二人の淫らな女王   作:ですてに

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女王二人を従えるならやはり王でなければ

「流石に戦い慣れしているわね……」

 

 駒王学園を模したレーティングゲームのフィールドで、体育館を利用し、相手の兵士や戦車をまとめて仕留めたまでは良かったが、その直後の隙をつかれ、小猫が脱落。

 中継映像の向こうでは今回限りのグレモリー眷属側の女王を担当する朱乃が、ライザー側のユーベルーナと相対していた。

 

「えっと、会長。それはどちらの話です?」

 

「両方よ。ライザー側も、姫島さんも」

 

 ソーナ達も女王の椿姫が助っ人参戦していることで観戦を許されており、その映像を真剣に見つめながら、自分達も近々参加することになるゲームを見据えていた。

 

「サクリファイスというわけではないけれど、体育館を崩壊させることを兵士数名と戦車一名をまとめて倒した直後の油断を、ユーベルーナは的確に突いた。姫島さんはすぐに防御結界を張って爆風を防いだけれど、塔城さんは倒れ、兵藤くんも大きなダメージを追って、本陣への一時退却を強いられている」

 

「新しく加入したアルジェントさんが回復を担えるのは大きいですね」

 

「姫島先輩も容赦ねえな……光力全開の雷光で、あの相手女王があっという間にボロボロになってやがる……」

 

 画面の向こう側、朱乃の表情は感情を押し殺すような、能面に近いものとなっていた。

 

「回復アイテム、お持ちなのでしょう。お飲みになって頂いて構いませんよ」

 

「ふ、ふふふ、流石は雷光のバラキエル殿の血を引く貴女。悪魔の天敵ともいえる能力をお持ちですね……」

 

「ヒサくんに言われていたのに、自分の不甲斐なさに腹が立って仕方ないのです。上手くいったと思った後こそ、気を引き締めろ……それなのに、貴女の狙い通り、あの子を撃破されてしまった」

 

「雪蘭達の無念、晴らさないわけにはいきませんので」

 

 ガラス瓶の液体を飲み干し、ユーベルーナはもう一度顔を上げる。目の前のグレモリー側の女王をこの場に出来るだけ長く足止めすることがすなわち勝利へと繋がると知っているから。

 

「この心の苦さ、糧としてみせますわ。ユーベルーナさん、貴女をここで落とし、ライザーさんと相対するヒサくんの懸念を確実に削る」

 

 纏う雷光に炎が渦巻く。フェニックスと同一視されることもある朱雀の炎を目にして、ユーベルーナは一層の覚悟を固めた。

 

「木場くん、うまく罠に嵌めて兵士を撃破できたようですね」

 

「イッセーくんの回復に時間がかかるだろうし、こちらに有利な状況に少しでも持ち込まないとね。ライザー、ユーベルーナはあの二人だけで僕ら全員を相手取れる実力者だ。早めに数の有利を確保しないと……ん、校庭で仁王立ちしているのは相手の騎士?」

 

「私はライザー様の騎士、カーラマイン! シュリヤー、マリオン、ビュレントをトラップを使って撃破したようだが、騎士道にあるまじき行い! 近くにいるのだろう、グレモリーの騎士! 聞こえているだろう! お前達は臆病者の卑怯者か!」

 

 相手の堂々たる挑発に、祐斗は顔を歪め、椿姫は何を言っているんだと呆れ顔といった対照的な反応を示す。『はぁ』と椿姫はため息を一つ吐き、祐斗に出るように勧めた。

 

「私は臆病者の卑怯者でも勝てるならそれで構いません。あくまで臨時の騎士待遇ですし。ただ、貴方は違うのですね、木場くん」

 

「ああ、あそこまで言われて黙ってはいられないよ……後を頼んでいいかな」

 

「彼女との戦いはお任せしますよ。その周りに身を潜めている残りの騎士や兵士達を相手するとしましょう」

 

 騎士扱いで参戦している椿姫は女王としての力を封じられながらも、神器や真羅の力を使い、遠距離からの攻撃や、地面に埋め込んでいた武器を使って死角からの奇襲を仕掛け続けるのだった。

 

「……椿姫、金属生成と操作を完全にモノにしていたのね。木場君と違って魔剣の要素は持たせられないけど、投剣や投槍を神器で反射させて威力を倍加した状態で放っている」

 

「あちこちに生成した武器を埋めてあるみたいだし、ある程度任意の場所に直接生成出来てますよね。対多数の戦いを想定した戦い方……」

 

「純粋な攻撃力では、やはりパワータイプに劣るとあの子は分かっています。だからこそ、自分の利点を知り、伸ばすことに懸命になっている。自慢の女王です、本当に……」

 

 グレモリー眷属が優勢気味に試合を進める中、ライザーは動く。炎だけでなく風を司る彼は、戦域全体に伝わる声を発し、リアスを挑発。あっさり王同士の対決へと持ち込むことに成功していた。

 

「阿呆か、グレモリー先輩。自分じゃライザーさんを倒す一撃を放てないって言ってた癖に。眷属にばかり戦わせるのが情愛のグレモリーのやり方かって挑発されてホイホイ乗るだなんて……」

 

 幸か不幸かイッセーの回復のため、戦闘エリアからはアーシアは離れた場所にいる。回復役の即時リタイアは防げているが、そもそも王が敗れればその瞬間敗北が確定する。

 

「リアス様の性格を良く知っていますから、お兄様は」

 

 イザベラという顔の半分を仮面で覆った女性を護衛に、レイヴェルは久脩と対峙しながら会話をする余裕があった。自分から戦うつもりはなく、仕掛けられればイザベラが盾になる。その隙にフェニックスの劫火で焼き尽くせばいいのだから。

 

「修正力、なのかね。となれば、やっぱり動かないと駄目、か。……レイヴェルさん。俺が死に掛けたら、ライザーさん達が涙を使ってでも回復してくれるって話、あれ信じていていいんですかね。仮に俺がライザーさんを酷い目に合わせたとしても」

 

「兄は誇り高きフェニックスの男ですわ。いざとなれば、私が代行するようにも言われております」

 

「そっか。じゃあ、せいぜい足掻くとするかな……朱乃や椿姫が頑張ってるわけだし、王って柄じゃないけど俺も意地は見せないと」

 

 先日、ライザーの火球を打ち消したのは、自分が魔術の素養があるからという話で煙に巻いていた。ただ、彼と本気で戦うとなれば、『究極の羯磨』の力を使うしかない。

 

「貴方が何かしら隠れた力を持っていると、兄やユーベルーナは確信すらしていました。その力をしっかりと見せて頂きますわよ?」

 

「ああ。さて、キャスリングをこちらから発動して──」

 

「待ってくれよ、久脩っ!」

 

「……兵藤」

 

 アーシアをお姫様抱っこしながら、こちらに駆け寄ってくるイッセーは全快に戻っているように見える。対して、アーシアはやや疲れが見えていた。それだけ癒しの力を行使したのだろう。

 

「ったく、一緒に合宿組んだ仲なんだから、イッセーって呼べって言ってんだろ。お前、ライザーんところに乗り込むつもりだろ! 俺も行くぜ!」

 

「ということなんですが。それでも見逃して頂けますか、レイヴェルさん」

 

「兄は負けませんわ。と言いますが、まとめてキャスリングなさるつもり?」

 

「……力を使うべき時だと覚悟は決めています、詳しいことは明かせませんけどね。アルジェントさんは入れ替わりでこちらに来るグレモリー先輩を頼む。多分、勝負にケチをつけたとか激しく怒ると思うけど、男二人がどうしてもカッコつけさせて欲しいって言ってたとでも伝えておいて」

 

「おう、部長の勝利は俺達がつかんでくるってな! 女の子の笑顔は男が守るもんだ!」

 

 羯磨金剛をその手に魔法陣を発動させる久脩。レイヴェルはその瞳に覚悟が宿っているのを分かっていたが、なぜ人間の身で死地へと赴くのにどうして澄み切った瞳をしているのか、それが最後まで分からなかった──。

 

「……だまだよ、ライザー! ってあら?」

 

「部長さん、じっとして下さい。傷を癒しますから……」

 

 傷の治療を受けながら、レイヴェルから戦車側からの強制キャスリングを発動させられたことを聞いたリアスは、久脩達の予想通り戦いを中断させられたことに怒りを顕わにした。

 

「あの子達、勝手なことを──!」

 

「意地を張ってきます、と。男としてリアス様の笑顔を守りたいと格好つけたいのだ……そう言っていましたわ。私には良く分からない感情ですけれど」

 

「待ちましょう、部長さん。イッセーさん達はきっと勝ってくれます」

 

「……駄目よ」

 

「部長さん?」

 

 治療を遮り、リアスは立ち上がる。悪魔の羽を広げ、アーシアの手を取りながら。

 

「イッセーやあの久脩が戦っているのに、王である私が休んでいるわけにはいかないわ。祐斗も朱乃も椿姫もまだ交戦中のはずよ」

 

「させませんわよ? 私はこの戦いを傍観するつもりでしたが、兄の戦いをこれ以上邪魔するのならリアス様にここで脱落して頂きます。……イザベラ、ここでグレモリー眷属の王を叩きますよ。身動きの取れない程度までは、ダメージを負って頂きます。まずはあの僧侶から撃破するとしましょう」

 

「くっ……。アーシア、下がりなさい!」

 

 ついにフェニックスの劫火がもう一つ、戦場に舞う。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「なっ!? なんであっちでもすげー火柱があがってんだよ!」

 

「……リアスが、レイヴェルを怒らせたということだ。傍観者の立場を止めさせる位にな」

 

 本格的な戦闘に入る前に、ライザーはあえて情報を与えていた。表情は既に落胆の色を隠そうともしていない。

 

「せっかく戦車のお前がキャスリングをしても、これではな……」

 

「いや、時間稼ぎの甲斐はあったさ」

 

『ライザー・フェニックス様の「僧侶」「騎士」二名、「兵士」二名、リタイア』

 

 久脩の一言の直後に流れるアナウンス。祐斗と椿姫が勝ったという知らせであった。イッセーは思わずガッツポーズを決めて、久脩は羯磨金剛を突き出しながら、ライザーへと啖呵を切る。

 

「グレモリー先輩の方は、木場や椿姫がフォローしてくれる。さぁライザーさん。脆弱な人間の命をかけた底力、受けてもらうよ。『イッセー』、覚悟を決めろよ。俺が生命を削るんだ、俺より長く生きるお前はなんてことはないだろう──!」

 

「おおっ! 籠手よ、俺の左腕を持っていく代わりに、アイツをぶっ飛ばせる力を寄こしやがれぇぇぇぇぇぇ!」

 

「く、くはははは! 俺の不死身を超えられるのなら、やってみせろ!」

 

「言われなくても、やってやらぁ──!」

 

『Welsh Dragon Over Booster!!!!』

 

 赤い全身鎧をまとったイッセーはライザーへと殴りかかり、反撃の炎に晒されながらも、フェニックスに苦悶の声を上げさせることに成功する……!

 

「ぐ、うっ!? この、痛みはっ!? 再生が、遅い!?」

 

「龍の手になれば、悪魔だろうと十字架だって持てるからなぁ! たっぷり聖水はまぶしてあるぜっ! コイツもくれてやるっ!」

 

『Transfer!!』

 

「ぐぁあああああ!? 貴様ぁ!」

 

「聖水への譲渡だ! いくら不死鳥でもこれは効くだろうがよぉ!」

 

 苦しげな声、身体が溶けて煙が上がる。確かにライザーは激痛の中にあった。だが、彼は伊達に実戦経験を数多く積んできたわけではない。焼け爛れていた身体の部分を強引に引き千切り、それをそのままイッセーの鎧が崩れていた箇所へと叩きつける!

 

「い、てぇぇえええええええ!!!!!」

 

「鎧が崩れたところは悪魔の身体だ! てめえだってタダじゃすまねえだろうがぁ! 俺はフェニックスだ! 眷属達の王なんだよ! 俺が倒れたら、サクリファイスの戦術を笑顔で飲み込んでくれたアイツ等に合わす顔がねえんだ! ぽっと出の手前等に負けられないんだよ!」

 

 激痛に途切れたイッセーのラッシュ。僅かな隙間がライザーとの間に空いた途端、走ったのは雷──!

 

「ぐぉぉぉぉおぉ! これは光力だと!? 久脩ぁ!」

 

「朱乃の親父さんの力を行為として現実にした! どうだよ! 全身勝手に裂傷だらけで、正直視界も半分血で染まってるけどさぁ、対価を払えばこれぐらいのことは出来るんだよっ! どの道、アンタを倒すぐらいの力となれば、生死を賭けないと今の俺じゃ到底届かないからなぁ!」

 

 久脩の身体を包み、羯磨を通じて放たれ続ける雷光。それは朱乃の父、バラキエルが放つ雷と寸分変わらぬもの。ただし、加速度的に久脩の生命力と精神力が磨耗していく。少しずつ、少しずつ、放たれる雷は縮小し始めていた。

 

「イッセぇぇぇぇぇぇぇ! 砕けよ! 後何秒持つかわかんねぇぞ!」

 

「ライザぁああああ!!!!」

 

「俺は純血悪魔のフェニックスだっ! 毒すらこの炎で全て燃やし尽くしてやるっ!!!!!!」

 

 劫火がイッセーを、久脩を飲み込む中、打撃音と雷はその後数秒間、鳴り響き……。

 

『リアス・グレモリー様の「兵士」「戦車」リタイア』

 

 ──戦場に、アナウンスが響いていく。

 

『ライザー・フェニックス様、リタイア』

 

『リアス・グレモリー様、リタイア』

 

 王が同時に討ち取られるという結果で、戦いは幕を下ろすのだった。




そろそろ完結ですかね。

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