漂流者の艦隊運営   作:アイノ

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現在編
第07話 現在の日常


「この鎮守府も、随分と仲間が増えたものだな」

 

飲み終えたコーヒーカップをソーサーの上に置きながらポツリと呟く。

だいぶ長々と思い出に浸っていたようで、最後のひと口は完全に冷めていた。

メタな事を言うのであれば、5話分くらい回想していただろうか。

 

「ホントだよなぁ……俺らもここまで増えるとは思わなかったよ」

 

「流石に異常ですよね。元の建物じゃ部屋が足りないからって、妖精さんに増築してもらった位ですし」

 

「まあ、何故か漂着する食料も比例して増えるんだ。私のやる事も変わらないさ」

 

そう、未だに鎮守府の仲間は刻一刻と増えているのだ。

瑞鶴が漂着して以降も数日に1人のペースで増え続け、今や50人を超える大所帯となった。

流石に相部屋にしても部屋数が足りなくなって来た為妖精に相談してみたところ、数時間で3階が出来上がっていた……本当に未知の技術である。

ちなみに、不定期に漂着するコンテナを資材にして溜めていた為、増築用の資材には事欠かなかった。

まあ未だに燃料や弾薬、あとはボーキサイト(後で知ったことだが、空母の運用には必要不可欠との事)については、待てど暮らせど一向に漂着しないのだが……

 

「さて、そろそろ食堂の開く時間だ。朝食を食べに行くか」

 

「おっ、もうそんな時間かぁ」

 

「司令といると時間が過ぎるのが早いです。不思議ですよね」

 

そんな事を言いながら微笑みかけてくる萩風。

果たしてそれはいい意味なのか悪い意味なのか……過去の記憶が無いので女性の接し方について不作法が無いか常に心配しているのだが、彼女の笑顔を見る限り不快な思いはさせていないだろうと思う。

こういう場合も何と返せばいいか分からなかった為、とりあえず微笑み返しておく。

 

「そうと決まれば早めに行くか。一航戦に後れを取るわけにはいかん」

 

「うーい」

 

「はい、司令!」

 

3人分のコーヒーカップを水に浸けてから、執務室兼私室を後にする。

一同が目指すは食堂、朝の戦場である。

 

 

 

 

「お、提督じゃんか。今から朝食か?」

 

「長波か、おはよう。今日は2人のお蔭で早めに目覚めたからな」

 

「2人?……ああ、嵐と萩風か」

 

「うーっす、長波!」

 

「おはよう、長波」

 

「おはよー。なるほど、そう言えば昨晩は荒れてたもんな」

 

「えへへ……」

 

「未だにああいう夜は苦手だぜ……」

 

朝の挨拶を済ませると、長波を加えて食堂へと向かう。

食堂に近づくにつれ、朝食のいい香りが漂ってくる。

それにつれて腹の虫が騒ぎだしたのを感じ、思わず少し早足になる。

 

3人と歩くこと数分、食堂の扉までやってくる。

既に結構な人数が集まっているのか、扉越しにワイワイとした雰囲気が漂ってくる。

 

「む、今日はみんな早いな」

 

「やっぱり昨日の嵐でよく眠れなかったんじゃないか?」

 

「かもしれないな……」

 

「ん、呼んだか?」

 

「嵐じゃなくて、天気の嵐の方よ……」

 

「ややこしいな。ゲシュタルト崩壊しそうだ」

 

「ホントだよ……」

 

「まあまあ……とりあえず入りましょう?」

 

萩風に促され食堂に入ると、既に全体の半数以上が集まっており、各々仲が良いもの同士で集まって朝食を摂っていた。

カウンターへ朝食を取りに行く途中、大樹が来たことに気付いた艦娘達が次々と挨拶していく。

運よく早めに気付いた者の中には、髪形を確認したり人1人が座れるよう席をずれたりしているが、割と空腹が限界な大樹は気付くことも無く進んでいく。

 

「おはよう鳳翔、間宮」

 

「おはようございます、提督」

 

「あら、おはようございます。提督も今日はお早いのですね」

 

「ああ、早めに目が覚めたからな。2人も朝早くからすまないな」

 

「いえいえ、好きでやっている事ですから」

 

「そうですよ!……まあ欲を言えば、久しぶりに甘味なんかも作りたいんですけどね……」

 

「缶詰の小豆でも漂着すればよいのだがな……」

 

挨拶もそこそこに、鳳翔から朝食が乗ったトレーを受け取る。

ちなみに間宮もここに漂着した艦娘であるが、彼女は非戦闘艦である。

無論例に漏れず真っ黒な鎮守府にいた訳だが、もちろん最初は出撃した事もなかったそうだ。

しかし、度重なる味方の轟沈で戦闘艦が減ってくると次第に出撃にも回されるようになり、最終的にはやはり味方の盾にさせられたそうだ。

さらに彼女は普段ずっと鎮守府にいた事もあってか、提督の悪行をずっと目の前で見せられていたのだろう。最初は私にも心を開いてくれなかった。

泣きながらこちらに単装砲を突き付けながら「もう人間を信じられない」と告白された時は、本当にどうすればいいのか分からなかった。

しかしここで暮らすうちに少しずつ打ち解けていき、今ではお互いの間にわだかまりは無くなった……と思う。

 

「ふふ……」

 

「どうしました提督?珍しくご機嫌なようですが」

 

「いやなに、間宮も随分と打ち解けてくれたなと思ってな」

 

「それは……あの時はまだ人間を信じられなくて……」

 

「責めている訳じゃないさ。君がいた鎮守府の環境下にずっといたら、誰だって人間を信じられなくなる。同じ人間として恥ずかしい……本当にすまないと思っている」

 

「もう!提督はいつもそうやって自分を悪く言うんですから……提督には感謝しきれないほど助けられているんですから、頭を上げて下さい!」

 

「間宮さんの言う通りですよ、提督。あなたが受け入れてくれたから私たちは新しい生活に踏み出すことが出来たんです。だからもう同じような事で謝らないで下さいね?」

 

「……ああ、分かったよ。ありがとう」

 

逆に2人に励まされてしまうとは情けない……そう思いながらも、なんとなく心の枷が1つ取れた様なすがすがしい気分だ。

とりあえず2人に感謝を告げた後、朝食のトレーを持ったまま座れそうな席を探す。

見回してみると、いつの間にか朝食を受け取っていた長波たちがこちらに手を振っているのでそこへ向かう。

開けた席に座ってもらえなかった艦娘達が小さなため息をつくが、大樹には聞こえていなかった。

 

「すまん、遅くなった」

 

「なんかやらかしたのか?間宮さんに頭下げてたけど……」

 

「いや、何でもないんだ。気にしないでくれ」

 

「??」

 

あんまり納得してなさそうな長波を適当にあしらいつつ、朝食に手を伸ばす。

この鎮守府では出されることの多い焼き魚定食ではあるが、鳳翔と間宮が毎回味を変えてなるべく飽きないよう工夫してくれているので、そこに不満を漏らす者は未だいない。

今日の焼き魚も美味そうだ、と考えながら箸を伸ばそうとすると、誰もいなかったはずの右側から口元に魚の切り身が寄せられる。

驚いて振り返ると、ニコニコとした笑みを浮かべた鹿島が箸を伸ばしていた。

 

「はい提督さん、あーん♪」

 

「いや鹿島、ケガしてるわけでもないし、自分で食べられるぞ……」

 

「あーん♪」

 

「だから鹿島……」

 

「あーーーん♪」

 

「……」

 

これは絶対に引かないつもりだな……

仕方が無いので、差し出された魚を頬張る事にする。

……なにやらこちらを向く視線が強くなった気がするが、気のせいとしておこう。

 

「うふふ、美味しいですか?」

 

「あ、ああ……」

 

「じゃあ次はご飯ですね。はい、あーん♪」

 

「まだ続くのか……」

 

「おーおー、鹿島さんやるねぇ!」

 

「羨まし……ハッ!?私は何を……」

 

「はぎぃも参戦してくればいいんじゃね?」

 

「無理無理!恥ずかしくて死んじゃうよ……」

 

「お前ら……頼むから助けてくれ」

 

「いいじゃんか提督。役得ってやつだよ」

 

「……」

 

その後、結局すべて食べ終わるまであーんは続いた。

途中から観戦に徹していた艦娘の一部が参戦してきた事もあり、朝食に有した時間は実に1時間にのぼった。

 

 

 

 

「なあ提督、機嫌直してくれって~」

 

「……」

 

「途中で助けなかったのは悪かったけどさ、何もそこまで怒らなくても……」

 

「……怒ってなどいない」

 

「嘘つけ!声色が既に怒ってるじゃんか!」

 

朝食後、途中で助けなかったことを謝罪してくる長波と執務室へ戻る。

実際本当に怒ってはいないのだが……ちょっとした意趣返しという奴だ。

接しやすい長波だからこそ出来る対応ではあるが、自分も随分と子供っぽい所があるなと改めて感じる。

 

「冗談だ。まあ助けて欲しかったのは本当だが、彼女達も悪気があっての事ではないからな」

 

「なんだよビックリさせんなよなぁ……」

 

「すまんすまん」

 

「……ま、お互い様ってことで。んで、今日はどうするんだ?」

 

「どうするも何も、やる事はいつもと変わらんさ。とりあえず漂着物を確認しに行くぞ」

 

「あいよー。今日は何が着いてるかねぇ……」

 

「間宮にも言われたが、小豆でも漂着していれば良いのだがな。もし漂着していれば、間宮特製の甘味が味わえるぞ」

 

「マジか!?間宮さんの甘味は絶品っていう事は何故か覚えてるんだけど、食べた記憶は無いからな……」

 

「あくまで漂着していれば、の話だがな。それに加工品の缶詰となると間宮の本領が発揮できるかどうか……」

 

「何にしても、貴重な甘味であることに変わりないんだ。漂着してる事を祈りながら見に行こうぜ!」

 

「ああ、そうだな」

 

既に目が輝いている長波は、スキップでも始めそうな勢いで歩を進めていく。

彼女の願いが叶う事を祈りながら、大樹も後に続くのであった。

 




流石に50人全員を紹介していく訳にもいかないので、一部だけ名前を出しました。
今後もちょっとずつ小出しにしていこうと思います。
(まだ決まっていないとも言う)

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