Fate/Grand Mahabharata 幕間 作:ましまし
バレンタイン。
日本では女性が男性に愛情の告白としてチョコレートを贈るという日である。
西欧・米国でも似たような行事があるが、別にチョコレートに限った話ではない。
またバレンタインデー限定という訳でもない。女性から男性へ贈るのがほとんどという事、贈るものの多くがチョコレートに限定されているのは日本のバレンタインデーの大きな特徴。
長々と話してしまったが、2月14日とはそういう甘酸っぱい日だ。
外から切り離され、時間の概念がないカルデアではそういう季節感を感じる行事を欠かさずやっている。勿論バレンタインデーも過言ではなく、女性サーヴァント全員でマスターや縁のある男性サーヴァントにチョコを贈るべく張り切っている。
そう「女性サーヴァント全員」で。
「あら! スラクシャのチョコレート、とっても綺麗だわ!」
「ありがとうございます、マリーさん」
まさかバレンタインにチョコを贈る側になるとは……人生何が起きるかわからん。いや、半神半人に転生した上にサーヴァントになってるんだから人生も何もないけど。
「太陽と月と星……それに剣と、これは、竜?」
「誰に渡すのですか?」
「ああ、マシュさん。えー、マスターと兄上と、一応アルジュナ。それからエミヤにジークフリートですね」
改めて多いな……言っておくけど恋愛感情じゃないからね。感謝の方だからね。
「何故アルジュナさんには「一応」なんですか?」
「受け取ってもらえるかわかりませんからね」
クリスマスは受け取ってもらえたから多分、大丈夫だと思うけど。ていうか甘いもの大丈夫かな。
「確実に受け取ってもらえるので大丈夫ですよ」
「そうですか? だといいのですが」
クリスマス以降、ちょくちょく視線を感じるし、少しだけど話しかけてもらえるようにもなったし、大丈夫だよな。
「え、えーと、何故エミヤさんとジークフリートさんにまで?」
「エミヤにはいっぱいお菓子をもらってますから。作り方も教えてもらってますし」
初めて食べたときは感動した。その時のおやつはお手軽なホットケーキだったけど感動のあまり目頭を押さえたくらいに美味しかった。
「それでは、ジークフリートさんは?」
「彼、カルナとアルジュナを足して割ったみたいな感じで放っておけないんですよね……。それに、兄が来るまで気を使ってくれたのか色々話してくれましたし」
おかげで寂しくなかったし、良く鍛練にも付き合ってくれるしお世話になりっぱなしだ。もちろんその恩はちゃんと返すが、まあ感謝の気持ちとして渡しておく。
「それで剣とドラゴンですか」
「ええ。……よし、後は固めて箱に入れれば完成ですね。それまで……」
ボフン!
「きゃあああああ! なによ! いきなり爆発だなんて、火加減間違えたかしら?」
「…………………」
「おかしいわね……もう少し柔らかくなると思ったのだけど」
「…………………………」
…………タコ、と八連双晶? しかも異様に赤い。イチゴ味と誤魔化すのが不可能なくらいに赤い。一体全体、どんなものを入れたらあんな色になるんだ。
「……マシュさんのチョコレートは気合が入ってますね」
見なかったことにしよう。聞けば最後、確実にドクターのお世話になると本能が行警報をガンガン鳴らしている。
決戦前にクリシュナと会ったときと同じレベルで危険を訴えている……!
「やっぱりマスターにですか」
「は、はい! どうしてわかったんですか!?」
そんなに楽しそうというか、幸せそうというか、とにかくかわいい表情をしているんだ。そりゃわかる。
「先輩、喜んでくれるでしょうか……」
「きっと、喜んでくれますよ。私は終わったので戻りますが、頑張ってください」
「……はい!」
カルデア内の共有スペースの一つである森林。勿論本物ではなく、超・リアルなVR的な奴だが森林特有のにおいも木漏れ日も完璧に再現している。
今は冷凍されている者達も含め、マスターがストレスを感じないように色々再現したらしいがここまでするとは。
食堂を出てからフラリと立ち寄ったそこ。ひときわ大きな木の根元で、ついうたた寝をしてしまったらしい。
「どういう……ことだ……」
右にカルナ。左にはアルジュナ。
色々ツッコみ所が多すぎるその配置と状況に今すぐにでも2人を起こして事情を説明してもらいたい衝動に駆られる。
が、抱き枕のごとく兄にホールドされ、手はしっかり弟に握られているため起きるに起きられない。
なぜ起きなかった私。そしてなぜ一緒に昼寝してるんだこの2人。
「…………」
暫らく悩んだ末、だした結論は――
「…………寝よう」
考えるのをやめる事だった。
――死んでいる、そう思った。
木の根元で体を横たえる赤い髪に息が止まった。慌てて駆け寄り、確認する。
「(――息がある)」
「静かにしろ。起きてしまう」
ハッと横を向くと白い男の姿。
「……カルナ」
「貴様らしくないな」
オレに気が付かないとは。
そういう宿敵に何も言い返せない。すぐ傍に居たのに、声を掛けられるまで気付かなかったのだ。戦士としては致命的である。
同時に、ここまで接近したのに彼女が起きない理由もわかった。カルナが傍に居ることに無意識に安心しているのだ。
「……死んでいると思ったか」
「…………」
「……オレもだ」
脳裏に過るのは生前の戦。
あの顔を、地に横たわる姿を今でも覚えている。
「……ふん」
カルナとは反対側に腰を下ろし、手を握る。奴はそれを見詰めていたが結局何も言わなかった。
――握った手は暖かく、仮初めとはいえ確かに生きていた。
「はい、バレンタインです。甘いので苦手ならばコーヒーなどで飲むといいですよ」
「感謝する」
「……ありがとうございます」
「いえいえ」
「ところで、スラクシャ。そのチョコレートは誰に渡すつもりだ?」
「ジークフリートです。エミヤには渡したので、あとは彼だけですね」
「姉上。私が代わりに届けましょう。なのでそれを今すぐ渡してください」
「え……、いや、やめておきます」
「(チッ)」
「ジークフリート」
「? アルジュナか。なにか……」
「勘違いしないでください。スラクシャはあくまで感謝の気持ちで渡すのですから、間違っても好意などと思わないように」
「? ??」
「では」
「……俺は何かしてしまったのだろうか……?」