社会的に有意義足る人材になるための布石を尽くはずし、ダメ人間になるための打たなくてもいい布石を狙い済まして打ってきてしまった。
どうしてこうなった。
責任者に問いただす必要がある。責任者はどこだ。
人間、経験の積み重ねだというが、今の総決算がこの様なのか。
そもそも人は変われると言うが、三つ子の魂百までともいう。この世に生を受け16年。この魂は凝り固まってしまい、変えることはできないのではないのだろうか。
ここで、俺が劣等感と自尊心の海に溺れている時分に呟いた言葉を使うとしよう。
やはり俺の青春ラブコメは間違っている
二十話
当日、俺はピカピカの高校一年生。
ある事情で一番大事な時期を病院で過ごすという失態をおかし、クラスの中でライフジャケットでも着用しているのではないかと言うほど浮きに浮く存在になってしまっていたが、目の前には部活動という名の薔薇色のスクールライフへの扉が無数に開かれていた筈だった。
そう、あの部活の扉を叩きさえしなければ。
扉の先は雪国でもなければ、魔法学校に繋がっている訳でもなく、ただ単にみょうちくりんな秘密組織がたあっただけであり、この場所に手をかけなければ、忌まわしい妖怪然とした男と出会うことはなかった。
奴に出会わなければ、己に襲い掛かる不利益を悉く振り払い、己に降り注ぐ幸せを享受していたに違いない。
その決定的な間違いをおかしてしまったピカピカの一年生から早いこと一年と半分以上が過ぎ、高校二年生の冬という世の中の人間が人生の中でも一、二を争うほどの青春真っ只中にいると主張するであろう時期に差し掛かった俺だったが、これはその頃に起きた俺と三人の女性を巡るリア王ばりの劇的な事件だった。
しかしながら、これは悲劇でもなければ喜劇でもない。
もし、これを読み悲劇だと感じる人間が居れば、子犬の散歩で泣き出してしまうほどの徳光的感性を持った人物か、歩きスマホをしながら読んだせいで足の小指をぶつけたかのどちらかに決まっている。
また、これを読み喜劇だと笑い転げる人物が居れば、妹の小町に纏わりつく悪い虫を追い払うがごとく地の果てまで追い回し、マッ缶の湯船に沈めた後、虫の多い夏の千葉村に放置するだろう。
そんな輩はまとわりつく糖分の不快さと虫に喰われて痒みに悶えればいい。
かの発明王は、人生そのものが学習の場だと言ったらしいが、確かにその通りだ。
この事件で様々なことを学ぶことができた。あまりにも学びすぎた為全部を挙げることは出来ないが、あえて三つを挙げるならば、鍵はキチンと締める事、下半身に主導権を握らせずに理性の化物と呼ばれようとも冷静になること、人とのコミュニケーションは顔を見て取るべきだということだった。
◯
高校二年生に上がり少しした日、高校生活を振り返ってという題名のレポートを提出した俺を呼び出したのは平塚静という教師であった。
もう少しで三十路に手が届くという彼女は黒髪をなびかせどこか理知的な風貌を匂わせ、清楚可憐というよりかは質実剛健といった雰囲気であり、その見た目に反してアニメや漫画に造詣が深く、科学教師でないにも関わらず白衣を着こなし、見た目からは想像できないがスポーツカーに乗り煙草をふかす、千葉県の教師陣をかき集めてみても彼女のような存在はいないだろうと思われるほど稀有な人物だ。
何より美人である。
そんな彼女に呼ばれ説教をうけている。
「何なんだ、このふざけた文は?」
「別にふざけている訳では無いです。大真面目に書いています。ただ、俺の高校生活を振り返ったらこんな感じになるのは仕方ないことだろうと思います」
「……はあ、もうダメだな、末期症状だ。本当ならば君はある部活に入って人格矯正して貰おうと思っていたけど、私直々にその腐れ曲がった根性を叩き直してやろう」
それは俺が高校生活の不平不満を余すとこなく一から十までぶちまけたいと思っていたが、それをぐぐっと我慢し学校及び生徒諸君の改善点を情緒豊かに、尚且つ多角的に書き記したもので、そこに文学的価値や学術的価値を見出だすことがあっても、腐れ曲がった根性と言われる覚えは全くない作品だったことをここに記しておく。
「いや、そんな先生のお手を煩わせるようなーー」
ふわりと頬を撫でる爽やかな風が通り抜け、誰かが窓でも開けたかと思案しようとする目の前には拳があった。
美人ほど怒らせると怖いというが、彼女の場合も言葉の通りだった。少しばかり意味とは異なるかもしれないが。
「これは決定事項だ。これから毎週金曜の放課後に個人的に授業があるから必ず参加するように」
美人教師との放課後個人授業。美人と教師の間に暴力の二文字が無ければなんとも甘美な響きだ。
◯
てっきり彼女との授業は道徳的な何かを学ばされるのかと思っていたがそんなことはなく、文系に限らず、化学や物理、数学等の授業をごく普通に行った。
お陰で俺の成績は指数関数のように伸びていき、期末テスト前の疑似問題では、それまで目も当てられなかった点数が目を当てても焼かれない程度には回復した。
その頃になると授業が終わった後に彼女と近場のラーメン屋巡りをすることが日課になり、もはや人格矯正の為の授業なのかラーメン屋巡りの為の時間潰しなのか本質がよくわからない時間と化していた。
しかし、本質がわからなくてもラーメンは美味しいし、女性と事務的会話以外を話す珍しい機会でもある。
授業が終わり、隣でうきうきと、今日はどこに行こうかな。なんて呟いている彼女を見ると、もし、彼女が教育実習生であったり、それに近い年齢、干支を周回遅れにされていなかったら心底惚れていたとさえ思う。
その日も個人授業が終わり、帰り際にラーメンを食べに行こうと町へ繰り出した。
「今日はとっておきの所があるからそこに案内しよう」
「へえ、どんな所なんです?」
「そうだな。巷じゃ猫ラーメンなんて呼ばれている」
何でもその屋台では猫で出汁を取っているという。真偽のほどは定かではないが、その味は無類らしい。
猫ラーメンと呼ばれる屋台に着くと、注文もそこそこに彼女はこの一週間でどんなことがあったのかを聞いてくる。
ラーメンを食べているときの彼女は自分の話は余りしないで俺の事について聞くことが殆どだ。
最初の一月程は幼少時代の話でお茶を濁していたが、その話題も直ぐに尽き、どんな事を話せば良いのか毎週頭を捻っていた。
「これ以上話せることなんて有りませんよ。それに俺の話なんか聞いてもなんの面白味もない」
「そんなことはないさ。君がどんなものを見て、どんな事を聞いて、どんな事を体験して、どんな風に感じたか。それを話せばいいんだ。君はいささか人とのコミュニケーションが苦手なようだからこれを機に少しでも克服した方がいい」
「そう言われてもですね」
「それに、君の話は詰まらなくはない。ツマミにはちょうどいい」
「ツマミって、先生お酒飲んでないじゃないですか」
「教師ってのは可愛い教え子の前じゃカッコつけたいものなんだよ。お酒を飲んで余り無様な姿は曝したくない」
「そんなもんなんですか?」
「そんなものだ。とは言っても君の話ばかり聞いているだけなのもなんだからな……今日は少しばかり私の愚痴にも付き合ってもらうとするか」
そういうと、つるつるとラーメンを啜りながら学校内にいるセクハラ教師の話や、恋の邪魔者と呼ばれている阿呆学生に対しての愚痴を溢した。
◯
送って行こうとする彼女を夜風に当たりたいからと断り一人ぶらぶらと歩いていると、熊の化物のような人間に遭遇した。
「やあやあ八幡。おこんばんわ」
材木座義輝。
道行く10人のうち8人が熊の妖怪と間違えるような容姿を持つ男だ。
残りの2人はきっと妖怪に違いない。
中二病で暑苦しく、他人の不幸で飯が三杯食べれるというおよそ誉められる所の無い、特定外来種、犯罪係数300オーバーの執行対象の存在で、通称恋の邪魔者。
「さぞ名のある化物とお見受けいたす。何故このような場に、森へ帰れ」
「我はシシ神でも森の賢者でもないぞ」
むう。と唸りながら言うその姿は可憐な乙女が夜に出会したら、悲鳴をあげて逃げ出す風体だった。
俺自身もぎゃあと叫んで逃げ出してやろうかとも思ったが、さながら弁慶の精神でその場に留まる。
「それはどうでもいいけど。なんでこんなとこに」
「ああ、猫ラーメンでも食そうと思ってな。お主も付き合え」
「いやだ」
「な、なにゆえに。我とお主の仲ではないか」
ついさっき猫ラーメンを食べたばかりでお腹には何も入るような状況じゃないと懇切丁寧に説明したが、熊の妖怪はその場で地団駄を踏みながらぎゃあぎゃあと喚きたてるので仕方なしについていくことにした。
◯
材木座と出会ったのは高校一年の春だ。
桜の花は散りきって、葉が青々としていたことを思い出す。
一年生への部活勧誘は数多の部が行っていて、俺は色々な部活のビラを押し付けられた。
その内容は様々で、テニス部やサッカー部等からも貰ったが、その中でも秘密機関〈印刷所〉という存在は異彩を放っており、取り敢えず覗いてみるかと考えてしまったのが前述もしたが全ての間違いだった。
まさか、秘密機関と書かれたビラを大々的に配るような部活が秘密機関な訳がないと思っていた。
しかしながら〈印刷所〉は歴とした秘密機関で、顧問の先生は居なく、上には所長という肩書きを持つ先輩がいるだけだ。
印刷所の活動は偽造ノートや課題代行、自然な問題の間違え方やさらには的中率七十%を誇る擬似試験問題まで幅広く取り扱いを行う。
その歴史は狭いが深淵で、ここ三、四年に創られたとの事だが誰がなんのために立ち上げたのかさえ不明の組織である。
当時を知るであろう人間を訪ねても彼らは固く口を閉ざすばかりらしい。
顧客リストは当初、氏名や学校名だけであったが、その膨大な組織力が遺憾あるように発揮された結果、住所、家族構成から趣味、懐事情、果ては最近借りた桃色映像の詳細まで網羅し掲載されていて、所長を初め上役なら見ることができるようになっていった。
その活動及び情報網は総武校のみならず、千葉県の高校、大学を巻き込んで今や政治にまで関与できるとの噂が飛び交う。
その話を所長から聞いたとき頭のなかで警鐘が鳴り響いたが、俺が産まれたときはどんな臭いのする赤子だったのか、小学生時代の甘い初恋、中学生時代の黒歴史を滔々と語られた時に逃げ場は無いのだと悟った。
自分の思い出したくもない歴史を他人から聞かされうんうんと蹲っていると、その傍らに酷く縁起の悪そうな顔をした不気味な男がたっていた。
繊細な俺にだけ見える地獄からの使者かはたまた雪山から遭難したイエティでも来たのではないかと最初は思った。
「まあまあ、こうなった以上は頑張ろうではないか」
これが、材木座とのファーストコンタクトでありワーストコンタクトだった。
◯
材木座がずるずるとラーメンを啜っている時に、あることを思い出していた。
結構前に、妹の小町経由で川崎大志なる輩から相談を受けたのだ。
小町の知り合いの男と言うだけで万死に値するが、紹介したい人がいると言われたときは、そいつをアクアラインの人柱か成田山に巣食う妖怪の餌にしてやろうかと思ったぐらい腸が煮えくり返ったのを覚えている。
兄は断じて認めん。と気焔を吐きながらそいつに会ったが、そんな考えは杞憂で彼の姉が夜遅くまでエンジェルなんちゃらという所で怪しげなバイトをしているからどうにかしたいという内容だった。
姉の名前は川崎沙希と言って同じ学校の同学年らしい。
後で調べたところ同じクラスだったのだけれど、その時は妹のお願いだったということもあり、取り敢えず袖振り合うも多生の縁と〈印刷所〉を使って調べてみるかと思っていた。
そして調べた結果、近場でそんな名前で営業をしているのは、バーもしくはメイド喫茶の二つだった。
流石にメイド喫茶に一人で入る勇気は持ち合わせていなく、バーという大人の社交場に一人で行くのも心許なかったので、気が付けば調べてから結構な日数が経っていた。というのが今の現状である。
「どうしたのだ。そんな腐りきった目をしていて、何か考え事か」
「デフォルトでこれだから心配するな」
はふはふとチャーシューを貪るその姿は、四方八方どこから見ても共食いか自分の体を切り取って食べているかのようなおぞましい体を成している。
さっきまで先生とラーメンを食べてこのチャーシュー野郎の愚痴で盛り上がっていたのにこの落差は一体なんだと愕然とし、次に何故にこの様なイエティがラーメンを貪る歴史的珍風景を見なければならないのかと沸々と憤りが湧いてきて、気が付けばじろりと睨み付けていた。
「そんな睨み付けないでくれ」
「近付くな。気持ち悪い」
「寂しいではないか。それに夜風が冷たいの」
「この寂しがり屋さんが」
「きゃあ」
野郎二人の気色悪い寸劇を見ていた店主の顔が苦笑いを張り付けた様になり、その虚しさが口を開く気を削り取った。
どうやら、隣の男も同じだったようで、無言でラーメンを啜っている。
「……同じクラスの川崎沙希って奴がさ、エンジェルなんちゃらってメイド喫茶かバーで働いてるらしいんだよ」
無言空間に耐えかね、どうせなら材木座も巻き込んでしまえと考えていた事を話してしまおうと口を開いた。
「それを知ってどうするのだ。はっ、よもや弱味を握ってあれこれと破廉恥な事でもしようと思っているのか、この桃色脳内野郎っ!」
言われもない罵声を浴びせられて甚だ遺憾である。
と言うよりも、こいつの頭のなかが常にこんなことばっかりだからそれを思い付くんじゃないのか。
「バッカ、お前。それを止めさせたいってそいつの弟から相談されたんだよ」
「そうやって助けた恩を着せてあれこれとするのであろう。やはり桃色脳内野郎ではないかっ!」
「だから違うっての。メイド喫茶にしろバーにしろ一人で突っ込むには敷居が高すぎるから手伝えって話だ」
「……ふむ、いずれ行くやもしれん人生の妙味をこの年で味わうのもよかろう」
少し前まで唾を飛ばしながら騒いでいた材木座だったが、少し考えたあと何やらしたり顔で頷いていた。
こんな表情をするときは十中八九、良からぬことでも考えている。
「酒なんか飲まねえからな」
「分かっておる。しかし、いつかは可憐な乙女と行く予行練習だと思えば……ぐふふ」
「どうせこれから暇だろ。明日は祝日だからこれから行くぞ」
こいつの妄想世界の中では、今頃可憐な乙女と夜の町へとしっぽり繰り出しているのだろう。
全く返事を返さない桃色脳内野郎に場所に時間、今着ているむさ苦しいコートは着てくるなと言い聞かせ、屋台から逃げるように家へと帰った。
◯
家へと戻るとリビングでは小町がタンクトップのような格好をしてアイスを食べながらテレビを見ていた。
小町は腐っている目と形容される俺とは違い、非の打ち所のない人柄、巧みな話術、可愛らしい容貌、コンコンと溢れ尽きることのない隣人への愛を持つ。何より、本当に同じ遺伝子を持っているのか不安になるほど小町の目は清みきっていて、その双眼に姿を写せば、晴れの日の江川海岸のように驚異の反射率を誇るだろう。
色々と恥の多い人生を歩んできたことを否定はしたい。だが、否定したからと言って第三者が待ったをかける事請け合いであり、ならばと少しだけ此方から歩みよりをして己の非を認めてあげるのもやぶさかではないが、それでも人生の中でも一番の誇りと言えるのは小町の存在だった。
自慢の妹と言っても過言ではない。
むしろ不足まである。
「あ、お兄ちゃんお帰りなさい」
リビングでくつろいでいた小町は横目でちらりとこちらを見ると、ニヤリとした笑みを浮かべながら近寄ってきた。
「ねえねえ、なんかお兄ちゃん宛の手紙が着てたんだけどもしかしてラブレターだったりするの?」
小町がひらひらと見せてきた見に覚えのない手紙に戦慄を覚えた。
その便箋は可愛らしい色をしてちょっとしたシールがはってあり、いかにも女子力が高い乙女が出しましたというような逸品あった。そんなものとは無縁な生活を送ってきた人間からしたら戦慄を覚えるのも当たり前だろう。
小町は手紙などという時代錯誤で情緒のある品物を書くはずがない。他に俺に向けて手紙を送ろうとする人間を知っている訳もなく、我が家においてそれは一際異彩を放ちながら小町の可愛らしい手に弄ばれていた。
「多分あれだろ。不幸な手紙とかその類いじゃねえの。最近チェーンメールとか流行ってるみたいだし」
と答えながら、内容を見るために小町から手紙を受け取り部屋へと戻った。
「後で内容教えてね」
後ろから催促の言葉が投げ掛けられたが、もはや頭のなかに響いてこなかった。
急ぎ部屋に戻り文を読んで俺は愕然とした。
諸君、驚くことなかれ。
なんと文には文通をしたいという申し出が書かれていた。
名前を雪浜輝子さんと言う。
その文にはいきなり手紙を書くことの非礼から始まり、どのような経緯でこの手紙を書くにあたったか、本の感想などが可愛らしさが溢れ出る文字ながらも流麗な文章で書かれていた。
彼女は小さい頃に風船に手紙を乗せて飛ばしたら返信が来て少しの間、文通をしたことがあるらしい。
そんな文通上級者の彼女がふと手に取った古本には俺の名前と住所が書かれていたようで、知らない人に手紙を送りつけるという、ともすれば変態的所業に通ずる文通魂が再加熱して思わず送っていたとのこと。
ちなみにその本は俺が昔、材木座に貸した本だった。
内容としては、目の腐った高校生の男が麗しい乙女二人と依頼を解決しながら友情や恋心を一進一退させながら成長していく青春小説で、そこはかとないむず痒さと既視感にさいなまれたのを覚えている。
材木座のことだから借りたのを忘れて古本屋に売り払ったのだろう。
だが、まて、しばし。これが誰かの罰ゲームと言うことはないと言い切れるのか。
ここまで誠意ある文を送られて返信しない男、いや人間は居ないと思うが、罰ゲームやその類いだったとして俺が文を送り、その翌日に黒板にでも貼り出されて見ろ。
いくら精神的成熟が他の同世代よりも進んでいると自負していても、オムツを変えてもらえない赤子のようにわんわんと泣き叫んでしまうかもしれない。
嘲笑、人間不振、孤独、転校、孤独、自宅警備と一連の流れが走馬灯のように駆け回ったが、そもそもが孤独のようなもので、もともと人間不振の気もあり、だいたい俺の顔と名前が一致する人物なんて殆どいなかったと思い出した。
名前の知らない人間を調べてわざわざ罰ゲームの標的にするなんてことはないはず。
よし、彼女に文を送ろう。そして文の技術を身に付け、ゆくゆくはフミマイスターとして文章ひとつで相手に感動、興奮をもたらし、尊敬の念を相手に与え、強いては恋心さえ操作しうる位の文章力を持って今の状況から脱し、薔薇色のスクールライフへと邁進しよう。
そう決心して時計をみたら材木座との待ち合わせの時間に迫っていた。