漂流者の艦隊運営   作:アイノ

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中途半端にしておくのもアレなので、もう一つの小説と並行して投稿していきます。


第04話 新たな同居人、そして……

長波との出会いから早くも数日が経過していた。

あの後2人でこの島の脱出方法を模索したが、やはり具体案は出てこなかった。

というわけで、現在2人でサバイバル生活を絶賛継続中な訳だが、労働力が実質2倍になったおかげでいろいろと他の事にも手が回るようになってきた。

 

現在、長波は水の確保に向かっており、大樹は鎮守府カッコカリでとあるものを作っていた。

全てが現地調達&手作りの釣り道具である。

竿はしなりがよく折れにくそうな木の枝をチョイス。糸は繊維質な木の幹を剥いで繊維を1本1本剥がし、数本を編み込んで丈夫さを持たせる。

針は小さい木の枝の両端を削ったもの、そしてウキは流れ着いた流木を干して乾かしたものを使用。

エサは浜辺で採取したイソメを使用するつもりだ。

正直これで釣れるかどうか分からないが、人が居ない分魚もスレていないだろうからきっとどうにかなるだろう。

 

ちなみに「女性に水汲みを任せるとは何事か!」というお叱りが飛んできそうな気もするが、彼女達艦娘というのは通常の人間よりずっと力持ちのようで、最近見つけたポリタンクに満タンに水を入れたものを軽々と持っていた。

艦娘については正直まだ分からない事だらけではあるが、普通に接する分には人間の女性と何ら変わりはない。

そのうえ艦娘の戦闘というものを未だ見たことが無い為、彼女たちが水上を走り、深海から迫る道の怪物たちと戦っていると言われてもピンと来ないのも事実である。

そんな事を考えながら仕掛けを作っていると、息を切らした長波が戻ってきた。

 

 

「て、提督……」

 

「どうした?そんなに息を切らせて……」

 

「いいからちょっと来てくれ!」

 

「お、おい!!」

 

 

半ば無理やり手を引かれながら長波の後を追う。

何やら緊急事態の様だが、まさか助けでも来たのだろうか?

手を引かれるまま砂浜へと来た大樹の前には、救助隊ではなく大きなコンテナが流れ着いていた。

 

 

「ハァ、ハァ……提督、あれを見てくれ」

 

「……ふむ、珍しく大物が流れ着いたな」

 

「いや、コンテナもそうだけど、その向こう!」

 

「向こう……って、あれは人か!?」

 

「いや、あの2人も艦娘だよ。陽炎型の嵐と萩風……だったかな?コンテナと一緒に流れ着いたって事は、護衛任務中に敵襲にあったと見た」

 

「なるほど……まだ息はあるのか?」

 

「とりあえずまだ息はある。けどこのままじゃ……」

 

「わかった。とりあえず2人を鎮守府まで運ぶぞ。そのために呼んだのだろう?」

 

「さっすが提督!話が分かる男だね!」

 

「ここで見て見ぬ振りができるほど、落ちぶれちゃあいないさ」

 

 

そう言いつつ嵐を背負う大樹。そしてもう1人の萩風は長波が背負う事に。

流石の長波でも、2人を背負って戻ってくるには荷が重すぎたのだろう。

……長波なら頑張れば運べそうな気がしたのは内緒だ。

 

 

「大丈夫か提督?」

 

「問題ない。それより、2人の治療に必要な物はあるか?」

 

「うーん、とりあえずは人間と同じでいいんじゃないか?高速修復剤とかあればよかったんだけどなぁ……」

 

「高速修復剤?」

 

「艦娘の傷を一瞬で治す魔法の薬さ。何で出来てるのかは知らないけどね」

 

「……大丈夫なのか、それ?」

 

「さぁ……あたしも知識として持っているだけであって、使った記憶はないからな」

 

「そうか……」

 

「せめて妖精が居ればよかったんだが……提督は見た事ないよな?」

 

「あの建物に住み始めて数日経つが、未だ見た事はないな」

 

「だよなぁ。あそこにはもう妖精はいないのかねぇ……」

 

 

ため息をつきながらうなだれる長波。

まあ居ないものはしょうがない。出来る範囲で介抱してやるしかあるまい。

頭の中で必要なものを考えながら、2人は鎮守府へと歩みを進めるのであった。

 

 

 

 

鎮守府へと戻ってきた2人は、思わず入り口前で立ち止まってしまう。

長波に至っては、開いた口が塞がらないといった感じである。

それもそのはず、鎮守府入り口で多数の妖精が勢揃いしていたのだから。

 

 

「長波、これはもしや……」

 

「ああ、さっき話してた妖精だよ。しっかし、こんなにいたとはなぁ……」

 

 

お互いに現実を確認しつつも、目は妖精に釘付けになっている。

そして当の妖精はそれぞれ「オカエリナサイー」とか「オフロジュンビデキテマスー」とか言っている。

……お風呂の準備というのがイマイチ理解できないが。

そんな中、最前列の中央にいた妖精が一歩前へ出ると、他の妖精よりもずっと流暢な言葉で話し始めた。

 

 

「はじめまして提督さん、長波さん。そしてずっと姿を見せず申し訳ありませんでした。私たちはこの鎮守府の妖精です」

 

「あ、ああ、はじめまして。正式な提督じゃないんだが、長波からは提督と呼ばれてる長谷川大樹だ」

 

「存じ上げております。提督がここにいらっしゃってからずっと、訳あって観察してましたので」

 

「観察?」

 

「ええ。『今度の提督の人柄』を知るために、あえて姿を見せず監視させて頂いてました」

 

「なるほど……いろいろ訳ありだったのだな。では、姿を見せてくれたという事は……」

 

「貴方になら力をお貸ししてもいいと、私達で相談して決めました。これからは出来うる限りお力添え致します」

 

「そうか、助かるよ。では早速出悪いんだが……」

 

「お二方の介抱ですね、お任せください。入渠ドックの方は準備できておりますので」

 

「話が早くて助かる。入渠ドックとやらまでは我々で運ぼう」

 

 

傍らで未だ呆けている長波に声をかけ、入渠ドックへと向かう。

ドック内は人間1人が入れるサイズの湯舟が4つ並んでおり、湯舟には薄緑色のお湯のようなものが張られていた。

……なるほど、先ほどの「お風呂の準備」というのはこれのことか。

 

 

「この施設で2人を治療することが出来るのか?」

 

「はい。このドックには艦娘用の修復剤が混ぜられてますので、湯船に浸かっているだけで治療することができます」

 

「そういう事か。では長波、2人の介抱を頼んでもいいか?流石に私が服を脱がせるわけにもいかんからな」

 

「はいよー。長波サマにお任せあれ!」

 

 

2人の対応を長波に任せ、入渠ドックを後にする。

いろいろ準備が必要だと思っていたが、妖精たちのおかげでやる事が無くなってしまった。

はて、どうしたものか。

 

 

「……体の傷は治れど、体力までは回復するかどうか分からんしな。ここは1つ、食事に華を咲かせるために一働きするか」

 

 

そう1人呟くと、先ほど作っていた釣り道具を持ち、先ほどの海岸へと引き返すのだった。

 

 

 

 

「ふむ、急ごしらえではあるが、思ったより使えるものだな」

 

 

本日5匹目の釣果を傍らに置き、それらを眺めながらぼそりと呟く。

本日の釣果はメバルが3匹とイシモチが2匹。

あまり大きなサイズではないが、あまり大きいと糸が切れてしまう可能性もあるので、丁度いいサイズと言えよう。

予め用意してあった蔓を5匹のエラから差し込み、まとめて持てるよう細工する。

これ以上釣っても、冷蔵庫が無く暖かいこの時期に保存する術がないので、この辺りで切り上げることにした。

 

「これとは別に、確認したい事もあるしな」

 

 

そう言いつつ向かったのは、2人が漂着していた浜辺である。

もちろん、一緒に流れ着いていたコンテナの中を確認する為である。

コンテナの扉を開けられるかという心配もあったが、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。

扉を開けて中を確認すると、予想通り食料が積み込まれていた。

 

 

「レトルト食品や缶詰・瓶詰食品、調味料の類もあるな。浸水した形跡もないし、これは非常に助かるぞ」

 

 

だがいかんせん量が多すぎる。

とりあえず今持てる分だけ持ち帰り、後でまた取りに来ればいいだろう。

 

 

「既に2人も目を覚ましているかもしれんしな」

 

 

無事に目を覚ましていて欲しいと心の中で祈りながら、コンテナを後にする。

そして、久しぶりに木の実以外の食事にありつけそうな夕飯に、人知れず心を躍らせるのであった。

 




妖精!生きとったんかワレェ!!
という事で、妖精さんの登場でやっと鎮守府らしくなりそうです。

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