いろはすは空気ですがすみません。
『あ、雪乃ちゃん、ひゃっはろ〜!今日は珍しく電話に出てくれたんだね。…え?何の用かだって?雪乃ちゃん、今日まで修学旅行だったんでしょ?だからお土産を貰いに行こうかなぁ〜って!』
『…うん、それで?え〜!もう宅配便で送っちゃった?この距離ぐらいなら私が取りに行くから良いのに!ぶーぶー!』
『え、私にマンションに来られるのが嫌?酷いなぁ…、お姉ちゃんは悲しいよ…』
『それはそうとさぁ…、雪乃ちゃん何か隠してない?』
『何も聞いてないよ?…ただ、雪乃ちゃんの態度が少しおかしいかなって♪』
『ふーん…?もしかして修学旅行で何かあったの?…………比企谷くん関連で』
『正解なんだね。雪乃ちゃんは嘘つかないもんね〜!』
『で?……内容、教えて?』
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私、城廻めぐりは…とても恥ずかしい思いをしていた!
なんで今日に限って鍵がかかってるのぉ…。一色さんの前でれっつご〜!とか言っちゃったよ。
ああ、恥ずかしい。顔が紅に染まっていくのを感じる。
「えと、城廻めぐり先輩、部員の方が来るまで待ちますか?」
「う、うん。そうだね」
これが比企谷くんが言ってた、黒歴史ってやつなのかな…
確かに思い出すたびに、悶えてしまうのも分かる気がする。
ちなみに筆者さんの黒歴史は、数学で100点取ったと思って自慢してて、返却されてみたら欠点だった事なんだって。
ほんと恥ずかしいよね!
そんなメタいことを考えてたら、由比ヶ浜さんが歩いてくるのが見えた。あれ?平塚先生も一緒にいるみたい。なんでだろ。
由比ヶ浜さんは少しぼーっとしているのだろうか。目の前まで来て、私の存在に気付いたみたい。
「…あれ?城廻先輩どうしたんですか?」
「由比ヶ浜さんこんにちは!あ、えとそのね、生徒会選挙関係でちょっと依頼があって…」
そう伝えると、由比ヶ浜さんの後ろにいた平塚先生が口を開いた。
「依頼というと…」
「はい、ここにいる一色さんの事です。どうも本人の意思とは別に立候補させられてたみたいで…」
選挙管理委員の不手際、と言われてしまえばそれまでなのだが、今回は少し事情が特殊なのだ。過去にもこんな悪戯はあったようだが、ただのおふざけであったので早いうちにデタラメだと判明したらしい。
だが今回は、推薦人名簿の署名が本物だったのだ。正直、私たち選挙管理委員会はみんな意欲がある人ばかりだし、悪戯にしても推薦人を30人も集めるなんて考えてなかった。
それを聞いても良く理解ができなかったのだろう。不思議そうな顔をしている由比ヶ浜さんに、こっそり内容を教えてあげた。
ふむふむ、と真面目に話を聞いてはくれるが理解してくれているかは微妙だ。良い子なんだけどなぁ…。
「立候補を取り下げるというのも出来ないようだし、これから対策を考えるしかなかろう。しかし雪ノ下が来てないのではなぁ…」
…え?今なんて?雪ノ下さんがいない?
なんで?そう尋ねようとするが、顔がこわばってしまい、うまく声が出せない。
もしかしたらただの体調不良かもしれない。その可能性がある事にも気づいているが、なぜか嫌な予感がする。
私が驚いているのを見たのだろう。
由比ヶ浜さんが、平塚先生の発言の補足をしてくれる。
「ゆきのん学校休んでるみたいで…それも無断で」
どうしてもその発言から感じ取ってしまう、無視できない違和感。
ーー雪ノ下さんが学校を無断で欠席?
当然、私は雪ノ下さんがどんな人なのかはあまり知らない。だが、いつもの立ち振る舞いを見るに、少なくとも学校を無断で欠席するような人ではなかったはずだ。
「雪ノ下なら担任に連絡を入れて、顧問である私にも電話してくるはずだからなぁ…。部員である由比ヶ浜も先ほどまで知らなかったようだし、どうしたものか…」
平塚先生が私の気持ちを代弁してくれる。
何かがおかしい。私の知らないところで何かが決定的にズレているような感覚。
黙り込んでしまった私を見かねたように、平塚先生が場を取り直そうとする。
…だがもう遅いのだろう。
「そういえば、比企谷はどうした?姿が見えんようだが…」
「あたしより教室を早く出てたので…。あ、もしかしたらMAXコーヒー買ってるのかも!ほら、ヒッキーあれ大好きだし!」
そう、比企谷くんも来てないのだ。思えばあの時、比企谷くんの様子もおかしかったような気がする。
とにかく、2人にその事を伝えなきゃ。
「あの…、比企谷くんならさっき用事があるって言って帰っていくのを見ました」
そう言うと、由比ヶ浜さんが何かに気づいたかのように顔色が変わる。
…やっぱり何かあったんだ。確か昨日は修学旅行に言ってたはず。私は生徒会長だから、それくらいの行事は他の学年でも把握している。
だが平塚先生は気づいていないみたいだ。
「比企谷はサボりか…、全くふざけてるな。疲れが残っているのだろうが…」
サボりじゃない。比企谷くんがそんな事をするはずがない。確かに面倒だという態度は取っているけど、いつもなら嫌々でも来ているはずだ。
…いつもなら。
「あ、あの城廻先輩、今日はその…」
「…うん、今日は一旦帰るね。」
「はい…すみません」
由比ヶ浜さんにお辞儀をして、そのまま一色さんを連れて昇降口に向かう。
こんなものだっただろうか。文化祭の時に雪ノ下さんが休んだ時は、由比ヶ浜さんはすぐにお見舞いに行くと言ったはず。
…やっぱり何かあったのだろう。
奉仕部には本当にお世話になった。これからもあの3人には仲良くして欲しい。自分にできることとは何なのだろうか。
そう考えながら、私は帰路に着いた。
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『もしもし、どうしたの?めぐりから連絡してくるなんて珍しいね〜』
『え、相談?…いいよ〜!めぐりのためならお姉さん頑張っちゃうよ〜!』
『…雪乃ちゃんが学校に行ってなかった?それに比企谷くんが部活を何か理由があって休んだみたい?』
『ほうほう。ただこれだけじゃ私でも理由は良くわかんないなぁ〜…』
『ん?多分だけど、修学旅行で何かあったみたいなの?』
『そっかそっか。もう修学旅行の季節なんだね。忘れてたよ〜!』
『うん、とりあえず私が話を聞いてみるね!教えてくれてありがと!バイバイ!』