レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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兄隠し編1

「・・・・二年ぶりか」

 

どんどん都会から田舎へと流れていく眺めていると自然とその言葉が洩れた。

もうあれから二年も経つのか。

 

「パパー」

 

二年前のことを思い出していると膝の上に座っていた娘が声をかけてくる。

 

「ん?どうしたんだい美雪」

 

「ダッコー」

 

両腕をこちらに伸ばしてそう要求してくる娘に頬を緩めながら言われた通り抱き上げる。

抱き上げて視線が高くなった美雪は喜びながら電車の窓の外に映る景色に向ける。

 

「パパはやーい!」

 

「そうだね、そういえば美雪は電車は初めてか」

 

窓の景色を見てはしゃぐ美雪を見て微笑む。

二年前のことを思い出したせいか、美雪の姿があの子に重なる。

 

梨花ちゃん、彼女は元気にしているだろうか。

それに灯火君も、あれから二年も経つんだから大きくなっているだろう。

 

「楽しみだわ、あなたから聞いていた場所にやっといけるのね」

 

「・・・・そうだね、俺も楽しみだよ」

 

興宮には以前にお世話になった大石さんもいるから挨拶をしないとな。

きっと大石さんは今日も笑いながら麻雀でもしているに違いない。

 

「やっと長い休暇がとれたわね。東京ではずっとあなたは忙しかったから」

 

「うっ、それは悪かったよ。事件がずっと続いてて」

 

「ええわかってるわ。だから嬉しいのよ、やっと三人でゆっくりできるんですもの」

 

そう言って雪絵は微笑みながら美雪の頭を撫でる。

美雪は母さんに撫でられて首を傾げながらも嬉しそうに笑っていた。

 

「雛見沢にも早く行ってみたい。あなたから聞いた子供たちにも挨拶しなきゃ」

 

「ああ、僕も早く会って話がしたいな」

 

無事娘が生まれたということを伝えたい。

きっと二人も喜んでくれるに違いない。

 

俺は流れている景色を眺めながら2人が娘と会って笑顔を浮かべるのを想像できる。

 

「興宮に着いてホテルに荷物を置いたら、俺は一度警察署に顔を出すよ」

 

「わかったわ。じゃあホテルで待ってるわね」

 

「ああ、頼む」

 

大石さんに会うのも久しぶりだ。

 

そして雛見沢も。

 

あの自然豊かな景色を二人にも早く見せたい。

 

「ひなみさわー?」

 

俺たちの話を聞いていた美雪が首を傾げながらそう口にする。

 

「ああ、綺麗なところだから美雪も気に入るさ」

 

「ふーん」

 

俺の言葉に首を傾げながら外の景色に目を戻す美雪に苦笑いを浮かべる。

今の美雪は雛見沢より外の景色に夢中なようだ。

 

でも今見えている窓の景色に驚いているならきっともっと驚くだろうな。

あれほど自然が豊かな場所は、東京で見ることは難しいから。

 

「あなた、そろそろね」

 

「ああ、準備をしておこう」

 

電車の中に興宮へ後五分で到着することを知らせるアナウンスが流れる。

今日は警察署に顔を出したら興宮でゆっくりして雛見沢には明日行くことにしよう。

 

 

 

 

「おや?これは懐かしい人に会いましたねぇ」

 

「大石さん、お元気そうですね」

 

「んっふっふっふ!赤坂さんもお元気そうで。いやぁ見違えましたよ、随分と貫禄が出てきましたねぇ」

 

「ありがとうございます」

 

興宮のホテルに荷物を置いて警察署に挨拶に来た。

ちょうど大石さんも警察署の中にいたようで突然の俺の訪問を歓迎してくれた。

 

「せっかくのお休みにわざわざ東京からこんな田舎に来るだなんて。奥さんから怒られたんじゃないですか?」

 

「いえ、妻と娘もゆっくりできると喜んでいますよ。東京はやはり何かと忙しいですから」

 

笑う大石さんに苦笑いを浮かべながら妻の心境を説明する。

 

「それに私もここには思い入れがありますからね。ここにまた来れて嬉しいですよ」

 

「んっふっふっふ!そうですか。まぁ何もないところですが、それがうちのいいところですからねぇ」

 

俺の言葉に大石さんはそう言って笑う。

大石さんとは二年前の大臣の孫が誘拐された事件で協力してもらった。

あの時は迷惑をかけてしまったからな、これからしっかりと恩を返していきたい。

 

東京での事件を解決するために身体も鍛え、経験も積んだ。

この東京にいた時間はここでも役立てるはずだ。

 

そのまま雑談に花を咲かせていると、事務所の中から大石さんを呼ぶ声が聞こえる。

 

「おっとと、呼ばれてしまいましたね。そうだ、赤坂さん。明日の夜は空いていますか?」

 

「明日の夜ですか。ええ、妻に相談して空けてもらいますよ」

 

今日はさすがに厳しいが、明日の夜くらいならなんとかなるだろう。

久しぶりにあったのだ、俺も大石さんと飲みの場で話がしたい。

 

「久しぶりに赤坂さんと卓を囲えますねぇ。おやっさんたちにも連絡しておきますよ」

 

「ま、麻雀はちょっと・・・・妻に殺されますので」

 

以前にすることが出来たのは出張中だったからだ、もしここでまた麻雀していることがバレたら確実に怒られる。

 

「では普通に飲むだけにしましょうか。んっふっふ!可愛いお姉ちゃんがいるお店ではないので安心してください」

 

「・・・・お願いします。いえ本当に」

 

せっかくの休暇中に妻と修羅場になんてなりたいくない。

 

「いやぁしかし、赤坂さんはなんというか運が悪いですねぇ」

 

「え?どういうことですか?」

 

大石さんの意味深な言葉に対して確認をしようとした時に事務所から大石さんを呼ぶ声がもう一度届く。

 

「詳しい話は明日にしましょう。ではまた」

 

「・・・・はい」

 

詳しい話を聞きたいところだが時間はなさそうだ。

事務所に戻る大石さんを見送って俺も家へと戻る。

 

・・・・雪絵には悪いが厄介ごとがありそうだな。

 

しかし興宮で何か事件はあっただろうか?

 

一応こっち来る前に東京で最近のことを調べてはいたけれど特に何も見つからなかった。

 

・・・・となると興宮ではなく雛見沢か?

 

雛見沢の情報はさすがに東京では調べられなかった。

しかしダム建設の話はすでに凍結していて村での抗議活動も同じく終了している。

 

あの時の雛見沢は確かに凄まじかったが、今雛見沢で何か起こりえるのだろうか?

 

雛見沢は人口二千人程度の村だ、ダム建設のようなよっぽど大きなことでもなければ騒ぎにはならないだろう。

 

「はぁ・・・・大石さんが大袈裟に言っただけであることを祈るしかないか」

 

まぁ、そんなわけないだろうが。

きっと園崎家か、灯火君あたりが何かやらかしているのだろう。

 

雛見沢で派手に騒ぐようなことをするなんて俺の知る限りそこしかない。

 

前回は俺の勘違いや迂闊な行動で園崎家や灯火君には迷惑をかけてしまった。

もし何か問題をかかえていて、俺が何か力になれるなら協力したい。

 

いやまぁ、俺は警察だから法に抵触するようなことをしてるなら全力で止めるけど。

 

 

 

 

「詩音さん、先ほど新しい情報が届きました」

 

「・・・・ありがとう葛西」

 

電話越しで葛西に礼を告げる。

 

・・・・ふぅん、警察が来たのか。

 

「休暇で来たようだけど、警察は信用できない。もしかしたら奴らの増援かもしれないから監視させて」

 

「わかりました。接触は避けますか?」

 

「・・・・もし相手が雛見沢に来るなら接触してみるのもありね」

 

「・・・・ではそのように」

 

それから葛西と情報の共有してから電話を切る。

 

「・・・・」

 

私の記憶が確かなら、ダム反対運動の時にも東京から警察が来ていた。

そして今回も同じように東京から警察が来た。

 

これで疑うなってほうが無理がある。

 

「・・・・向こうも痺れを切らせてきたようね」

 

これは私達側からすればチャンスだ。

相手は必ずお兄ちゃんに接触しようと動く。

 

そこで奴を捕らえ、相手のたくらみを全て暴いてやる。

 

私達()に手を出せばどうなるか、お前らに教えてやる」

 

手に握りしめていた受話器が悲鳴を上げる。

 

「詩音、葛西から?」

 

「うん、どうやら向こうが動いたみたい」

 

握りしめていた受話器を置いて声の方へ顔を向ける。

そこには真剣な顔つきのおねぇがいる。

 

「・・・・今回はどうする?()()()()()()()

 

「・・・・今は詩音のままでいいかな。でも後で代わってもらうかも」

 

「りょうかい、でも気を付けなよ。狙われるのはあんたもなんだからね」

 

「うん、わかってる。おねぇも気を付けて」

 

私達はお互い頷き合う。

おねぇに私達が鬼だと言うことは伝えていない。

 

けど私と園崎家と深く関わっているお兄ちゃんが綿流しに狙われたことは伝えた。

それによって園崎家は自分たちを狙う奴らがいると勘違いしている状態だ。

 

・・・・本当は鬼である私達を狙ったものだけど、敵は同じだから問題ない。

 

「あとまだ手は出さないでね。少しの間泳がせておきたいの」

 

「ん、それは私も賛成。相手がどう動くかしっかりと把握しないとね」

 

おねぇの賛成もあってしばらく相手の動向を見ることに決める。

後でその男の情報を詳しく調べないと」

 

「・・・・お兄ちゃんと私の妹に手ぇ出したんだ。腸引き裂かれても文句は言えないよ」

 

おねぇは園崎家としての冷徹な顔でそう告げる。

・・・・私は鬼だけど、今のおねぇも十分鬼だね。

 

「・・・・この鬼隠し、暴けるものなら暴いてみなよ」

 

 

 


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