二人の淫らな女王   作:ですてに

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まあ、ご都合主義ですが、短編の世界観なのでご容赦くださいませ。


超越した存在になりました

「うーしっ、みんな素面かー? 大事な説明をするから耳かっぽじってぇ、よぉく聞けよー?」

 

「おい、おっさんアンタが明らかに酒臭いだろうがいい加減にしろ」

 

「てめぇ……お前のためにいろいろ駈けずり回ったっていうのによ!」

 

「そのヒサくんに数々の尻拭いをさせ続けてきたのはどこの駄目総督ですか、おじ様?」

 

「そうねぇ……この子の胃を虐めてくれたのも、総督の不用意な行動の数々ですものねぇ……?」

 

「ちょ、ちょっと待て朱璃に朱乃。ウェイトウェイト。その手に持っている鞭や鉄棒は何に使うつも……な、なあ! ま、まっ……アァー!」

 

 哀れ、サディストの気がある母娘にロックオンされたどこかの総督をさておいて、こんなこともあろうかとといった様子で、酔いの覚めた魔王ベルゼブブは夕食後のお茶やデザートに舌鼓を打ちつつ、説明を代行し始める。なお、酔った人達は久脩の神滅具の力で、その酔いを既に酔い潰れている彼の父親二人へ『譲渡』していた。

 本来、赤龍帝がいずれ目覚めるはずの能力の転用のため、それほど久脩の負担もなかったようだ。そのイッセー本人は感心した様子で眺めていた。転生者の知識を利用した先取りだが、自分が使えるようになる可能性を欠片も考えていないらしい。

 

 見せられないよ!……な状態になる予定の総督は、なぜか防音対策が取られている別の部屋に連れられていった。南無。

 

「ということで説明を代行する。質問については話の区切りごとにこちらから時間を設けるので、途中で口は挟むなよ。この甘味でも口にしておけ。では、まず話の発端は……」

 

 今回のカオスな会合の始まりは、久脩が朱乃や椿姫と同じ長命種になる決意をアザゼルや椿姫の関連で繋がりが深いセラフォルーヘ報告したことから始まったという。

 長命種になるのに手っ取り早いのが既に技術が確立していた悪魔の駒だが、『究極の羯磨』を手にした神滅具所有者というのが問題になった。天界でも異端の神滅具、帝釈天の得物の形状をした代物の波動が人間界で感知されたと大騒ぎになり、躍起になって探していたらしい。

 

「一回目は約十年前のこの神社、二回目はこれも数年前になりますが、五大宗家の一つである真羅邸。三回目は先日の冥界ですね」

 

 久脩の所在については推定がついたものの、悪魔の管理下にある街で堕天使の庇護を受ける人間となればなかなか接触出来なかった、というのが調査担当のガブリエルから補足説明される。

 

「セラフォルー様に内々に打診していたところ、ある協力をすることで会わせて頂けるということになったものですから」

 

「その結果がこれだよー☆ デザインは久脩ちゃんの羯磨の待機状態をモチーフにしました☆ アジュカちゃんとアザゼルちゃんが自重を捨てて、いろいろやらかした結果、とんでもないモノが出来ちゃったの☆」

 

 白地の羽、黒地の羽、蝙蝠の羽が透明の水晶を包み込むようなデザイン。その水晶も何やら神秘的でありながら禍々しい力も感じられる曰くつきの代物のようだ。

 

「悪魔だけでなく、天使と堕天使……三勢力の力を持って転生出来る逸品だ。一点モノだ、勿論。この三つの力を均等を図りつつ、一つに合わせるというのは……もがもが」

 

「アジュカちゃんの説明は長くなるからカット! つまり久脩くんがこの水晶によって長命種になるかわりに、まぁ一種のプロトタイプになってもらおうってわけだね☆ あと神滅具持ちの彼が三勢力の影響下にいますよって」

 

「なお、この一件は他言は禁ずる。理由は言わなくても分かるな。彼自体が特異点のような存在になるからだ。彼や彼に非常に近しい者以外が誰かに漏らそうとすれば、相応の報いを受けることになるだろう」

 

「天界側としてはこの件について何か問題が発生した場合、不干渉を貫いて良いということを条件にしている。まぁ、アザゼルとベルゼブブ殿が張り切り過ぎた結果だからね」

 

 色々各勢力の幹部が各々の立場から説明をするが、まとめてしまえば久脩が朱乃や椿姫と同じ時を生きられる代わりに、彼女たちに関連する神話体系に縛られるということであった。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「安倍くん……いや、今更ですが、本当に良かったのですか」

 

「まぁ、選択肢など無いですよ、会長。朱乃は堕天使、椿姫は悪魔陣営と切っても切り離せない。この水晶を受け入れたことで三大勢力のためだけに働くのが生き甲斐……みたいな洗脳の追加効果があったら洒落にならないけど、その辺りは総督がしっかり監視してくれたみたいですし」

 

 水晶を体内に埋め込む頃には、ずだ袋状態の堕天使を含めた朱乃達も戻ってきており、純白の天使の羽、濡羽色の堕天使の羽、漆黒の悪魔の翼を同時に広げた姿を御披露目して自然に拍手が沸いたものだった。

 また、彼が急な変質を起こした様子もないことに、朱乃や椿姫は密かに安堵の息をついていた。椿姫が悪魔の駒を受け入れた際に自分への違和感を感じたからだ。転生したとはいえ、ソーナにしっかり『仕える』ために、自分の直接の恩人である久脩を軽視する感覚が生まれていたのだ。

 違和感を違和感と正しく認識できるうちに、久脩や朱乃に訴えて、それを受けた久脩が椿姫の違和感が無くなるように羯磨に願ったところ、『仕えなければ』という気持ちがスッと薄れてしまったのだという。新たな後ろ楯になってくれたソーナへの感謝はそのままだし、自分に出来ることはしてあげたいとは思うが、久脩や朱乃との交遊を第一にした上のことだと。

 この頃には既に椿姫も彼への明確な恋心を自覚しており、それをかき消されていく感覚に心が危険信号を全力で発したのが、後の椿姫の自己分析だ。ただ、その時点ではとにかく悪魔の駒を受け入れることで、心も王に仕える従者としての感覚に染められていく副作用があると三人は結論づける。

 

 このことは三人以外には朱乃の両親、そしてアザゼルのみ知る秘匿事項となった。普段はソーナの住居に暮らす椿姫だが、姫島神社をもう一つの生活拠点にするのはその辺りの事情を鑑みたバラキエルや朱璃が誘導した結果であった。裏事情を知らないソーナも、女王の駒を与える際に久脩達との交流を続けることを認可した上のことであり、また椿姫の恋を応援する意図もあったため、一般的な眷属の女王らしからぬ行動を取ることに苦言を表する外野の声に、王としての指示であるからと取り合わなかったのである。

 なお、椿姫や久脩との信頼関係が出来上がった後、ソーナ自身はこの事実を聞かされた。ソーナは自分の内に秘めることを二人に誓約し、その対価に久脩の手により自分の所有下にある駒から一種の洗脳機能を除去してもらっている。

 そのため、ソーナの眷属は自由で柔軟な思考を持ちながら、個性的な忠誠の在り方を示しているなどと言われるように後々なっていくのだが、純粋に王としてのソーナの厳しくも優しく凛とした振る舞いに対して、其々の眷属が納得した上で付き添っているためでおり、転生悪魔らしからぬ眷属の集まりになるのは当然だった。

 

「あと、ガブリエルさんの魂の変質を払う祝福を受けてから体内に取り込んだことで、こっそり頭や心に作用する機能があっても強制遮断されるみたいで。一瞬、緑髪の魔王様の微笑みが強張りましたから、総督でも気づかないような、何かを仕込んでいたんでしょうね」

 

 アジュカはもちろん開発者しか分からないギミックを思い切り仕込んでいた。彼から特殊な信号を水晶へ送信することで、彼が『自分に敵対的行動を取れない』誓約を強制的に発動するように。別枠で水晶の重要な術式構成部分の一部には探れば分かる程度に、悪魔の駒と同じ仕掛けを潜ませ、それをアザゼルに対する囮としたのだ。

 表面上、三勢力はこうして会合を非公式に持つことはあっても、天界は悪魔や堕天使陣営を信用などしていない。ミカエルの意を受け、かつガブリエルの個人的な望みもあり、彼女は久脩に全力の祝福を施した結果、アジュカの企みは砕かれたのである。

 

 なお、アジュカの本音は『究極の褐魔』を自分の手元で研究したいという点にある。自分に敵対行動さえ取れないようにすれば、丈夫な悪魔や堕天使のような身体になった上で死なない程度に解体実験も試せるという身勝手な研究者としての欲があった。

 ソーナを通じて友誼を結んでいるセラフォルー。今回のライザーの件を含め、リアスのフォローをしてくれている久脩へ個人的な感謝を持っているサーゼクス。同じマッドな技術者の一面がありつつも、可愛がっている姪のような存在の伴侶を奪うつもりなどないアザゼル。その三名と違い、アジュカは感情面で久脩を実験体と見るための躊躇いが無かったのだ。

 

「……ガブリエル様は、どうしてヒサくんに祝福を授けてくれたのかしら?」

 

「久脩くんの持つ神滅具が関係しているのでしょうけど……」

 

「簡単に堕天しないように、とは言ってたけどね。ただ、あの水晶にもそういう保護機能は入れてあるって、総督も言っていたけど」

 

 本来は少し先の歴史でミカエルが天使と悪魔が子作りしても堕天しないという特殊な部屋を開発させるのだが、それを先取りして、水晶にその部屋と同じ力を練り込んだものになる。この辺りの技術協力はアザゼルが行っており、朱乃という姪っ子のためにあくせく動く総督をミカエルも弄って遊びながらも、その想いに対して協力を惜しまなかった裏話があるが、誰かに語られることは総督が酒にもう一度飲まれない限りはないだろう。

 

『貴方が堕天使の血を引く彼女や、悪魔に転生した彼女といずれ子を為すこともあるでしょう。その子供達が和平の象徴になっていってくれることを、私は勝手ながら祈っております──』

 

 別れ際、久脩にそんな言葉を言い残し天界へ戻っていったガブリエル。この十年、接触は出来なかったもののずっと見守っていたことを告げられ、今後も見守っていると言い残していた。

 

『貴方は人の身を捨て、人あらざる者……そして、世界に唯一の個となる、三種族の特性を宿す者になりました。だからこそ、自分の本質を決して見失わぬよう。どうしても振り払えぬ深い迷いが生まれれば、祈りなさい。告知を司る天使として、貴方の夢へと現れましょう──』

 

 天界一の美女である彼女だが、久脩に去り際に見せた微笑みは安心感と居心地の良さを与えてくれる『母親』を感じさせる表情だった。口にはすることは無かったが、不遜ながら母親のような感情で自分を見守り今後も見守ってくれると感じた久脩は、偉大な母親的存在が増えたむず痒さと、朱乃と椿姫を守り続けようと改めて自身に誓ったのだ。

 

「さてと、ヒサくん。転生記念に、今晩も……ね? 一緒にまずはお風呂に入りましょう」

 

「ええ、背中をお流しします。久脩くん、私達に今宵も寵愛を頂けますか?」

 

 ともあれ、久脩が長命種となったことで、二人は自重を投げ捨てる。ソーナがいるのに関わらず、露骨なアプローチを仕掛けていく。

 

「椿姫! ちょっと待ちなさいな」

 

「なんでしょう、会長?」

 

「その……悪魔は出来にくい身体とはいえ、ね? 学生であるわけだし、その」

 

「大丈夫です、ちゃんと二人ともピルを服用してますから」

 

「え?」「え?」

 

 久脩とソーナから揃って何ともしまらない声が漏れるが、仕方のないことであろう。久脩については万が一の覚悟も固めていたし、ソーナも学生の立場である椿姫の将来を憂いたわけなのだが。

 

「久脩くんに無用の心配をかけるつもりはありませんので、中学生の終わり頃から服用しています。いつ、そういうことになっても大丈夫なようにと」

 

「あ、あら、そう、そうだったのね」

 

「月一で定期的に朱璃さんと一緒に三人で出かけていたのはそういうことか……定例のショッピングデーと聞いていたから」

 

「もちろん買い物も楽しんでいるもの。ただ、そこに通院が加わってるだけよ、ヒサくん」

 

「内緒にする必要もなくなりましたし、次回からはご一緒に。食事も一緒に楽しみたいですし、購入する服も選んで欲しいわ」

 

 ソーナはそっと席を立ち、『ご愁傷様』と言わんばかりに瞳を閉じ、顔を伏せ、静かに退出していくのだった。本来はこれから契約の営業時間である椿姫だが、ちゃんと契約績は合間合間の時間で活動し、数字を残しているので、ソーナも今お邪魔虫になる必要はない。

 

「会長、明日は必ず」

 

「ええ、宜しくね」

 

 言葉はそれだけで十分。供物は今日も女性二人に捧げられた──。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「あ、そうだ。朱璃よ、あの件をまた久脩に伝えておいて欲しいんだが。バラキエルも知ってるが、今日は潰れてるからな」

 

 全身傷だらけ髪はちりちりパーマのアザゼルが、拠点へ戻る前に朱乃の母親・朱璃に言付けた内容。それは朱乃と椿姫二人にとっての福音めいた内容で──。

 

「悪魔の駒の応用でしたね。互いの魔力や光力を登録したアクセサリーを身につけておくことで、互いの居場所への転移であるとか、魔力や光力を介しての直接通信が出来る……」

 

「あと、久脩の近くで戦う時に能力向上って効果も盛り込めそうだ。この辺りはプロモーションの逆パターンみたいなもんだな。チェスの駒にするつもりもねえし、アイツが三勢力と繋がりのある独立勢力に等しくなる以上、朱乃や椿姫が事実上の『女王』みたいに付き添えるようにしていた方が便利だし、普段からそんな感じだろ」

 

「ふふ、二人は喜ぶでしょうね」

 

「来週には仕上げて持ってくる。まー、しばらくは久脩に精のつくものをしっかり食わせてやるこった」

 

「ええ、もちろんよ」

 

 言われるまでもないわよ、と笑う朱璃にアザゼルは苦笑いで転移していくのだった。




次回か、次々回で終わらせます。

あとはずっと基本イチャコラですからねぇ。

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