レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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綿流し3

「あー!やっと来ましたわ!遅いですわよ二人とも」

 

人混みの中を抜けて梨花ちゃんのところへ行くと、すでに全員揃っているようだった。

とりあえず全員無事か。

 

設置されているテントの下に目を向ければ梨花ちゃんと両親の姿も見えた。

どうやら梨花ちゃんの両親も無事なようだ。

 

こちらに何かあったから、万が一のこともあるかと心配してたけど、杞憂だった。

全員の姿を確認できて安堵のため息が漏れる。

 

もうすぐ梨花ちゃんの奉納演舞、その後に綿流しをしてすべて終わりだ。

 

梨花ちゃんとの情報共有はその後だな。

やだなぁ、絶対怒られる。

 

「・・・・灯火、遅かったですけど何かありましたか?」

 

テントの下から梨花ちゃんがやってくる。

俺と目が合った時、明らかにほっとしてたもんな梨花ちゃん。

心配をかけてしまっていたようだ。

 

まぁその心配は正しかったわけだから笑えないけど。

 

「・・・・いや特に何もなかったよ」

 

梨花ちゃんの頭を撫でながらそう告げる。

さすがにここではみんなが心配するから言えない。

 

「お兄ちゃんは梨花ちゃんへのプレゼントは何にしたのかな?かな?」

 

礼奈が興味津々にそう聞いてくる。

 

「・・・・ふっ」

 

何も買ってない。

 

買う暇?あるわけないじゃん。こっちは祭具殿からそのままここに来たんだぞ。

ていうか礼奈に言われてようやくゲームのことを思い出したわ。

 

「ちなみに礼奈と悟史君は猫ちゃんのぬいぐるみだよ!悟史君が射的屋で見つけてくれたの!」

 

「・・・・見つけたけど僕は何回も失敗したけどね。けっきょく礼奈が一発で取ってくれたし」

 

礼奈と悟史がゲーム中のことを嬉しそうに話している。

どうやら沙都子の作戦が成功したかはともかく、二人とも楽しめたようだ。

 

「おっほっほっほ!可愛いものを選べばいいわけではありませんわよ!大事なのは梨花がもっとも欲しいものですもの!」

 

礼奈達が盛り上がっているところに沙都子と魅音が現れる。

どうやら向こうも相当自信があるようだ。

 

「目の付け所が甘いですわ!日頃から梨花のことを見ていればおのずと答えは限られますの!」

 

「・・・・で、何にしたんだよ」

 

自信満々の沙都子に確認する。

日頃からよく見ていれば?

あれか?お酒か?確かに梨花ちゃんならそれで喜ぶな。

 

「答えはこれですわ!!」

 

そう言って俺の前に手を突き出す沙都子。

沙都子の掌の上には何か赤いものが入った瓶がある。

 

「・・・・それ、トウガラシじゃね?」

 

瓶の中に詰め込まれているのは真っ赤な色のトウガラシ。

いや確かに喜ぶけど。

 

「灯火さんは気づいていないようですわね!梨花は常にトウガラシを常備しているほどのトウガラシ好きなのですわ!!」

 

「・・・・」

 

沙都子の言葉を受けて無言で梨花ちゃんを見る。

 

「にぱー☆」

 

満面の笑みである。

 

羽入は知らないほうがいいな。

 

「これさえわかってれば後は手に入れるだけ!魅音さんにここで一番辛い物を扱ってる店にいって辛みの材料を譲ってもらうだけでしたわ!」

 

「ふっふっふ、私は綿流しでどの店が何を出すのか全部把握してるからね。簡単な仕事だったよ!まさか梨花ちゃんがそこまで辛いのが好きだとは思わなかったけど」

 

どや顔でそう告げる魅音。

確かに何でもいいとは言ってたけど、材料の方を普通渡すか?

せめてその辛い料理を買ってくるべきだと思うんだが。

 

「これで私と魅音さんの勝利は確実ですわ!さぁ灯火さんと詩音さんは何を買ってらしたのですか?」

 

何も買ってません!とはさすがに言えないよな。

だが買ってない物は買ってないんだ、渡せるものなんて今の俺の手持ちから捻出するしかない。

 

さすがに拳銃を渡すわけにはいかないし、何かあったか?

そもそも今回のルールは店で手に入れた物だから俺の手持ちの物を渡してもダメだ。

 

ちらりと詩音に視線を向ける。

 

「・・・・」

 

俺の視線を受けた詩音は無言で首を横に振る。

どうやら詩音も何ももっていないようだ。

 

まずい、このままではまた今年もメイド服を着ることに。

 

「・・・・!」

 

メイド服のことを考えた時、閃きが頭を駆け巡る。

そうか、メイド服を着るのが嫌なら着れない状況にしてしまえばいいんだ!

 

「ふっ俺のプレゼントはこれさ!おっちゃん!!」

 

俺は視界の端にいたおっちゃんに声をかける。

このおっちゃんはいつも俺にメイド服を着させてきやがるおっさんだ、ばっちり視界に入ってたぞ!

 

どうせ罰ゲームのためにメイド服を用意して控えてたんだろう?

 

「お、おうなんだい灯火?俺の用があるのか?」

 

「・・・・おっちゃんのメイド服を梨花ちゃんにプレゼントしたいんだ」

 

「ん?いやだがあれは罰ゲーム用だって聞いてるぞ?」

 

やっぱり罰ゲームはメイド服だったじゃねぇか!

おっちゃんの言葉を聞いて内心でツッコミを入れる。

 

あぶねぇ、マジで今年もメイド服を着ることになってたぞ。

 

「おっちゃんはそれでいいのかよ。自慢のメイド服を罰ゲームなんかに使われてよ!おっちゃんのメイド服への愛はそんなもんじゃねぇだろう!」

 

何を言ってるんだろう俺は。

しかしここは勢いで押し通る!

 

「と、灯火。しかしこうでもしなきゃ誰も俺のメイド服を着てくれないんだ!そりゃ俺だって罰ゲームで嫌々なんかじゃなくて喜んで着てほしいさ!!」

 

「・・・・ここだけの話、このままだと罰ゲームは俺が受ける。その場合メイド服を着るのは俺だ、おっちゃんもそれじゃあ嫌だろ?」

 

その場合は詩音もメイド服を着ることになるが、それを知るとおっちゃんが罰ゲームでもいいと思いかねないから言わない。

 

「だが灯火はメイド服を着たいんだろ?毎年着てるもんな、だったら俺は別にそれでも」

 

今すぐこのおっちゃんをしばきたい!

やっぱりこのおっちゃんか?

このおっちゃんの強い意志によって俺がメイド服を着る運命になってるのか?

 

「違う、おっちゃんだって俺より梨花ちゃんに着てほしいだろ?今なら俺が梨花ちゃんにメイド服をプレゼントできる。梨花ちゃんもプレゼントを捨てることは出来ないから着てくれるはずだ」

 

ぶっちゃけ着てはくれないと思う。

しかし罰ゲームのメイド服を梨花ちゃんにプレゼントすることが重要なんだ。

 

メイド服さえなければ罰ゲームに使えないからな。いくら梨花ちゃんでももらった服を罰ゲームに使うなんてことはしないはず。

 

たぶん俺が一番下になって罰ゲームになるだろうけど、メイド服以外なら喜んで受けよう。

 

「灯火、自分が着たいのに梨花ちゃんのために!わかったもってけ!!」

 

「ありがとうおっちゃん!それはそれとしてあとでしばく」

 

おっちゃんからメイド服を受け取る。

うわ、なんか前回よりもさらにパワーアップしてるぞこれ。

 

布面積が終わってるし、なんか無駄に羽もリアリティが増してる。

なんだっけ、堕天使エロメイド服とかだっけ?

エロさで言えばエンジェルモートの制服と同じくらいあるな。

 

うん、絶対梨花ちゃんは着ないわ。

そもそもサイズが合ってないし。

もし着たらポロリどころじゃないぞ。

 

「梨花ちゃん!俺たちのプレゼントはこいつだ!受け取ってくれ!!」

 

「いらないのです」

 

即答されたんだが。

 

いらないのはわかってんだよ!それでも受け取ってもらわないと罰ゲームがこいつになるんだよ!

 

「お兄ちゃん、それはないよ」

 

「灯火さん最低ですわ!それを渡して梨花に何をするつもりですの!?」

 

魅音と沙都子から批判の声が届く。

ええい!だったら味方を増やすだけだ!

 

「礼奈!お前はこいつを着た梨花ちゃんを見たくはないか!きっとすごくかぁいいぞ」

 

「はう!すごくかぁいい!?」

 

よし、礼奈は食いついた!

それによって悟史も連鎖で釣れる!

 

「悟史、礼奈はこいつを着た梨花ちゃんを見たいようだな。当然お前も賛成だよな?」

 

「・・・・素敵なプレゼントだと思うよ梨花ちゃん!」

 

「にーにー!?」

 

ふはは!これで敵は魅音と沙都子だけだ!数はこちらが有利だな!

 

「さぁ梨花ちゃん。こいつを黙って受け取るんだ、みんな良い物だって言ってるから」

 

「いらないのです。あと灯火が罰ゲームで決定なのですよ」

 

ゴミ(メイド服)を渡した俺に対してゴミを見る目でそう告げる梨花ちゃん。

うんまぁ、その視線は甘んじて受けるからこいつは受け取ってくれ。

 

「はーい!お兄ちゃん罰ゲーム決定!というわけでおじさん、例の物を出してくれる?」

 

「おうよ!ちょっと待ってな!」

 

テント下に置いてあった段ボールから何かを取り出すおっちゃん。

おい、もうメイド服を梨花ちゃんに渡したからないはずだよな?

 

「心配するな灯火!こんなこともあろうと二着持ってきてる!」

 

全力で殴りたい!!

いや二着だけなら詩音が着ればいい!

 

「いや詩音は関係ないでしょ。お兄ちゃんが暴走しただけだし」

 

「はう!はう!!お兄ちゃんはやくぅぅぅぅ!!」

 

俺の狙いを察して詩音を守る魅音。

それに反論する前にメイド服を持った礼奈が興奮しながらこちらに近づいてくる。

 

い、嫌だ!!もうメイド服は嫌だ!!

 

「灯火、罰ゲームなのですよ・・・・心配させた罰よ、諦めて着なさい

 

「・・・・はい」

 

背後から梨花ちゃんにとどめの言葉を言われる。

そう言われると何も言えない。特にこのあと今日のことを説明しないといけないし。

 

「と・か・・・・と・・・・か!」

 

はぁ、今年もメイド服で綿流しか。

来年こそは何とかしないと。

 

「灯火!!どこなのですか!!灯火!!」

 

「「羽入!?」」

 

聞き覚えのある声に俺を梨花ちゃんが同時に反応する。

羽入が俺の名を呼んでる、それも焦った声で。

どう考えても異常事態だ。

 

「灯火!ここにいたのですね!大変なのです!急いで診療所に!!」

 

「落ち着け羽入。何があった」

 

こちらを見つけた羽入が慌ててやってくる。

普通の状態じゃない。診療所にってまさか鷹野さんが何かやりやがったか!

 

「ど、どうしたのお兄ちゃん?」

 

「灯火さん?いくらメイド服を着たくないからと言って現実逃避はよくありませんわよ」

 

周囲でみんなが怪しむ声が聞こえるが気にしてる場合じゃない。

そんなことより今は状況の確認が先だ。

 

「どうしてかわかりませんが()()()()()()()()()()()()のです!!しかも鷹野も一緒だったのですよ!!」

 

「・・・・は?」

 

羽入の言葉に頭の中が真っ白になる。

なんで診療所にうちの両親が?しかも鷹野さんと一緒だと?

それって。

 

「灯火!!」

 

「っ!?」

 

梨花ちゃんの声で思考が再び動き出す。

そうだ、ここでぼーっとしてる場合じゃない。

 

最悪の想像が頭をよぎる。

さっきまで俺が襲われてたタイミングで両親が襲撃犯の根城にいる。

考えるだけでめまいが起きる。

 

「お兄ちゃん!?大丈夫!?何があったのかな!?かな!?」

 

俺の尋常ではない様子に礼奈が焦りながら声をかけてくる。

礼奈に言うわけにはいかない、父さんと母さんに何かあったかもしれないなんて言えるか。

 

「お前らはここにいろ。俺はちょっと用事ができたから帰る」

 

懐に銃があるのを確認する。

たとえ殺し合いになろうと絶対に両親は助ける。

 

本当に悪いけど葛西にも付き合ってもらわないとな。

周囲を見回せば遠くからこちらを伺っている葛西が見えた、これで車を用意してもらえる。

 

「やだ!私もお兄ちゃんと一緒にいく!!」

 

「私もいくよ!さっきの奴らだよね!!今度は私だって戦うんだから!!」

 

礼奈はここにいることを拒否し、詩音もこちらについてくると言う。

悪いが今は二人に構ってる暇はないんだ!

 

「ダメだ!お前らはここから動くな!!」

 

2人を強引に魅音に押し付けて葛西の方へ走る。

人混みを強引に通りながら進み、葛西もこちらの異常に気付いて近づいてくれた。

 

「若、どうしたんですか」

 

「葛西、急いで診療所へ連れて行ってくれ。本当に急がないとまずいんだ」

 

「・・・・わかりました、車のところへ移動します。こっちです」

 

葛西が俺の言葉に何も聞かず応えてくれる。

本当に葛西には苦労させてしまってる、いつか恩返しは絶対しないといけないな。

 

「「お兄ちゃん!!」」

 

離れた場所から礼奈と詩音の声が聞こえるが無視して走る。

今は両親のことだけを考えろ、後のことなんて救ってから悩んだので十分だ。

 

「ここです、乗ってください」

 

葛西の誘導に従って車に飛び乗る。

そして葛西はすぐに車のエンジンをかけて動き出す。

 

ここから診療所まで車なら10分くらいあれば着く。

葛西の車の中に巧妙に隠されていた場所から弾を補給する。

 

上等だ、そっちがその気なら今日で全部にけりをつけてやるよ。

もう来年とか再来年なんて関係ない、俺が人殺しで警察に捕まって人生棒に振ろうと両親は救い出す。

 

「・・・・若、何があったかわかりませんが一度落ち着いてください。怒りは視界を狭め、思考と判断を鈍らせます。一度意識して深く呼吸を繰り返してください」

 

「・・・・ありがとう葛西」

 

葛西の冷静で静かな声になんとか心を落ち着かせてようと動く。

 

葛西の助言に従って呼吸を繰り返しながら思考を回す。

 

羽入はいないと思ったら診療所を監視してくれていたんだな。

おかげでこの事態に気付くことが出来た。

 

そして鷹野さんがいなかった理由、それがこれか。

 

今日両親が綿流しに行くとは聞いていない、じゃあ診療所に行く理由は?

病気や怪我はなかった。

だったら山狗が強引に両親を連れ去ったか。

 

そして連れ去った理由はなんだ?

梨花ちゃんのお母さんのモチベーションを維持させるために生贄?

いやそれもありそうだけど俺の両親である理由にはならない。

 

別にうちの両親は診療所に通ってなかったんだ、雛見沢症候群と偽って何かをするには手間がかかる。

 

だとしたら一番の目的は俺への脅しか。

 

今日のことで完全に鷹野さんと敵対したからな。余計な真似をしないように両親を人質にとった。

これが一番妥当か?

 

これなら人質になる両親は殺されてはいない、原作の悟史のように昏睡状態にでもして隔離するつもりか?

 

・・・・なんにせよ、急いで診療所に行くのが大事か。

 

「・・・・」

 

頭の中に思い浮かぶのは父さんと、そして母さんの姿。

母さんに対する気持ちは今も複雑だ。

 

原作では浮気をし、父さんと礼奈を狂わせた元凶。

そんな存在だ、はっきり言って最初の頃は大嫌いだった。

 

でも悟史達が両親を和解したのを見て俺も考えが変わった。

今では母さんと仲良くなりたいという気持ちがちゃんとある。

 

しかし長年心に刷り込まれた疑心の感情は完全には消えず、俺の感情を複雑にさせる。

 

こんなことになるならもっと。

 

「若、もうすぐ診療所に着きます」

 

「・・・・わかった」

 

葛西の言葉に思考を終えて現実に戻る。

 

「・・・・明かりがある、人の気配もあるな」

 

山狗たちか?でもこれはあからさますぎる。

駐車場に目を向ければ、そこには両親の車が止まっているのが見えた。

 

車がある?だとしたら両親が自分たちでここに来たのか?

 

「・・・・若、どうされますか?」

 

「・・・・様子を確かめてくる。葛西は動きがあるまでここで待ってて」

 

葛西にそう言い残して車を降りる。

診療所からは殺伐として気配を感じない。

 

礼奈ほどじゃないが勘は鋭いほうなんだけど、どうも嫌な感じがしない。

 

疑問を覚えながらも診療所の中を警戒しながら除く。

山狗の気配はしない、普通に受付にスタッフの女性が見える。

 

・・・・どうなってるんだ?

 

懐の銃に手を置きながら診療所の中に入る。

室内はそこまで広くはない、両親がいるならすぐに会えるはずだ。

 

「おや?灯火さんじゃないですか」

 

「っ!?って入江さん!?」

 

室内を進んでいると入江さんが普通に現れた。

入江さんは俺を見つめて驚きながらも柔和な笑みを浮かべる。

 

「ご両親のところに行くんですよね。それなら4号室ですよ」

 

「え?ああ、どうも」

 

入江さんは俺の登場に疑問を抱くことなく、しかも母さんの居場所まで教えてくれる。

 

これは・・・・もしかして俺の盛大な勘違いだったやつか?

 

室内は普通だし、入江さんやスタッフもいる。

しかも医師の入江さんは焦った様子もなく両親の場所を教えてくれる。

 

普通に両親のどちらかが軽いけがをして診療所に来てた可能性が出てきたぞ。

 

「ふふ、灯火さん。おめでとうございます」

 

「え?どうも、ちなみに両親はどうしてここに?」

 

謎のおめでとうを受けて困惑しながら両親がここに来た理由を尋ねる。

 

「おや?ご存じなかったんですか。だとしたら私が言うのは無粋ですね、お母さんから聞いてあげてください」

 

「え?」

 

「では、私はこれで」

 

そう言って入江さんは歩いてどこかに行ってしまう。

混乱しながらも入江さんに教えてもらった四号室を目指す。

 

四号室はすぐ近くにあり、中からは父さんの声が聞こえてきた。

 

「・・・・よし」

 

声の様子からして何か起きている感じはしない。

覚悟を決めて閉じている扉を開く。

 

「あれ?灯火じゃないか。どうしてここに?」

 

中には立っている父さんと診察台に横になっている母さんがいた。

母さんは診察用の服を着ているが特におかしな様子はない。

 

「えっと、父さんたちがここにいるって聞いたから。何かあったの?」

 

「ああ、そういうことか。ここにきている理由はね「あ、待ってあなた。私から言いたいわ」

 

何かを言おうとした父さんを母さんが止める。

母さんが診察台から降りてこちらに近づいてくる。

 

それに対し後ずさろうとする身体を止めて母さんを待つ。

近くまで来た母さんは俺の手をとってゆっくり口を開く。

 

 

 

「灯火、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「・・・・え?」

 

 

「お母さんは女の子だと思うのよね。でもお父さんは男の子だって言うのよ!」

 

「いやいや思うってだけじゃないか。僕としてはどっちでも嬉しいよ」

 

「ふふ、そうね。ああ、この子の服を作ってあげるのが今から楽しみ」

 

俺を置き去りして両親は楽しそうに話し始める。

 

「・・・・こ、子供が生まれるの?」

 

震えながら母さんと父さんに確認する。

俺の質問を聞いた母さんが幸せそうに微笑みながら俺の手を握って自身のお腹に当てる。

 

「ええ、そうよ。これから私達はお母さんとお父さんとあなたと礼奈とこの子の五人で暮らすの。もちろんこの雛見沢でね」

 

「これから忙しくなるね!僕も子供用のデザインを考えなきゃ!!」

 

父さんは母さんの肩に手を置きながら元気よく口を開く。

それに対して母さんは肩に置かれた手に手を重ねながらもジト目で口を開く。

 

「あなたのは妙にエッチだから駄目よ。この子は私のを着せるの」

 

「えぇ、それはないだろう」

 

父さんが項垂れ、母さんが笑う。

その光景はどう見ても幸せな夫婦の姿だった。

 

「・・・・」

 

「灯火?呆然としてるけどどうしたんだい?」

 

2人を呆然と眺めていた俺に父さんが話しかけてくる、

2人からの視線を受けて、張りつめていた緊張が切れたのを感じた。

 

「・・・・なんだかなぁ、心配して来てみればこれか」

 

自然と笑みが浮かび、身体中から力が抜けていく。

子供って、そんなの原作では全くないぞ。

 

まぁ、原作なんてぶっ壊れてるから今更だけどさ。

 

「ふふ、灯火ったら泣きながら笑ってる。そんなに嬉しかったの?」

 

「なんだが久しぶりに子供らしい灯火を見たね」

 

「いやぁ・・・・ちょっとこれは泣くに決まってるじゃん」

 

流れた涙は止まる気配を見せない。

幸せそうに笑う父さんと母さん。

 

その光景を見て苦笑いが浮かぶ。

 

今まで俺たち家族の関係はどこかで壊れるんじゃないかと疑っていたのがバカみたいだ。

こんな光景を見てしまったら、そんなこと思えるはずがない。

 

瞳からこぼれた涙が心の中の疑心を洗い落とすかのように頬から滑り落ちていく。

心が軽くなっていくのがわかる。

 

生まれてくる子には心から感謝をしたい。

 

「礼奈もこれでお姉ちゃんね。これで少しは大人になってくれるといいんだけど」

 

「うーん、それは無理じゃないかな?」

 

「・・・・」

 

礼奈達のこと忘れてた。

 

置き去りにした礼奈たちのことを思い出して顔から血の気が引いていく。

両親のことで軽くなった心から一瞬で鉛のように重くなる。

 

礼奈たちのことは両親を救った後に考えるか。

うんうん、救う必要すらなかったぞ俺。

 

さぁ、じゃあ次はどうする?

 

・・・・今年からずっと綿流しでメイド服を着るって言えば許してくれないかな?

 

室内から見える窓に目を向ければ、何やら大急ぎで診療所の駐車場に入る車が。

あれって園崎家の車だな。

 

白線を無視して駐車された車から見覚えるのある妹たちと梨花ちゃんが現れる。

 

おや?これは終わったか?

 

全員尋常でない表情をしているし、絶賛勘違い中の最中のようだ。

しかもこのタイミングでくるってことは梨花ちゃん、演武をドタキャンして来たな。

 

・・・・さて、死にに行くか。

 

あ、その前に入江さんに頼んでメイド服を用意してもらおう。

 

冥途の土産を用意しなきゃ。

 

 







次話 IFです。

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