赤坂さんと小屋で話をしてから早くも一か月が経った。
赤坂さんはあれから三日間ほど滞在してから東京に帰った。
家の電話番号を聞いていたので連絡は今でもこまめに取り合っている。
このまま順調にいけば山狗たちも動きにくくなるだろう。
ちなみにあの後から俺は拷問部屋から普通の部屋に移った。
あと少しで本当に犬小屋生活が始まろうとした時にさすがに見かねた茜さんが助けてくれたのだ。
あの時は泣いて茜さんに感謝した。
もう少しで相手を特定できるらしく、そうなれば監視下におけるため自由に外に出てもいいらしいので早く山狗たちには観念してほしいところだ。
そんな半分以上殺伐とした状況の中でも嬉しいニュースが舞い込んできてくれた。
なんと生まれる赤ちゃんの性別がわかったのだ!
待望の赤ちゃんの性別だ、それがわかったと聞いた途端にみんなが園崎家に集まった。
この情報を知っているのは両親から聞いた俺だけだ。
礼奈だって知らない。
俺からの情報を聞いて集まったいつもメンバーがソワソワしながら俺を見つめている。
「お兄ちゃん早く早く!どっちなのかな!?どっちなのかな!?」
「お兄ちゃんもったいぶらないで早く教えて!」
我慢できないと言わんばかりにこちらに詰め寄る礼奈と詩音。
その後ろにいる全員も早く教えろと騒ぎ立てる。
これ以上待たせると全員怒りそうなので素直に白状する。
「女の子だ」
俺が赤ちゃんの性別を伝えると全員が歓声をあげる。
弟でも妹でもどっちでも嬉しかったが、今までの流れから見てなんとなく妹になるんじゃないかと思ってたけど、本当にそうなったか。
「はうぅ!礼奈に妹ができる、礼奈に妹ができるよはうぅぅぅ!!」
案の定一瞬でトリップした礼奈。
気持ちはわかるけど戻ってこい。
「これでまたお兄ちゃんのシスコンパワーが上がるね。今どれくらい?」
「まぁ、スカウターは壊れるな」
「スカウター?」
首を傾げる魅音。
そうか、まだあの漫画は出てないのか。
「灯火さんと礼奈さんズルいですわ!にーにー!私達もお母さんたちに妹がほしいって帰ったら頼みますわよ!」
「・・・・それは、うん。沙都子が言うなら僕は止めないよ」
「へー沙都子はどうやって赤ちゃんを作るか知ってるの?」
沙都子の言葉に曖昧に笑う悟史とからかう詩音。
詩音の言葉に対して沙都子はムッとしながらも答える。
「知っていますわ!コウノトリ?という鳥が運んでくるんでございましょ!前にお父さんが教えてくれましたの!」
「・・・・悟史君」
「・・・・沙都子にはまだ早いってお父さんが」
沙都子の回答に詩音と悟史が小さな声で話す。
まだ沙都子は子供だし、それでいいと思う。
礼奈にだって俺は沙都子の父さんと同じ回答で教えてるし。
純粋な顔で赤ちゃんの作り方を聞かれたときは本気で焦った。
そっか知らなかったかーと内心思いながら気まずい顔をする両親を見たのを覚えてる。
「みぃ、なんにせよおめでとうなのです灯火、礼奈」
「あうあうあうー!オヤシロ様である僕も祝福するのですよー!」
騒ぐみんなを見ながら笑ってそう告げる梨花ちゃんと羽入。
それに対して俺と礼奈も笑って礼を受け取った。
「それでみんなに集まってもらったのはこの報告と頼みたいことがあるからなんだ」
「頼みたいこと?赤ちゃんのことでだよね?」
「ああ」
悟史の確認に俺は頷く。
正確には俺の両親からの頼みだが。
「両親からみんなに赤ちゃんの名前の候補を考えてほしいって頼まれた。だから素敵な名前を考えて教えてくれ」
「名前かぁ、確かにそれは大事だね。候補は何個でもいいの?」
「ああ、メモしていくからどんどん言ってくれ」
魅音の質問に答えながらメモ用紙を取り出す。
みんなのネーミングセンスが試されるところだが、それを決めるのは両親だ。
とりあえず俺が変だともってもみんなから聞いた名前を全部書いていこう。
「はいはい!礼奈が一番だよ!」
「はいじゃあ礼奈から教えてくれ」
メモを片手に礼奈の考えた名前を聞く。
いきなり礼奈か、さて何がでるやら。
「礼奈はね!
「おー俺と礼奈から一文字とってるのか、綺麗な響きだな」
礼火とメモに書き込む。
漢字は変わるかもしれないが、悪くはないかも。
もっとずれたかぁいい名前が飛び出てくると思ってたから意外だ。
「えへへ、赤ちゃんが生まれるって聞いてからずっと考えたから」
照れながらそう告げる礼奈に笑みをこぼす。
そりゃそうだよな、礼奈にとって初めての妹なんだから。
「ちなみに男の子だったら?」
「
「うん、妹でよかったな礼奈」
大事な弟が冷凍君って呼ばれる未来しか見えないぞ。
「はいはい!次は私だね!」
「んじゃあ魅音どうぞ」
魅音はゲーム名も死闘!とか最強!などのパワーワードを好むからな、なかなか強そうな名前が来そうだ。
「魅火ちゃんがいいと思うな」
「あ、おねぇずるい!だったら私も詩火がいい!」
魅音の名前の候補を聞いて詩音も突っ込む。
とりあえず候補として書き込むけど、ちょっと無理がないか?
その後もみんなから候補をもらうが、漏れなく全員俺と自分に似た名前になってる。
梨花ちゃん。梨火は無理があるって、花が火になっただけで呼び方一緒じゃん。
でも一応全員から聞いた名前を書いていく。
この名前の数々を見た両親の反応が気になるところだ。
「これだけあれば十分だな、多すぎても選ぶとき困るし」
一通りみんなから候補は聞いたしこれでいいだろう。
後は礼奈にこれを渡して両親に届けもらおう。
「それにしても、だいぶ寒くなってきたな」
メモを礼奈に渡しながら外から漏れる寒気に身震いする。
「雛見沢は豪雪地帯だからね、今年も寒くなるよ」
魅音の言葉に全員が頷く、今年も暖かくしないといけない。
「やっと僕が買ったマフラーが役に立つよ」
「・・・・そういえば退院祝いに買ってたな」
悟史の言葉に呆れながらも笑みを浮かべる。
本当に地下から出れて助かった。
あそこにいたら最悪凍死してるぞ。
・・・・この冬を越えて春を迎え、そして再び夏が来て綿流しが始まる。
その頃にはこの子は生まれている。
未来の妹が安心して雛見沢で暮らせるように頑張らないとな。
来年の綿流しを終えた再来年の綿流しの日。
そこですべてにケリがつく。
勝負は来年の綿流しの後だ。
再来年の綿流しまでに俺は鷹野さんと決着をつけるつもりでいる。
もちろん再来年の綿流しまで待つことも考えた。
正直言うと、俺の中で鷹野さんはもう詰んでいる状態だ。
なぜなら原作で鷹野さんは梨花ちゃん達に敗北している。
それを知っている俺からすれば梨花ちゃん達が勝った状況を再現すればいいだけだ、
圭一のことは心配ではあるが、バラバラ殺人事件や悟史の失踪がない以上、疑心暗鬼に陥る要素はない。
来年の綿流しを無事に越えた時点で俺たちの勝ちは決まったようなもの。
・・・・そう言えたらいいんだけど。
原作で鷹野さんに勝った梨花ちゃん達だけど、内容は運も絡んだギリギリのものだ。
もちろんそれを再現するなら不安要素は消すつもりだけど、そこで失敗すれば後がないのは事実。
だから仕掛けるなら来年の綿流しが終わった後からだ。
鷹野さん達に雛見沢症候群の研究の打ち切りが通知された時、そこが狙い目だと思う。
俺が思う鷹野さんの暴走を止められるタイミングは三つある。
一つ目はもちろん原作と同じタイミング。
鷹野さん達が梨花ちゃんを殺して緊急マニュアルに従って村の人を殺そうと動くタイミングで逆にこっちでその状況を利用して富竹さんに連絡して東京から鎮圧部隊を呼んでもらう。
二つ目はそもそも雛見沢症候群の研究の打ち切りを阻止する。
この打ち切りの原因は鷹野さんの祖父の親友だった人が亡くなったことが原因だった。
この人のおかげで診療所は出来たし、鷹野さんが強力な力を持つことが出来たんだ。
この人が寿命か病気で亡くなったことで派閥内で意見が変わって打ち切りになった。
だったらそれを阻止すれば、そもそも打ち切りにならないし鷹野さんが終末作戦を実行する意味がなくなる。
ただしこれは不可能に近い。
その鷹野さんをサポートしている人が誰か詳しくわからないし、寿命で死んでるなら止めるなんて不可能だ。
それに結局この場合は今の状況が続くだけ、根本的な解決にはならない。
三つ目は鷹野さんと終末作戦を提案する派閥の接触を阻止すること。
これが俺の中で本命になる。
ここで鷹野さんが今の派閥と敵対している別の派閥に接触されたことで鷹野さんは堕ちる。
ここを阻止できれば鷹野さんの力をなくしながらも梨花ちゃんを殺すような状況にはならない。
俺の考えてることがうまくハマれば出来るはずだ。
鷹野さん、悪いけど容赦はしないぞ。