今回は珍しく番外編です。
そして気付けばお気に入りが100突破......
ありきたりな設定の為、ここまで読んでいただけるとは思っていなかったので、嬉しい限りです。ありがとうございます!
時刻[〇五〇〇]
起床の時間。
北方棲姫の朝は早い。
「ホ、ホプゥ……朝だ……」
まだ朝日の昇っていないうちに目を覚ます。
誰かに「早く起きろ」と言われたわけでもないのだが、深海とは違った環境のせいかどうしてもこの時間に起きてしまう。
とは言え、流石に起きて即眠気が無くなる訳では無く、まだ少し眠たそうな目を擦りながら洗面所へと向かう。
尚、口調がだいぶ流暢になっているのは、艦娘達に発音等をいろいろ教わったからである。決して作者がカタカナで書くのが面倒とかそんな理由ではない。いいね?
まだ大樹が鎮守府に来たばかりの頃は毎日水を汲みに行っていたが、今では妖精の謎技術により鎮守府内に水道が整備されている。
特殊な装置で海水を濾過しているらしいが、発電機と同じく詳細については「企業秘密」との事だ。
だが、各部屋まで配管を回すのは、さしもの妖精と言えども面倒なようで、今整っているのは食堂や入浴施設、共同の洗面所のみとなっている。
うつらうつらした北方棲姫が洗面所へ来ると、既に数名の先客が居た。
朝によく鉢合わせるメンバーだったこともあり、驚きもせず挨拶を交わす。
「ポ……おはよう……」
「あ、ほっぽちゃん!おはよ~」
「おはよう。今日も早いのね」
「おはよう北方棲姫。早起きなのは良い事だ。健やかな成長は規則正しい生活で培われるものだからな」
洗面所に居たのは、長良・大鳳・那智の3人だった。
この3人は自主トレーニングが好きなようで、晴れている日は必ず3人でジョギングをしているらしい。
そもそもこの島に雨が降る事自体かなり稀なので、ほぼ毎日と言ってもいい。
「早く起きられるなら、また私達と早朝ジョギングに行こうよ!」
「朝の空気は気持ちいいわよ。終わった後の朝ごはんも美味しく食べられるし」
「ふむ、いい案だな。どうだ北方棲姫?前は厳しくしすぎたが、今度は手加減するぞ?」
「朝から走るのは、ちょっとつらい……」
3人からの誘いに乗り気じゃないのは、スポーツが苦手だからではない。
以前1度だけランニングに誘われたことがあり、軽い気持ちで参加したら地獄を見たのだ。
特に、自分にも他人にも厳しいストイックな那智のコーチングは厳しく、ランニング後は朝食も食べずに昼までバタンキューであった。
もちろん那智とて北方棲姫をいじめている訳ではないのだが、トレーニングの事となるとどうしても熱が入りすぎてしまうらしい。
「そうか、残念だ……」
「今まで陸上を走ったことなんて無かったもんね。仕方ないよ」
「もし気が変わったら教えてね。ランニングじゃなくてもいいから」
「うん、ありがとう……」
そう言って3人と分かれた北方棲姫は、改めて顔を洗い始める。
既に先ほどの会話で7割方目は覚めていたが、やはり流水で顔を洗うとサッパリ具合が違う。
「ぷはっ……海の上なら負けないのに……むぅ」
そんな事をぼやきながら、洗い終えた顔をタオルで拭く北方棲姫。
以前のランニングで見せつけられた差を思い出したのか、その表情は心なしか悔しそうだった。
◇
時刻[〇五三〇]
次に北方棲姫は、日課となっているある場所へと足を運んだ。
この時間だからこそ人が居ないものの、あと2時間もすれば朝の戦場と化すその場所は、言わずもがな食堂であった。
北方棲姫が鎮守府に来た頃のわだかまりは既に姿形も無いが、それでも仲の良さには差が出るものである。
言動はともかく容姿が幼い北方棲姫は、とりわけ鎮守府でも大人な艦娘に大層気に入られていた。
言うなれば「北方棲姫LOVE勢」と言うのだろうか……そのうちの2人が既にここへ来ており、朝の戦場に華を添えるべくせっせと料理に勤しんでいた。
「鳳翔お姉ちゃん、間宮お姉ちゃん、おはよう」
「あら、ほっぽちゃん。おはようございます。また手伝いに来てくれたの?」
「うん。いつも優しくしてくれるから、恩返し!」
「おはようほっぽちゃん。ホントいい子ね……」
「えへへ……」
間宮に撫でられながら、北方棲姫はほんの少し照れながらも、ふんわりとした笑顔を浮かべる。
故郷の姉と生き別れたせいか、北方棲姫自信も姉のような存在である鳳翔や間宮達を大いに慕っていた。
そして彼女達に恩返しをしたいと大樹に相談したところ、早起きの利点を生かして「朝食の準備の手伝い」を提案されたわけだ。
「んと、ホッポは何すればいい?」
「じゃあちょうど今ジャガイモが茹で上がったから、ボールに入れて潰してほしいかな」
「じゃがいも……もしかして!?」
「そう、ほっぽちゃんの大好きなポテトサラダですよ♪」
「ポポ!頑張る!」
「他にもいろいろ食べさせてあげたいんだけど、ここだと日持ちする根菜とかしか無いですからね……」
「いつか向こうに戻れて、今みたいにここにいる皆で過ごせる、なんて事になってくれたら最高なんだけど……」
「元居た鎮守府には二度と戻りたくは無いですが、日常生活という面ではやはり不便ですからね、ここ。それに……」
「ほっぽちゃんの処遇もどうなるか分からないものね。こんな可愛くても深海棲艦なのだし……」
「ポッ……ポポッ……」
今度は鳳翔に撫でられながら、必死にジャガイモを潰していく北方棲姫。
隣で2人が少ししんみりした雰囲気になっている事などつゆ知らず。
北方棲姫の頭の中には、朝食に並んだホクホクのポテトサラダしか浮かんでいなかった。
だがそれが幸いしたのか、一生懸命作業を続ける北方棲姫を見つめる2人は、どちらからともなく笑みを浮かべた。
「とりあえず今は……」
「私たちの仕事を一生懸命にこなす、ですね!」
「ええ、そうね。あの提督に着いていけば、きっと大丈夫よ」
「そうですね!」
「ポ!じゃがいも潰し終わった!次は何すればいい?」
「じゃあ次は……」
北方棲姫の姿に勇気付けられた2人は、改めて朝食の準備へと戻る。
ニコニコと微笑みを浮かべている2人の姉を見て、何となく胸がポカポカする気持ちになるのだった。
◇
時刻[〇七三〇]
朝食の時間。
食べ始めるや否や、長門が食事を食べさせようと絡んでくる。
鳳翔に弓を構えられ、すごすごと引き下がる所までが毎朝の恒例行事である。
◇
時刻[一三〇〇]
朝食、昼食を済ませた北方棲姫は、当ても無く廊下を歩いていた。
どうやら昼食を食べ過ぎたようで、じっとしていると速攻で睡魔に負けそうだったからだ。
ちなみに昼食は、先日漂着した缶詰のランチョンミートを使用したジャーマンポテトだった。
肉類は加工品ですら貴重品の為殆ど食事に出てくることはないのだが、このランチョンミートに関しては驚くほど大量に漂着していたらしい。
尚、潜水艦組のゴーヤが「ゴーヤさえあればチャンプルーにできるのに……ぐぬぬ……」と唸っていた。
そんな昼食時の風景を思い浮かべながら歩いていると、前方から駆逐艦の艦娘が4人並んで歩いてきた。
「お、あれはほっぽちゃんじゃねーですかい?」
「ほんとだ、何やってるのかしら?」
「何か眠そうだね……」
「暇つぶしになる事でも探してるんじゃないかな?……多分」
前方からやってきたのは、綾波型の漣・曙・潮・朧だった。
その昔「第七駆逐隊」という隊に所属していたメンバーらしく、だいたいいつも4人で行動しているようだ。
4人とも北方棲姫とは遊び仲間であり、島の探検に行ったり、食材探しに行ったり、大樹にいたずらを仕掛けたり(主に仕掛けて怒られるのは漣)する仲である。
「ポ……どっか行くの?」
「いや~、やることが無くて暇だから釣りにでも行こうかと……」
「ほっぽちゃんも行く?」
「行く!」
「じゃあ釣り道具をもう1セット持ってこないとね」
「釣り道具もってるよ?テートクにもらった!」
「く、クソ提督からのプレゼント……別に羨ましくなんてないけど!」
何やら曙が1人でぷんすこしているが放置しつつ、北方棲姫も釣りセットを持って海岸へと向かう。
相変わらず雨が降りそうもない晴天の中、いつもの釣りスポットへとたどり着いた5人は、早速釣り糸を垂らす。
「ポッ、来たっ!」
「わぁ、ほっぽちゃんすごーい!」
「流石ご主人さまの英才教育に隙は無かった……!」
「何だかんだで、ほっぽちゃんが一番提督と釣りした回数多いよね」
「……むぅ」
大樹の指導の賜物か、次々と魚を釣り上げていく北方棲姫。
それに続くように漣達も数匹の魚を釣り上げる。
ちなみに、曙だけボウズであった……
◇
時刻[一五〇〇]
おやつの時間。
長門が大量のお菓子を抱えながら北方棲姫を誘う。
お菓子は欲しいが捕まるとまた面倒な事になるので、数個のお菓子を奪って逃走する。
長門は泣いた。
◇
時刻[一八三〇]
夕食の時間。
昼に漣達と釣ってきた魚が刺身となって食卓に並んでいた。
少し自慢げになりながら夕食を食べる北方棲姫の隣では、隼鷹と飛鷹が刺身に舌鼓を打っていた。
「新鮮な刺身ってのはいいねぇ~。惜しむらくは酒が無い事か……」
「贅沢言わないの。飲みたいのは隼鷹だけじゃないんだから」
「そうだけどよぉ……そう言えば、ほっぽは酒飲んだことあるのかい?」
「お酒……飲んだことないよ?」
「たとえ飲めるとしても、この子に飲ませちゃ駄目でしょ、絵面的に……」
「別に人間じゃないんだし、気にすること無いと思うんだがねぇ」
「飛鷹も隼鷹もお酒好き?」
「おお、もちろんさ!酒は私の命の源と言っても過言じゃないね」
「ここまで言い切るのはどうかと思うけど、お酒自体は私も好きよ」
「ふーん……おいしいの?」
「おっ、もしかして興味あるのかい?じゃあ今度漂着したら一緒に……」
「やめなさいっ!」
「あだっ!」
酒の席に北方棲姫を誘おうとした隼鷹だったが、飛膺に思いっきりシバかれる。
……ちょっと興味があったので、少しだけ残念に思う北方棲姫だった。
◇
時刻[二〇〇〇]
お風呂の時間。
ゆったりと湯船に浸かる北方棲姫に飛びつこうとする長門だったが、姉妹艦である陸奥の容赦ない第3砲塔チョップで阻止されていた。
尚、北方棲姫が風呂からあがってからもしばらく、頭にたんこぶを作ったまま湯船に浮いていたらしい。
◇
時刻[二二〇〇]
就寝の時間。
ふと姉の港湾棲姫の事を思い出して人恋しさを感じた北方棲姫は、枕を持って大樹の部屋へと向かう。
大樹もこれが初めてではないのか、夜中に訪ねて来た北方棲姫に驚きもせず部屋へと入れる。
「ポ……今日も一緒に寝ていい?」
「また姉の事を思い出したのか?」
「……うん」
「……仕方ないな、ほら」
「……ありがと」
1人分のスペースを開けてくれた大樹にお礼を言うと、もぞもぞと布団の中へ入っていく。
人肌で温められた布団が被さり、何とも言えない心地良さに包まれる北方棲姫。
以前大樹から「できる限り艦娘と一緒に寝るように」と言われ、数名と一緒に寝た事はあったのだが、どうしても大樹ほどの安心感を得ることは出来なかった。
結局大樹が折れる形となり、時折こうして一緒に寝るようになったのだ。
「あったかい……」
「そうか……眠れそうか?」
「うん……」
胸元に抱き付くような体制の北方棲姫の頭を、手櫛で髪を梳くようにして撫でる。
優しい手の感触が気持ちいいのか、これをやると数分で眠りに落ちてくれるので、添い寝するときはいつもこうしている。
今回も始めてから数分でウトウトとし始め、気付けば北方棲姫の意識は夢の中へと溶け込んでいた。
「姉か……なんとか再会させてあげたいものだが……」
すやすやと眠る北方棲姫を見つめながら、大樹は1人そう呟くのだった。
ビッグセブンとは一体……
そして本文の冒頭の方でも書きましたが、北方棲姫のセリフがカタカナだと見づらいと思い、みんなに発音を習った事にしました。
そう言えば、艦これリスペクトの中国製ゲーム「戦艦少女R」の日本語版が先日配信されましたね。何でも、開発スタッフが日本の艦これにベタ惚れして制作したとか何とか。
艦これとはまた別物としてプレイすると結構楽しいです。ミニキャラの戦闘もかわいいですし。
とまあ関係のない話はこの辺で。唐突に申し訳ありませんでした。