レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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兄隠し編4

「「「・・・・」」」

 

雛見沢の人たちからの視線が痛い。

明らかに俺のことを警戒している。

 

礼奈ちゃんには悪いことをしてしまった、村で警戒されている俺と話をさせてしまった。

俺と話したのが原因で村八分にあったとかになったら笑えないぞ。

 

・・・・とりあえず梨花ちゃんにそんなことにならないように土下座するくらいの気持ちで頼んでおこう。

前回で梨花ちゃんが村の人達に可愛がられていることはよく知っている。

 

確か梨花ちゃんはオヤシロ様の生まれ変わりと言われていて、そのため村の人たちに崇められているんだった。

その梨花ちゃんが言えば、村の人たちも何もしないだろう。

 

「・・・・古手神社か」

 

目の前にある長い階段。

その上にあるのが古手神社、ダム反対運動の時はここが本拠地になっていたのを思い出す。

きっとここに梨花ちゃんはいるはずだ。

 

「・・・・行くか」

 

「みぃ?どこに行くのですか?僕はここにいるのですよ?」

 

気合を入れて一段目の階段を上ろうとしたタイミングですぐ横で可愛らしい声が聞こえる。

片足を階段に乗せたまま声がした方に顔を向ける。

 

「「・・・・」」

 

可愛らしい少女がそこにいた。

というか梨花ちゃんだ。

 

「えっと、久しぶりだね梨花ちゃん。僕のことは覚えてるかな?」

 

「赤坂なのです。元気そうでよかったのですよ」

 

「うん、おかげさまでね」

 

満面の笑みで俺の名を呼ぶ彼女に俺も微笑む。

いきなり声をかけられてびっくりしたが、神社に行く手間が省けた。

 

・・・・声をかけるまで気づかなったことは深く考えないでおこう。

 

「赤坂、前より大きくなった気がするのですよ」

 

「あれから身体を鍛え直したからね。梨花ちゃんも大きくなったね、見違えたよ」

 

「・・・・まだまだ小さいのですよ」

 

俺の言葉にそう言って俯く梨花ちゃん。

気のせいか自分の胸に視線がいっている気がする。

 

いやそこはまだ子供なんだから気にしなくていいと思うけど。

 

「・・・・身長のことよ?」

 

「も、もちろんだよ」

 

一瞬別人のように豹変した梨花ちゃんに笑顔で頷く。

余計なことは考えたらいけない、こういう時の女の勘は怖いことを俺は知ってるんだ。

 

「と、とりあえずダム建設が凍結して本当によかったよ。ここがダムの下に沈むなんて悲しいからね」

 

「それは心配していなかったのですよ。雛見沢が沈むわけがないのです」

 

「・・・・そうか。そしてあの時は随分と迷惑をかけてしまったね。本当にすまない、灯火君にも謝れたらよかったんだが」

 

「・・・・みぃ、灯火がいないことを知っているのですね」

 

「ああ、さっき礼奈ちゃんと会ってね。そこで灯火君が茨城に服の勉強をしに行ったことを聞いたんだ」

 

「・・・・そうなのですか」

 

・・・・さて、どうするか。

どう聞くのが一番いいかを考える。

 

聞くことは雛見沢の本当の現状、そして灯火君の行方。

大きくはこの二つ。

 

礼奈ちゃんは教えてくれることはなかったけど、梨花ちゃんなら。

 

「赤坂、今日はご家族と来たのですか?」

 

「え?ああ、家族と一緒だよ。ここには一人で来たけどね」

 

俺が質問する前に梨花ちゃんから話しかけてくる。

そうだ、梨花ちゃんに美雪が無事生まれたことを伝えないと。

 

「僕が東京に帰った後、すぐに娘の美雪が生まれてね。今度一緒に連れてくるからぜひ会ってあげてほしい」

 

「・・・・」

 

「梨花ちゃん?」

 

俺の言葉に梨花ちゃんは俯いたまま答えない。

俺は困惑しながら彼女の名を呼ぶ。

 

「・・・・赤坂はもう、ここに来ちゃダメなのです」

 

「・・・・」

 

梨花ちゃんから出た言葉は礼奈ちゃんと同じ、俺にここから帰れと言う言葉。

その言葉に俺は自身の聞きたかった言葉を口にする。

 

「帰る前に聞きたいことがある。今この雛見沢で何が起きているんだ。俺が出来ることなら助けになりたい」

 

「・・・・」

 

「・・・・これは俺の考えだけど、もし灯火君に危険が迫っているのなら教えてくれ!君たちの力になりたいんだ!!」

 

口を閉ざす梨花ちゃんに自分の思いをぶつける。

それに対して梨花ちゃんは何かに耐えるように手を握りしめていた。

 

「赤坂、あなたのその言葉を私はずっと待ち望んでいた。ずっとあなたがここに来るのを待っていたわ」

 

梨花ちゃんは俺を見つめながら薄く微笑む。

 

「梨花ちゃん・・・・じゃあ」

 

()()()()()()()()

 

梨花ちゃんの言葉を聞いて期待した俺は、同じく梨花ちゃんの言葉で硬直させられる。

 

「私は今まで奇跡が起こるのをただ待つだけだった。でもこの世界で奇跡なんかなくても運命は変えられると知った」

 

「梨花ちゃん、君は一体なにを」

 

「・・・・まだダム反対運動で鬼ヶ淵死守同盟があった頃、こういう言葉があったのです」

 

そう言って梨花ちゃんは歌うようにその言葉を口にする。

 

一人に石を投げられたら二人で石を投げ返せ。

三人で石を投げられたら六人で石を。

八人で棒で追われたら十六人で追い返し。

そして千人が敵ならば村全てで立ち向かえ。

 

「一人が受けた虐めは全員が受けたものと思え、一人の村人のために全員が結束せよ。これが今の雛見沢。私達は今、戦っているのよ」

 

「っ、だったらなおさら俺も力に!」

 

「ダメ。あなたにはあなたの守るものがあるはずよ。雛見沢の住民ではないあなたを巻き込みたくないの」

 

「っだが!」

 

梨花ちゃんの言葉を聞いてもまだ納得できない。

 

俺がここまで鍛えてきたのはもちろん数々の事件で被害者を救うためだ。

だが、その中でもこういう時、梨花ちゃん達の力になるためでもある。

 

梨花ちゃんが言っているのは俺が関われば雪絵や美雪にも被害がでるかもしれないということだろう。

 

くそっ、こうなるのだったら一人で興宮に来るべきだった。

 

詳細はわからないが、これは俺が思っている以上に今の雛見沢は危ない状況なのか?

 

「大丈夫よ。赤坂の力がなくても私たちは戦える。灯火も心配いらないわ」

 

「・・・・」

 

「・・・・あと一年半もあれば全てに決着がつく。その時にまた遊びに来て、その時なら心から歓迎できる」

 

梨花ちゃんの言葉に開きかけた口が閉じる。

・・・・どうやら梨花ちゃん達は俺の助けを求めてはいないようだ。

 

「梨花ちゃん、しばらく見ない間にずいぶん大人っぽくなったね。いや以前もそういう雰囲気はあったけど」

 

「女の子には秘密がいっぱいなのですよ。にぱー☆」

 

そう言って可愛らしく笑う梨花ちゃんに苦笑いを浮かべる。

なんというか、俺はいつまで経ってもこの子には敵わなそうだ。

 

「赤坂が一人でここにいると、待ってる家族が暇でかわいそ、かわいそなのです。早く帰ってあげたほうがいいのですよ」

 

「・・・・ああ、そうするよ」

 

梨花ちゃんの言葉に出そうなる言葉を飲み込む。

心残りはあるが、俺が介入しても足手まといになるかもしれない以上、これ以上出しゃばるわけにはいかない。

 

状況だって大きく動くようなら大石さんに教えてもらって東京から飛んでくることだってできる。

 

「赤坂」

 

「ん?なんだい?」

 

「あなたが幸せで本当に嬉しい。あなたのその姿を見れてよかったわ」

 

そう言って梨花ちゃんは嬉しそうに微笑む。

そして俺の返事を聞かずに階段上って古手神社にある自身の家へと戻っていった。

 

「・・・・俺も戻ろう」

 

俺は戻る梨花ちゃんを見送った後に帰路に就く。

歩いてきたため時間もけっこう経ってしまっている、興宮に戻る頃にはいい時間になっているだろう。

 

「・・・・この景色を雪絵と美雪に見せてあげられないのは残念だな」

 

視界に広がる美しい景色に目を細める。

せめて二人に言葉で伝えられるようにその景色をしっかりと焼き付けた。

 

 

 

 

・・・・()()()()()()()

 

梨花ちゃんと別れてから感じる視線に眉をひそめる。

村の住民からの視線とは違う。

 

 

この視線からは明確な敵意を感じた。

 

「・・・・」

 

このまま興宮に戻るわけにはいかない。

さりげなく人のいない方へと進んでいく。

 

梨花ちゃんには申し訳ないが、巻き込まれたからには対処をさせてもらう。

 

「・・・・出てきたらどうだ?いるのはわかってるぞ」

 

少し道を外れた場所に進んでいって完全に人気がなくなったタイミングで声をかける。

気配を消すのがうまいな、どう考えても素人じゃないぞ。

 

周囲のあるのは使われていない小屋が複数。そして左は田んぼで見晴らしはいいが、右は林で視界が悪い。

 

この時点でもう村の住民が俺の後をつけているという線は消えていた。

きっとこいつが梨花ちゃんが戦っているという人間なのだろう。

 

「・・・・」

 

俺の言葉に相手は反応しない。

いいだろう、そっちが出ないならこっちから動く。

 

「ふっ!」

 

踵を返して一気に小屋へと接近する。

気配からして小屋にいるのは間違いない。

 

一気に攻めて反撃の隙を潰す。

 

相手がいるであろう小屋の扉を蹴って中へと入る。

 

「・・・・いない」

 

小屋には誰もいない。

いや後ろか!

 

「っ!?」

 

俺の死角に入り込んでいた相手に後ろ蹴りを放つ。

しかし、俺の後ろ蹴りは相手が滑り込むように床に転がることで回避される。

 

っ!?今のを躱すか。確実に入ったと思ったんだがな。

相手の回避能力に舌を巻く。

 

巧妙に俺の死角に移動しようとする相手を逃さないために目を走らせようとする中で視界に嫌な物が見えた。

 

おいおい銃は卑怯だぞ!?

 

「っ!!」

 

相手が照準を合わせきる前に小屋から飛び出る。

参ったな、今日は非番だから銃を持ってきていない。

 

相手の力量からして銃の腕前もかなりあると予想できる。

だが、ここで相手を倒せれば梨花ちゃんの助けになるはずだ。

 

何より凶器を使用する相手を梨花ちゃん達にさせるわけにはいかない。

チラッと見えた姿はスーツ姿の男だった。

 

二年前の時に大臣の孫を誘拐した男達がいた。

あいつらは銃を使っていたな、結局あいつらの正体はわからなかったし、まさか梨花ちゃん達が戦っている相手は奴らか?

 

あの時は俺のせいで灯火君が人質に取られ、一緒にいたスーツ姿の男が撃たれてしまった・・・・んん?

 

あの時いたスーツ姿にグラサンの男、あれは灯火君のボディーガードをしていた園崎の人間だ。

あの時は誤魔化されたが、完全に銃を手に持っていた。

 

そして今小屋の中にいる男、同じくスーツ姿で銃を持っている。

腕も確かで、しかもチラッとしか見えなかったが、グラサンかけてなかったか?

 

・・・・これはもしかして壮絶な勘違いが今起きていないか?

 

小屋にいるのは園崎の人間で。

俺のことを梨花ちゃん達が戦っているという人間と勘違いしている?

 

・・・・おやおや?

 

これはもしかしなくても、さっそく梨花ちゃん達の迷惑になっていないか俺。

 

 

 

 

 

 

 

 


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