二人の淫らな女王   作:ですてに

3 / 10
女王候補は女王(仮)をするようです

「え、嫌です」

 

「そこを何とか! このままじゃレーティングゲームの勝ち目がないのよ!」

 

「それはリアスのお家事情でしょう? 私を巻き込まないでちょうだいな。私は今日の晩の献立を考えるので忙しいから。最近、野菜が多めでお肉やお魚が少なめだったし……」

 

「お願いよぉ、あげのぉ!」

 

「ああもう、涙も鼻水も拭きなさいな。美人さんが台無しよ?」

 

 駒王町に侵入していた堕天使の一件が片付き、癒しの能力を持つ神器を宿すシスターがグレモリー眷属に加わってしばらく経った頃、朱乃はそのグレモリー眷属の王を宥める羽目に陥っていた。

 

「だったら、仮でもいいから女王やってくれる?」

 

「え、嫌です」

 

 以下、エンドレス。見かねた椿姫と上司であるソーナ・シトリーの懇願を経て、久脩共々臨時加入してもいいという話にはなったのだが……。

 なお、対価として、久脩達が自由に使える最新トレーニングルームや対人訓練が可能な場所の提供があった。ソーナやその眷属達も共通利用するのが条件ではあったのだが、その分充実した設備や広さが確保されている。所有名義は久脩とソーナの連名だが、メンテナンスはソーナ側は受け持つという契約条項もある。

 

「というか、相手側にその話通してないだろ?」

 

「大丈夫よ! 強力な助っ人を呼ぶのも自由にしろって言われてるわ!」

 

「それでも話は通せって、グレモリー先輩。そもそも勝ったら婚約破談にするからって話で戦うことになったんだろ。負けたら即結婚って人生ならぬ悪魔生かかってるんだし。後で難癖つけられたら、結局後を引くぜ?」

 

 そして再度、顔通しということになり、そこでリアスの婚約者というライザー・フェニックスとその眷属に面会した朱乃や久脩、なぜか同行したソーナの女王、椿姫なのだが……。

 

「んー? 人間に爆乳堕天使のハーフ、それにそっちの眼鏡でそそる大きな胸を持ってる女は、ソーナ・シトリーの女王じゃなかったか? まあ、非公式だから別に構わんが……まとめて俺の女にしてやってもいいんだぜ?」

 

「ほら、久脩くん。やっぱりハーレムを形成しているライザー様から見ても、私や朱乃は魅力的な女のようですよ」

 

「ヒサくんが我慢できず手を出しても責められることなんてないの……ね?」

 

 久脩の両腕にこれでもかと柔らく弾力のある自分の武器を押し付ける二人であるが、ここは顔合わせの場である。リアスは頬をひきつらせているし、立会者のリアスの義姉グレイフィアは内心頭を抱え、ライザーの女王ユーベルーナは何やら対抗心なのかライザーにべったりくっついていた。

 

「……人間。俺の誘いをダシにしてお前を誘惑する女どもにもイラっとしたが、そこまでやられて揉み返しもしないなんて、ひょっとしてお前不能なのか? ここまで女からアプローチしているのに手を出さないなんて逆に侮辱しているようなもんだぜ」

 

「ははは……似たようなことは良く言われます。貴方はすごい。ちゃんと皆さんを満たしている。貴方の眷属さんは皆、暗い顔をしている方がいません」

 

「ほぅ……見る目はあるみたいだな。まあハーレムを築く以上、自分の女は満足させられなければ男としての価値がない。お前は臆病者だということだ」

 

 朱乃や椿姫の空気が変わりかけるが、久脩は苦笑いを浮かべたまま。彼女達二人を抱いて開き直る度胸もなく、ライザーの指摘通りだと考えていた。

 

「……ふんっ」

 

「羯磨よ……!」

 

 突如ライザーの手から放たれる大火球。それは久脩達三人を確実に飲み込める大きさであったが、間を置かずに久脩の手から同等の威力の冷気が放たれ、蒸気となって霧散させられていく。息を荒くした彼の手には十字金剛がしっかりと握られている。

 彼の大火球を打ち消せる行為の実現を願った結果だが、ライザーも本気の一撃ではなかったのだろう。体力と魔力の消費は全力の短距離ダッシュを繰り返した後のような疲労で済んだようだった。

 

「その割には『覚悟』はあるみたいじゃないか。迷わず前に出たよな、お前」

 

「ライザー様っ!」

 

「余興ですよ、グレイフィア様。このライザー・フェニックス……追加の助っ人の件、了承しようと思います。レイヴェル、ああ一時的に眷属にしている俺の妹だ──会食の用意を頼む。ただ、最後にそちらの三名は夕食に付き合ってもらおうか」

 

 断ったら助っ人の件は無かったことにしようという空気を漂わすライザーに対して、ぐぬぬと言いながらリアスは撤退。三人も已む無しと夕食の席に出たのだが……。

 

「だからな、俺はユーベルーナをはじめとする眷属が第一なんだよ! 親父が酒の勢いでリアスとの婚約話をまとめて、こっちが家格が下だから撤回も出来ねぇし……そりゃリアスはいい女だぜ?! 外見は言うまでもなく美少女だし、あの素直に感情を現す表裏のなさは性悪女が多い貴族出の女の中では好感度が高い! ただな、俺にとってはどうしても眷属の次なんだよ! ただ、純血悪魔が恐ろしく減ってるのは事実で、下手すりゃ御家断絶ってのも俺ら悪魔にとっては現実なんだ……上層部の爺さん達からも発破を掛けられてい……」

 

 酔っ払ったら本音が出るわ出るわ。神器の力が及ぶかなと試してみた久脩も悪いが、ライザーが普段吐けない本音がぽんぽん飛び出す始末になってしまった。夕食後の部屋飲みで良かったと胸を撫で下ろす久脩たちと付き添っていたユーベルーナである。

 

「ありがとうございます、安倍さん。貴方のお陰でライザー様が溜めていた鬱憤を吐き出せたようです。久し振りに満足げな顔でお眠りになっていますから」

 

 膝枕をしながら眠りの中にあるライザーの髪を撫で、彼の女王は慈愛に満ちた微笑みを浮かべていた。対して、久脩の両膝にもやはり眠りの中にある朱乃と椿姫の姿がある。

 

「グレモリー先輩に建前上、本音を出すわけにもいかないライザーさんの立場もよく分かりましたから。好きな女性と堂々と連れ添うこともままならないなんて……やってられないって気持ちになるのも仕方ないっていうか」

 

「どんな形であれ、私は愛するライザー様とこの命尽きるまで共に歩むだけですわ。他の仲間達も同じことを思っているでしょうけど。きっと、姫島さんも真羅さんも同じように考えているでしょう」

 

 冥界では十五の齢を数えれば一人前の扱いとなる。今、久脩達がいるのは冥界のフェニックス家。転生前以来の酔いが回った感覚に、久脩はライザーと同じく本音をこぼす。

 

「俺も、朱乃や椿姫と一緒にいたいです。だけど、俺は人間なんです。長い時を生きる二人を絶対に置いていってしまう。かといって、悪魔や堕天使になる踏ん切りも勇気もない、ライザーさんの言うように臆病者なんだ、俺は……」

 

「その思いだけでも伝えてみるといいかもしれませんね。彼女達が待ち続けると決めるのか、踏ん切りをつける方向へ進むのか、後押ししてあげてはいかがでしょう。また、彼女達と一線を超えるのと、一生を共にするのは必ずしもイコールではない……分かっていらっしゃいますよね?」

 

「それは、男の傲慢じゃないですか……」

 

「その傲慢さを願う時もあるのですよ、待つ側としては。自分の想いをどこまでも貫くと覚悟するか、あるいは断ち切る決意をするのに、一夜の思い出がどうしても必要な時もありますから。なんにせよ、まだ人の寿命で言っても貴方は若い。あと五年ぐらいはじっくり考える時間がありますよ」

 

 思わぬ形でアドバイスを受け、椿姫がまさかの騎士枠で臨時参戦となりつつも、『手加減はなく本気で叩き潰しに行く』と久脩達を認めたライザーとユーベルーナから、改めてレーティングゲームまで十日の猶予を取ることになっていた。

 

「試合は十日後だ。リアス達にとっちゃ少し猶予が延びた形だが、覚悟が定まってない鍛練をいくら続けても俺達には届かない。お前らはある種の覚悟が出来ているようだが、もう少し覚悟を決めてもらおうか」

 

 翌朝、わざわざ見送りに来たライザーはそう口火を切った。

 

「俺が勝てばレイヴェルを母に引き取ってもらって、お前を俺の僧侶にするのも面白い。リアスの小間使いとしてな。その代わり結婚自体はリアスの大学卒業まで待つと言えば、過保護なリアスの家族は必ず乗ってくる。人間一人を生贄に娘の自由時間が少しでも増えるならと……お前としては不愉快極まりないだろうがな」

 

「脅しですか」

 

「傲慢さが悪魔の美徳の一つだ。転生悪魔となって俺のハーレムを日常的に目にしていれば、お前も決心が固まるだろう? 俺に強引に本音を吐き出させたお前だ、これぐらいの意趣返しはせんとな」

 

 彼の言葉に朱乃と椿姫は目の色を変える。むしろわざと負けるまでアリではないのかと。

 

「お二人とも、そんな都合のいい話ではありませんよ。ライザー様の眷属である転生悪魔、しかも唯一の男性となればライザー様の側近候補と周りは見ます」

 

「資金力に優れるフェニックス家に繋ぎを作るには格好の標的といったところか、くくく……」

 

「潰して差し上げますわ」

 

「再起不能になってもお許しくださいね」

 

 熱い手のひら返しに久脩は昨晩から数えてもう何度目かの苦笑いを浮かべた後、瞳を閉じて一つ大きな息を吐き、再びその目を見開いた。その瞳に灯る意思を確認しライザーは獰猛な笑みを浮かべた。

 

「消化試合と思っていた一戦が死力を尽くすべきものへと変わるのだ。小狡い知恵の回る人間やその仲間のお陰でな。どうやって俺の不死性を超えてくるのか楽しみにしているぞ?」

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「勝つ以外ありません。勝たないと俺はグレモリー先輩の尻拭いを千年単位でやらされる羽目になる」

 

「いくら何でも言葉が過ぎるわよ、久脩……!」

 

「じゃあ朱乃や椿姫を連れて高飛びしますよ、それもいざとなれば選択肢に入ってますから」

 

「そうね、やるからには勝ちましょう。私も全力を尽くすわ……これまでも、これからも期待しているわよ、久脩」

 

 どこか調子のいいリアスだが、美少女というのは得だ。それすら茶目っ気で許されるところがある。久脩も彼女に言ってもどうせ直りはしないという諦観がある。

 

「五秒前と言ってることが全然違うんですが。まあ、やるからには勝ちにいきましょう」

 

 ライザーは久脩を認めた上で、全力で潰すと宣言していた。その意気に答えたいと思う程度には、久脩も男の意地というものを持っている。

 会長や椿姫の提案に乗りはしたが、ライザーやユーベルーナの助言で、朱乃や椿姫の思いにどう向き合うのか、自分の中で切っ掛けが出来たと感じていた。そんな彼らを幻滅させない程度には、結果を出さなければならないと承知していた。

 

「うふふ、聖水に十字架、光力もたっぷり込めてぶつけて差し上げましょうか」

 

「『追憶の鏡』や兵藤くんの力で倍加してぶつけるだけで、見るも耐えないことになりそうですね……朱乃は手に持っても特に問題ないわけですから」

 

「彼の人となりも知りましたけど、ヒサくんを馬鹿にしたことにはしっかりお灸を据えませんとね……うふふふふ」

 

 久脩の若妻(自称)二人はどう料理するか方法を楽しそうに話し合っている。手段を問わず、勝利の結果だけを手繰り寄せるために。正々堂々? なにそれ美味しいの。不意打ち、強襲、ブラフ万歳を地で行く二人である。

 

「久脩、ちゃんと手綱握ってなさいよぉ……」

 

「無理ですって。それに、王をやるってことはちゃんと朱乃達を制御しないといけないんですよ。グレモリー先輩、カリスマの見せ所です」

 

「カリスマかっこ笑いですね分かります」

 

「小猫、貴女は誰の味方なの!」

 

「餌付けされてしまっては抗えないです。部長、ごめんなさい。もぐもぐ」

 

 見事な棒読みだが、小猫は朱乃や椿姫の容赦なさに逆らっては命が危ういと猫叉の本能に従っただけだ。決して王を裏切る意図はない。あと、朱乃や椿姫の作る料理やお菓子は美味しいのだから仕方のないことだった。仕方がないってたらない……にゃあ。

 

「地の文に干渉するなんてすごいなー憧れちゃうなー」

 

「それほどでもない……にゃあ」

 

「久脩、小猫、いい加減にしてちょうだい!」

 

「木場、なんか勝負になりそうな気がしてきたぜ……」

 

「奇遇だね、イッセーくん。あの助っ人女性二人を生かし切れれば勝ち手が見えている気すらするよ……」

 

「全然気負いのない皆さんが頼もしいです! 私も皆さんを一生懸命癒しますね!」

 

 初のレーティングゲームを間近にしながらも、オカルト研究部は平常運転であった。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「というわけで、もしもだよ? もしライザーくんが勝ったら魔王権限であの子はソーナちゃんの眷属にしちゃおうかな☆」

 

「しかし、それではリーアたんが愚痴の捌け口やサンドバッグを失ってしまうじゃないか!」

 

「ぶっちゃけるね、サーゼクスちゃん☆ でも、そんなことをさせるなら、本気で私もヤるよ? アザゼルちゃんが目を掛けていて、ソーナちゃんが気兼ねなく話せる友人で、椿姫ちゃんが惚れてる男の子だもんね~☆」

 

 どこぞの冥界の帝都でそんなシスコン魔王の二柱が一触即発の状態に陥っていることなど、人間界で合宿を再開したオカルト研究部や、助っ人三人組が知るわけもなかったのである。




チャラくても、眷属の女達には本気なライザー君。
その中で一番の寵愛を受けているのが、ユーベルーナさんというところです。

ハーレムを築けている以上、眷属全員から本気の愛情を向けられて、
かつライザーも堂々と受け止めているほうが不幸せな女は出ないよなという単純な考えです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。