漂流者の艦隊運営   作:アイノ

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もう1本の小説もそうですが、最近投稿ペースが遅いですね……申し訳ありません。
もう少しペースを上げられるよう頑張ります。


第09話 新たな風

コンコン

 

「失礼する」

 

「……っ!」

 

北方棲姫が目を覚ましたとの連絡を受け、長波と共にドックへとやってきた。

急に入ってきた人間の姿にビクッとしながらも、北方棲姫はこちらを見つめている。

パッと見る限り艤装が復活している様子は無く、とりあえず鎮守府内で暴れる心配はなさそうだ。

 

「彼女にこっちの言葉は分かるのか?」

 

「多分通じるはずだぜ」

 

「そうか……」

 

いつまでも入り口で様子を伺っていても仕方ないので、北方棲姫の元へ歩み寄る。

こちらを警戒しているのか、多少ビクビクしながらも北方棲姫は視線を逸らさない。

 

「目が覚めたようでなにより。こちらの言葉は分かるかい?」

 

「……ウン、ワカル」

 

「それならば良かった。私は一応ここの提督で、こっちは艦娘の長波だ。君は北方棲姫で間違いないか?」

 

「ウン……デモ、ナンデニンゲンノテイトクガ、ワタシヲタスケタ?」

 

「話せば長くなるんだが、正確には提督モドキなんだ、私は」

 

「……モドキ?」

 

「ああ、実は……」

 

とりあえずこちらの現状を一通り説明する。

本来ならば情報漏えいがどうだとか上から文句を言われそうだが、正式な鎮守府でない以上知ったことではない。

そんな糞の役にも立たない事なんかよりも、長波達をこの島から出してやる方法の方が重要なのである。

長くなり過ぎないよう適度に説明をすると、北方棲姫は一度だけ大きく頷く素振りをした。

 

「ナルホド……ソレデ、ワタシハコレカラドウナルノ?」

 

「とりあえず君の艤装は壊れている様だし、暴れたりしない限りはこちらから危害を加えるつもりは無い。だいぶ消耗していたようだし、今は体を休めることを第一に考えるといい」

 

「ジンモントカシナイノ?」

 

「そのつもりは無い。この島を出ることが最優先とは言ったが、少なくとも今のところは急ぐつもりもないよ」

 

「ソウ……」

 

「ああ。……そういえば、君たちは普段何を食べているんだ?一応果物を持ってきたんだが食べられそうか?」

 

「イツモハ、サカナトカカイトカヲタベテル。クダモノ?ッテイウノハ、タベタコトナイ」

 

「うへぇ、魚介類ばっかりかぁ。流石に飽きそうだなぁ」

 

「そうだな、それに栄養も偏りそうだ。とりあえず皮を剥いておくので、少し食べてみると良い」

 

ここに来る途中に食堂から持ってきたリンゴの皮を剥こうとし、ふと手を止める大樹。

長波が不思議に思っていると、皮を剥くのをやめ先に6等分にし始めた。

そして慣れた手つきで切れ込みを入れ、一部の皮を剥いて北方棲姫に手渡す。

 

「ほう、うさぎ型に切ったのか。相変わらず器用な事するねぇ」

 

「なに、やり方さえ知っていれば難しいものではないさ。もちろん似合わない事も重々承知の上だがね」

 

皮を剥きながら長波と軽口を言い合っている間、北方棲姫の視線はリンゴに釘付けだった。

期待しているのか、不安がっているのかは分からないが、しばらくリンゴを見つめた後に思い切ったようにひと齧りする。

そして瑞々しい甘さと程よい酸味に口の中を支配された北方棲姫は、最初こそ驚いた表情を見せていたものの、気付けば蕩けたような笑みに代わっていた。

 

「オイシイ!コレオイシイ!!」

 

「そうか、それならよかった。魚介類では出せない味だから心配だったが……」

 

「モットタベタイ!」

 

「慌てずとももうすぐ剥き終わる……っと。ほら、全部食べていいぞ」

 

「ンン~、ナンコタベテモオイシイ!ソレニカワイイ!」

 

「海にはウサギはいないし、いらぬ気づかいかと思ったが、喜んでくれたようでよかった」

 

どこからか「ウサギはいるピョン!ぷっぷくぷ~!!」という抗議の声が聞こえて来た気がしたが気のせいと言う事にしておき、皿に盛られたリンゴを両手で掴んで美味しそうに頬張る北方棲姫を眺める。

確かに肌や髪は白いが、こうやって見ると人間の幼な子と何ら変わりがないように見える。

もちろん私自身が彼女達深海棲艦と戦った事が無い、というのも大きいとは思うが。

 

「食べながらで良いので教えてほしい。君はここがどこだか分かるかい?」

 

「……ワカラナイ。キヅイタラココニナガサレテタカラ……」

 

「そうか……」

 

「タダオボエテルノハ、ミタコトモナイヤツラガセメテキテ、スミカヲオワレタコトダケ……」

 

「見たことの無いやつら?それは艦娘とは違うのか?」

 

「タブンチガウ。ドチラカトイウト、ワタシタチニチカイイキモノ。デモミタコトナイヤツラデ、ミンナシズンデ……ウウ、オネエチャン……」

 

「す、すまない。辛い事を思い出させてしまったな」

 

「やーい泣かせたー!」

 

「やかましい!……それで、お姉ちゃんと言うのは?」

 

「コーワンオネエチャン……オナジシンカイセイカンデ、イツモヤサシクシテクレテタ……」

 

「なるほど……できれば会わせてあげたいが、さっき説明した通りこちらもこの場所については全く知らないんだ。申し訳ない……」

 

「ンーン、ダイジョブ。ナイテバカリイルト、オネエチャンニオコラレル」

 

「そうか、強い子だな君は……」

 

「ン……」

 

北方棲姫の健気な姿に心を打たれたのか、思わず頭を撫でてしまう。

彼女も嫌がる素振りをせず、気持ちよさそうに目を細めている。

そして疲れがたまっていたのか、いつの間にかウトウトとし始めていた。

 

「眠いのか?」

 

「ン、ネムイ……」

 

「このドック、傷はある程度癒えても、体の疲れまでは取れないみたいだからな。まだ傷も治りきっていないようだし、眠いのならそのまま眠ってしまって構わない」

 

「ワカッタ……アリ…ガトウ……テートク……」

 

「……」

 

こちらへのお礼を言い終えたのとほぼ同時に、睡魔に負けてしまったようだ。

起こさないようゆっくりとドックへ寝かせると、長波と共に部屋を後にする。

ドック内には北方棲姫の静かな寝息だけが響き渡っていた。

 

 

 

 

「んで、これからどうすんのさ?」

 

「とりあえずは鎮守府で面倒見るしかあるまい」

 

「皆納得するかねぇ……」

 

「してもらわんと困る。あのような姿を見せられては、おいそれと追い出す気にもならんよ」

 

そう言いながら皆への説明内容を考える。

考えるも何も、とりあえずありのままを伝えて、しばらくこの鎮守府に置いておく事を伝えるだけなのだが……

助けられた恩義を感じているのか、皆異常なほど大樹に懐いている為、深海棲艦のしかも親玉クラスと一つ屋根の下で暮らすことに異議を申し立ててくる可能性が高い。

とはいえ先ほども言った通り追い出す事もできないので、なんとか納得させる方法を模索しているのだが……

 

「やはり反発は免れないか……」

 

「だろうねぇ。提督を命の危険に晒すなんて、とてもじゃないが皆が許すとは思えないぞ。あたしだって実際に会うまでは納得できなかったんだし」

 

「ふむ……どうしたものか」

 

とりあえずこの事を知らせなければ皆の反応も分からないので、所属艦娘全員を食堂へ集める。

そして、何事かとざわめく彼女達に説明を始めたはいいのだが……

 

「断固反対だ!」

 

「長門……」

 

艦隊のまとめ役となりつつある長門が、真っ先に異議を申し立てて来た。

さらに長門に続くかのように、あちこちからも反発の声が上がっている。

予想はしていたが、ここまで反対されるとは思わなんだ。

 

「提督は我々にとって命の恩人というべき人だ。その人の願いとあっては叶えてあげたいが、それが原因で危険に晒すことになっては本末転倒だ」

 

「しかしだな、長門……」

 

「現在彼女が戦闘できない事は理解した。だがもし仲間を呼ぶ方法を隠し持っていたとしたらどうする?」

 

「それは……」

 

「分かってくれ提督。これは提督の為なんだ」

 

長門の熱弁に後ろの艦娘達も同意の意思を示している。

これは困った……はて、どうしたものか。

 

「長門さん、1ついいか?」

 

「長波か。本当は初期艦であるお前が止めなければならないんだぞ」

 

「それはそうなんだけどさ……少なくとも今の北方棲姫が提督に害を及ぼす事は無いと思うぞ」

 

「理由は?」

 

「勘……かな。実際に北方棲姫に会えばわかると思うけど、あいつが提督をどうこうできるとは到底思えないんだよ」

 

まさか「勘」と来るとは思っていなかった長門は思わずため息をつく。

 

「実際に会った長波がそう言うか……しかし」

 

「ここはあたしに免じて、しばらく様子を見させてやってくれないかな?それとも、長門型のネームシップともあろうお方が、提督を守り切る自信がないと?」

 

「言ってくれるなぁ長波。わかった、とりあえず暫く様子を見よう。だが少しでもへんな真似をしたら……」

 

「その時は提督の意見関係なく追い出せばいいさ。な、いいだろ提督?」

 

「あ、ああ……それで皆が納得してくれるなら」

 

最終的には長波の意見が通り、暫く様子見として北方棲姫を鎮守府に置くことに決まった。

もちろん北方棲姫の監視や大樹の護衛などは行うようで、「ローテーションはこちらで決める!」と追い出されてしまった。

どうも長波に発破をかけられたせいか、長門は妙に張り切っていた。

おかしなことにならなければいいのだが……

 

 

 

 

「ん~~、ほっぽちゃんは可愛いでちゅね~♪」

 

「ハナセ!ハナッ……カエレ!」

 

「……どうしてこうなった」

 

「あたしにも分からん……」

 

あれから数日後……長門は真っ先に懐柔されていた。

姉妹艦の陸奥が言うには、長門は元々可愛いもの好きだったらしく、そこへ来て北方棲姫の幼子のような振る舞いに胸を打ちぬかれたようだ。

尚、ここまでひどい変わりようは無いにしても、既に鎮守府のマスコットとして皆に愛されるようになっていた。

おかしなことにはなったが、心配していたような結果ではないようなので、まあ良しとしよう。

 

「とりあえずは嫌われてないようで安心した。これも長波のおかげだな」

 

「ふふ~ん、長波様にかかればこんな問題楽勝だよ!」

 

「だとしても助けられた事に変わりはない。何か礼をしたい所だが……いかんせんこんな孤島ではな……」

 

「貸し1つってことにしておくよ。あとで返してくれよ?」

 

「無理難題でなければな。覚えておこう」

 

「やりぃ!」

 

指を鳴らして喜ぶ長波の後ろでは、北方棲姫が未だに長門に拘束されてもがいていた。

深海棲艦まで増え始め、今後どうなるのか想像もつかないが、とりあえず今はこの平和を噛みしめることにしよう。

 




ほっぽちゃん が なかまになった!
長門さんがながもんになりつつありますが、キニシナイ

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