おいでなさいませ、血霧の里へ!   作:真昼

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大変遅くなってしまいました。言い訳は活動報告の方に書いてあります。
これからは週一ペースで更新出来ていけたらなぁ……と思っています。


アカデミー編 第二話

 卒業試験の日、ユキトと満月は前々から考えていた作戦を実行する。作戦といっても、そんなに大げさなものじゃない。満月が卒業試験を行う演習場を調べてくれていたので、あとは影分身の術を行い、鳥にでも変化させ覗きに行くだけだ。

 

「ユキト、準備はいいかい?」

 

「ああ、こっちはOKだ。この前当たったばかりだから、俺とお前の模擬試合も無いだろうしな」

 

「じゃあ、いくよ。場所は……、アカデミーでもっとも奥にある演習場。第13演習場だよ」

 

「あのドデカイ所か。たしかに観客席もあるしな。あそこでお偉いさんたちが観戦しつつ、採点するわけか」

 

 準備をつつがなく完了させ、試験開始まで時間もたっぷりある。いくら一番奥にある演習場といっても、結局アカデミーの敷地内だ。そこまで遠くもない。後はユキトと満月はそれぞれ影分身の術を行い試験会場に向かわせるだけのところで、満月がユキトに話しかける。

 

「ユキト、やっぱり本体の方で見に行かないかい?」

 

 満月が予定と違うことを提案してきた。

 

「ここに、きて行き成りだな」

 

「やっぱり、リアルタイムで見れないのはつまらないよ。影分身だと、どうしても戻すまでは情報が得られないからね」

 

 満月の言葉にユキトはメリットとデメリットを考える。

 影分身ではなく本体が見に行くことのメリット、それはリアルタイムに情報が入り、試験会場で不測の事態の時に対処がしやすいことだ。それに対してデメリットは模擬試合側の不測の事態に対処できない事。それにに影分身が解かれると、間違いなく晩飯抜きになることだ。

 

 ―――さて、どうしたものか……。たしかに、満月の言う事も一理ある。最終的に経験という形で情報は手に入るが、本体が行くのと分身体が行くのでは受け取り方が違う可能性もあるしな。さらに不測の事態に陥りやすいのも卒業試験の方、不測の事態で備えるなら本体で行くべきだが、安全面で考えるなら影分身か……。

 

 

「卒業試験はリアルタイムで見たほうがいいと思うよ」

 

 ユキトが悩んでいるのを見て、ニヤニヤしながら後押しをする満月。

 

「はぁ……、わかったよ、本体を送る。だけど、何か起きたら即座に撤退する。それでいいよな?」

 

 仕方がないとばかりに満月に同意をするユキト。しかし、釘を刺すのは忘れない。満月は危険を楽しめる部類の人間だが、ユキトはそうではない。どうしてもリスクがあるかないかを考えてしまう人間だ。

 

「そうこなくちゃね」

 

 ユキトの承諾の返事に満月は嬉しそうに頷く。

 二人は影分身を作り、模擬試合の演習場に向かわせる。そして、本体の方は第13演習場に向かい走り出す。

 

 

 

 

 

 

 卒業試験の開始30分前には第13演習場についた。元々アカデミーの中にあるためか警備の数自体は多くない。二人は入り口とは反対側に回り、そこから壁を登り演習場に侵入する。

 

「そこまで厳重ってわけではないだろうけど、ある程度は罠があるかもしれない。気を付けて進んでくれよ」

 

「だいじょぉぶ。ボクに抜かりはないさ」

 

 壁をヒョイヒョイと登っていく満月とユキト。木登りの修行を完全に修めたユキトにとって、壁などただの通り道と変わらない。勿論満月にとってもだ。ある所で満月が換気口のような所から中に入る。中に入ると、子供一人分はゆうに入れる通路があり、その途中で鉄格子があり、そこから試験会場が覗けるようだ。

 試験会場を覗いてみると、予想以上に多くの人がいた。お偉いさんだけでなく、上忍、中忍もしかしたら下忍もいるのかもしれない。……中にはお酒を飲んでる人もいる。試験のほうは今から卒業予定者に説明を行うようだ。広い演習場の真ん中に100名ほどの卒業予定者たちが集められている中で、卒業予定学年の主任担当教官が少し上の檀上で説明を開始しようとする。

 

 

 

 

 演習場を見ている周りの観客たちは、嫌らしい顔で嗤っている。

 

 

 異様な雰囲気だ。間違っても卒業試験の雰囲気ではない。

 

 

 

 ユキトは顔を顰めながら満月に問いかける。

 

 

「満月。今から何が始まる?」

 

 満月はクックックと嗤いながら答える。

 

「別に何も、ただ毎年恒例の卒業試験さ。ここ霧隠れの里が他里から血霧の里と言われる由来。忍者になるための最大の難関の卒業試験さ」

 

 

 

 

 

 主任担当教官が説明を始める。

 

「これから、貴様らにはいつも通り試合を行ってもらう。こちらが読み上げる組み合わせで二人一組になり存分に戦いたまえ。今まで培った成果を十分に発揮したまえ。勝った者は晴れて卒業とし、ここ霧隠れの里の忍者となる!」

 

 卒業予定者たちが興奮しはじめる。忍者になるという、餌が目の前にぶら下がっている様な興奮だ。とうとうアカデミーの終え、忍者になる。この世界では忍者は人気の職業でもある。原作でも多くの子供が忍者になろうとしていた。前の世界とは価値観が違うのだろう。後ちょっとで忍者になれる。卒業予定者たちが興奮するのもわかる。そして、興奮していて周りの様子に気が付いていないのだろう。

 

 

 この異様な雰囲気に。

 

 

 

 

 自信がありそうな者。

 キョロキョロと周りの卒業予定者の顔を見ている者。

 強い人と当たりませんようにと、祈りを捧げてる者。

 友人たちと笑いあっている者。

 

 数は少ないが、ニヤニヤしている者。

 

 

「ただし」

 

 主任担当教官が冷や水を浴びせようとする。

 卒業予定者たちの目線が、主任担当教官に再び集まる。

 

「勝利条件をいつもと変えさせてもらう」

 

 

 

 

 

 

「勝利条件は生き残ること。敗北条件は死ぬことだ。つまり殺し合いだ」

 

 

 

 その言葉に興奮していた卒業予定者たちが静まり返る。

 

 

 

 一拍おいて、その言葉を理解したのか、卒業予定者たちに動揺が広がる。

 観客者たちには嗤いが広がる。

 

「満月。お前はこれを知っていたのか?」

 

 ユキトは思わず、睨むように満月を見る。

 

「知っていたよ。っというかそこまで隠されていることじゃないしね。ある程度は知られないようにはされてるみたいだけど……。他国の里の忍でも知っているようなことさ」

 

 満月はニヤニヤと嗤いながら、ユキトを見ている。ユキトがどのような反応をするかを楽しみにしているように。

 

 ―――動揺するとこいつを喜ばすだけだな。

 

 ユキトはそう考えると、再び演習場に目線を向ける。

 

 演習場では、大きな紙が張り出される。卒業試験という名の殺し合いの組み合わせ表だ。

 

 友人と戦うはめになったのだろう、嘆く声が聞こえる。

 自分より弱い奴と当たったのだろう、喜ぶ声が聞こえる。

 格上の奴と当たってしまったのだろう、恐怖にかられる声が聞こえる。

 

 そして、そんな幾多の表情、反応が出ている中で、ユキトはその中の一人から目線が外れなかった。

 

 嗤っている奴がいる。まるで前世の世界で小さな子供が誕生日を迎えて、家族から誕生日プレゼントをもらう直前のように、喜ぶ顔をしている奴がいる。

 今からとても楽しいことが起きるとばかりに嗤っている奴がいる。

 

 そして、同時にどこか泣いている様に見える奴がいる。

 

 

「では……、各自ばらばらになって殺し合いを始めろ」

 

 無慈悲な宣告が落ちる。

 

 叫び。絶叫。雄叫び。

 

 そのような声を出しながら、卒業予定者たちが散開し始める。

 

 瞬間。

 

 先ほどまで、嗤っていた奴……再不斬先輩が『無差別』に周りを殺し始める。

 

 

「なっ!?」

 

「静かに!」

 

 ユキトは思わず声を上げ、満月に口を押えられる。

 

 卒業予定者たちは一斉に、周りを殺し始めた鬼を見つめる。見つめる目線には驚き、戦慄、恐怖が含まれている。

 

 主任担当教官が止めようとするが、里の幹部だろう人が続行を命じる。

 観客たちは嗤いをやめ、少し感心した目で鬼を見やる。

 

 その最中にも鬼の殺戮、虐殺は止まらない。

 

 卒業予定者たちも何人かの集団で鬼に向かい始める。それでも、惨劇は終わらない。

 

 演習場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化している。暴虐は止まらない。それを見て、嗤っている観客たち。この状況を絵にして題名をつけるならば、『悪鬼の庭園』とでもなるだろう。

 

 鬼は一人殺すたびに嗤いを深めていく。後に戻れない殉教のようだ。場違いにもユキトはそう思ってしまった。

 

 ユキトは何とかその光景から眼をそらし、横の満月を盗み見する。案の定というべきか、満月も目線を釘づけにしながら嗤いを深めてる……。

 しかし、目線を演習場から外せないのか、ユキトが盗み見していることに気づいていないようだ。ユキトも再び目線を演習場に戻す。

 状況は、生き残ってる卒業予定者たち全員対再不斬先輩となっている。しかし、止められる気配がない。他の卒業予定者たちは鬼の殺気に、恐怖に支配されている。

 徐々に数を減らしていく卒業予定者たち。

 

 

 もう半数も残っていない。

 

 虐殺は止まらない。

 

 止まるとしたら、それは……。

 

 

 ユキトは自分の考えに背筋が凍りつく感じがした。

 

 

 

 

 

 

 それから幾ばくかして、阿鼻叫喚の地獄が終わり、静かになる。この状況に観客たちも嗤いを止めていた。演習場の真ん中に座り込む鬼から、誰もが目線が外せない。誰も言葉を発しない。

 

 静かに、ただ静かに血が流れ、少しずつ乾き始めていく。

 

 咽るような血臭が二人の所まで押し寄せてくる。

 

 

「今期の合格者は桃地再不斬、一人とする」

 

 

 

 しんっと静まった第13演習場に声が響く。

 

 演習場のすべての目線が鬼からそちらへ移る。そこには、紫色の眼をした子供がいた。まるで場違いな感がある。なのに、誰も声を出さない。むしろ、周りの観客たちは再不斬先輩が起こした地獄絵図より恐怖していた。誰もが、その子供から目が離せない。

 

「満月。あれは誰だ……」

 

「……あれはこの里の忍の頂点。つまり水影様さ。まぁボクが見たのもこれで2回目だけどね」

 

 その時、気配を殺し隠れていた二人に水影の視線が向いた。

 

「ちぃっ! ばれた、満月!」

 

「ああ、流石は水影様といったところかっ」

 

 ユキトと満月は小声で会話し、その場から瞬時に離れる。移動速度には多少の自信がある。下忍程度では追いつかれないだろう。

 

 しかし。

 

「おやおや、他里のねずみかと思ったのですが、アカデミーの神童たちですか。どうしたのですか? こんなところで」

 

 肌の色は青黒く、サメのような顔立ちをした男がユキトと満月の目の前に笑いながら現れる。

 

「さて、どうしましょうか。これが本人たちではない、という可能性もありますし」 

 

 満月とユキトは声も出さない……出せない。二人は現れた目の前の男の様子を伺う。しかし、いくら見ても逃げ出せる隙がない。下手な動きをすると、そのまま殺されるイメージが湧いて出る。

 動けない二人に対して男が口を開く。

 

「面倒なので、殺しますか?」

 

 男から殺気があふれ出る。殺気を受け、俺たちも臨戦態勢になる。

 

「やめろ、鬼鮫。そいつらは本人だ。これ以上若い忍が居なくなるのは困る。おおかた、卒業試験がどんなのか、生で見たくて覗きにきたのだろう」

 

 突如後ろから声がかかる。誰もいなかったはずの所に立っているのは、先ほどまで演習場にいた全ての忍から視線をあびていた子供。つまり……水影だ。

 

「……これは、水影様。わかりました。アナタがそう仰られるなら」

 

 そう返事を返した鬼鮫という男は瞬身の術でいなくなる。残るのは俺たち二人と水影の三人。そんな中で二人は先ほどまでとは違う意味で動けなくなる。

 

「今日起きたことは、黙っておけ。貴様らには期待している」

 

 それだけ言うと、水影も瞬身の術で居なくなる。

 

 

 ユキトと満月は止まっていた時が動き出したかのように、息を一気に吐く。そして、そのまま二人してその場に座り込んだ。

 

 ―――一気に疲れがたまった。寿命が縮んだ。間違いなく縮んだ……。流石に殺されかけて、さらにこの里の水影と対面するとなるとしんどい。しかし、危なかった……。下手すれば死んでいたな。

 

 命を大事に、それが信条のユキトとしては、本体で行くことを提案した満月を恨みたくなる。そんな思いも込めつつ、満月の方に恨みがましい目を向ける。そうすると、満月は心外だとばかりに肩をすくめた。

 

「いや、ボクもこればっかりは死ぬかと思ったさ」

 

 ユキトの意図はある程度伝わっているみたいだった。

 

「それにね、ボクらに気付いたのは水影様とさっきの鬼鮫っていう人だけだったみたいだし。ボクもまさか気づかれるとは思わなかったんだよ」

 

「はぁ……、そうかい」

 

 ―――……まぁ追いかけてきたのは、あの二人だけみたいだし、実際その通りなのだろう。ということはあの男、演習場にいた中では上位に入る部類の腕前なのだろう。誰なんだろう。鬼鮫とか呼ばれていたな。なんか原作で見たことがあるシルエットだったが……。満月に聞いてみるか。

 

「先ほどの男について知ってるか?」

 

「……話について聞いたことがあるぐらいで、ボクも本人を見たのはこれが初めてだけどね」

 

「それでいい」

 

「まぁボクもそんなに詳しいわけじゃない。この前、話したろ?」

 

「何をだ?」

 

「模擬試合で何人か殺し、サメのエサにした先輩がいたって」

 

「……都市伝説じゃなかったのかよ!」

 

 ―――都市伝説だったと思っていたのが事実だったとは。しかも、その本人に先ほどまで殺されかけていたとか……。よく、生き残ったな俺。

 

 頭を抱え始めたユキトを見て満月は笑いながら話しかけてくる。

 

「冗談だと思ってたのかい? 少しはこの里に慣れたと思ってたんだけどね」

 そんなことをほざいてくださる満月。

 

 ―――そりゃまぁ模擬試合で相手の意識を刈ったり、再起不能にすると成績評価があがる里だ。もしかしたら、とかは思っていたが……、それにあの卒業試験。この里が他の国の里から血霧の里とよばれるわけだ。血なまぐさすぎる。俺もいつかはあれをしなければいけないのか。…正直、この調子で修業を続ければ問題はないだろう。しかし、俺に殺せるのだろうか。この世界に慣れてきたとはいえ、多少なりとも前世の価値観が残っている俺に。生きるためと言えば、その通りだ。しかし、普段行っている狩りとはまったく違う。

 

 ユキトが思考の海に沈んでいると、満月が声をかけてきた。

 

「何考えているかはだいたいわかるけど、それだとキミが死ぬよ?」

 

 ニヤニヤしながらユキトに諭す満月。続けて口を開く。

 

「でもまぁ、再不斬先輩はやりすぎたね」

 

 ―――たしかに……。普通なら、相討ちや再起不能を考えても2,30人は合格するのだろう。しかし、今年は1人だ。これでは、先ほど水影も言っていた通り若い忍の人材が不足するだろう。もしかしたら、来年から試験が変わるかもしれない。そうなってくれれば嬉しい。祈っとこう。

 

 事実、この事件を契機に霧隠れの里の卒業試験は大変革を迎える。ただでさえ戦時下で忍の数が減っている中で貴重な戦力が失うことは何にしても致命的なことだからだ。こうして、血霧の里の由来となった、忍者になるための最大の難関の卒業試験は幕を閉じる事となった。

 

 しかし、そんな未来の事をまだ知らないユキト。

 

 ―――どんな試験が来ても、まず自分自身が生き残れるように力をつけなければいけないな。殺す殺さないについては、今は考えるのをやめよう。今考えてしまうと、今日起きた惨劇が影響する。まずは、殺されないようにする自衛力を高めることを第一にする。これからの指針ができた。しかし、どうすれば自衛力が高まるのだろう。このまま、アカデミーだけを続けると実戦経験は得られるかもしれないが、劇的な変化はないだろう。

 

 これからのことについて考えているユキトに、そこで満月から声がかかる。

 

「そろそろ、ボクらも戻ろう。影分身が戻ってないってことはまだ模擬試合が続いてるみたいだし」

 

「……そうだな」

 

 あまりの出来事の連続ですっかりユキトは影分身のことをすっかり忘れていた。よく、動揺した時に戻さなかったなと自分自身に感心する程である。普段から、影分身を出しっぱなしで修行させてるのが、ここにきて功を成したのかもしれない。最初の頃からやってる修行はちゃんと成果を出しているんだなと、得心する。

 

 ―――そうか、最初か……。自衛力について一つ思いついた。最初の目標だった医療忍術だ。医療忍術を学べば生存能力は間違いなく上がるだろう。戦いの最中も自分自身で治癒ができるのは強みだろう。しかし、どこで学ぼうか。医療忍術ってアカデミーだと当たり前だが習わないんだよな。皆どこで習ってるんだか……。まぁ、とりあえず困った時の満ぇもんだな。

 

 ユキトは決心を固めた。新たな力を求めて、満月に話しかける。

 

 

 鬼が去った学び舎。

 

 新たな力を求める俺。

 

 そして、新たな季節、新たな出会いがやってくる。




リンを主人公に殺させようと思っていたんですが……まさかカカシに先越されるとは……無念OTL

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