無事ラケットとシューズを購入した俺らはサイゼで軽く食事を済ませ解散となった。材木座がイカ墨パスタを「漆黒に染まりし戯れ」ドリンクバーを「神の選択」などとぬかし厨二病を見事に露見させたため席を離すことになったが、俺は戸塚と二人で食えたのでそれはそれで良し。
そんなことより一番の問題は…
「帰りたくねぇよなぁ…」
小町だ。絶賛喧嘩中なのである。一応夕飯を食っていく旨をメールで伝えておいたが「分かった」とただ一言のみ帰ってきただけだ。今頃反抗期か、お兄ちゃん困っちゃうぞ。口では帰りたくないと言ってみるが、だからといってボッチの俺に他に行き着く場所などなく、気がつけば家の前に立っているわけで。仕方がない、覚悟を決めろ比企谷八幡。あれ、今日二度も覚悟決めてるな。俺ってそんなに修羅場くぐり抜けてきてるの?
「ただいま…」
「おかえり」
小町さんが玄関に立ってました。もうそれはそれは凄い迫力で。一体何人葬ってきたんだろうなぁ、少なくとも俺はそのうちの一人だよなぁなんてことを考えていると我が妹は重い口を開けた。
「それ、買ってきたの?」
「あぁ…まあな」
「本当にテニス部に入っちゃうの…?奉仕部はどうするの…?」
「あぁ、奉仕部な…」
「無くなるかもしれん」
俺は死刑宣告を伝える看守のように、ただ一言呟いた。その言葉は俺の心にも刺さる。おい比企谷八幡、お前はあの場所をみすみす無くさせていいのか?お前のたった一つの居場所だったんじゃないのか?
「嫌だよ…そんなの嫌!小町ね、雪乃さんがいて結衣さんがいてそしてお兄ちゃんがいるあの場所が好きなの!あの場所にある総武高校に入りたいの!!」
小町の悲痛な叫び。刺さらない訳がない。俺だってそうだ。あの場所…紅茶の匂いが漂って雪ノ下は静かに文庫本に目を通し由比ヶ浜は雪ノ下に絡み俺はそれを横目に本に目を落とす。そんなあの場所、奉仕部が…
「好きだったんだ」
「え?」
雪ノ下ならあの一年生…一色を蹴落とし生徒会長になる事なんて朝飯前だろう。由比ヶ浜だってありえない話じゃないのかもしれない。そしてどちらかが生徒会長になれば奉仕部が崩壊するのは目に見えている。やはり、二人が生徒会長にならずに済むよう事を運ぶしかない。
「小町」
「…何?」
「相談がある」
「…大体の事情は分かりました」
俺が淹れたコーヒーを啜りそう答える小町。全てを小町に伝えた。修学旅行前に貰った依頼のこと。海老名さんへの嘘告白のこと。テニス部に入った経緯。生徒会選挙のこと。そして奉仕部の存続を望んでいること。
「お兄ちゃんって、本当ゴミぃちゃんだよね。なんでそんな大事なことを教えてくれないの?」
「すまん…」
小町は飲み終わったカップをテーブルに置くと、真剣な表情で切り出した。
「お兄ちゃんは奉仕部を無くしたくないんだよね?でもテニス部に入ってまで逃げ続けた手前、正直にはなれないと」
「まぁ…そうとも取れるな、うん」
「うわめんどくさっ」
そんなゴミを見るような目で兄を見ないで、悲しすぎてMAXコーヒーも喉を通らなくなっちゃうだろ。
「仕方ない…ここは小町が背中を押してあげよう」
小町が俺の背後に周り、肩に手を置き優しく諭すように言葉を続けた。小町、お前はいつだって…
「小町からの依頼、奉仕部を助けてあげて」
「妹からの依頼なら、断れないよな」
俺の味方だったんだな。
やっと次を投稿することが出来ました。
流石に旅行先で執筆することは出来ずこのような形となりました。
書きだめがありませんが、次回の投稿なるべく急ぎます。