レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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君のヒーローに

「・・・・ねぇ灯火」

 

「なんだ?」

 

奇妙な私の葬儀の最中、私は目を開けて灯火に話しかける。

眠る私の傍に控えていた灯火は私の声に応えてくれる。

 

「・・・・あなたの話では、今まさに最後の戦いの最中なのよね」

 

「ああ、もうすぐ俺たちと鷹野さんの勝敗がひとまず決まる。このまま終わるか、第二ラウンドがあるかはわからないけどな」

 

「・・・・そう」

 

「実感が湧かないか?」

 

「当たり前よ」

 

今までの年みたいに自分たちで動いてるなら実感だって湧くでしょうね。

でもこっちはただ寝てるだけなのよ?それでどう実感しろって言うのよ。

 

私の言葉に灯火は小さく笑う。

それに対してムッとしながらも再び目を閉じる。

 

そしてそのまま当時のことを思い出しながら口を開く。

 

思い出すのは灯火と出会ってからの雛見沢での日々。

灯火と出会ってからもう四年になるのよね。

 

ここまで長かったような、あっという間だったような、どちらにも感じられた。

 

はじまりはダム戦争中の赤坂の妻の死を防ぐこと。

 

病院の階段で転落死をしてしまう赤坂の妻を救うために灯火と一緒に頭を悩ましたのを覚えてる。

結局、灯火が私に黙って無茶をして怪我をしたけど。

 

「・・・・あの時は悪かったよ」

 

「絶対許さないわ。あなただって頭を縫った怪我をしたんだから」

 

「まぁな、でもそれだけの甲斐はあった。それにもうその怪我は治ったし」

 

灯火は以前に縫った箇所を頭部に手を当てながら笑う。

 

「あの時バカなことをしたせいで今回赤坂が来た時も苦労したんじゃないの」

 

「・・・・」

 

目を逸らして黙り込む灯火にため息を吐いて次の出来事を思い出す。

 

次はバラバラ殺人事件の阻止だ。

 

私と灯火と羽入の三人で何か月もずっと雛見沢症候群を発症した患者を探してたわね。

その年の綿流しでは鷹野と入江を診療所から離すために酒で潰すなんて、今思えばすごくおバカなことを実行した。

 

「あの時の梨花ちゃんはカッコよかったぜ。酒で鷹野さんを倒した姿は未だに鮮明に覚えてるよ」

 

「今思えば、私達はよくあんなことを真剣にしようと思ったわね」

 

当時を思い出してついつい笑みがこぼれる。

あれでも当時の私達は真剣だった、でもそれでいて楽しんでいた。

 

「その次は北条家と村の確執だな。正直一番苦労したよ」

 

「そうね。この年はみんな大変だったけど、やっぱり一番頑張ったのは悟史ね」

 

「だな」

 

ダム賛成派の北条家と村の確執、絶対に無理だと思ったこの難題を灯火と礼奈、そして他ならぬ北条家全員のがんばりでなくすことが出来た。

 

この世界で一番変わった人間は誰か、そう聞かれたら私はきっと悟史と答えるだろう。

 

それほどまでにこの世界の悟史は強くなった。もうこれから先どんなことがあっても勇気をもって彼は立ち向かっていくことだろう。

 

もしかしたら、今の悟史こそが本来の彼の姿なのかもしれない。

 

一番の親友、そう灯火が自信満々に告げるほど二人は仲が良い。

私で言うなら沙都子との関係のようなものだ。

 

「この時に悟史は礼奈に惚れたのよね」

 

「それな。こんなことなら俺が悟史の方に行っとくべきだった」

 

「今の悟史を見てるとどっちにしろ惚れてたと思うけど」

 

過去を悔やむ灯火を置いて次に進む。

 

次はそうね、私の両親。

 

一緒にいることを諦めていた父と母の生存だ。

 

「あの日、あなたが私に言ってくれた言葉はちゃんと守ってくれたわね」

 

「あの日?」

 

「あなたが引っ越すことになった日よ。私の両親を救うっていってくれたじゃない」

 

「ああ、でも梨花ちゃんの両親について一番頑張ったのは梨花ちゃんだろう?あの年はずっと一緒にいたもんな」

 

「・・・・」

 

灯火の言葉に恥ずかしくなり布団に顔を埋める。

当たり前でしょ。大切な家族なんだから。

それに本当に一緒にいただけよ、私がずっと一緒にいれば鷹野たちが殺す隙なんてないと思ったから。

 

ふと気づく。

こうして過去のことを笑いながら思い出せていることに。

 

今までは過去はほとんどが退屈と苦痛だけだった。

 

楽しいのは圭一たちと過ごすほんの数週間の間だけ。

 

それ以外は同じことを繰り返す退屈な日々と誰かが狂い、最終的に殺されてしまう苦痛だけだった。

 

それが今はどうだ、同じ日付を過ごしているはずなのにね。

 

毎日が新鮮で退屈なんてしてる暇はない、毎日楽しくて苦痛なんて思い出す暇もない。

 

「きっと今、決着が付くのか付かないのか、それが決まろうとしてる」

 

「・・・・」

 

「どっちしろやることは変わらない、あの日の最後の約束を果たすだけだ」

 

「そうね、あの約束はあなたにしっかり守ってもらうわ」

 

私の両親を救うと約束してくれた後にしてくれたもう一つの約束。

 

あの日にくれたあの言葉。

 

きっとあの日、あの瞬間だ。

 

あなたの言葉を聞いて抱き着いたあの瞬間に私は、あなたのことを。

 

 

 

 

 

 

「鷹野さん、落ち着いたかい?」

 

俯く私にジロウさんは優しく話しかけてくれる。

地面に膝をついていた私をジロウさんはゆっくり手を引いて立ち上がらせ、私の休んでいたホテルまで連れてきてくれた。

 

「・・・・どうして私の居場所がわかったの?」

 

確かに今日組織の重鎮たちと話をすることをジロウさんは知っている。

でも話が終わった後に食事の接待だって本当はあった。

 

だから私があんなところにいるなんてジロウさんにはわからないはずなのに。

 

「今日鷹野さんが話していた場所から行けそうな場所を片っ端から探して回ってたんだ、正直見つけた時は嬉しかったよ」

 

「探したって、私は今日は組織の人達の接待で遅くなることはあなたも知って」

 

「・・・・失敗したんだろう?」

 

「・・・・っ」

 

ジロウさんの言葉に先ほどまでの記憶が蘇って震える。

そんな私を見てジロウさんは辛そうに表情を歪める。

 

「雛見沢で梨花ちゃんが亡くなっていたって情報を聞いて慌てて君を探したんだ、こんなことになってしまっては話し合いどころではないからね」

 

「・・・・そうね、でも彼女が死んでいなくても結果は同じだった。彼らは私の話なんて何も興味を持っていなかったんだもの」

 

「・・・・」

 

私は先ほどまでのことをジロウさんに話す。

私達の研究なんて何も興味がなかったこと、今までのは小泉先生のご機嫌取りだったことを。

 

ジロウさんは私の話をただただ黙って聞いてくれた。

 

「・・・・もう、私には何も出来ることがない、何をすればいいかわからないの」

 

溢れる涙をこぼさないように顔を手で覆う。

 

「・・・・君が祖父の高野一二三先生の後を継いで雛見沢症候群の研究をしているって前に教えてくれたね」

 

「・・・・ええ、お祖父ちゃんの研究を完遂する、それが私の生きる意味だった。でももう」

 

私の言葉の途中でジロウさんは私をそっと抱きしめる。

そしてゆっくりと私の耳に伝わるように言葉を口にする。

 

「そうだね鷹野三四としての君の生きる意味はなくなってしまうかもしれない、でも田無美代子としての君は別さ」

 

「田無美代子。それは私の・・・・捨てた名前よ」

 

両親が生きていた、まだ幸せな子供だった頃の私の名前。

懐かしい、もう一度その名前を聞くとは思わなかった。

 

「捨てたのなら取り戻せばいい。雛見沢症候群がなくなったとしても高野一二三先生の論文の価値が消えるわけじゃないんだ、なくなりさえしなければ必ず誰かその偉大さに気付いてくれる人が現れる」

 

「・・・・たとえ取り戻したとしても、田無美代子はあの施設に戻るだけ」

 

あの日、脱走した日に落とされた黒い汚物の底に。

そして今度は誰も助けも来ることなく、そのまま死ぬ。

 

「・・・・田無美代子にはもう何もないの。生きる目的なんてない」

 

本当はあの日、両親と一緒に死んでいればよかったのかもしれない。

そうすれば入江機関も生まれずにこんな運命の行き止まりに迷い込むことはなかった。

 

お祖父ちゃんの論文だってバカにされることもなかったかもしれない。

 

「だったら一緒に探そう、君が生きる目的を」

 

「え?」

 

私を抱きしめながらジロウさんはそう告げる。

一緒に探す?私の生きる目的を?

 

「高野一二三先生の論文は誰かが必ず引き継いでくれる。君はもう自分のために生きていいんだ、高野先生、いや君のお祖父ちゃんだって君の人生を自分のせいで縛ってしまうなんて望んでなんかいない」

 

「・・・・」

 

抱きしめてくれるジロウさんに身体を預ける。

ジロウさんの言葉は嬉しい、私のために言ってくれてるんだってわかるから。

 

疲れ切った私にジロウさんの言葉は暖かい。

 

でも今まで私は鷹野三四として生きてきた。

それをいきなり捨てるなんて出来ない。

 

「・・・・ジロウさん、少し離れてもらっていい?」

 

「え?あ、ごめん!汗臭かったかな!?」

 

「ふふ、違うわ。少し取りたい物があるの」

 

焦るジロウさんについ笑みをこぼしながらキャリーバックから目的のものを取る。

 

「それは、アルバムかい?」

 

「ええ、お祖父ちゃんの。お祖父ちゃんが亡くなってから一度も開いてない、いつかお祖父ちゃんの研究が認められた時に開こうって決めていたけど」

 

今はどうしてもお祖父ちゃんに会いたい。

鷹野三四としての私でいるために、お祖父ちゃんの願いを叶えるために。

 

「・・・・っ」

 

アルバムの写真の中に映るお祖父ちゃんの写真に涙で零れ落ちる。

あの日、研究をバカにされてからお祖父ちゃんは失意のま認知症を発症してしまってそのまま。

 

「・・・・それはなんだい?封筒?」

 

「え?」

 

ジロウさんに見ている先を見ると、アルバムに見たことのない古い封筒が入ってるのが見えた。

私は封筒を手に取って中を確認する。

 

「・・・・お祖父ちゃんの字」

 

目を見開きながら中身に目を通す。

 

認知症に完全に侵される前に書き留めた手紙、あて先は、私にだった。

 

「・・・・っ!」

 

中身を読んで思わず口に手を当てる。

内容はまさに先ほどジロウさんが私に言ったお祖父ちゃんの気持ちそのままだった。

 

認知症に侵されながらも書き起こした手紙には私が自分の研究を継いでくれたことを嬉しく誇らしく思っている、でも同時に私の本来ありえた人生を奪ってしまったのではないか、もしそうなら悔やんでも悔やみきれないと書かれていた。

 

願わくば、この研究を断念してほしい。でも三四が必死に勉強する姿を見て言い出すことが出来ず、このアルバムに隠して三四がこの手紙を発見するのかどうか運命に任せる。

 

でももしこの手紙を見つけたのなら三四には私の研究から離れ、幸せになってほしい。

 

「・・・・お祖父ちゃん」

 

手紙が私の落ちた涙で濡れる。

震えながら手紙を持つ私の手をジロウさんは握ってくれる。

 

「ジロウさん!」

 

私は堪えることが出来ずにジロウさんに抱き着く。

今日で一体どれほどの涙を流しただろうか、

 

でもこの涙は先ほどまでのとは少しだけ違う。

 

私の涙をジロウさんは優しく拭って止めてくれた。

 

「・・・・ありがとうジロウさん」

 

「これくらい当然さ。これで、君は田無美代子として生きていけるんだね?」

 

「・・・・その前に、鷹野三四として罪を償わないといけないわ」

 

優しく微笑むジロウさんに私は自分の罪を告白する。

私の思い描いていた計画は結果的に遂行されなかった。

 

でも罪は罪だ、私が多くの人の人生を狂わしたことに変わりはない。

私はそれらを償わないといけない。

 

「・・・・それに梨花ちゃんだって死んでしまった。これでお祖父ちゃんの論文の証明だって出来なくなる。これじゃあ誰かが見つけてくれても」

 

もしかしたら梨花ちゃんが死んだのだって私が気付いていないだけで私のせいなのかもしれない。

だとしたら私は一体どうやって償えば。

 

「それは大丈夫だよ」

 

「え?それってどういう」

 

「梨花ちゃんは生きてるのさ」

 

困惑する私にジロウさんに苦笑いを浮かべながらそう告げる。

 

そして灯火君から渡されたという手紙について教えてくれた。

 

「灯火君は君にイジワルをするって言ってたよ。そしてまんまとやられてしまったようだね」

 

「・・・・そうね、イジワルされて泣かされちゃったわ」

 

ジロウさんの説明してくれた内容は私達の正体を自分が把握していること。

 

そして落ち込む私の下に組織の別の派閥が接触し、私に梨花ちゃんを殺させ、緊急マニュアル34号を発動させて村中を皆殺しにさせるだろうという内容だった。

 

そして私と派閥の接触を防ぐために梨花ちゃんの死を偽装したとのこと。

 

一体いつの間に緊急マニュアルのことを、それに別の派閥のことまで。

しかも接触を読んで梨花ちゃんの死まで偽装するって。

 

本当にいつもいつも彼には驚かされる。

 

「・・・・でも、もしジロウさんに会う前にそんなことを言われたら、私はその提案に乗っていたかもしれないわね」

 

今でこそお祖父ちゃんの手紙を読んだからそんな気にはなれない。

でももしジロウさんに出会わず追い詰められた状態でお祖父ちゃんの手紙も見ずに言われていたら。

 

「灯火君にこの手紙を渡されたときに言われたんだ、自分のイジワルで君はきっと泣いちゃうだろうって」

 

「ふふ、本当にその通りね」

 

ジロウさんの言葉に思わず笑ってしまう。

今度会う時に泣かされちゃったって伝えなきゃね。

 

「その後に言われたのさ。僕に君の涙を止めてくれって」

 

そう言ってジロウさんは私の目から落ちる涙を指で拭う。

 

「君が罪を犯したというなら僕も一緒に背負うよ。鷹野三四としても、田無美代子としても生きる目的がないなら僕が一緒に探すよ」

 

「ジロウさん」

 

「だからね、その涙を止めてもいいかい?」

 

「ふふ、止めていいの?涙は嬉しい時にだって出るのよ?」

 

私はジロウさんに抱き着きながらそう呟く。

それを聞いたジロウさんは何を言っていいかわからずに慌てる。

 

それを見て思わず笑ってしまう。

 

生きる目的、そうね、これがいいわ。

 

「・・・・ねぇジロウさん」

 

「なんだい?」

 

私が名前を呼ぶとジロウさんは優しく声で応えてくれる。

それに心が温かくなるのを感じながらジロウさんへ言葉を伝える。

 

「私、新しい生きる目的を見つけたの」

 

「え?そうなのかい?だったらよかった、僕にも教えてくれるかい?」

 

「ええ、もちろんよ」

 

私は頷いて優しく微笑むジロウさんを。

 

 

 

ベッドに押し倒した。

 

 

「・・・・んん?」

 

困惑するジロウさんをベッドに押し倒して微笑む。

 

「私の見つけた生きる目的はね、ジロウさん。あなたよ」

 

「た、鷹野さん!?」

 

私はそう言葉にすると同時に自分の服に手をかける。

それを見て慌てるジロウさんに笑いながら自分の服を脱ぎ、ついでにジロウさんのズボンのベルトも抜き取る。

 

「え、ええ!?ちょ、ベルトを返して」

 

慌てるジロウさんを無視して次はズボンに手をかける。

それに気付いたジロウさんが手でズボンを掴んでくるのでそれを強引に突破しながら口を開く。

 

「ねぇジロウさん、私はあなたのことが好きなの。好きな人に尽くす、女の子が生きる目的にはピッタリでしょう?」

 

「そ、それは非常に嬉しいと言うか、光栄なんだけど。物事には順序というものがあって!」

 

「ジロウさんが望むなら私の髪の毛の一本から爪先の先端まであなたのものにしていい。靴を舐めろって言うならこの場でだって舐めるわ。あなたより早く起きて朝食だって作る。待ち合わせの場所にはあなたより先に必ず来て待つわ。私の全てをあなたにあげる。だからね、ジロウさん」

 

 

 

 

 

 

「ジロウさんの全ても私にちょうだい」

 

 

 

 

「はう!?」

 

ジロウさんがそう叫んだ後、彼のズボンは私に勢いよく下に降ろされた。

 

 

 

 

 




『うまぴょい』したんですね!


次話でこの小説は完結になります。

祖父の手紙はアニメ「業」でのシーンで出た物を使いました。

あっさり鷹野の話は終わりました。言い訳になりますがここに書きます。

そもそもここまでくると原作持ちの灯火が負けることってないと思うんですよね。

なので本来の予定ではIFの魔女要素の介入によってここら辺はぐちゃぐちゃにするつもりでした。

しかし当時読まれていた方は知ってる通り、途中で本編とIFに話が分かれたことで本編で魔女要素がなくなりある意味で本編は「優しい世界」になっています。

もう少し引き延ばすことも考えましたが、ここはこのまま終わった方がきれいだと思ったのでこうしました。


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