新月の悪魔(かごの悪魔三次創作)   作:澪加 江

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少女の独白

 

 

最近カシュバの調子が良いみたいだ。

両親が死んで、これからの事で不安に思っていたけれど少しだけ気が楽になった。

借金もかなり返せたから少しお金に余裕ができた。装備を新調して今まで以上にチームに貢献できそう。

 

 

 

カシュバに魔法省からの引き抜きの声がかかっているらしい。「これでアルシェに恩返しできる」と言ったカシュバの笑顔に胸が詰まった。

恩返ししたいのはこっちなのに。

魔法省に入ったらもう少し裕福な生活をさせてあげられるといったカシュバにうまく笑えていただろうか?

 

 

 

 

良い装備が市で売っていたから一通り揃えてみた。一緒に行っていたイミーナも「掘り出しものが見つかった」と喜んでいたから本当にいいものだと思う。

カシュバにもらった首飾りとは少し合わないけれど、頑丈で魔法の威力が少し上がる杖に冷気耐性の上がるローブ。かなりの出費になってしまったが、命とは比べられない。

家に帰って妹達に自慢したら褒めてもらえた。

本当はカシュバにも見せたかったが、まだ学校から帰ってきていない。それにそろそろ夕ご飯の準備をしなければ。また今度みてもらおう。

 

 

 

 

 

昨日からカシュバの様子がおかしい。

一昨日の夜の自分に変なところは無かったかと家族全員に聞いている。ベットでちゃんと寝ていたと言っても一応は頷いてくれているが心からではない。

一体なにがあったのだろうか?

 

 

 

 

 

ヘッケランが気になる噂を持ってきた。

何でもこの間の新月の晩に帝都で獣人が現れたらしい。それも珍しい山羊の頭をした獣人で、第三階位の魔法<飛行>を使ったそうだ。

フールーダ先生の名前を出したら逃げ帰ったそうだが、魔法の使える獣人なんて油断ができない。今度目撃されたら大規模な討伐隊が組まれる事になったらしい。

新月の晩と言えばカシュバの様子がおかしくなった前の日だ。ひょっとしたらカシュバは何か知っているかも知れない。

ふと。肌にあたる首飾りの冷たさを感じた。

そう言えばこの首飾りをくれたというウルベルトという魔法詠唱者の事をよく知らない。今回の事と一緒に聞いてみよう。

 

 

 

 

 

カシュバから離れて暮らそうと言われた。

いつかはと覚悟していた言葉なのに声が震えてしまった。

「本当は一緒に居たいけど、アルシェを危険な目に合わせたくない」と言われたが、きっと自分と妹達が重荷になったのだ。

いつこの家を出ればいいかと聞いたら「ここは使ってくれ」「いや、この国から逃げてくれ」と言われた。

ひょっとしたらこの間聞いた獣人の魔法詠唱者の事で帝国に危険があるのかも知れない。だから自分を遠ざけようとしているのではないだろうか。

そう思ったら言葉が見つからなくなってしまった。

カシュバを安心させたくてできるだけ早くこの国から出ると言った。それを聞いたカシュバは心から安心した様子だった。

 

臆病な私は結局カシュバに理由を聞けなかった。

その日から二日後、カシュバは小さな荷物をまとめて家を出て行った。

 

 

 

 

 

カシュバが居ない生活に慣れた頃、私はフォーサイトのメンバーに相談した。

個人的な内容だったから最初は躊躇ったけれど、もしも獣人の事が予想した通りだったら生死を共にした仲間に対して不誠実だと思ったからだ。

強大な力をもった獣人が帝都の街に前から潜み、何かを企んでいる。そんな話を最初は眉唾だと笑っていた仲間達も何か思うところがあったのか次第に真剣な顔になった。

 

リーダーのヘッケランが持ってきた仕事。

それは新たに見つかった国境近くの遺跡調査だった。

冒険者と違ってワーカーには非合法な依頼がくる。その代わり報酬はとてもいい。

その高い報酬が妥当であるかなどは既に軽く調べがついているそうだ。国境近くーーそれも毎年戦争をしている王国との間の遺跡。依頼主の方は少し疑問は残るが問題はないだろうとのことだ。遺跡自体については少し調べた程度では全く何もわからなかった。

 

「相談して前向きに検討していたんだがーー」

 

みんなの顔が曇る。

確かに遺跡調査など最上位の冒険者ですらめったに依頼として回ってこない。それがこんなワーカーに回ってくるなど。国境近くという外交的に繊細な場所とはいえ些か不自然に思える。冒険者は国家に組しないという建前があるのだ。王国の冒険者組合と協議すれば、時間はかかるだろうが十分冒険者で解決可能だろう。にも関わらずワーカーに依頼が来るというのならば時間的余裕がないか、それとも依頼主に後ろ暗いところがあるかだ。それを加味すれば、獣人の魔法詠唱者の住居の可能性は限りなく高い。依頼主のその裏にいるのは帝国だろうか。

報酬はいいが今回の依頼は見送る。

 

そう決まりかけた時に外で騒ぎが起こった。

騒ぎの原因はどうやら魔法詠唱者が街中で暴れているとのことだった。しかも第三階位の使い手らしく、<火球>で街中に火の手があがっている。煙の臭いに厄介ごとの気配を感じた。

歌う林檎亭の外に出て野次馬に紛れると、どうやら既に運良く近くにいたアダマンタイト級の冒険チームが対処しているらしい。王国と違い帝国のアダマンタイト級冒険者は頼りないというイメージが強いが、チームとしての能力は一流だ。近々騒ぎはおさまるだろう。

お金にならない事なのに下手に巻き込まれてはたまらないと、その日はその場で解散になった。

 

 

 

 

 

件の獣人が殺されたという話はすぐに広がった。

日が沈む前になんとか帝都の外に追い出すことに成功したが、それからなんと討伐には三日三晩かかったらしい。

話を持ってきたローデバイクがいうには、今回一番の手柄は獣人が帝都から龍の様に連なった<電撃>で追い出したという魔法学院の生徒ということだ。

アルシェはすぐにそれがカシュバだと直感した。そしてカシュバを心から誇らしく思った。

 

「つーことは、だ。例の遺跡は今主人が居ない可能性が高いってことになる訳だ」

 

少しの話し合いの後、フォーサイトは遺跡の調査を受ける事にした。

遺跡の主人と思われていた獣人は既に居ない。残党しか居ないだろう遺跡の調査というのは少し気が抜けてしまうが、美味しい報酬は欲しい。アルシェもこれに賛成した。もしもう獣人の心配がないのならばきっとカシュバはまた一緒に暮らしてくれるはずだ。

 

未来の甘い生活を夢見て、アルシェは踏み出してははならない一歩を踏み出してしまった。

 

 

 

 

 


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