Fate/Grand Mahabharata 幕間 作:ましまし
一番インパクトの大きかった
「IFで競技大会での対面の時にスラクシャが女バレしていてアルジュナに婚姻を申し込まれる。」
を夜中のテンションのノリで書いてみました。タイトルセンスの無さには突っ込まないようにしてください。
それから
「神話の中で早い段階に女バレしてた場合」
「生前早い段階で性別がばれていた場合とか」
「生前IFなら、もしアルジュナと恋愛フラグが立っていたら?」
も取り入れてることになりますので。
「姉と知らないアルジュナに、フラグにことごとく気づかない主人公、シスコンマッハなカルナさん」
はちょと違う気がしますが……。
今回は鬱とは別の意味で要注意です。上記をもう一度読んだうえで大丈夫な方はどうぞ。
クル族主催の競技大会。
カルナへ向けられた矛先を自分へと向けるために、パーンダヴァ兄弟へと侮蔑の言葉を投げかけ、それに乗せられた主にビーマと嫌味と罵倒の応酬を繰り広げ、残りの兄弟と野次馬全員がドン引きしていた。
止めるべきなのかおろおろしていたカルナはふと、アルジュナが黙ったままじーーーっとスラクシャを見詰めていることに気が付いた。
……心なしか顔が赤いのは気のせいか?
何故だか嫌な予感がひしひしとする。カルナがいい加減スラクシャに止めるよう声を掛けようとした。
が、その前にアルジュナはツカツカとスラクシャへと近づき。かなりの至近距離でまたも彼を見つめる。
「お、おい。アルジュナ? そんな奴に何を……」
「…………」
「…………あの、なにか」
無言のまま、アルジュナはスラクシャの両手を取り、しっかりと握りしめた。
「妻になって下さい」
競技場がシン……――と水を打ったように静まり返った。
誰もが、それこそユディシュティラやビーマですら言葉を発せない中、その視線はアルジュナは勿論、スラクシャにもその視線は集中する。
「……………………………………………はい?」
突然の求婚(しかも罵り合ってたやつの弟)に呆然としながら無意識に零れ落ちた問いかけの声に、アルジュナは誰もが見惚れるような笑顔を浮かべる。
「ありがとうございます。では、行きましょう」
「待て待て待て待て!! あと今のはどう聞いても了承じゃなく疑問形だ!!」
正気を取り戻したカルナが妹をアルジュナから引きはがすと同時に、ユディシュティラもアルジュナの肩を掴んで自分の方へと向き直らせる。
「なんでしょう、兄上」
「なんでしょう!? なんでしょうじゃないだろ!?」
「スラクシャ、スラクシャ。起きろ。大丈夫か」
「………………………………」
不満そうな顔をする弟にほぼ悲鳴同然の声をあげるパーンダヴァ長兄と、口から魂が抜けかかってる妹を動揺しているのかガクガクと揺さぶるカルナ。
カオス。その一言に尽きる光景だった。
「何を突然求婚なんてしてるんだ!?」
「妻にしたいと思ったからです」
「そうじゃない!!」
「起きろ、スラクシャ(ペシペシ)」
「………………はっ!?」
カルナに頬をペシペシと軽く叩かれてようやっと魂が戻ってきたスラクシャ。
「…………あの、いま、いきなりきゅうこうんされたような……きゅうこん? きゅうこんってなんでしたっけ、植物??」
「落ち着け」
「お、おちつけ、おちけ、ん? おつけち?」
「……ダメだな」
魂は戻ってきたがかなり混乱しているらしい妹にため息を吐く。勿論呆れている訳ではない。心配しているだけだ。
「スラクシャ」
「ひいっ!」
背後から掛けられた声に思わず悲鳴を上げてカルナの後ろへと引っ込むスラクシャ。その様子はまるで小動物のようで、はからずも周囲の野次馬をほっこりさせた。
「な、ななななななんでしょう?」
「ふふふ……おびえる姿も可愛らしい」
「」
絶句するスラクシャをカルナが庇うように体で隠す。
「どいてください。私は彼女に用があります」
「なんのつもりだ?」
「そのままです。彼女を妻にしたい」
人の嘘を見抜くことに長けたカルナは、その言葉が本心であることがわかり、何といえばいいのか分からずに言葉に詰まる。
「待て。落ち着けアルジュナ」
見かねたビーマが声をかける。
「御者の子供に何を言う。大体、そいつは男だろう」
「女性ですよ。兄上こそ何を言っているのですか」
「…………何故わかった」
「やはり女性ですか」
「……しまった」
「バカッッ!!!」
うっかり口を滑らせたカルナについ後ろから拳を決めるスラクシャ。
そのスラクシャが女だと聞いて唖然とする兄弟たちをしり目にアルジュナはもう一度彼――いや彼女の手を取る。
「もう一度、いえ、了承してくれるまで何度だって言います。私の妻になって下さい」
「いいいいいや、あのほら、あなた王子でしょう!?」
「どうとでもなります。なんなら、身分を捨ててもいい」
「「アルジュナァアアアア!?」」
まさかの発言に周りが一気にざわつく。パーンダヴァの兄弟はスラクシャを思いっきり睨みつけ、カルナがその視線から妹を庇うように睨み返し、騒ぎの中心であるスラクシャは一気に顔を青ざめさせた。
「冗談ですよね!?」
「本気ですよ。この場で我が父に誓いますか?」
「やめて!!」
こんな公衆面前の前で父――神であるインドラに誓われたらそれこそ逃げ場がなくなってしまう。
それに思い当り、スラクシャは全身全霊、ヤケクソ気味に叫んだ。
「――お友達からでお願いします!!」
「胃が痛い……」
「すまん……」
「なんというか、災難だったな」
あの後、ドゥリーヨダナに食事に招かれた。
スラクシャはアルジュナが連れて行こうとしたがカルナと他の兄弟が全力で止めた。
「ふむ。確かに良く見れば女だな。兄と同じ顔をしているから、言われないと分からんなあ」
「なんでアルジュナにはバレたんでしょうか……」
「惚れたからじゃないのか? 愛に理屈は通用しないという」
「だったら同じ顔のカルナでもいいでしょう!!」
「やめろ」
頭をかかえて嘆くスラクシャには同情の念しか浮かばない。が、流石に最後の言葉は聞き捨てならないらしく、珍しくカルナがスラクシャの頭を軽く叩いた。
ドゥリーヨダナは思わず想像してしまい、顔を引き攣らせながら苦笑した。
「スラクシャ。「お友達から」と言っていたが、どうする気だ?」
「どうしましょう兄上」
「オレに聞くな」
「ですよね」
「(仲が良いな)」
仲睦まじい兄妹、しかも片方が妹とわかると一気に場が華やいだ気がしてドゥリーヨダナは微笑ましくなった。
「まあ、あっちも王子だ。流石にそうホイホイと出歩きはしないだろう。来た時にだけ適当にあしらえばいい」
「……そうでしょうか? いえ、そうですね」
今日、カルナはドゥリーヨダナの元に出向いていた。スラクシャもついていきたかったが、家事が溜まっているので断念した。
「おはようございます。いい朝ですね」
「」
昼食を作り終え外に出て洗濯をしていたスラクシャは、護衛もなしに現れたアルジュナに声にならない悲鳴を上げた。
「……なんでいるんですか」
「お友達から、でしょう? 遊びに来ました」
「護衛は!?」
「邪魔なのでいりません」
スラクシャは思わず顔を覆う。普通、王子様が護衛もなしに、曰く御者の子供の家に来るか!?
「……服はそれしかないのですか?」
「え? はい、大体同じものしかないですね」
「そうですか。では、こちらを」
そう言ってアルジュナがどこからか取り出したのは、明らかに高級品と分かる女性用の衣服だった。
「…………え?」
「着てください」
「いや」
「着てください」
有無を言わせない笑顔に気圧され、スラクシャは渋々服を受け取った。
アルジュナに渡された服は白と薄い青が基調のシンプルな服だった。髪が赤いので似合わないだろうとスラクシャは思ったが、案外しっくりきた。鎧のことも考慮されているのか、割と布の面積は少なく、その代わりに布を巻くような形になっていた。
何故かサイズがピッタリだったが、スラクシャは聞かないことにした。
「思った通り良く似合いますね」
「ははははは……」
蕩けるような笑みを浮かべるアルジュナは、百人の女性が見たら百人がオチるだろう確信できるほどの美青年である。
だが、スラクシャとしては乾いた笑みしか浮かばない。前世は男の上に、数日前の騒ぎがすっかりトラウマになっているようだった。
「では、行きましょうか」
「は? え、どこに?」
「そうですね……街にでも行きましょう」
「……………………え」
「ほう。みすぼらしいですが、そこそこ品は揃っていますね」
「(今絶対にお店の人を敵に回したぞ)」
あちこち店を覗きながら上から目線の発言をするアルジュナに、スラクシャは冷や汗をかきっぱなしである。
店の人達はその言葉にムッとした顔になるが、アルジュナが明らかに高貴さを感じさせる出で立ちなので何も言わない。賢明な判断だ。
スラクシャにとっては幸運なことに、街の人々はアルジュナの隣にいるのがあのスラクシャとは気づいていない。
むしろ、しっかりと手をつないでいることから恋人か何かだと思われているくらいだが、これは彼女にとって知らないでよかった情報である。
因みに手はアルジュナが無理やりつないだ。彼女自体は離してほしいと頼んだが笑顔のまま無言で手を思いっきり握られたので諦めた。
「(折れるかと思ったな……)」
「そういえば、貴女は髪を結わないのですか?」
スラクシャの髪は調度肩甲骨の辺りまで伸びていた。本人は身だしなみを整えはするものの、オシャレをしようとは思わないので伸びっぱなしである。精々、邪魔になったなと思ってから切るくらいだ。
「ええ。特に必要ありませんので」
「そうですか、よかった」
「? 何か?」
「いえ、なんでもありません」
「はぁ……」
時間が経ち、陽も傾き始めた。
「名残惜しいですが、そろそろ帰らねばなりませんね……」
「そ、そうですか(助かった……)」
スラクシャは強張った体からホッと力を抜いた。
玄関まで送ってもらい(一応断った)、そのままさようならも失礼だと見送り位はすることにした。
「ありがとうございます。また来ますね」
「え、あ、えーっと、はい……」
「それと……失礼」
「!?」
突然背後に回り髪に触れたアルジュナにスラクシャは硬直する。そんな彼女に構うことなく、アルジュナは髪をいじっていた。
「あの、」
「できました」
アルジュナが離れ、サッと触れられていた部分に手を伸ばすと何やら固いものが手に当たる。
「これは……」
「髪留めです。持っていらっしゃらないようなので」
言われてみると確かに、適当に伸ばしていた髪の毛が一纏めにされているのがわかる。
「…………ありがとうございます」
「気にしないでください。それより……」
アルジュナはふと手を伸ばし、顎に手をかけ唇に触れる。
やられている本人といえば、その行動の意味が分からずに疑問符を浮かべるばかりである。
「ふむ……。どうせなら紅も持ってくるべきでしたね。次はお持ちします」
「勘弁してください……」
これ以上どう着飾るきなのかと、スラクシャは考えただけでげんなりした。
「……これで友人になれましたか?」
「(マジでそのために来たのか)そうですね……友人になりたいのなら」
「隠し事はしないで欲しいですね」
「何を悩んでいるかはわかりませんが、それを話してもいいと思えるようになったなら友人……親友にはなれるでしょう」
アルジュナは大きく目を見開く。
一瞬、その黒い瞳が大きく揺れたが、それを誤魔化す様に微笑んだ。
「……ありがとうございます。それでは、また」
因みに戻ってきたカルナに着飾った姿を見られ、問い詰められて全て白状することになったうえに、何処に行くにしても連れまわされることになったのは別の話である。
「…………余り奴と喋るなよ」
「善処します……するから離して、背骨折れるぅうう……!」
パーンダヴァに戻ったアルジュナは兄弟たちの追及を躱し、自室に閉じこもってカギをかける。
そして――
「クッフッフ…………アッハッハッハッハ!!」
誰もいない部屋で1人、笑った。
「ああ……やはり、欲しいな」
妻に迎えたいと思ったのは本当だ。
1目惚れではない。師の元で修業をしている時に何度も見た事があるから。ただ、その時の彼女はカルナの後について回り、それ以外には関わろうともしない、無表情だった。
スラクシャが女だとわかったのは偶然だ。たまたま、カルナとの会話を聞いてしまったのだ。
それでも自分には関係ないと思った。
だが、あの競技大会でカルナを庇い、自ら矢面に立った姿に何故か心が震えた。
アレが欲しいと思った。
そのために一番手っ取り早いのが、妻に迎えるという形だったのだ。
「贈ったものの意味を、アレは知らないだろうな……」
髪飾りは綺麗な髪を乱してみたい
紅は唇を吸ってみたい
衣服はその服を着たあなたを脱がせてみたい
それらすべてを送ると……貴女のすべてが欲しい。
アルジュナは、彼女の手の、髪の、唇の感触を思い出し、それらに触った右手を自分の口に当て、うっそりと笑った。