レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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兄隠し編12

「じゃあ赤坂さん、改めて今の雛見沢の状況の説明を」

 

「みぃ?誰が人の言葉を使っていいと言ったのですか?」

 

「・・・・クゥン」

 

俺が赤坂さんに説明をしようとすると梨花ちゃんが黒い笑みでそう告げてくる。

 

笑ってるけど目が笑ってない。

最近雛見沢の一部で流行ってる笑い方だ。

 

ヤバい、梨花ちゃんが本気でキレてる。

話し方は一応可愛らしいけど、口から出る言葉が修正なしの黒梨花ちゃんそのものだ。

 

「あはは!お兄ちゃん首輪とリード似合ってるよ!こんなことならうちから犬耳をもってくればよかった」

 

俺の姿を見て魅音が笑う。

とりあえず魅音は許してくれたみたいだ、でも詩音はまだジト目で俺を睨んでる。

 

辛い、これからシリアスな話をしようって言うのにこれはあんまりだ。

何が一番つらいって、赤坂さんにこの状況を見られていることだ。

 

これがいつものメンバーなら罰ゲームとかで笑ってできるさ。

でも今いるのは赤坂さんなんだ、それもけっこう真面目な状況なんだ今は。

 

それに赤坂さんには少しミステリアスで不思議な子みたいな感じでいたかったんだ。

 

それなのに今の俺は首輪をつけられ、その首輪から伸びるリードを梨花ちゃん達に順番に持たれてる状態だ。

 

神は死んだ、俺を救ってくれるやつはいない。

 

「そもそもどうして抜け出してここに来たの?そりゃあ閉じ込めたのは悪かったけど」

 

「・・・・赤坂さんと二人で話したかったんだ」

 

魅音の当然の疑問に俺はそう答えるしか出来ない。

俺の言葉を聞いて詩音が眉をひそめながら口を開く。

 

「・・・・私達には聞かせたくない話ってこと?」

 

「・・・・」

 

察しが良いな詩音、この話はお前らには聞かせたくない。

だからと言って赤坂さんと二人っきりにしてくれるってわけでもなさそうだ。

 

この場で唯一俺が言おうとしてる内容に察しがついているであろう梨花ちゃんに目を向ける。

俺の視線に梨花ちゃんはじっと俺を見つけ、やがてため息と共に口を開いた。

 

「灯火、妹が大好きなあなたは二人に話したくないのでしょうけど、私は伝えてもいいと思う」

 

「・・・・本気か?」

 

「ええ、ここまで来たらみんなと本当の意味で協力していきたいの」

 

「・・・・」

 

梨花ちゃんの言葉を聞いて頭の中で考える。

魅音と詩音に本当のことを伝えるか。

いや、梨花ちゃんは礼奈や悟史達も含めてということか。

 

ひとまず魅音と詩音だ。

 

二人に共有している情報は羽入の存在のみで雛見沢症候群や鷹野さん達の正体については触れていない。

それに、詩音には雛見沢症候群を落ち着かせるために雛見沢症候群のことを鬼ということにしている。

 

話すのならそこら辺の辻褄を合わす必要がある。

 

「わかった。じゃあ赤坂さん、そして魅音も詩音も話を聞いてほしい」

 

俺は覚悟を決めて今まで梨花ちゃんと羽入の三人だけで秘密にしていた内容を話し始める。

 

「まずは今の雛見沢の現状について」

 

まずは赤坂さんに現状の説明を始める。

 

綿流しの夜に俺と詩音が襲われたことを。

そしてその犯人はダム建設の時に大臣の孫を誘拐した犯人と同じであること。

 

そしてそいつらと戦うために雛見沢が一団となって調査をしていること。

 

「・・・・なるほどね、あの時ここにいた奴らか」

 

俺の説明に赤坂さんは納得したようにうなずく。

赤坂さんも大臣の孫の誘拐事件では直に関わってるからな、納得がしやすいのだろう。

 

問題はここからだ。

ここまでの情報は魅音と詩音も知っている。

 

そしてここからの情報こそが大事になってくる。

 

「次の説明だ。その襲ってきた奴らの正体と、その目的について」

 

「正体って、お兄ちゃんはそれを知ってるの?」

 

「ああ」

 

魅音の言葉に頷く。

当然そんな反応をするよな、今まで正体不明の敵だと思って村全体で探してたんだから。

 

「だったらどうして私達に教えてくれなかったの!?そうすればもっと簡単に相手を特定できるのに!」

 

「理由は二つ。一つは危険だから。相手を知りすぎると俺達を消すために相手が何をするかわからない。そして二つ目はどこでこの情報を手に入れたかのか言いたくないから」

 

一つ目の理由がメインにはなる。

相手は水面下で極秘に研究をしている、それも雛見沢症候群を軍事転用できるんじゃないかというやばい方向で。

 

もしそんなことをしているとバレたら口封じで何をしてくるかわからない。

知ってる人間は少人数が良いに決まってる。

 

そして二つ目の理由は俺個人の問題。

この情報をどこで手に入れたのかを説明できない。

 

まさか原作知識だなんて説明ができるわけがないし、じゃあこの情報が本当である理由もきちんと証明も出来ない。

 

・・・・本音を言えばみんなに怖がられたくないからだ。

 

俺は異物だ。

この物語において勝手に割り込んできた存在しない存在。

 

みんなに本当の自分を話して気味がられるのが嫌なんだ。

 

「赤坂にはわからないでしょうけど、灯火には羽入のような特別な事情があるのよ。だから悪いけど深くは聞かないで」

 

梨花ちゃんが俺のフォローをしてくれる。

それに対して詩音は梨花ちゃんをジト目で見る。

 

「梨花ちゃんはそのお兄ちゃんの事情を知ってるの?これからお兄ちゃんがする話も私達と違って知ってるみたいだし」

 

「知らないわ。そして聞く気もない、誰だって知られたくないことの一つや二つあるでしょう?それに私にだって特別な事情があるもの。私が知ってるのはそれのせいよ」

 

「・・・・」

 

「へーじゃあ梨花ちゃんはたまにめちゃくちゃ大人っぽくなるのもそのせいか。お兄ちゃんとは秘密を共有する仲ってこと?」

 

梨花ちゃんの言葉に魅音と詩音の雰囲気が怪しくなる。

待て待て待て!そこでいきなりヤバい状況にするな!

 

「俺は梨花ちゃんの事情を確かに知ってるが、それは二人と一緒だ。二人の秘密を俺が知る機会があったように、梨花ちゃんの秘密を俺が知る機会があった、それだけだ」

 

梨花ちゃんが羽入の力で様々なカケラで繰り返しているのを知っているように。

魅音と詩音が本来逆であることを俺は知っている。

 

秘密の大小はあれど、秘密なことには違いはないんだ。

 

「へぇ、私の知らない間に二人とも秘密をする仲になってたの。へぇ、そう」

 

なんか今度は梨花ちゃんがこちらにジト目を向けてきた。

 

なんかもう怖いよ、何を言うのが正しいのかさっぱりわからない。

 

「あー話を戻すけど、その敵の正体はなんなんだい灯火君?」

 

困っている俺を見かねた赤坂さんが話を元に戻すための助け船を出してくれる。

俺はそれに乗っかって話を切り替える。

 

「敵の正体は雛見沢のみに存在するあるものを研究する機関、そいつらが研究のため俺と詩音を襲い、雛見沢がダムに沈むのを防ぐために大臣の孫を攫った」

 

「・・・・あるものの研究?」

 

赤坂さんは俺のその言葉に反応する。

 

「それは色々な名で呼ばれてる。祟りという人もいるし、鬼と呼ぶ人もいる、そして寄生虫とも。だが組織の人はこう呼ぶ。()()()()()()と」

 

俺はここで羽入の存在を出しながら雛見沢症候群のことを説明していく。

詩音に話した内容、鬼のことを雛見沢症候群の別称にして少しの捏造を加えながら話していく。

 

これで詩音の中で話は繋がったはずだ。

 

「そしてその組織の拠点は雛見沢にある、入江診療所と名を偽って」

 

「え!?診療所!?」

 

俺の言葉に魅音は信じられないように叫ぶ。

ここの説明は大事だ、変な説明だと園崎家が診療所に突撃しかねない。

 

「まず相手は漫画とかに登場する嘘くさい悪の組織とかじゃない、国防省が企画してる軍と言っていい」

 

原作では入江さんや鷹野さんは三佐とかの階級で呼ばれていた。

山狗も軍人の集まりだし、はっきり言ってかなりヤバい組織だ。

 

だがすべてが敵ではない。

入江さんを筆頭にただただ雛見沢症候群を解明するために集まった人たちもいる。

 

スポンサーとしては雛見沢症候群の軍事転用とかが目的だったはずだが、それは鷹野さんや入江さんにはどうでもいいことなんだろう。

 

ひとまず入江さんや普通の人もいることを説明する。

これで入江さんを園崎家が狙ったりなんかことにはしたくない。

 

そして富竹さんについても説明をする。

魅音達の中ではたまに雛見沢にくる観光客なんだろうけど、その正体は鷹野さん達を監査するスポンサー側の人間だ。

 

ここも知っておいてもらわないといざという時に対応できない。

 

そして最後に俺達にとっての敵になる人物。

 

鷹野さんと山狗について説明する。

 

山狗たちが今どこにいるのか、それはさすがにわからない。

興宮のどこかに潜伏しているはずだが、さすがに園崎家でも発見はまだ出来ない。

 

「・・・・私はその雛見沢症候群の研究に協力をしているわ、私というより古手家がね」

 

俺の説明の後に梨花ちゃんが続ける。

 

自分が女王感染者であるという特別であること。

そして自分が二年後に鷹野たちに命を狙われることを。

 

「梨花ちゃんが狙われる?鬼、じゃなくて雛見沢症候群になってる私とお兄ちゃんじゃなくて?」

 

詩音が梨花ちゃんの言葉に首を傾げる。

ここから未来の話になるが、うまく説明していくしかない。

 

「俺たちは羽入の力を借りて梨花ちゃんが二年後に殺されることを知ってる。決して万能な力じゃないから絶対ではないけど。赤坂さん、とりあえず話を聞いてくれる?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

羽入の存在を知る魅音達ならオカルト的な力だと説明できるが、赤坂さんは羽入を知らない。

もともと、ここからは信じてくれるかは賭けのつもりで来ていた。

 

赤坂さんにはなんとか信じてもらうしかない。

 

俺は梨花ちゃんから引き継いで話を進める。

 

組織の派閥が変わり、研究が打ち切りになること。

絶望する鷹野さんに別の派閥の人間が接触すること。

 

そしてその派閥に利用されて鷹野さんが梨花ちゃんを殺すことを。

 

「・・・・組織では梨花ちゃんが死ぬと村の全員が雛見沢症候群になると推測されてる。それを防ぐために緊急マニュアルの一つに梨花ちゃんが死んだときのプランがある」

 

それは梨花ちゃんが死んだ場合に発動される終末作戦。

 

雛見沢住民の皆殺し。

 

別の派閥は鷹野さんを利用し、この作戦を発動させて鷹野さん達を指示していた派閥に大打撃を与えるつもりなんだ。

 

どうでもいい派閥争いで殺されるこっちの身なんてお構いなしに。

 

「「「・・・・」」」

 

その後も出来る限り詳細を伝え、話を終える。

俺の話を聞いた三人はなんとも言えない表情を浮かべている。

 

いきなりこんな話をされても現実感なんて湧いてくるわけがない。

話半分でも信じてくれたら上出来だ。

 

「今は話半分で信じてくれてたら十分。実際こうなるって決まったわけじゃないし、でも今話したことが本当に起こらないように対策はしておきたい」

 

「・・・・その対策が俺をここに呼んだ理由なんだね?」

 

「はい、赤坂さんには東京から圧力をかけてほしいんです」

 

俺はここで鷹野さんの手足である山狗たちを完全に動けなくさせておきたい。

 

赤坂さんは警察の中でも特殊な公安にいる。

 

二年前に赤坂さんが来るとわかって調べたけど、公安はわかりやすく言えばテロ、政治犯罪、外国による工作とかの日本全体の治安や国家体制に影響を及ぼす可能性のある事案に対応する部署だ。

 

警察の中でも特殊な立ち位置にいる赤坂さん達なら俺達と情報共有していけば鷹野さん達の動きを捕捉して山狗の動きを抑えることだってできるかもしれない。

 

上手くいけば山狗という部隊をなくすことだってできるはずだ。

公安に圧力をかけてもらってスポンサーが危機感を抱けば山狗たちはまともに動けなくなる。

 

あくまで彼らはスポンサーたちに雇われてるだけなんだ。

 

これで山狗たちの動きを封じられるなら鷹野さんはほとんど何もできなくなる。

今まで暴力的な手段をとれたのは山狗たちがいたからなんだから。

 

「わかった。東京に戻ったら灯火君からもらった情報を元に探ってみるよ」

 

「ありがとうございます!」

 

真剣な表情で頷いてくれる赤坂さんに頭を下げる。

 

ついでに赤坂さんと連絡がとれるように連絡できる番号を教えてもらう。

これで東京に赤坂さんが帰っても話が出来る。

 

ひとまずこれで俺のやりたいことはできた。

 

梨花ちゃんがここに来た時はどうなるかと思ったが、なんとかなったな。

 

やりきった達成感から口から長い息が洩れる。

 

「みぃ、話は終わったのですよ。じゃあお説教の時間なのです」

 

「梨花ちゃん?ぐぇぁ!?」

 

その声が聞こえた瞬間、首が何か引っ張られて床に倒される。

 

・・・・そういえば首輪とリードはそのままだった。

 

「続きは犬小屋でするのですよ、脱走する悪い犬はしっかりと躾けないといけないのです」

 

「あ、じゃあ帰ったら犬耳も用意するよ。大丈夫だよお兄ちゃん、ちゃんと大型犬用の犬小屋がうちにあるから」

 

「お兄ちゃんの散歩は私がするからね。それと今日のことは本気で怒ってるから」

 

魅音は悪ノリだが、梨花ちゃんと詩音はガチだ。

 

嘘だろ、このまま真面目な感じで終わる流れだったじゃん。

 

「・・・・じゃあ俺は先に車にいるよ」

 

赤坂さんは俺を見捨てて小屋から出て行こうとする。

 

嫌だ嫌だ!赤坂さんとこんな別れ方はあんまりだ!

次会った時にどんな顔をして会えばいいんだよ!

 

会った瞬間、笑われでもしたら本気で泣くぞ!

 

あと、せめて食事は普通で頼む。

ドッグフードなんか出た日には母さんたちに本気で泣きつくぞ。

 

梨花ちゃん達に引っ張られながら俺達も小屋を後にする。

 

 

この後、ピクリとも動かない羽入を見つけ、そして本当に犬小屋とドッグフードが出てきて泣いた。

 

 


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