いますが、気力が続く限り執筆していきたいと思っておりますのでどうぞ気長にお付き合いください。
今回の内容はCCCイベのネタバレを多分に含みます。一応終わってしまったイベントですが、ご注意を。……本当になんでこのストーリーイベントだったんだろう?完成度とか本編レベルなんですが、それは……。
PS 誤字報告をしてくださった『黒のアリス』さん。ありがとうございました!
「――という感じの人なんですよ!もうかっこよくてかっこよくて!俗にいう尊いってやつですね!そう思いません?」
「ああー、はいはい。尊い尊い。オレの先輩すごーい」
場所は食堂の一角。そこでタマモキャットお手製の昼食『これぞタマモ地獄!気を抜いたら食べられちゃうぞ!(物理的な意味で)』を食べていたオレは、カルデア内を探索していた何ともめんどくさい奴に捕まってしまっていた。ちなみに料理名こそ不穏だが普通の生姜焼き定食である。理性はぶっ飛んでいるもののその味は唸らざるをえない程美味かった。
「でもでも!かっこいいのはいいんですけど、先輩ったらすぐ無理しちゃうんですよ。前なんて自分の身体のほとんどが吹き飛んでるのに、頭さえあれば大丈夫とか言って前に進んじゃったんですよ。可愛い後輩を心配させるなんて酷いと思いませんか!」
「いや、そもそもそれどういう状況だよ。どうやったら身体のほとんど吹っ飛んでて生きてられんだよ」
「先輩ったら全ッ然折れてくれなくて、私もあの時は本気で焦りましたよ。やっぱりしっかりと躾けておくべきでした」
「聞いてねえし……。大体躾けとか言ってるけど相手一応先輩なんだろ?」
「はい、もちろんですよ。私は先輩にとってたった1人の美人でちょっぴりお茶目な後輩です。でも、先輩のためなら先輩自身をワンちゃん調教するのも辞さないしっかり者ですよ」
「もうやだこのラスボス系後輩」
やっぱりオレの後輩は純粋な天使だなと再確認。ああ、今すぐ会いたくなってきたよマシュ。何でこんな時に限ってダヴィンチちゃんの特別オペレーション講座なんかあってんだ。
ここにはいない可愛い後輩に想いを馳せつつ、オレはうんざりとため息を吐く。先程からマシンガントークという名の先輩自慢をしまくっているテーブルを挟んだ向かいに座る人物。つい先日巻き込まれた特異点から勝手に着いてきたイレギュラーサーヴァント。自称月の蝶、ムーンキャンサーというエクストラクラスを持つ災いの種こと――
「でも、これもBBちゃんの愛なんですよ。分かりますか、セ・ン・パ・イ?」
「なにそのエスカリボルグ持ち出しそうなフレーズ。やめてくれよ、オレ普通に死ぬから」
そう、BBである。結局特異点ではオレのサポートをしてくれたのか邪魔をしてくれたのかよく分からないBBである。大事なことなので2回言ったぞ!
「で、結局お前はオレに何の用だよ。惚気に来たわけじゃねえだろ」
「当然です。私、人間嫌いですし暇じゃありませんから。あっ、でも前にも言いましたがセンパイのことは評価してますよ。百均レベルで」
「よーし、マスター話無視しちゃうぞー」
なんかわざわざ話聞いてんのアホらしくなってきた。それよりもオレからしたらタマモキャットの料理をじっくりと味わう方が重要なのだ。
つか、マジでうめえな。絶対何か隠し要素突っ込んでだろこれ。今度怖いもの見たさでレシピ教えてもらおう。
「ちょっと、せっかく私が用があるって言ってるのに無視しないでください」
「あっ!おまっ、生姜焼き定食の生姜焼き取り上げるとか何考えてんだッ!……ったく、しょうがねえな。ちゃんと聞いてやるからさっさと返せ。せっかくの飯が冷めちまうだろ」
「分かればいいんですよ!BBちゃんは素直な良い子なのできちんとお返ししますとも」
「トラブルメーカーのくせして何言ってんだか」
BBに生姜焼きが乗ったお皿を返してもらいつつ彼女の話に耳を傾ける。コホンと一度咳払いした彼女は、先程までの浮かれていた雰囲気とは一変して、含みのある声色でその言葉を伝えてきた。
「――セラフィックスにおける特異点により、召喚システムに影響が出ています。今であれば
ピタリと箸が止まる。外していた視線を再びBBに向けると彼女はほんの少しだけその桜色の唇で弧を描いていた。向けられる視線は試すように問いかけてくる。
「もちろん、あの特異点での事件は虚数事象として処理された為、仮に召喚できたとしても
「…………」
「――それでも、貴方は召喚しますか?自分のことを覚えていない存在を、あれだけの戦いを共に乗り越えた相手と初対面のような出会いだとしても。貴方は
海洋油田基地セラフィックス。そこでの事件は今までの特異点での事件とは色々な意味で桁違いな戦いだった。秘かに誕生していたビーストⅢ。その片割れとの戦いはゲーティアとの戦いと同等の死闘だったともいえよう。何か1つ。たった1つでもピースが欠けていたら、間違いなくオレは死にこの世界は快楽の海へと沈んでいたに違いない。
そのセラフィックスで出会った少女。カルデアのサーヴァントと逸れてしまったオレを最後まで支えてくれた快楽のアルターエゴ、『メルトリリス』。ボロボロの身体を奮い立たせ、巨悪へと立ち向かった彼女のことを知る人物はもはやオレとBBしか残されていない。虚数事象としてのあの世界の記憶及び記録はオレ達2人を除いて完全に抹消されてしまったからだ。それはメルトリリス本人も例外ではない。
メルトリリスは不器用な女の子だった。口から出てくるのは彼女の身体を現すような刺々しい言葉だったし、戦い方は痛めつけることを至極としているように荒っぽい。だけど、その本質はただ素直になれないだけでどこまでも一生懸命な女の子だった。守りたい者の為にボロボロの身体を引きずってでも敵へと立ち向かうその姿は、紛れもなく彼女がよく言っていた
いや、彼女だけではない。引っ込み思案でものぐさだが心優しい愛憎のアルターエゴ、『パッションリップ』、ただ自分のマスターの願いの為に戦い続けていた『鈴鹿御前』。いずれも最後までオレに協力してくれた大切な仲間達である。
そんな彼女達に再び出会えるチャンスが巡ってきたというのだ。確かにその記憶はないかもしれないけど、それがどうした。0に戻ったというのならまた1から刻んでいけばいい。無かったことになった時間を取り戻していけばいい。
何より、オレはメルトリリスに言わなきゃいけないことがたくさんある。オレが令呪を託した時どんな気持ちだったと、最後に別れもちゃんとできなくてどれだけ寂しかったと思ってんだ。記憶が無かろうが何だろうが、絶対に説教してやるんだからな!
BBに話を聞いてからの行動は早かった。昼食をタマモキャットに悪いと思いつつも速やかに食べ終わり、すぐさま持てるだけの聖晶石と呼符を持ったオレは急いで召喚部屋へと赴いた。もちろん、この情報を伝えてきたBBも護衛がてら着いてきている。彼女自身メルトリリス達を召喚することをどう思っているのかは知らないが、わざわざ教えてきたということは拒絶しているわけではないだろう。
やっぱりBBの考えてることはよく分かんねえ、と何の実りもないことに思考を巡らせていると思い出したように彼女が口を開いた。
「――それにしても、提案した私が言うのもなんですがちゃんと召喚できるんですかセンパイ。この前あの赤いセイバーさんや狐キャスターさんや紅茶さんや金ぴかさんを召喚しようとして爆死した話、私知ってますからね」
「おい、誰だそれ広めた奴。怒らないから正直に吐いてみなさい」
何故知ってるし。いや、別に今更召喚に関する運が低いことを知られようが痛くも痒くもないだけどよ。とにかく誰だ。
「どっかの変態剣士の格好のドラゴンガールですが?爆笑して涙を流しながら言いふらしてました」
「あのアホ娘……!口の軽さが鎧の軽さと比例してんのかよ……!」
BBのサーヴァントは言わずもがな、エリザベート・バートリー(ブレイブ)である。つい先日、彼女に護衛を頼みBBが先程上げたサーヴァント達を召喚しようと意気込んで実践してみたのだが……結果は悲惨なものとなってしまった。うん、思い出すのもアレだから思い出さないようにしよう。とにかく酷かった。
「というか、何で増えてるんですか。ハロウィン仕様のとか、その言いふらしていた露出狂じみたエリザベートさんとか」
「それをお前が言うか」
「確かに私とメルトリリスやパッションリップは元は同じAIですけど、それはきちんと私が切り離したからです。エリザベートさんみたいに理屈も分からずポンポン増えたりしませんって。しかも、私あの子がバーサーカーのクラスになったのも見たことあるんですけど」
えっ、何それ初耳。するとなにか。あのアホ娘はさらにクラスが増える可能性があるのかよ。何度も出てきて恥ずかしくないんですか?(ノルマ)
「――って、違う違う。オレが言いたかったのはそういうことじゃねえよ」
「はい?じゃあ何ですか?」
「――露出狂とか、お前が言うなよ。常時パンツ見せてるくせに」
――瞬間、BBが完全停止した。
「あっ」
そしてオレは自分が踏み抜いてはいけない地雷を踏み抜いてしまったこと気づくが、どう考えても手遅れだった。
「~~~~っ!?」
2秒後、先程までの余裕などどこかへと吹っ飛んでしまったBBは顔を真っ赤に染め上げ超巨大な注射器をどこからともなく取り出しその針先をオレへと向けた。って、ちょっと待てぃ!?
「おいぃぃぃぃ!?何してんのお前ッ!?いきなり宝具とか向けてくんな!?死ぬだろうがっ!」
「う、うううううるさいです!だ、誰が露出狂ですか!」
「だってどう考えてもそれ見せてんじゃん!わざとじゃん!パンツじゃん!」
「こ、これはパ、パンツじゃありません!レオタードです!」
「嘘つけっ!じゃあ、なんでそんなに必死なんだよっ!?」
「いきなりマスターがセクハラするからです!ま、またこの屈辱を味わう羽目になるなんて……!どんだけ先輩とセンパイ似てるんですかっ!?」
「何のことだよまるで意味が分からんぞッ!」
「うるさいですっ!こぉんの……!変態変態へんたーい!!」
「ちょお!マジで死ぬっ!それは本気で死ぬからっ!というか、そんなことに使うぐらいならその注射器の中の素材寄越せぇぇぇぇぇ!!」
その後、10分ぐらい死に物狂いで逃げました。最終的にはサクラビームやら黄金の杯とか使いやがったぞ……。
今日の教訓。BBにパンツネタは死ぬ(戒め)
さて、お互いに踏み込んではいけないボーダーラインを確認したところで召喚である。今回の召喚は20連と呼符を7枚。前回の爆死を少なからず引きずっている身としては少々心許ない感じだが、すぐに『あっ、これいつも通りだわ』と持ち直す。我ながらメンタル前向きすぎるぞ。
今回は呼符からチャレンジしてみることに。いつもは10連からして爆死するのが普通になってるから、偶には順番を変えてみたら何か変わんじゃね?と。その結果が……はいっ!これです!
「礼装、礼装、礼装、緑茶さん、礼装、礼装、凛さんとラニさん礼装。これはBBちゃんも弄りづらいですね。何だか礼装ばかりなので失敗のようにも見えますが、珍しい礼装も来ていますし。ぶっちゃけ微妙だと思います」
「同感。レアな礼装はありがたいが肝心のサーヴァントがサッパリじゃな……。おっかしいなー、最近単発引きは調子が良かったんだが」
「BBスロットでセンパイがデバフ効果ばかり引き当てていた理由がなんとなく分かりました。残念な星の下に生まれてしまったんですね」
「運が悪いだけでそこまで言うか貴様。というか、あの意味不明スロット作ったのお前だろ。どんだけめんどくさかったと思ってんだ」
「でも、いざという場面ではしっかりフォローしたじゃないですか。それに一応人理を救ったマスターなんですからあれくらい軽く乗り越えてもらわないと。つまんない相手に付き合うようなBBちゃんではないのです」
うっ、そういわれたら確かにそうだが……。でもあのスロット何故か基本的に自陣へのデバフしかかからないんだよなぁ……。結局はあのビーストを倒すのに必要経費だったわけだが。しかし何故周回時にもスロットが発動していたのか小一時間問い詰めたい気もある。
「ほらほら、こんなしょうもない結果を悔やんでも仕方がないのですから、さっさと次に行っちゃってください」
「分かった、分かったから。だから急かすなっつーの」
回収した礼装を横目で見つつ次に聖晶石を準備する。ここから20連。最近ではうんともすんとも行ってくれない10連引きだが、今回はどうだろうか。
ちなみにだが、呼符単発のできた緑茶ことロビンフットはBBの姿を確認した瞬間、『顔のない王』を発動し速攻で退散した。どんだけ苦手なんだ……。
まずは最初の聖晶石30個を召喚サークルの中へ放り込む。ぐるぐると同じみの光を放ちながら、最後には大きな閃光が部屋中を満たした。カシャンと礼装がいくつか落ちる音。次いで光の中から1人目のサーヴァントのクラスカードが浮かび上がる。それは――金色のセイバーカード。
「うおおっ!?キタァァァァ!これは――誰だろ?」
「思い当たるセイバークラスが多すぎますからねー。赤セイバーさんか負債を回収する人か。もしかしたら文明絶対破壊するウーマンかもしれませんよ」
「期待が膨らむな!」
ワクワクとしながら召喚されるのを待っていると、バリバリと激しいプラズマを発生させながら召喚された人物の姿が浮かび上がってくる。さあ……あなたはだぁれっ!?
「――サーヴァントセイバー、召喚されて超参上! みたいなー☆」
光が溶けるようにその身体から離れ、ついにサーヴァントの正体を見ることができた。現代の女子高生が身に着ける制服をアレンジした軽装。絹のような髪からは彼女を象徴する2つの耳がひょっこりと生えている。本来の動物としての特徴か目つきは鋭いものだが、身に纏う雰囲気は何とも軽薄。
その正体は諸説あり定かではないが、間違いなく日本を代表する伝説的な女丈夫にして、先日セラフィックスで共にビーストと戦ったサーヴァント、『鈴鹿御前』であった。
「狐耳JKセイバーだぁぁぁぁ!!やっふぅぅぅぅ!!」
「うわっ!?なにこのマスター……。いきなり叫びだすとかマジ意味不明だし」
「流石にこの反応はBBちゃん的にもドン引きです。シンプルに気持ち悪いですよセンパイ」
「えっ、なんかごめん」
まさかそこまで引かれるとは思わなかった。あかん、最近はマシュが冷静にコメントくれてたからかメーターの振り切り具合を把握できてねえ。
「ご、ごほん。少々取り乱した」
「少々じゃなかったし。というか、あんたが私のマスターな感じ?」
「マスターな感じ。つーわけで、またよろしくな鈴鹿御前」
「さっきの反応的にあんまりよろしくしたくないけど仕方がないし。というか、『また』って何?私あんたとは初対面のはずだけどー?」
「あ……。あ、ああ、そうだったな。すまん、変なこと口走っちまった。別に気にしないでくれ」
「んー?マスターがそう言うなら別にいいけどー。あえて細かいことを気にしないのもJK力に必須項目だし」
鈴鹿御前は軽ーい感じで笑いながらオレが差し出した手を握ってくれる。うん、初対面であんな反応したのに特に警戒することなく普通に接せられるってJK力すげえな(小並感)
しかし、やっぱりセラフィックスでの記憶は無し、か……。ということは、彼女が必死になって守りたかった『あのマスター』の願いも忘れてしまっているのか。
それは……なんだか寂しい。彼女がきちんと会えていなかった『あのマスター』の為にあそこまで必死に戦っていた姿を知っているからこそ、煮え切らない思いを抱かずにはいられなかった。
「あっ、センパイ。次のサーヴァントが召喚されたようですよ?」
「おっ、マジか」
「へー、私もこんな感じで召喚されたんだ。結構豪勢じゃん」
とにかく今は召喚に集中しようと頭を切り替える。こっちには歴戦のサーヴァントがいるとはいえ、鈴鹿御前は召喚したばかりで本来の力を十分に引き出せる状態じゃないため実質BBだけである。何が召喚されるか分からない以上、集中を切らすと怪我でもしかねないからな。
やがて、先程と同じように召喚サークルの中から新たなサーヴァトカードが現れる。その色は――なんと金色だった。
「マジかよ……!また金色とか今日すげえな」
「この前とは打って変わって大当たりじゃないですか。いつの間に幸運のステータス振りなおしたんですか?」
「そんなことやってねえよ。というか、できるならマジでやりてえよ。今日は本当に偶然だ」
「何々?どういうこと?ちゃんと分かるように説明しろし」
状況がよくわかっていない鈴鹿御前。本来であれば簡単にでも説明してあげたいところなんだが、今回はちょっとだけ余裕がなかった。その理由はカードに刻まれたクラスの紋章である。
「――何だこのクラスカード。今まで見たことねえぞ」
それは初めて見るクラスカード。ピエロのような人物が2人、上下逆さまに背中合わせで刻まれたカードだった。
「これはもしかして……!」
「知っているのかBBっ!?」
「ええ。これは『アルターエゴ』のクラスカードです」
「『アルターエゴ』ッ!?」
「ちょっと!いい加減分かるように説明しろし!」
隣で鈴鹿御前が声を荒げるが、オレの耳にはまったくもって入らない。『アルターエゴ』。それはたった2人しかいないクラス。あのメルトリリスとパッションリップを象徴するクラス。つまり、そのどちらかが召喚されたということである。
――はい、今誰か忘れてないかと思った諸君。頭の中に浮かんだ人物を今すぐ抹消しなさい。どこぞの快楽天なシスターとかいません。いたとしても知りません。オレにとってアルターエゴは2人です。いいね?
誰に忠告しているのかも定かではないことに思考が奪われているうちに、一際大きな輝きを見せるクラスカード。そして、ついにサーヴァントが姿を現した。
彼女の第一印象として目が行く点は2つある。1つはその豊満過ぎるぐらい豊満な胸だろう。性別問わず目を釘付けにするそれは、彼女の幼さが残る顔つきとはなんとなくミスマッチのように感じる。そしてもう1つは自身の身体すらも包み込めてしまえそうな巨大な手だ。剣のような鋭さと無骨さを併せ持つその手もまた、彼女にはミスマッチのように感じずにはいられない。
「――愛憎のアルターエゴ・パッションリップです。あの……傷つけてしまったら、ごめんなさい」
オレが召喚したのはBBのアルターエゴの片割れであり、絶対的な破壊力を持つ1人の女の子、『パッションリップ』だった。
「パッションリップ……」
「あっ、は、はい!あなたが私のマスターさんですか?」
おどおどと引っ込み思案なところは何も変わっていない。どんなに強くても戦うこと自体は嫌いで、だけどそれでも自分の力を必要としてくれる人がいるならその破壊の力すらも守るために扱える少女。セラフィックスで最後に分かれた時と何も変わらない少女がそこにいた。
「……ああ。君を召喚したのはオレだ。よく応えてくれた」
「は、はい!えっと、戦うことは苦手な私ですが精一杯頑張ります!」
「うん、大丈夫。ちゃんと知ってるから」
「えっ?えっと、どういうことでしょうか?」
「それは……」
きょとんと小首を傾げるパッションリップ。やはり鈴鹿御前と同じくあの戦いの記憶は無いようだった。結構無理に笑みを作ったがうまく笑えただろうか。ここで以前あったことがあるというのは簡単だが、この心優しい少女のことだ。必死になって思い出そうとするかもしれないし、そのせいでオレへの負い目を感じてしまうかもしれない。せっかくこうしてまた出会えたのだし、そんなことを考えてほしくはなかった。
「すまん、こっちの話だ。気にしないでくれ」
「――あの、違ったらごめんなさい。もしかして、私とあなたはどこかで会ったことがありますか?」
ああ、もちろんあるとも。例え君が、いや君達があの時間を忘れてしまっていたとしてもオレは決して忘れない。人知れずたくさん傷ついて世界の為に戦ってくれた君達のことを。
「――いや、初めて会うはずだ」
なんというか、BBに忠告されていたとはいえこうして戦友に忘れられるというのはなかなかキツい。べディヴィエールの時もそうだったが、こういったことはこの先慣れることは決してないだろうな。
「――よしっ!じゃあ、改めて2人とも!今後ともよろしくな!」
「う、うん?よく分からないけど私にまかせろし!」
「わ、私もマスターさんの役に立てるように頑張ります!――あぅぅ、まだやっぱりこの呼び方恥ずかしいよぉ……」
「…………」
無理やりテンションを上げるオレと、それに乗せられる鈴鹿御前とパッションリップ。そんなオレ達の様子をどこか寂しそうに見つめるBBの姿があった。
結局あの後再び10連をしたものの、メルトリリスは召喚できなかった。というか、鈴鹿御前がもう1人来た。先程の記憶云々のやり取りをもう一度繰り返したときはマジでキツかったよ……。
鈴鹿御前とパッションリップは自身の部屋を決めてもらうためにダヴィンチちゃんの下へと連れていき、彼女たちが各々の部屋へと入ったのを見届けてから、オレはなんとなくもう1度召喚部屋へと戻ってきた。それにひたすら無言を貫いてついてきた者も1名。
「――センパイ、メルトリリスに会えたらどんなことを話すつもりだったんですか?」
「なんだよ、BB。暇じゃないだろ。とっくに召喚材料は尽きてるし、もう召喚はできねえぞ」
「確かに宇宙一の後輩であるBBちゃんは超多忙です。――ですが、落ち込んでいるマスターさんを放っておく程つまらないサーヴァントになった覚えもありませんよ」
「誰が――」
反論を口にしようとして、だけどそれはできなかった。落ち込んでいるというのは紛れもない図星でさっきまでのはすべて空元気。彼女はそれをすでに見抜いているみたいだったため、今更隠しようのないことだった。
「センパイ、そんな落ち込んでしまうほどメルトリリスに会いたかったんですね。もしかして惚れちゃったんですか?」
「……ちげえよ。そういうことじゃねえ。あいつは結局隠し事ばかりで、心配ばかりかけて。だから説教したかっただけだっつーの」
「はい、ダウト。センパイ分かりやす過ぎますよ」
「うっ……!で、でも惚れた云々は本当に違うからな!」
「はい、もちろん冗談で言いました。でも説教の件は本心ではありませんよね?」
「そう、だけど……」
説教をする、それは間違った理由ではなかった。でもそれは本当に些細な理由でオレが彼女に伝えたかったことはもっと別のことで。
「――メルトリリスに謝りたかったんだ」
「…………」
「最後の最後で全てを押し付ける様な事をしてしまって、最後の消えるその一瞬まで共にいれなくてごめんって。オレ、あいつのマスターを名乗ったのにちゃんとあいつと最後まで一緒にいてやれなかった」
メルトリリスはオレの手を握ってくれたというのに。一緒に戦うって伝えてくれたのに。それを貫くことができなかった。最後の最後、オレは死地へと赴く彼女を見送ることしかできなかったのだ。
「ああ、こんなもんは結局彼女に許されたいからっていう自己満足だ。そんなことは分かってるんだよ。例え召喚されても、そのメルトリリスはオレの手を握ってくれたあのメルトリリスじゃないってのに」
そんな一方的な感情の押し付けはどちらのメルトリリスに対しても最低だ。ギュッと、いつの間にか作っていた拳を固く握りしめる。歯を食いしばらないと今にも泣いてしまいそうだった。
オレが必死になって内から零れ落ちそうな感情を抑えていると、ずっとオレの懺悔を聞いていたBBに動きがあった。メルトリリスは彼女の半身のような存在だ。何を言われるのかと身構えて彼女の方へと向き直ると――トンッと非常に軽い音がオレの頭に響いた。
「――まったく、センパイはマイナス方向に考え過ぎです」
「BB……?」
どうやら先程オレを叩いたのは彼女の持つ指示棒だったらしい。先程までのオレの言葉を聞いて彼女がどんな表情をしているのか気になっていたのだが……BBは困ったように笑っていた。
「あの子はセンパイに感謝していました。あの子素直じゃないから口には出しませんでしたが。それはそれはセンパイに感謝していましたよ。貴方への恨み言など1つもありません。不満もありません。あの子にとってセンパイは、最高のマスターだったと私が断言しましょう」
トントンと続けるように彼女の指示棒がオレの頭を数回叩く。やってること自体はおかしな感じだが、まるで頭を撫でられているかのようにそれは優しかった。
「もっと胸を張ってください。センパイはまた世界を救ったのです。あの特異点での記録も記憶もほとんど無いに等しいですが、貴方は誰もが成しえない偉業を達成したんです。きっとあの子もメソメソしているセンパイなんて見たらきっと怒りますよ」
刺すわよって脅してくるかもしれませんし、切り刻まれちゃうかもしれませんよ?とBBは小さく笑う。流石はアルターエゴとそのオリジナル。基本同じな顔だけあってBBの笑みはメルトリリスとそっくりだった。
笑顔、か。そういえば、メルトリリスの笑顔ってちゃんと見てなかったかもしれない。ちょっと悪そうだったり、皮肉めいた笑みばかりで、彼女の心からの笑顔を見れなかった気がする。
「……あいつ、許してくれるかな」
「許すも何も前提が間違っています。どうして最後に背中を押してくれた人を責めるんですか」
「そっか……」
――だとしたら、いつまでもウジウジしているのは無しだな。もっともっと頑張らねえと。今回は召喚できなかったが、もしかしたらまた彼女を呼ぶチャンスがあるかもしれない。その時にお前のマスターはこんなにすごいんだぞって、そしてそんなマスターのサーヴァントであるお前もすごいんだぞって伝えてやらないと。
「おしっ!なんか色々やる気出てきたっ!BBサンキューな!」
「全く、世話のかかるマスターさんです。こんなことBBちゃんの柄じゃないのに。二度とごめんですからね」
BBが嫌そうにため息を吐く。こんなことを言っているがいざ相談を持ち掛けたらこいつはぶつくさ言いながら相談に乗ってくれるのだろう。流石、自称宇宙一の後輩。BBにここまで思われている『先輩』とやらは本当に幸せ者だ。
「しゃあっ!そうと決まれば次の戦いじゃぁぁぁ!!待ってろよぉぉぉ!!」
「いきなり暑苦しくなって早くも後悔なBBちゃんです……」
――メルトリリス。君にもう1度会えたらちゃんと言うよ。ごめんなんて言葉じゃなくて、ただありがとうって。
だから、早く来てくれよな。
~短いおまけ~
「今日は
「――あいよー!最弱英霊アヴェンジャー、お呼びと聞いて即参上!マスター、また俺を呼ぶなんてほんっと物好きだねー」
「…………」
「あん?どうしたマスター、呆然として。今更俺の弱さにビビることもねえだろ」
「…………」
「いい加減に反応くれよ。Q&Aぐらい成り立たせようぜ。ほら、会話のドッヂボール」
「…………め」
「ん?なんだって?」
「――空気を読めッ!こんの馬鹿アヴェンジャァァァァァ!」
ということで、アンリの宝具レベルが2になりました。
ということで、CCCコラボイベの結果は鈴鹿御前2人、パッションリップ1人という結果でした。+αでアンリ君です。お前何故今来たし。
この小説内ではクリア後に来たことになってますが、実際はかなり序盤で来ました。そのためイベントラスボス戦ではパッションリップが大活躍。フレンドマーリンとジャンヌで全力で守りつつパッションリップに削ってもらうという戦法で1回も落ちることなく勝利。すごいぞこのベイビーフェイス!
それにしてもメルトが来てくれなかったのが本当に悔しい。あんなの卑怯だよ。欲しくなるに決まってんじゃん。おのれきのこ先生め……!
イベント自体もイベントとは思えないボリュームで、本当に良かった。メルトの圧倒的なヒロイン力に泣きそうになり、エミヤオルタのやっぱり根底は正義の味方なんだなってことにまた泣きそうになりと何度も何度も涙腺にブレイブチェインしてくるイベントでした。
そしてガチャにはまさかまさかのキアラさん登場。あかん、アンデルセンが胃痛で死んでしまう……。ゼパル君もよりにもよってとんでもない人を引き当ててしまったもんだ。
さて、次のお話は未定です。女神ピックアップは触れなかったので、羅生門イベかな?もしかしたら鬼ヶ島も来るかもしれませんので様子見ですね。あと、ジャガーマンってそういえば女神だった、忘れてたって人は作者と友達。
とにかくガチャの様子を見つつ茨木ちゃんをポカポカしてきます。今回はイベントのストーリーにマシュがいるので久しぶりに彼女を解禁してますからだいぶやりやすいです。
ではまた次回!