レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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IF(魔女要素あり)



IF 綿流し4

「さて、何か申し開きはあるかしら?」

 

「いえ、全ては俺が盛大に勘違いした結果でございます」

 

「と、灯火は悪くないのですよ!僕が勘違いして大騒ぎしてしまったのが悪いのです!」

 

怒れる梨花ちゃんの前に俺と羽入は土下座するくらいのつもりで謝る。

 

ちなみに俺と羽入は診療所の廊下で正座をさせられている。

決死の覚悟で乗り込んだらただの勘違いでした☆なんてことになったのだから怒るのも当然だ。

 

梨花ちゃんは大事な奉納演舞も諦めてここに来てるんだし。

きっと梨花ちゃんのお母さんが代わりにしてくれたと思うけど、絶対怒られる。

 

詫びメイド服なんかでは絶対にすませてはくれないだろう。

 

「・・・・それに他にも聞かないといけないことがいっぱいありそうね」

 

「・・・・」

 

「まぁ今は時間がないからいいわ。それよりあっちはどうするの?」

 

「はうー、礼奈がお姉ちゃん。礼奈がお姉ちゃんになる。はうー」

 

視線の先には両親から子供のことを聞いてトリップした礼奈。

あれはしばらく戻ってこないな。

 

まぁ礼奈は放置でいいや。

 

問題は詩音だな。

一応俺の勘違いだって説明したけど、納得が出来ないらしく葛西と周囲の警戒に出てしまった。

 

向こうに残ってるのは魅音と悟史と沙都子か。

心配してるだろうから何でもなかったことを伝えたい。

 

「とりあえず私は戻るわ、奉納演舞もまだギリギリ間に合うかもしれないし、あなたはどうする?」

 

「・・・・両親とこのまま帰るつもりだ。綿流しには行けそうにない」

 

お腹の子供の影響で体調の悪い母さんは今夜は診療所に泊まった方が良いと言われるけど、さすがに今の状況でここに泊まるのは危険だ。

 

さっき俺と詩音が山犬に襲われたのは事実、警戒しておいたほうがいい。

それにまだ鷹野さんには会っていない。

やっぱりあの人は危険だ。

 

「礼奈も連れて帰る。詩音と葛西には俺から言っておくから梨花ちゃんは先に戻ってくれ」

 

「わかったわ、それと灯火」

 

「なんだ?」

 

俺がここに残ることを告げると梨花ちゃんは綿流しに戻るために踵を返す。

しかしその途中でいったん止まり、こちらに振り帰る。

 

「これからも頑張りましょう。この世界に生まれるその子のためにもね」

 

「・・・・ああ、この世界で最後にしよう。絶対にな」

 

「ええ、もちろんよ」

 

微笑みながらそう告げた梨花ちゃんは今度こそ診療所を後にする。

これから面倒なことでいっぱいだが、こうして良いことだってある。

 

俺以外の原作にはいない登場人物。

本来の世界では父と母は離婚しているから生まれるはずのない命だ。

 

つまりこの子は、別のカケラでは生まれることのない。

ある意味でこの世界の象徴のような子だ。

 

もしかしたら俺のように、前の世界の記憶を

 

「っ!?」

 

頭に痛みが走る。

 

・・・・なんだ?さっき何を考えていた?

 

頭がぼーっとする。

靄がかかったように思考が晴れない。

 

「はっ!?礼奈は何を!?」

 

混乱する頭に正気に戻った礼奈の声が聞こえる。

・・・・とりあえず礼奈と合流だな。

 

詩音の件は明日だな、いやほんとどうしよう。

 

来年の綿流しまで一年、過去最高に忙しくなりそうな予感がする。

 

鷹野さんとは完全に敵対したし、詩音の雛見沢症候群も何とかしないといけない。

今回の件で両親が狙われる可能性も十分わかった。

 

今まで以上の警戒は必須事項だ。

 

「礼奈、今日はもう帰ろう。帰ったら久しぶりに一緒に寝ようか」

 

今日は久々に家族で川の字で寝るつもりだ。

それなら万が一があってもすぐに起きれるし。

 

「いいの!?」

 

「お、おう」

 

久しぶりに一緒に寝れると聞いて目を輝かせる礼奈。

確かにお互い1人部屋になってから一緒に寝る機会は減ったからな。

 

でもそこまで喜ぶとは思わなかった。

 

「先に母さんと父さんのところに行ってくれ。俺はちょっと詩音と葛西のところに行ってくる」

 

詩音が葛西に襲われたことを伝えたようで、先ほどものすごい剣幕で落とし前をつけさせると呟いていた。

止めても聞いてくれなし、それから2人ともずっと警戒してくれているからな。

このままだと徹夜してでも監視を続けそうだ。

 

「じゃあ部屋に行ってるね。もうお外も暗いから気を付けてね」

 

「ああ」

 

礼奈に別れを告げて診療所の外へと向かう。

どこに行ったんだ?まさか周りの森の方までは行ってないよな。

 

診療所の中を歩きながら周辺を見回す。

すると、廊下の奥に人影が見えた。

 

「・・・・って梨花ちゃんじゃないか」

 

暗がりの廊下から現れた梨花ちゃんに駆け寄る。

さっき綿流しの方へ向かったと思ったけど、まだこっちにいたのか。

 

「こんばんわ燈火(とうか)、良い夜ね」

 

近寄った俺に梨花ちゃんは薄く笑う。

暗く静かなせいか、今の梨花ちゃんは不気味に感じた。

 

「まだこっちにいたんだな。奉納演舞はいいのか?」

 

「ああいいのよ、あれはもう嫌になるほどやったから」

 

「・・・・そっか、でも後でお母さんに怒られるぞ」

 

俺の問いかけに興味なさげに答える梨花ちゃんに苦笑いを浮かべる。

まぁ確かに梨花ちゃんは何回もいくつものカケラで奉納演舞をしてるからな、嫌になるのも頷ける。

 

「燈火、さっき家に帰るって言ってたけど、私はここに残った方が良いと思うわ」

 

「え?どういうことだ?」

 

ここに残るべき?いやそれは危険だって梨花ちゃんも納得したじゃないか。

 

「改めて考えてみたのよ。もしかしたらあなたの家で山狗たちが待ってるかもしれない」

 

「・・・・どういうことだ?」

 

「家に帰れば安全というわけではないわ。むしろ他人の目がなくなってしまうからかえって危険だと思う。あなたの家は他の人と離れてるから何かあっても他の人が気付かない」

 

「・・・・なるほどな」

 

梨花ちゃんの言葉に納得する。

考えすぎな気もするが、鷹野さんがここにいないのは俺の家のほうにいるからか?

 

「ここなら入江、それに鷹野の息がかかっていないスタッフだっている。詩音たちだってここにいられるし安全なはずよ」

 

「・・・・わかった梨花ちゃん。確かにその通りだ、今日はここに泊まることにするよ」

 

梨花ちゃんに礼を言う。

ここに残ることで鷹野さん達に俺がまだ今回の襲撃の犯人は鷹野さん達だと気づいてないと思わせることも出来る。

そう言う意味でもここに泊まる選択肢は有効だ。

 

「気にしないで・・・・ねぇ燈火、あなたは今幸せ?」

 

「なんだそりゃ、まぁ色々大変だけど幸せだよ」

 

梨花ちゃんの質問に若干照れながら答える。

まぁここで幸せなんかじゃないなんて言えば、礼奈やみんなが泣いてしまう。

 

「私も幸せよ。今日はお気に入りのワインを開けたいくらい」

 

「梨花ちゃんお気に入りのワインか。確かよく飲んでたのは」

 

「ベルンカステルよ。あなたにも今度飲ませてあげる」

 

「それは楽しみだな」

 

梨花ちゃんは微笑みながらこちらへと近寄ってくる。

引っ付きそうな距離まで近づいた梨花ちゃんはこちらに手を伸ばす。

 

「ついでに良いことを教えてあげる。幸せと絶望は表裏一体、幸せなほど絶望が裏で嗤ってるわ。こんな風にね

 

「・・・・梨花ちゃん?」

 

俺の頬に手を当てながら梨花ちゃんは笑う。

なんだ?今前の前にいるのは本当に梨花ちゃんなのか?

 

梨花ちゃんは、こんな闇のような瞳をしていたか?

あまりの様子にそんな突拍子のないことを考えてしまう。

 

「ふふ、冗談よ。そろそろ帰るわ」

 

固まる俺に梨花ちゃんは猫のようにするりと離れていく。

そしてそのまま闇の中へと消えて行こうとする。

 

「さようなら燈火。またひぐらしのなく頃に会いましょう」

 

そう言って梨花ちゃんはあっという間に闇の中に姿を消していった。

 

「・・・・そうだ、詩音たちのところに行かないと」

 

釈然としない気持ちを抱きながらも詩音たちの下へと急ぐ。

さっきのことはまた落ち着いた時に聞けばいい。

 

そう結論を出してこの謎の気持ち悪さに俺は蓋をした。

 

 

 

 

「ふふ、二人とも寝ちゃったわね」

 

「うん、綿流しのお祭りで疲れちゃったんだろうね」

 

ベッドの上で仲良く並んで寝息を立てる息子と娘に思わず頬が緩む。

本当に仲がいいんだから、いえ仲が良すぎるわね。

 

特に礼奈。

この子はお兄ちゃんのことが大好き過ぎて他の人の嫁にいけるのか不安だわ。

 

「灯火も、こうしても見るとまだまだ子供ね」

 

寝息を立てる灯火の頭を撫でる。

行動力の塊のような子、大人しくしているところを見たことがない。

 

気が付いたら園崎家の娘さんや古手家の娘さんと仲良く、いえそれ以上の仲になってるんだかもの。

礼奈とは違う意味で将来は心配だわ。

 

「礼子、君も早く休まなきゃ。君だけの身体じゃないんだから」

 

「ええ、その通りね」

 

2人を眺めていてると夫が私に毛布をかけてくれる。

確かにお腹の子に何かあったらいけない、もう休んでしまいましょう。

 

そう思ってベッドに横になろうと動く。

その拍子に廊下が視界に入る。

 

扉の隙間から少しだけ見える暗がりの廊下。

その廊下に、何か青く光る何かが見えた。

 

「・・・・蝶?」

 

廊下の隙間から見えた青い光を放つ蝶。

興味が引かれた私はベットから降りて廊下へと向かう。

 

「ん?どうしたんだい?」

 

「いえ、さっき廊下に何かがいた気がしたの」

 

夫と一緒に廊下に顔を出す。

暗い廊下を見れば、少し離れたところに先ほどの蝶がフワフワと舞っているのが見えた。

 

「蝶?青く光る蝶なんて初めて見たよ」

 

「・・・・綺麗ね」

 

幻想的な青い光るを纏った蝶は廊下を進んで私達から離れていく。

その幻想的な姿をもっと近くで見たくて、私は廊下に出て蝶を追いかける。

まるで吸い寄せられるように私達は診療所の奥へと向かっていく。

 

「礼奈にも見せてあげたいし、捕まえられないかしら」

 

「どうだろう?何か網でもあればいいんだけど」

 

ゆっくりと舞いながら進む蝶を私達は警戒されないように後をつけていく。

蝶はどんどん診療所の中を進んでいく、まるでどこかに向かっているかのよう。

 

「だいぶ部屋から離れちゃったね。そろそろ諦めて戻ろう」

 

「そうね、残念だけどそうしましょうか」

 

良い大人が蝶と追いかけっこというのも恥ずかしい。

それに蝶を追いかけてしまったせいで妙な場所に来てしまった。

このあたりの雰囲気からして明らかに私達のような部外者が来ていい場所ではなさそう。

 

諦めて戻るとした時、あの蝶が一つの部屋の中に入るのが見えた。

 

「・・・・」

 

なんとなく興味本位で部屋に近づく。

もしかしたら蝶がどこかに止まって羽を休んでいるかもしれない。

 

そして部屋に近づいた時、部屋の中から声が聞こえた。

 

「雛見沢症候群の発症が疑われる詩音ちゃんの確保には失敗、しかも灯火君の口封じも失敗。今日は綿流しだからちょうどいいと思っていたんだけど」

 

「すいやせん、まさか銃を持ってるとは思ってませんでした」

 

部屋の中で男と女が会話をしている。

・・・・え?今なんて?

 

「別に灯火君のことはどうでもいいけれど、どうにかして詩音ちゃんは確保しておきたいわね。このままだとあの子、末期症状になって暴走するわよ」

 

「まぁだとしたら結局灯火の野郎は殺しておいたほうがいいと思いますよ。あのガキは勘が良い、生かしておいて良いことはない」

 

「ふぅん、大事な女王感染者のお気に入りだから出来れば殺したくはないんだけど、しょうがないわね」

 

・・・・灯火を殺す?

この人たちは何を言ってるの?

 

「ね、ねぇあの人たちは何を」

 

「わ、わからない。とにかくすぐにここから離れよう」

 

同じように会話を聞いていた夫が顔を青くさせながらここから離れるよう私の手を引く。

 

そして私が部屋から視線を切ろうとした瞬間、室中の女と目が合った。

 

「・・・・あら?どうやらネズミさんが来ていたようね」

 

そう言った女は邪悪な笑みを浮かべる。

 

 

そして夜の闇より暗い何かが私達の意識を奪い去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」

 

女が笑う。

 

「ねぇ幸せな燈火、そんなあなたを見ていると私も幸せよ。でもそれよりも私はあなたの壊れたところを見てみたいの!!」

 

女は嗤う。

 

「もう十分楽しんだでしょ?飽きちゃったからそろそろ私好みに物語を変えてあげる」

 

女は哂う。

 

「さぁ、私とあなたのゲームを一緒に楽しみましょう」

 

魔女は歌う。

 

彼女の詩を。

彼の死を。

 

 

 

 

 

 


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