「り、梨花ちゃん?」
「灯火」
なぜだろう、今の梨花ちゃんからは詩音と似たような雰囲気を感じる。
「えと、とりあえず降りてくれないか?この状態じゃあ話せないだろ?」
俺に覆いかぶさる梨花ちゃんになるべく刺激しないように柔らかにそう告げる。
両肩を抑えられていて梨花ちゃんが離れてくれないと起きられない。
「魅音から昨日のことを聞いたわ」
「そ、そうか。魅音のやつよく梨花ちゃんに話したな」
けっこう物騒な話題だし梨花ちゃんには伝えないと思ったが、どうにかして聞き出したみたいだ。
きっと梨花ちゃんは俺が山狗と接触したことを知って怒っているのだろう。
「悪かったよ梨花ちゃん、でもあれは仕方がなかったんだ」
「灯火、勝手に危険なところに行くのは
「んん?」
梨花ちゃんが片手を俺の足に触りながらそう告げる。
「そして自分から危険なことをしようとする悪い子は
「いやいや俺の手足は良い子だよ?悪い子じゃないさ」
冷や汗を流しながらもなんとか口を開く。
梨花ちゃんは変わらず俺を押し倒したまま動かない。
やばい、よくわからないけど今の梨花ちゃんは猛烈にやばい。
「この両腕と両足がなかったらあなたは大人しくなるのかしら?」
「すいまっせんした!本当に勘弁してください!」
全力で梨花ちゃんに謝る。
押し倒されていなかったら土下座くらいしてる勢いだ。
これガチだ、絶対梨花ちゃんは本気で言ってる。
「・・・・あなたはいつもそう。こっちの気持ちを考えもせずに危険なことをする」
「はい、反省しています」
「もしあなたが死んでしまったら、私はもう立ち上がれない。もう二度と運命に抗えない」
梨花ちゃんは淡々と事実を告げるようにそう言う。
そんなことはない、だって俺は知識で知っているから、梨花ちゃんが俺の力なんて必要とせずとも仲間と協力して運命に打ち勝っていることを。
「昨日のことを聞いて私、思ったの。灯火は放っておくと勝手に危険なことをしちゃうんだって」
「ああ、だから悪かったよ。もうこんなことはしないさ」
なんとか言葉を絞り出してそう答える。
しかし梨花ちゃんは俺の言葉に首を振る。
「残念だけど信じられないわね。それに良いことを思いついたの」
「良いこと?」
思わずそう聞き返すと、梨花ちゃんは薄く微笑みながら口を開く。
「
「どうしてそうなった」
俺は心から出た言葉をそのまま口にする。
「ここにいれば安全だし、手足を縛っておけばあなたも余計なことは出来ないでしょう?」
「余計なことどころか、必要なことすら出来ないんだが」
介護生活どころじゃないだろそれ。
ていうかこれ、本気で言ってない?声のトーンがマジなんだけど。
「もう大丈夫よ灯火。あなたは十分よくやってくれたわ、後のことは私達に任せて」
「・・・・いや、俺も手伝うさ。むしろ本番はこれからだろ」
今年の綿流しは終わった。
残りはあと二年、そして最後の一年こそが大事なんだから。
「大丈夫よ。もうすぐ圭一だって来る。それに今回の件で園崎家も本気になった。上手くいけば今年でケリをつけることだってできる」
「まぁそれはそうだけど、だったらなおさら俺も手伝うさ」
「いらないわ。あなたはケリがつくまでここにいればいいの。二度と危ない真似はさせない」
梨花ちゃんは俺の目を真っすぐ見つめながらそう言う。
最近よく見ていたハイライトオフ状態だ。
しかも今回はなんか目に闇がグルグルと渦巻いているようにさえ見える。
梨花ちゃんはそれだけ告げて俺から降りる。
俺は起き上がりながらひとまず考える。
俺も少し間なら隠れるのは賛成だ。
狙われているのは事実だし、詩音と一緒に隠れるのは正しい選択だと思う。
梨花ちゃんも昨日の今日だからな。
しばらくしたら落ち着くだろう。
母さんと父さんにも何とか許可をもらわないと。
それと礼奈を含めてしばらくの間は家族に護衛をつけてもらえないか頼んでおこう。
相手もこれ以上リスクを冒してくるとは思えないが、それでも用心に越したことはない。
バレなきゃ犯罪じゃないっていうが、ってことはバレたら犯罪なんだからな。
そして山狗は秘密の部隊、表舞台に堂々とは出ることが出来ない。
むしろ騒ぎになればこっちの物だ。
言い逃れできない状況に追い込んで、それを富竹さんに伝えて東京に送り返してやればいい。
それで一気に鷹野さんの攻撃手段をなくすことが出来る。
そうなれば鷹野さんは半分以上詰んだも当然だ。
園崎家の動きで相手がどう動くか今は様子見だ。
それまでは大人しくここで保護されるとしよう。
・・・・もちろん手足の拘束はなしで。
◇
あれから早くも一か月が過ぎた。
梨花ちゃんの言葉通り、俺は園崎家で過ごすことになった。
手足は縛っていないし、家の中なら自由に動ける。
でも外には出れない。
ま、まぁまだ一か月だし?そんなもんだよな。
でもそろそろ外にくらい出てもいいと思うんだよなぁ。
まぁそれは置いておいて、現在の状況について振り返ろう。
この一か月で雛見沢の状況は大きく変わってきている。
園崎家の動きが俺の予想以上だった。
相手を見つけるために園崎家だけでなく、村全体を巻き込んだ。
村の重鎮を集めて今回の件を説明し、村全体と共有。
不審な人間を徹底的に探し出すつもりだ。
これで雛見沢で少しでも怪しい人間が出たら即座に情報が共有される。
そしてこの範囲は興宮のほうまで着々と広がっている。
これで山狗は完全に迂闊な行動は出来なくなった。
だから、そろそろ外に出てもいいと思うんだよな。
俺が外に出ても山狗たちも動けないし大丈夫だと思うんだよ。
なんかいつの間にか俺は雛見沢から離れて茨城にいることになってるし。
相手を誘うブラフなんだろうけど、これじゃあもう完全に家から出れないじゃないか。
・・・・まさか本当に二年先までこのままだってことはないよな?
一応、礼奈や両親もこっちに来てくれてる。
それに悟史達も遊びに来てくれるから寂しくはない。
けどいい加減外に出たいんだ。
俺的には詩音のほうが中にいるべきなのに、魅音に化けて外に出てるみたいだし。
だったら俺も礼奈に化けて・・・・それは無理か。
顔つきとかは結構似てるんだけどなぁ、さすがに体格が。
詩音についてはこの一か月で大分落ち着いた。
羽入にも協力してもらったが、けっこう無理やりだったけど何とかなるものだな。
このままの状態が続けば詩音の雛見沢症候群も落ち着くだろう。
最初の頃の詩音とのやり取りを思い出して笑う。
◇
「いでよ!はにゅじゃなくてオヤシロ様!!」
「あうあうー!オヤシロ様なのですよー!!」
俺の声に従ってスタンバっていた羽入が姿を現す。
すでに事情は羽入に話している。
今の羽入は詩音にも姿が見えるようになっている。
だから詩音の目には突然羽入が現れたように見えるだろう。
これだけで羽入が普通の人間ではないことがわかるはずだ。
「・・・・えぇ」
俺がオヤシロ様を紹介すると言ってから緊張した表情を見せていた詩音がなんとも言えない表情を浮かべる。
うん、まぁ気持ちはわかる。
羽入にはもう少し威厳のある感じで出てほしかった。
「羽入、もう少し威厳のある感じで」
「わ、わかったのです」
小声で羽入と打ち合わせる。
テイクツーだ。
「・・・・初めまして人の子よ。私はこの村の守り神。長い時を過ごし、雛見沢であなた達を見守ってきました」
「・・・・」
先ほどのことをなかったことにして再度詩音の前に登場する羽入。
ガチモード羽入である。
これが一発目なら完璧だった。
ほら、詩音はなんとも言えない表情のままだもん。
「あなたの苦しみはわかっています。オヤシロ様である私に任せてください」
羽入は真顔で詩音に手を差し伸べる。
なんか怪しい宗教勧誘みたいだな。
でも実際に神様がしてるんだから冗談にならない。
「・・・・お兄ちゃん」
詩音がなんとも言えない表情のままこちらに顔を向ける。
俺も羽入に合わせて真顔で頷く。
「以前に言った通りだ、オヤシロ様の力があれば俺たちの中の鬼を鎮めることが出来る」
綿流しで話した通りに説明する。
雛見沢症候群を発症していた詩音は自分が鬼になったと思い込んでいる。
そして鬼が俺を殺そうとすると言った詩音の言葉を否定するために自分も鬼だと言った。
そして俺は鬼の鎮める方法に羽入の力だと説明した。
だから今回羽入に事情を説明して詩音にも姿を見えるようにしてもらった。
これで詩音の精神を安定させて雛見沢症候群を落ち着かせる。
「信じるのです人の子よ。あなたの中の鬼は鎮めることができます」
「・・・・お願いします。それとお供え物のシュークリームです」
「っ!?あうあうあう!シュークリームなのですー!!」
「オヤシロ様、真面目モードが解けてる解けてる」
グダグダだなぁ。
とりあえず茶番でも何でも続けてみるしかない。
綿流しの後から詩音も不思議と落ち着いてるし、案外なんとかなるさ、うん。