レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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兄隠し編7

「・・・・魅音様、先ほどの方は出ていかれましたよ」

 

あの男とその家族が店を出た後、スタッフしか入れない店の裏にいた私に声がかかる。

いきなりあの男がペットショップに向かった時は困惑したけど、園崎の知り合いの店だったから潜入は簡単だった。

 

「ごめんね、急に店の裏にいさせてなんて言って」

 

「いえ、園崎様にはいつもお世話になっておりますので」

 

「今度は本当に買い物をしに来るよ」

 

「お待ちしております」

 

こちらに頭を下げてくるスタッフに私は魅音を演じてそう告げて店を後にする。

 

あの男、スタッフにお兄ちゃんがここに来たかどうかを確認していた。

 

なんでここにきてお兄ちゃんについて確認をするの?

相手の意図がわからず困惑する。

 

お兄ちゃんが動物好きでここによく来ているとでも思ったのだろうか?

それとも言ってた通り、犬を飼ってお兄ちゃんの匂いを追わせて探させるつもりだった?

 

もし、そのためだけにペットショップに寄ったのならいくら何でも天然すぎ。

 

きっとあの男は何か用があってここに来た。

独り言で妙なことを呟いていたし。

 

 

あの男はいきなり『そういうことか』と呟いたと思ったらペットショップを出て行った。

どうやらホテルに戻ってどこかに行く気のようだけど、どこに行くつもり?

ここで何かを見つけた?普通のペットショップだよ?

 

あの男はお兄ちゃんを探しているようだし、お兄ちゃんのところ?

いやそれはない、あの男はお兄ちゃんのいる場所には絶対に辿り着けない。

 

もしお兄ちゃんのところに近づこうものなら私達に八つ裂きにされるだけだ。

 

そもそもこの男はどうしてお兄ちゃんに会いたいの?

 

葛西から話を聞いた後から梨花ちゃんや礼奈からも話を聞いたけど、どうやら今の雛見沢の現状に気が付いて力になるためにお兄ちゃんに接触しようとしていたようだ。

 

葛西の話ではこの男は二年前に雛見沢に来ていて、その時にお兄ちゃんに借りがあるらしい。

だからその借りを返すために力を貸したい。まぁ理由としては納得できる。

 

でもその行動はすでに梨花ちゃんや礼奈、そして葛西から止められているはずなんだ。

なのに、今もこうしてお兄ちゃんを探している。

 

どうしてそこまでしてお兄ちゃんに会いたいの?

借りを返したいのだろうけど、ここまでいくと明らかに変だ。

 

・・・・この男はまだ何かを隠している。

 

そしてそれはお兄ちゃんに関係することだ。

 

・・・・そうじゃないなら私の想像を超えるおバカなだけだし放置でいい。

 

正直言うと礼奈達の報告もあって白寄りの気持ちで見てたけど、気が変わったよ。

 

隠し持っていた改造スタンガンのスイッチを入れる。

スタンガンから電気が炸裂する音が耳に届く。

 

お兄ちゃんと、まぁ一応()()の協力もあって私の中の鬼は静まっている。

でも決していなくなったわけじゃないんだ。

 

聞いても答えない場合は、身体に聞いてやる。

 

鬼になった私に容赦はないよ。

 

「それと念のため、おねぇに連絡してお兄ちゃんの様子を見てもらっていこう」

 

 

 

「うん、わかった。じゃあ今からお兄ちゃんの様子を見てくるよ」

 

「みぃ?詩音からなのですか?」

 

ちょうど私が灯火の様子を見に魅音達の家に来ていた時、電話がかかってきた。

会話から聞こえてきた内容を聞く限り、相手は詩音のようね。

 

もしかして詩音は赤坂の尾行でもしてるのかしら?

昨日、詩音から赤坂のことを聞かれたら敵じゃないと十分説明したつもりだったけど。

 

前の詩音ならともかく、今の彼女なら凶行には走らないとは思うけど、私も念のため赤坂のところへ行くべきかしら。

 

「うん、なんかお兄ちゃんの様子を見てきてほしいんだって」

 

「・・・・何かあったのですか?」

 

「梨花ちゃんから聞いた赤坂さんって人の動きが怪しいんだってさ。どうもお兄ちゃんを探してるみたいでどこかへ向かおうとしてるみたい」

 

「赤坂が灯火を探してるのですか?だったらここに来るしかないのですよ」

 

「私もそう思うけど、どうもこっちに来る感じじゃないみたい。だから念のためお兄ちゃんの様子を見てきてほしいんだってさ」

 

「・・・・」

 

赤坂、あなたは一体何をしようとしているの?

もうあなたは私達と関わる必要はないわ、あなたがいなくても私達は戦える。

 

あなたには大切な家族がいるんでしょう。あなたに何かあったらあなたの家族はどうするの?

 

私だって最初はあなたに協力を得ようとした。

でも、この雛見沢に新たに生まれる命を見て、私の考えは変わった。

 

あなたには何よりも優先しなければならない大切な妻と娘がいることを私は知っている。

今まで私がいたカケラでは守ることが出来なかった命。

でも、この世界では生きてあなたの隣にいる。

あなたが何より優先するべき人たちがちゃんと隣にいる。

 

雛見沢とは何も関係のないそんなあなたを私達の事情に巻き込むなんてことは今の私には出来ない。

 

「とりあえずお兄ちゃんのところに行こうかな。梨花ちゃんも来るでしょ?」

 

「・・・・行くのです」

 

とりあえず灯火の様子を確認して、その後すぐに詩音の方へと向かって方がよさそうね。

場合によって灯火からも詩音に余計なことをしないように言ってもらわないと。

 

魅音と一緒に庭に出てある場所を目指す。

庭を真っ直ぐ進んでいくと目の前に重厚な扉が現れた。

 

「ちょっと待ってね。今開けるから」

 

扉には厳重に閉められていて魅音が時間をかけて開けていく。

とりあえずこの扉が開けられた様子はなさそうね。

 

もし灯火が外に出ていたらこの扉は開いているはず。

 

「ふぃ、やっと開いた」

 

鍵を解き終えた魅音が重厚な扉に手をかけて力いっぱい引っ張る。

するとゆっくりと扉が開き、中の冷たい空気が外へ流れ込む。

 

中に明かりはあるけれど全体的に薄暗い。

 

そのまま魅音と一緒に中に入り、どんどん下へと進んでいく。

ほんと、園崎家にこんな地下あるなんてね、私もこの世界で初めて知ったわよ。

 

 

そしてそのまま地下を進んでいくと、ようやく開けた場所に到着する。

 

室内は明るいけど、正直ここに限って暗い方がいいわね。

 

室内にある悪趣味な拷問道具の数々を見て私は心の中でため息を吐く。

 

せめて布か何かで隠すくらいしなさいよ。

 

「お兄ちゃん!遊びに来たよー!」

 

室内に到着した魅音が声を上げて灯火に知らせる。

 

そう、何を隠そうこの拷問部屋が今の灯火の居住区だ。

 

・・・・流石に哀れね。

 

まぁ何度も脱走しようとする灯火が悪い。

素直に部屋にいれば地下なんかに行かせてないわよ。

 

・・・・ほんと、私がどれだけあなたのことを心配しているか。

 

 

あなたが死んだら、わたしは。

 

 

・・・・でもここって電気はしっかりと通ってるし、外の様子は外のカメラを通してテレビで確認できるから意外と便利なのよね。

 

「ありゃ?寝てるのかな?」

 

反応がないことに首を傾げながら部屋を進む魅音。

・・・・まさかね。

 

嫌な予感を抱えながらも彼がいつも寝ている場所に進む。

彼が寝ているのはここで唯一普通の部屋がある場所だ。

 

「あ、なんだ。お兄ちゃんちゃんといるね!反応がないから心配したよ」

 

灯火がいるであろう部屋に入ると確かに誰かがいるのがわかった。

 

灯火がいつも寝ている布団に誰かが包まってもぞもぞと動いている。

 

「お兄ちゃん、もうすぐ昼だよ?そろそろ起きないと」

 

魅音が布団に包まって出てこようとしない灯火に布団を剥がそうと動く。

しかし、よっぽど布団と離れたくないのか剥がそうとする魅音に必死に抵抗していた。

 

「ありゃりゃ、今日はお兄ちゃんしぶといね。いつもだったらそろそろ起きるのに。お兄ちゃん!これ以上抵抗すると布団だけじゃなくて服も脱がして襲っちゃうよ!」

 

「みぃ、どう考えてもする立場が逆なのですよ」

 

サラリとすごいことを言う魅音にツッコミながらも、それでも姿を見せない灯火に疑問を覚える。

 

あうあう、暑いのですぅ

 

・・・・ちょっと待ちなさい。

今すごく聞き覚えのある声が布団から聞こえたわよ。

 

そういえばあいつ、今日はまだ一回も見てないわね。

 

・・・・試してみようかしら。

 

「みぃ、灯火。今日は僕がシュークリームをもってきたのですよ」

 

「・・・・!」

 

手に持っていた袋からシュークリームを一つ取り出す。

そしてそれを部屋にあった皿にのせて布団に包まる何かの傍におく。

 

「ここにおくのです、灯火に食べてほしいのですよ」

 

「・・・・」

 

ずっとクネクネと動いていた布団がピタリと動きを止める。

もう少しね。

 

「とっても美味しいのですよ。でも灯火がいらないなら僕が食べちゃうのです」

 

「っ!!?」

 

私が布団の傍においたシュークリームに手を伸ばそうとした瞬間、布団から腕が伸びてシュークリームを掴む。

 

布団から伸びた手は細く真っ白だ。

まるで可愛い女の子の腕ね。

 

その腕はシュークリームを掴むと再び布団の中へと消える。

完全に布団の中に吸い込まれたシュークリームを見て私は笑みを浮かべる。

 

こんなこともあろうかともっておいてよかったわ。

・・・・そろそろね。

 

「それは僕が作った特別なシュークリームなのです。味わって食べてほしいのです」

 

ええ、それはもう美味しいわよ。

なにせそれは本当に特別性なの。

 

中に入ってるのはクリームじゃない。

 

 

 

 

 

タバスコよ。

 

 

 

「っ!!?か、から!?あうあうあうあうあうあああああああ!!?」

 

私のシュークリームを食べたおバカが布団の中で暴れまわる。

そしてすぐに耐えかねて布団から飛び出してくる。

 

「り、梨花!?この殺人兵器はなんなのですか!?何の罪もないシュークリームにこんな仕打ちはあんまりなのですよー!!」

 

口を抑えながら涙目でそう叫ぶ()()を私は冷たい目で見つめ返す。

 

「・・・・あっ」

 

私の視線に気づいた羽入が我に返って間抜けな声をあげる。

そのまますごい汗を顔から吹き出しながら私を見つめ。

 

「・・・・てへ☆なのです」

 

私は二つ目の特別製シュークリームを羽入の口に突っ込んだ。

 

 

 

 

 


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