戦利品を抱え鎮守府まで戻ってくると、長波が待ち構えていた。
そういえば釣りに行く旨を伝え忘れていた。
「おーい提督!やっと帰ってきたか」
「すまん、2人に栄養のあるものをと思って魚を釣ってきた」
「ってマジか!?生まれてから木の実しか食べてなかったから楽しみだぜ!」
「そう言えばそうだったな……すまん」
「いやいや、提督のせいじゃないっしょ……って、そっちに抱えてるのは何だ?」
「こっちはレトルト食品ってやつだな。例のコンテナの中に入っていた」
抱えていたレトルトパウチのカレーを見せると、長波はパウチの文字をじっと見つめる。
心なしかさらにテンションが上がった気がする。
海軍と言えばカレーという事で、やはり軍艦もカレーが好きなのだろうか?
「ほうほう、これがカレーか」
「やっぱり好きなのか?カレー」
「もちろん食べた事は無いけど、なんつーかこう……心が躍る感じがするよ」
「そういうもんか……」
しばらく眺めて満足したのか、パウチを返してくる。
いや、そのまま持って行ってくれるとありがたいのだが……
「そう言えば、先ほどは私を探してたようだったが……何かあったのか?」
「あ、そうそう!2人が目を覚ましたんで呼びに来たのさ。そしたらどこにも居ないから探してたってわけ」
「そうか、目を覚ましたか…それはよかった」
「ああ、安心したよ。そんで2人が提督に会いたいって言ってるんだが」
「わかった、すぐに向かおう」
とりあえず魚とレトルト食品を食堂へ持っていく。
できれば冷蔵庫があると助かるのだが……人間にはない技術を持っているらしいので、あとで妖精に相談してみる事にする。
そんな事を考えているうちに、2人を連れて来たという部屋の前まで来ていた。
軽くドアをノックし了承を得てから中に入ると、嵐と萩風がこちらを向いて立っていた。
「失礼する。よかった、2人とも元気になったようだな」
「あ、あのっ、この度は助けて頂き、ありがとうございます!」
「ほんとサンキューな、司令!流石に沈んだかと思ったぜ……」
「ちょっと嵐!司令の前なんだから言葉遣いくらいちゃんとして!……すいません司令」
「いや構わない。私も正式な提督ではないからな」
「え?それはどういう……じゃあここは一体?」
「……長波、説明してなかったのか?」
「あー、忘れてたよ。いいじゃん、1から説明しようぜ」
「全く……」
悪びれも無くそんな事を言う長波にため息をつきながら、とりあえず2人に現状の説明をする。
2人は最初こそ驚いていたものの、話が終わるころにはとりあえず落ち着いたようだ。
「そういう訳なので、しばらくはこの島を出ることは出来ないんだ……申し訳ない」
「いえそんな……顔を上げて下さい、司令!」
「そうだよ、司令のせいじゃないんだし。のんびり行こうぜ!」
「そう言ってもらえると助かる」
とりあえず2人とも、ここでの生活に納得してくれたようだ。
ホッとしている所に、萩風から素朴な質問が投げられた。
「そう言えば、この鎮守府には妖精さんっていないんですか?」
「いや、いるぞ。ちょうど君たち2人を鎮守府へ連れて来た時に、初めて姿を見せてくれたよ」
「2人を入れたドックの準備をしてくれたのも妖精だぜ」
「では妖精さんに頼んで、司令を乗せる船を作ってもらって、それを私たちが引っ張っていくっていうのは……?」
「できなくはないと思うが、燃料等の資材が無くてな……それに私も記憶が無いので、どの方角に行けば帰れるか分からないんだ」
「あ、そうですよね……ごめんなさい」
「バカだなぁはぎぃは」
「嵐うるさい!」
じゃれ合う2人を見つめながら、再度この場所の事を考える。
先ほど「どの方角に行けばいいか分からない」とは言ったが、ある程度は予測がついている。
コンテナが流れ着いていたことを考えれば、2人が流れ着いた海岸から出れば、少なくとも輸送船などの航路にぶつかる可能性は高いだろう。
だが、やはり燃料の問題もありチャンスは1度しかないし、慎重に行きたいというのが本音だ。
それに、下手に希望を持たせてがっかりさせるのは、2人の精神衛生上よろしくないだろう。
長波は別として、2人にはちゃんと帰るべき場所があるのだから。
「そう言えば、2人はどこの鎮守府の所属だったんだ?」
「あ、それは……」
「横須賀第3鎮守府だぜ」
なぜか言いにくそうにする萩風の代わりに嵐が答えてくれた。
答えてはくれたものの、2人の表情は硬い……はて、聞いてはいけない事だったのだろうか?
「すまない、聞いたらマズい事だっただろうか?」
「いや、そんな事はねぇよ。どこから来たのか確認するのは当たり前だと思うし。だけどなぁ……」
「うん……」
「??」
「あー、うちの鎮守府は所謂ブラック鎮守府とか言われる類でさ……無理な出撃や遠征、補給は最低限、艦娘を兵器としか見てないから轟沈やむなしっていう所だったんだよ」
「ブラック鎮守府……」
「今回輸送船が敵に奇襲された時も「駆逐艦を盾にしてでも輸送船は守れ!任務の失敗だけは絶対に許さん!」って言われてさ……最終的にはこのザマって訳だ」
なるほど、これでは2人の表情も硬くなるわけだ。
ブラック鎮守府という言葉自体は初めて聞いたが、2人を見ればどれだけ過酷な環境だったのかが見て取れる。
「そうだったのか……嫌なことを思い出させてしまって済まない。しかしそうなると、いざ帰れたとしてもどうするべきか……」
「あ、あのっ!」
「ん?」
今まで俯いていた萩風が急にこちらを向いたかと思うと、必死な表情でこちらを見つめていた。
何か考えがあるのだろうか?
「できれば、私達2人をここで建造された事にしてくれませんか?」
「はぎぃ……」
「残ってる皆には申し訳ないけど、もうあの鎮守府には戻りたくない……」
「……」
目に涙を浮かべながら懇願する萩風。
私としては問題ないのだが、そのような事が可能なのだろうか?
「長波、2人をここで生まれた事にすることは可能か?」
「大丈夫なんじゃね?身体に焼き印でも捺されてるなら別だけど」
「ふむ……ならば問題ないな。2人がそれでいいのなら、ここで生まれた事にしよう」
「あ、ありがとうございます、司令!」
「戻らなくて済むのか……よかったなはぎぃ。司令もありがとな」
泣きながら喜ぶ萩風を嵐が抱きしめ、互いに喜びを分かち合っている。
しかし、人間の為に命を懸けて戦ってくれている彼女たちにそのような仕打ちを与えるとは……顔も知らないその提督に怒りを覚える。
彼女達を盾にするなど、やる事がもはや人間のそれではないな。
「だが私は正式な提督ではないから、無事に戻れたとしてもどうなるか分からんぞ?それでもいいのか?」
「はい。あの鎮守府に戻るくらいなら……」
「いっそ艤装を解体して、司令に養ってもらうってのはどうだ?」
「あ、嵐!?何言ってるの!」
「いいね~それ。その時はあたしも一緒に養ってくれよな」
「長波さんまで……」
「おいおい……」
そんな話で盛り上がっているうちに、先ほどの暗い雰囲気が霧散していることに気付いた。
まあ私にどこまでできるか分からないが、少なくともこの子達を無事に本土へ帰すまでは全力で事に当たろう。
じゃれついてくる皆の相手をしながら、そう決心するのだった。
メインの小説の方はオチを考え中です。
先にこちらの構想が練りあがったのでUP。
早く回想編終わらせたいなぁ……