二人の淫らな女王   作:ですてに

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あと二、三話で終了ですかね。

コカビエル戦を書くかどうかってとこですが、
書いてもダイジェスト版になりそうです。


イチャコラの見本を見せつけられてしまいました

 「はい、あーん」

 

「久脩くん、痒いところはありませんか?」

 

 ゲームの結果として、ダブルノックダウンになった両陣営。そのため、即時結婚の話は立ち消えたが、婚約の問題は変わらず残ったまま。ただ、両陣営の王が本来ならば快癒に長期間かかるような大怪我を負う事態となり、正式にグレモリー側からフェニックス側へ婚約解消を申し入れる結末となった。性格の不一致が明らかで、かつ自重するつもりが双方にない以上、夫婦喧嘩のたびに領土が焼け野原になるのを避ける判断もあったとかなかったとか。

 結果としてリアスの願いどおりとはなったが、グレモリー家の名声に大きなマイナスになったことは変わりなく、酒の勢いに飲まれた当主ジオティクスや婚約を破棄させたリアスは『亜麻髪の絶滅淑女』の怒りをその身で痛感することになったという。なお、リアスは久脩と同じく、未だ療養中の身である。

 

「ちょ、椿姫さん、だ、大丈夫ですから! それ以上はマズイ!」

 

 多数の裂傷ばかりでなく、内部の神経系統が著しい損傷を負っており、ゲーム終了直後の彼は自分の身体を自分の意思で動かすことが不可能となっていた。朱乃や椿姫がマウストゥマウスで強引にフェニックスの涙を嚥下させ、全身不随になる状態は回避したものの、人間の回復力の限界もあり、フェニックス側から用意された駒王町近くの病院で療養中である。もちろんフェニックス家の経営する病院で、久脩は特別病室を貸し与えられていた。

 回復途上である彼は回避行動も取れないため、汗を拭うタオルを持つ椿姫の手が本人の意思を無視して充血して膨張する身体の一部分近くまで迫っても、言葉以外に制止する術を持たないのだ。

 

「ふふ、うまくまだ身体を動かせませんでしょう? 大丈夫です、昂ぶりもちゃんと鎮めますから……」

 

「椿姫、オイタはそこまでよ。気持ち良さがあるとしても、思うように私達を組み敷けないのは逆にヒサくんのストレスになるわ。そういう身体の毒抜きを手伝うのは就寝中になさいな」

 

「……そうね、先走り過ぎたわ。晩まで待てばいいことだものね」

 

 そういえば、入院してから晩は絶対に目が覚めないことに久脩は気づく。眠りに落ちれば朝まで熟睡だし、二人が添い寝していても同じくだ。自宅や姫島邸で眠る際は二人の吐息や香りで目が冴えて、煩悩を振り払うために街中を走り回ることだってあるのに。

 

「朱乃、椿姫さん。あのぉ、晩に何かあるんですか?」

 

「うふふ、今のヒサくんは心身を癒すことを考えて下さいな。私達はそのお手伝いを少しでもできればと考えているだけですから」

 

 微笑む朱乃の瞳には光はなく、深遠の闇が広がっていた。久脩は決断する。今の自分が触れるべきではない。まず、対価を払った自分の身体を元に戻すことだと。朱乃の差し出すスプーンを雛鳥のように啄ばみながら、彼はそう考えるのだった。

 

「久脩ぁ、体調はどうだよ!」

 

「お邪魔するよ、安倍くん」

 

「し、失礼します……」

 

「します」

 

「おう、塔城さん。挨拶は大事だ。古事記にもそう書いてあるだろ?」

 

「ドーモ、アベさん。トージョー=コネコです」

 

「これは丁寧にどうも。アベ=ヒサナガです」

 

 グレモリー眷属の一行がお見舞いに訪れる中、小猫の振りに答えて、某アメコミ交じりの挨拶を交わす久脩。二人ともどこか満足気な顔となり、周りは困惑する者、苦笑いする者、それぞれの反応を見せていた。

 

「塔城さんはこういう振りが通じるから、楽しいわ、ほんと」

 

「あらあら、私も覚えたほうがいいかしら?」

 

「いや、朱乃や椿姫にやられると逆に申し訳なさが先に来るからマジ勘弁。気安い後輩だからこそ出来る、ネタのやり取りというか」

 

「はい、姫島先輩や真羅先輩は安倍先輩の隣でそうやって微笑んでいるのが一番です。イッセー先輩もこういうの知ってるはずなんですけど、反応が遅れるんですよね」

 

「芸人失格だよな、ほんと」

 

「ええ、皆を笑わせる芸人役も出来ないなんて、やっぱり変態にしかなれないんです」

 

「ちょっと待てぇ! なんで俺が悪いことになってるんだよぉ!」

 

 複数の笑い声が上がり、オチにされたイッセーが抗議の声を上げる。彼等の日常が、戻りつつあった。

 

「戻ってきた、って感覚だな。後はイッセー、お前達の方はグレモリー先輩が戻ればバッチリだな」

 

「おう、通信で話す限りは元気そうなんだけどな。腫れ上がった頬とか痛々しい姿を見られたくないから、もう少し待ってくれって」

 

 戦いが終わり、久脩はイッセーと呼び方を変えていた。共闘とした者同士、通じるところがあったのだ。なお、リアスの顔が腫れ上がった理由については、問いかけた途端に彼女の眷属達が一斉に目そらししたので、久脩がグレモリー家のヒエラルキーを思い出し、あっ(察し)となっていた。

 

「と、ところでイッセー、左腕は魔術か何かで、普通に見せてるのか?」

 

「おっ、そうだな! えっと、ああ、本当は籠手が出っ放しだ。ただ、流石にいつも見えてるとまずいってことで、部長のお兄さん達が見た目を誤魔化せるブレスレットをくれた」

 

 露骨な話題転換に棒読みで答える二人のやり取りだが、誰も突っ込まないことで会話はスムーズなものへと戻っていく。

 

「魔王様、太っ腹だな」

 

「よく相打ちに持ち込んだって礼を言われたよ。本当はお前にも直接御礼を言いたいみたいだけど、お前の体の状態がやばかったからな。治療優先で、んで魔王様達は超多忙だからな……」

 

「別に魔王様達に礼を言われるためにやったんじゃないさ。俺は俺で、ライザーさん達に覚悟を見せるために戦った。それだけだ」

 

「だけど、お前の寿命は縮まった。そんな簡単な話じゃねえだろうが……」

 

 久脩から見ても、イッセーは変態だけどいい奴だと思えた。変態なのが惜しいが友情に篤い男なのだ。変態なのが残念だが。

 

「なんかすげぇ蔑まれた気がする……」

 

「気のせいだ。ただ、ありがとうな。覚悟ってのは、人の身を辞める覚悟も含まれてる。朱乃や椿姫をこの先もずっと守っていく覚悟……俺もさ、ずっと朱乃や椿姫を放したくない。結局、その想いから目を逸らしていただけなんだ」

 

「……久脩」

 

「俺は守れりゃいい。二人はそれぞれいつかお似合いの男を見つける。それを見届けりゃいいってな。ただ、やっぱり苦しくてな。フェニックス戦は俺にとってもいい機会だったんだ」

 

「そっか、じゃあ……俺が部長と結婚する時にゃ絶対呼ぶからな! 早く上級悪魔になって、部長にハーレムのクイーンになってもらう!」

 

「でかく出たな。ま、頑張れよ」

 

「ちくしょー、勝者の余裕がムカつくぜ……」

 

 軽く拳を打ち合わせるにも、木場が久脩の腕を支えて、その上で傷に響かないように気遣った上でのこと。男同士のやり取りを小猫やアーシアは微笑ましい目で見守る。なお、突然の覚悟の独白を受けた朱乃と椿姫は、二人で異常に慌てて取り乱していた。

 

「なんか、羨ましいですよね。男の子同士しか分からないって感じで」

 

「ふふ、でもイッセーさんも、安倍さん達も、本当に嬉しそうです」

 

「姫島先輩と真羅副会長のこの慌て方も物凄くレアですよ。撮っておいて後で安倍先輩に売りつけます」

 

 朱乃と椿姫が我に返った後、アーシアの『聖母の微笑』による自己回復力の促進を受けながら、改めて久脩はこの後の自分が歩もうとする道を口にしていた。

 

「人から長命種に変わる、それは決めた。遅くても大学卒業するぐらいまでには、かな。ただ、俺の力が弱いのも分かっているし、このペースで対価を払っていたらもっと早くしないとマズイって感覚もある」

 

「昏睡状態が今回は三日間でしたが……フェニックス家のお医者様の見立てでは、昏睡状態が続いた日数分、寿命も削られていると思っておくべきだと」

 

「ヒサくんの寿命は既に十年以上、縮んでいると思っておくべきですわね……」

 

「戦いから遠ざかれば焦る必要もないって話だが……朱乃や椿姫を守る以上は、そうはいかないだろうしな」

 

 面会時間が終わった後の就寝前にライザーとユーベルーナが顔を出すことがある。朱乃や椿姫は泊り込みなので、たいてい同席しているわけだが、ライザーからも警告をされていた。堕天使幹部の一人娘、シトリー家次期当主の女王、そして長らく行方不明となっていた神滅具『究極の羯磨』の所有者が狙われないわけがないと。

 

「じゃあ、じゃあさ! 部長の眷属になるのか!?」

 

「それも選択肢の一つなんだろうが、グレモリー先輩が調子に乗るのが見えてるから、選ぶとしてもギリギリまで言わねえ。……先輩や友人としては情が深い情熱的な人だなで済むけど、王として仰ぐには戦いは正々堂々の先輩と勝てば官軍の俺じゃ明らかに反りが合わないって、正直」

 

「確かにお前は臆病者と言われても、そのまま流してたって部長は怒ってたっけ……」

 

「俺はまだ人間だし、戦いなんて相手を油断させてなんぼと思うからな。武道の試合なら別だけどさ」

 

 これは俺の考え方だからと、久脩は一旦話を打ち切るが、グレモリー眷属は朱乃や椿姫の戦いについての考え方が久脩の思考と同じだと気付く。恋する女達は思考パターンまでも同一化とするのかと内心戦慄したが、それは置いておくとしよう。

 久脩の言葉にニコニコ笑って微笑んでいるのだ、触らぬ女神達をあえてけしかける必要などどこにもない。命は大事に。心は一つとなっていた。

 

「実は支取会長経由でレヴィアタン様や、堕天使の総督アザゼル殿が既に動いてくれている。今のまま行けば、悪魔や堕天使に転生する可能性が高い」

 

「大物の名前が出てきたね……」

 

「アザゼル殿とは朱乃の家で何度も飯を一緒に食べたり、ゲームに興じたりしてるしな。レヴィアタン様は椿姫や支取会長の延長線で頻繁に顔を合わせてる」

 

 仕事も投げ出してきたりするため、仕事のフォローをさせられたり、勢力外秘扱いの書面も何度か見てしまっている。あまりの軽さに頭を抱えていたところ、同じ悩みを持つシェムハザ副総督やソーナとの直通連絡先を預かる羽目になったが、彼等からは居場所の特定がやり易くなったと感謝されていた。なお、互いにいい胃薬が見つかれば送り合ったりもしている。そんな裏事情は総督や魔王の名誉のため、久脩が口にすることはないが。

 

「魔王様とか、ほんとに軽過ぎないか……?」

 

「責務から解き放たれたい時もあるってことだろうけど、解き放たれてる時間の方が長い時もあるからな。まぁ、今はその話は置いておこう。これ以上知れば、遠慮なく巻き込むぞ?」

 

「俺は何も聞いてないぞ、久脩!」

 

「イッセー、利口な奴は俺も嫌いじゃないぜ」

 

 久脩に見えた影にイッセーは全力で危機回避を行う。そんな感じで『近々人外になるからこれからも仲良くはやろうぜ、ただし眷属化は勘弁な!』という久脩の意向をグレモリー眷属は主へと正しく伝えて、リアスは美少女がやってはいけない歯軋りをするのだが、知る術などないのである。

 

「なるほどな、じゃあ本気で僧侶の枠を空けておこうか? お前ならそう時間がかからずに上級悪魔になれるだろうし、そうしたらその二人も自分の眷属に出来るじゃないか」

 

「ライザーの眷属になって、毎日お前の眷属と幸せそうにしてる様子を見せられるなんて冗談じゃない」

 

「お前もその二人を連れてくればいいじゃないか。部屋はいくらでも余ってるし、ソーナ・シトリーの眷属の仕事があるのなら、移動用の魔法陣を邸内に設置しておけばいい。許可した者だけが通れるようにしておけばいいのだしな」

 

 就寝前に回復状態の確認をとライザーが隠密に訪ねてきたため、ユーベルーナに促され見舞い客用のソファーの上で体勢を変えるライザーと、朱乃と椿姫に抱えられて姿勢を変える久脩。二人は膝枕と耳掃除をされながらのやり取りである。既に互いを名前で呼ぶことを許す程度には気安くなっていた。

 

「ふふ、ライザー様。綺麗になりましたわ」

 

「こちらも終わったわ、ヒサくん。ほら、ふーっ」

 

「うひゃっ」

 

 悪戯っ気を出した朱乃が膝に頭を乗せている久脩の耳に息を吹き込む。その行為に変な声を出してしまう久脩を見て、ライザーは思わず笑いを漏らす。

 

「お前はどうにも、従えているという感じではないな。その二人に従えられているというのが似合っている」

 

「ハーレムの王だと堂々としてられるお前も理解できねーよ」

 

「ふふ、ライザー様にはライザー様の良さが、久脩さんには久脩さんの魅力がありますわ。私はライザー様のあり方に惹かれ、朱乃さんや椿姫さんは久脩さんの生き方に引き付けられた。ですから、貴方は貴方のやり方でお二人を幸せにしてあげてくださいな。そうすれば、お二人はどんどん綺麗になり、女として強く輝けます」

 

 愛されていると自認し、その愛に見合う女であろうと自分を磨き続けるユーベルーナ。そう遠くない未来に、朱乃や椿姫が元々の美貌にさらに磨きをかけ、羨望を集める女性へと成長するだろうと楽しみにすらしている節がある。

 

「そうだな、ユーベルーナ。一昨日よりも昨日、昨日よりも今日のお前がより美しい。さすがこの俺を魅了し続ける女王だ」

 

「ええ、ライザー様の女王ですもの、私は。私がより美しくなることで、王たるライザー様も輝きを増していかれるのですから」

 

 二人だけの世界をすぐに構築するライザーたちに、久脩は圧倒されてしまうのだった。敵わないな、と。ただ、傍の朱乃と椿姫には二人の激情に火をくべるのと同じ行為であって……。

 

「私、もっと綺麗になってヒサくんをずっと魅了し続けるから、絶対離しちゃ嫌よ?」

 

 朱乃がそう呟き、彼の一方の手を自分の頬に当てれば。

 

「この身体は久脩くんのものですから、貴方の自由にいつでも辱めて、穢してくれていいんですからね? 貴方の欲望を受け止めることで、私はもっと輝きますから……」

 

 椿姫はさらに踏み込み、空いた彼の手を自分の乳房へと食い込ませていく。発情した雌の一面を隠さない瞳が久脩を射抜いていた。

 

「ふふ、心は繋がったのだから、早く身体も繋がればより調和が取れて、あの子達の輝きが増しますわ」

 

「気に入ったんだな、ユーベルーナ。お前がここまで嗾けるとは意外だったぞ」

 

「どんな風に激しく愛してもらっているか、そんな深い話を出来る眷属以外の友人が欲しかったんですの。年も近いですしね」

 

「……そ、そうか」

 

 身体が復調次第、久脩はまた著しく生命力を失うかもしれないとライザーは予感する。フェニックスの涙を用意して、いつでも届けられる状態にしておこう。そう頭の中に書き留めるのだった──。


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