二人の淫らな女王   作:ですてに

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終わらなかったー!?

あと一話は明日か明後日に投稿します。それで仕舞いです。


駒王会談~時の流れは分かたれた

「はい、ヒサくん。珈琲、熱いから気を付けてね?」

 

「うん、ありがとう朱乃。流石にこの時間になると眠気がね……」

 

「体力的なものよりも、今までの生活習慣に引っ張られるもの。私もちょっと濃い目に紅茶を淹れたわ」

 

 三大勢力による会談。三大って他の神話勢力に対して、堂々と言って大丈夫なのかと久脩は心で思ったりするが、それよりも夜中の丑三つ時ということもあって眠気が先に来る。ソーナ生徒会長の口添えが明日が休みでなければどうにもならなかっただろう。

 

「だから、あの件は……」

 

「しかし、それはお前らの対応も……」

 

「そもそも、私の提案に頷いてくれていれば……☆」

 

「それはねぇな」

 

「ありえませんね」 

 

「すまない、私もそれはちょっと無いと思う」

 

「まさかの味方も含めた総スカン!?」

 

 話し合いにかこつけてセラフォルーを弄って遊んでいる各勢力の幹部連中に、久脩は本気で帰りたくなっていた。そもそも、総督やセラフォルーから同席するように依頼され場の隅で静かにしていたのだが、話し合いにならないのなら、この場にいる意味も無いだろう。

 

「まだしばらくかかりますから、少し横になっても大丈夫てすよ」

 

 声をかけてきたのは、申し訳なさそうに苦笑いを見せたガブリエルだ。護衛はいいのだろうかと疑問に思う久脩に対し、ヴァーリまでこちらへと近づいてくる。

 

「形式めいたものも必要らしい。それぞれが各勢力の最大戦力でもあるのにな」

 

 なお、椿姫はソーナ眷属として参加しているため、久脩の付き添いである朱乃に眼光鋭い視線を飛ばしているのだが、朱乃も分かっていて椿姫の目線に気づかぬ振りで流していた。

 

「事が進めば起こすさ。俺や天界最強の女性天使がついている。安心して休むといい」

 

 ガブリエルもヴァーリの言葉に頷いたことで、朱乃の行動も素早い。長椅子に向かって久脩の手を引き、そのまま彼の頭を自分の腿の上に引き込んでしまう。

 あっという間に膝枕の姿勢の出来上がりであり、朱乃は満足そうに微笑んでいる。

 

「駄目だっ、て……」

 

「ガブリエル様もヴァーリくんも大丈夫と言ってくれているもの。私もこうして傍にいるから、少しでも休んでくださいな……ね?」

 

 身体に馴染んだ彼女の匂いが緊張をほぐし、心が安らいでいくのにつれて、久脩の瞼は自然に重くなり……さほどの時間をかけず、寝息を立て始めた。

 

「三種族の力をよくここまで馴染ませたものだが、身体の疲労が出やすくなっているな。気が昂っているとなかなか分からないが、一緒にラーメンを食べに行った後はいつも眠たそうにしていたよ」

 

「この前の帰る時にに教えてもらって助かったわ。昼休みに仮眠の時間を取るようにしてるもの。私か椿姫が必ず傍につくようにして」

 

「彼の存在が認知されるにつれ、どうしても狙われやすくなりますから。鍛練により、力が強まることで身体に適応させる時間も必要ですし……和平が正式に成立したらすぐにでも、こちらから正式に護衛をつけようと考えています」

 

「アザゼルも悪魔陣営に話を通して、あの神社の周辺の家を買い取っている。君の父親も常に家に張り付いてるわけにもいかない身だ。だから俺が当面の間派遣されることになった。それに天界側も拠点の用意はしているようだな」

 

 禍の団に久脩が勧誘された事実を天使も堕天使も重視していた。彼の性格的に自分から加入することはないと分かっていても、朱乃や椿姫、朱璃達を狙われたとしたら──。

 彼の周辺も朱璃が無事、堕天使への転生を済ませたことで非戦闘員はいないとはいえ、襲撃を跳ね返すための戦力や対策は急務だった。

 

「あら、それはお母様が喜びそう。明日から夕食も一人分増やしておかないと」

 

「いや、それは……」

 

「そうしないとカップ麺ばかりでしょう、ヴァーリくんは。しっかり伝えないと私がお母様に叱られますわ、うふふ」

 

 そう言われれば、ばつが悪そうにヴァーリはよろしく頼むと答えるしかない。ラヴィニア同様、自分を家族として扱う女性にヴァーリは強く出ようと思えなかった。

 ただ、この朱乃もどこか姉のような振る舞いを見せることがある。彼に対して久脩に対するのとは異なる気安さがあるのだ。椿姫についても同じことが言えた。

 ふと椿姫に目を向ければ、それに気づいた彼女もこっそりと頷きを返してくる。耳を立てていたのだろう、朱乃の言葉に同意を示したのだ。

 

「全く、変な女達だ。俺は白龍皇だというのに」

 

「ええ、ヴァーリくんの強さが飛び抜けているのはちゃんと分かっているわ。その分、日常生活に問題があるからお母様も私達もヒサくんもフォローするだけのことだもの」

 

 そこに恐れはない。強さに対する敬意はあっても、関わりを止める理由になることもなく。朱乃や椿姫からすれば、久脩のヴァーリに対する態度を傍で見てきているので、間接的な友人関係としても彼を無碍にするなど考えられなかった。

 

「ハッキリと言う。俺が怒りを示したらどうするつもりだ」

 

「ヴァーリくんは弱い者には興味が無いでしょう? ヒサくんの足手まといにならないように努力は続けるけれど、貴方と闘える領域まで行けるかはまた別の話だわ」

 

「朱乃さんや椿姫さんは強さばかり磨いているわけにもいきませんものね、ふふふ」

 

「ええ、ガブリエル様。身につけることはたくさんありますもの。自衛の力もその中の一つなのですし」

 

 強さ以外に身につけるべきこと。ヴァーリはそんなものはあるのかと思うゆえに、想像もつかない。ただ、天界最強の女性天使──天界全体でも三本の指に入るガブリエルだが、隔絶した強さの領域にある彼女も朱乃の言わんことを理解している様子を見て、余計に彼は首を捻るしかなかった。

 

「この寝顔のように、ヒサくんが心や身体を安心して休められる居場所であるために、私はやれることを何でもやるつもりですから」

 

 ただ、朱乃や恐らくは椿姫も、自分と違う種類の『強さ』を持っているのかもしれない。ヴァーリはそんな感覚を抱くのだった。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 神の不在を認識し互いの勢力の存続のため、和平を結ぶ。久脩はその象徴的な存在として、各勢力の幹部クラスに持ち上げられることになる。なお、その頃には朱乃が僅かに膝を揺らすことで、久脩は目を覚まし身を起こして話し合いの席に戻っていた。ヴァーリやガブリエルも同様に各々の護衛担当の後ろへとついている。

 

「赤龍帝はおっぱいやハーレムのため、白龍皇は強い奴と闘うため。あとはお前を好敵手に育てるんだっけか」

 

「その分彼の安全に繋がり、俺は熱い闘いが望めるようになっていく。久脩は可能性の固まりだ。そして、彼は闘いそのものは否定していない」

 

「ヴァーリの言うように脅威は排除しないといけませんから。俺は守るべきものをこれからも守っていくだけです。第一に朱乃や椿姫。それから、その家族や生徒会を中心とした学校の仲間達。自分の生活の場ぐらいはしっかり守り抜きたいし、その為の力だと思ってます」

 

 欲がないと感心する者、面白味がないと揶揄する者。そんな中、急にこの室内に転移してくる者達がいた。

 

「小猫、ギャスパー!?」

 

「久脩先輩、助かりました。この貴方の所に転移できるペンダントのお陰でギャーくんと一緒に逃げることが出来ました」

 

「きゃぁっ!? 人が、人がいっぱいいるぅぅうぅぅぅ!?」

 

 男の娘の悲鳴はさておき、久脩は小猫に相談し、リアスには御守りを持たせると説明し、例のアクセサリーを──ただし、ブレスレット形式のものを持たせていた。それが功をそうした形である。指輪方式なのは朱乃と椿姫で十分であろう。いろんな意味で。

 なお、一部時間停止の影響を受けた者もいるが、その能力者が恐怖のあまりに意識を失ったため、即座に停止は解除されるというオチまでついている。

 

「万が一の御守りだったんだけど、役に立っちゃったね。……無事で良かった」

 

「これ、お返ししますね。侵入者は禍の団の『魔法使い』と名乗っていました。この学校を覆う結界内に直接転移してきているようです」

 

「助かったわ、久脩。使い勝手の増したキャスリングみたいなものなのね」

 

「あと、このアクセサリー、羯磨の力で登録する魔力や光力の初期化が効くので再利用可能です。グレモリー先輩、時代はエコです」

 

「あら、素敵ね。ちなみにこの制服も魔力である程度修復可能なのよ?」

 

 そんな隠し機能は知らなかったため、きょとんとした顔になってしまう久脩。リアスも驚き顔が見れたことでどこか満足気だ。

 

「さあ、学園への侵入者を排除するとしましょうか」

 

「おいおい、空も見ろよ。時間停止を前提にしていた襲撃だったからか、一気に物量戦に切り替えてきたぞ」

 

 アザゼルの指摘に空を見上げれば上空に展開される無数の魔法陣。襲撃者である魔法使い達が一気に転移してきていた。

 

「学園内はグレモリー家やシトリー家の学園の生徒に任せておけばいい。久脩、実戦訓練と行こう」

 

「ああ、壊されて直すことになるのも腹が立つ。覚めない悪夢でも見てもらうとしよう」

 

 久脩がヴァーリの声に答え、校庭が一望できる窓際へと進む。躊躇なく広げる三対の翼と羽。ミカエル、サーゼクス、アザゼルが翼や羽の大きさが増していることに気づき、異なる三種の力をよく自分のものにしてくれていると安堵しながら、自分達もやるべきことをしようと動き始める。

 

「グレイフィア、あの転移術式の解析は進んでいるかい?」

 

「ガブリエル様と同時に進めていますので、そこまで掛からぬかと」

 

「頼むよ。リアス、ソーナくん、君達は旧校舎に入り込んだ賊の対処を」

 

「はい!」

 

 走り出すリアス、ソーナと眷属達。椿姫が一度久脩に振り返り、彼を心配そうに見つめるが、ソーナがすぐに椿姫を久脩の方向へと押し出す。

 

「何をしているの、椿姫。旧校舎はリアスや私、眷属達がいれば十分。敵の数を考えなさい。貴方しか出来ない役目を果たしなさい」

 

「!……ありがとうございます、会長」

 

「塔城さん! 念のためもう一度持っていけ! まずいと思ったら、すぐにそのブレスレットに向かって叫んでくれ」

 

 久脩が投げ飛ばしたブレスレットを再度受け取り、小猫は一度深く頷いてみせる。旧校舎にリアスの戦車の駒が残された状態ということもある。差し迫った事態となれば、増援を送り込むことも可能であった。連絡手段を確保したリアス達は迷い無く走り出す。

 

「さて、ヴァーリ。弱者をいたぶる趣味は無いだろう。俺が術式を組む間、その鎧で威圧でもしておいてくれ。朱乃、椿姫。俺は術式を練り上げる間、ほぼ無防備になる。二人には奴等の気を引きつつ、俺の護衛を任せたい」

 

「もちろんよ。せいぜい派手にやりつつ、ヒサくんの傍を離れないから」

 

「五分でも十分でも、追憶の鏡で全部、攻撃を跳ね返し続けてみせます」

 

「頼りになる女王たちじゃないか。俺は様子見で──む?」

 

 突如、部屋に広がる魔法陣。そこから現れたカテレア・レヴィアタンから、宣戦布告が告げられた。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「さて、俺達三人でこちらは何とかしてみせないとな。ヴァーリの奴、旧魔王を相手しながらこっちの様子を確認する余裕があるようだし」

 

 ヴァーリが本来の流れと違い、こちら側にいてくれているというのは大きい。改めて久脩はそう思いつつ、同時に彼を落胆させるような真似はするまいと気を入れ直す。

 

「受戒、懺悔の作法。それが羯磨の言葉そのものに込められた意味の一つだ。もう一つの主たる意味に、行為、業や所作があるけれど意味が広過ぎるために、その名を冠するこの神滅具で様々な応用が利く反面、術者には負担がかかりやすいし、願う効果が出るかどうかについても賭けの要素が出てくる」

 

 久脩はあえて分かりきったことを口にすることで、自分自身が神滅具に願う事象をより具体的なものとして伝えようと試みていた。赤龍帝の籠手や白龍皇の光翼と違い『魂』が封じられているわけではなくとも、この十数年共にしてきた神滅具に意思めいたものがあると。

 

「雷火よっ! ヒサくんの障害を砕き、燃やし尽くしてしまえっ!」

 

「『追憶の鏡』よ! 久脩くんに魔術の一つたりとも届かせないで! 魔力が必要なら、いくらでも持っていけばいいっ!」

 

 朱乃の両手から次々に雷鳴が轟き、炎の花が咲き、椿姫により久脩達の眼前に何重にも張られた鏡が迫り来る攻撃魔術の嵐を弾き続ける。十分間耐えてみせると誓った椿姫だが、次から次へと割られていく鏡を新たに展開し続ける必要に迫られ、百を超える魔術の暴雨に魔力が瞬く間に失われていくのを自覚する。朱乃も攻撃の苛烈さを増し、学園周辺に展開していた各勢力の護衛役の部隊が懸命に戦うも、少しでも数を減らしても、次から次へと転移してくる魔術師達の数は尽きる気配がない。

 襲撃者の指揮官がどう考えているかは別として、末端の魔術師達はこの一戦に賭けていた。倒れようとも一撃を加え、軋んだところに後続の魔術師がさらに攻撃を加えていく。

 

 人の世界は人が統べるべきものだ──シンプルでかつ強い思いが、彼等に撤退を許さない。

 

「神は確かに不在なのだろう。だが、『黄昏の聖槍』や俺の持つ『究極の羯磨』にその意思の一端は残されている。魔術師達よ、己が持つ業を省みる時だ。原初の罪に向き合い、掲げる正義を自分自身に問いかけよ。羯磨よ──!」

 

 ゆえに、久脩は羯磨の力を使い、魔術師達の心を折る。人である以上抱える業や罪がある。その意識を強く喚起させ、精神を自分自身で追い込ませ、そのまま戦意を砕く。この神滅具が想定する元来の使い方の一つで、久脩はその効果範囲に対して、魔力を注ぎこむだけで事足りたのだ。久脩の前方に羯磨が放った光が広がっていった後、それで決着はついていた。

 

「う、うわぁあ、許して、許してくれ! 俺はそんなつもりはなか──あああああああああっ!」

 

「私は、私は! ただ、人の世界を守りたか、い、いやぁあああああああ!」

 

 戦場であったはずの場所が、懺悔を叫び超常的な何かに許しをひたすらに請う。そんな悲鳴や呻きが上がるだけの場と化していた。転移はまだ続いているものの、蜘蛛の巣に飛び込む餌と変わらず、次から次へと頭を抱えて蹲り、何かにただただ許しを求める声が増えるばかり。

 

「ア、アハハハハっ! 私は姉さんさえいればいいんだ! そうだ、あの男から奪ってしまえばいい! なんでこんなことすら考え付かなかったのか!」

 

 例外としては、この場で釣れてはいけない銀髪の男性悪魔まで姿を見せていたりする。なお、羯磨の効果に中途半端に抗えたからなのか、抱える業を強引に意識させられ自責の念に沈むのではなく、突き抜けてしまっていた。

 

「サーゼクスゥゥゥウウ! 姉さんを返せぇぇぇぇぇ!」

 

「ほいっとな。正気を失った状態じゃ、いくらルキフグスと言えどもこんなもんだ」

 

 なお、羯磨の効果で防御全捨て状態だったため、手の空いていたアザゼルにあっさり落とされたりしていたが。

 

「ありがとう、朱乃、椿姫。転移も品切れみたいだ。……さて、美猴。この数をちゃんと連れて帰ってくれよ」

 

 膝をつき、堕天使の翼や鏡を展開しておくこともままならないほど、二人は疲労していた。反射型神器の多重展開などという無茶を押し通した椿姫の消耗が特に激しい。久脩は椿姫をそっと抱き上げ、寄り掛かりながら立ち上がることは出来た朱乃を支える。二人分の重みをなんなく支え、逞しさを増した男の姿に改めて惚れ直す朱乃と椿姫であった。

 

「無茶言うな! 俺っちは褐色ねーちゃんを連れて帰るだけで精一杯だぜ!?」

 

「あぐ……私は、こんな幻術になど……」

 

 ヴァーリに終始押された状態のカテレアもまさかのユーグリットの暴走で撤退を選ぶ羽目になっていた。張り合いの無い相手と感じたヴァーリが久脩の神滅具の影響範囲にカテレアを突き飛ばしたことで、彼女も継戦能力を失っていたのだ。今も増大した自らの業に潰されぬよう必死に抗っている辺り、旧魔王の血筋を引く者であるということだろう。ユーグリットは影響範囲に長く居過ぎたことと、姉の気配を感じてしまったのが不幸と言えた。

 

「ユーグリット、貴方には聞かなければならないことが山ほどあります」

 

「ああ! ああ! 姉さん! 貴女と共に過ごせるのなら、いくらでも私を詰り、責め、痛めつけてくれ!」

 

 拘束されたユーグリットは吹っ切れてしまったあまりに、喜びに打ち震えていたが。なお、サーゼクスは彼を激昂させないよう視界からはずれた位置に立ち、久脩の近くへやってきていた。

 

「投降することも私としては勧めたいのだがね。対集団戦では彼の力が脅威であることも思い知っただろう」

 

「久脩の眷属扱いなら、考えなくもねーけどな。ただ、そうなるとしても『今』じゃない」

 

 サーゼクスの問いかけも軽くいなし、美猴はもう一度久脩を見る。彼を見る瞳はどこか満足そうなものだ。

 

「いい目だぜ、ヒサっち。単純な強さとは違うのかもしれないけど、お前はまだまだ強くなるだろうしな。楽しみだぜ。逢わせたい奴もいるしな、また来るさ」

 

「出来れば戦闘なしで頼むよ。それならラーメン屋巡りも一緒に行けるさ」

 

「む、むむむ! なんて魅力的なお誘いだよ、ちくしょう、俺もそっち側行くか! 行っちゃうぞ!?」

 

「ぐぇっ!?」

 

 じたばたする猿の妖怪から、女性が出しちゃいけない類の声を出しながら地面に落とされてしまう旧魔王。服も戦闘であちらこちら破れたままであまりに忍びないと、セラフォルーがそっと自分の持ってきていたマントをかけた。現在進行形でまだ半分悪夢に魘された状態の彼女は、怨敵であるセラフォルーを拒絶することも出来ず、そのまま魔王少女が描いた魔法陣で二人ともどこかへと転移してしまった。

 

「俺の眷属扱いなら俺の預かりに出来ますか、サーゼクス様」

 

「多少の根回しは必要だろうけど、大丈夫だと思うよ? 君が三勢力の友好の証として、宣伝をガンガン打っていくしね。大衆向けのエピソードとしてもちょうどいいんじゃないかな」

 

 無理は聞いてやるから、お前も厄介事を背負い込め。そういうことである。

 

「堕天使、悪魔、彼が加わるとして妖怪。多種族が君の元で共生する。象徴として分かりやすくていい。今回の襲撃の首謀者の確保に影から協力していたとか、いくらでも理由はつけられる」

 

「げっ、もう連れていっちまったのかよ」

 

「珍しく、セラフォルーが気遣って静かに動いていたからね。同じ女性として思うところがあったんじゃないかな」

 

「帰る必要なくなったんじゃない、美猴」

 

「わぁーった! 分かったぜ! この美猴、現・孫悟空! 久脩の眷属扱いになってやらぁ!」

 

「あ、実際に転生堕天使とか、悪魔になるわけじゃないから、そこは安心してていいよ」

 

「しばらくは監視をつけるがね。えっと、堕天使側からはヴァーリくん。悪魔側はリアスやソーナ君達だな」

 

「天界からは駒王町に縁のある者を派遣する準備を進めておりますが、もう少し時間がかかりますのでその間は私が務めます。当代の孫悟空よ、悪行はもう出来ないと知りなさい」

 

 まさかのガブリエル、短期間とはいえ駒王町赴任宣言であった。思わず、サーゼクスも久脩達もミカエルを見てしまうが、ただ彼は首を横に振るばかり。勢力のバランスもへったくれもない。

 

「なんかカオスな状況だなぁ。でも、退屈はしなさそうだな! 宜しくな、ヒサっち! じゃあ、早速深夜に開いている店に……ぐぇっ」

 

「彼の女王たちが疲労困憊であるのに、彼が行くわけが無いでしょう。ちょうどいい機会です、善行について説いて差し上げるとしましょう。行きますよ、孫悟空」

 

「か、勘弁してくれーっ!?」

 

 こうして会談と襲撃の夜は更けて、また朝がやってくる。なお、この学園にもう一人侵入者が紛れていて、翌日から姫島神社に黒猫の姿で住み着くわけだが、それはまた別の話である。


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