レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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綿流し2

「だって俺も鬼だから」

 

俺は自信満々の笑みでそう告げた。

 

この状況を変えるには詩音を口先で騙しきるしかない。

固まる詩音を置き去りにして口を動かす。

 

「同じ鬼同士なら襲わないよな?だって鬼が食うのは人なんだから」

 

「・・・・お兄ちゃんが鬼?」

 

俺の言葉に詩音は眉をひそめながらこちらを見つめてくる。

ここで少しでも自信をなくせばアウトだ、本当に俺は鬼だと思い込むくらいのつもりで。

 

「ああ、鬼の鬼いちゃんとは俺のことよ」

 

「・・・・」

 

「うん、滑ったのは認める。だからここでジト目はやめてくれ」

 

自信満々過ぎた。

だがここで鬼なんていない、全部詩音の思い込みだなんて言っても詩音には響かない。

今の詩音は疑心暗鬼の状態になっているのだから、安易な否定は逆効果だ。

 

鬼の証明なんて出来ないし、いないことの証明だって同じく出来ない。

だったら鬼がいることには同意する、でも鬼が人を襲うことは否定する。

今の状況をなんとかするにはこれしかない。

 

「・・・・お兄ちゃんも鬼だなんて信じられないよ」

 

俺を見つめていた詩音は俯いてそう答える。

それはそうだ、そう簡単に信じてもらえるとは思ってない。

 

だからここから今の詩音が共感するポイントを選択し、信じてもらう。

こっちには原作知識があるんだ、それっぽいこと言うだけなら何とでもなる!

 

「詩音は最近知ったようだが、雛見沢には鬼が複数いる。それを俺が知ったのは二年前の綿流しの後だ」

 

「・・・・そうなんだ」

 

「・・・・鬼達の姿は確かに目に見えない。でも詩音は気配がするって言ったな?それ以外にもあったんじゃないか?例えば足音とか」

 

「・・・・」

 

俺の言葉に詩音は何も言わない。

否定がないってことは心当たりがあるってことだな、まぁそれは羽入なんだけどな!

 

「・・・・俺の時もそうだった。鬼はいつも俺の背後にぴったりと付いてきていた、足を止めて背後を振り返っても誰もいない。でも足を止めた後、明らかに足音が一歩多かったんだ」

 

「・・・・」

 

まるで実体験だと言うように語る。

まだ足りない、信じてもらうにはもっと共感を得ないと。

 

「・・・・やがて鬼は俺に取り憑いた。鬼に取り憑かれた俺は、心が不安定になると同時に首や腕に強烈な痒みを覚えた」

 

「っ!?」

 

ここで詩音が目を見開きながら話に食いつく。

鬼の足音、そして身体への痒み。それについてはおそらく詩音自身しか知らなったことのはずだ。

今の詩音は鬼がいると信じている、だったら俺の話にだって納得がいくはず。

 

それに詩音だって俺が鬼だったらっと思うはずだ。

疑心暗鬼の中で心の底ではそう望んでいる、だったらきちんとした証拠を見せればこちらの話を聞いてくれる。

 

・・・・それでも疑心暗鬼によって信じてくれるかは賭けになるけどな。

 

「・・・・このことは誰にも言ったことはない。詩音が同じ鬼だって聞いて驚いたぞ」

 

「・・・・でも!もしお兄ちゃんが鬼になってるのだとしたらどうしてそんな普通なの!?私はもう、おかしくなりそうで」

 

詩音はこちらの話を聞いて必死に叫ぶ。

そりゃそうだ、だがそこはこころあたりをつくればいい。

 

「まぁ取り繕ってはいたからな。でも実は詩音も俺がけっこう悩んでいることには気づいていたんじゃないか?」

 

「・・・・それは」

 

実際原作のフラグをへし折るために悩みまくっているからな。

毎年深刻な悩みが出るし、将来もめんどくさいことが起こるのは確定している状況なんだ。

この状況なら詩音の記憶の中にある何かを心当たりにしてくれる。

 

「だが、それとは別に鬼をなんとかする方法を見つけたことが大きい」

 

「っ!?本当に!?」

 

詩音がこちらに抱き着く勢いで詰め寄る。

大事なのはここだ、詩音が凶行に走らないように誘導する必要がある。

 

まだ詩音は末期症状は出ていない、だったらストレスを減らすことで時間経過で治すことだってできる。

だから今するべき最初のことは詩音を安心させること。

 

「・・・・俺が狂いそうになった時、突然女性の声がはっきりと聞こえたんだ。その声は自身をオヤシロ様と言い、自分の言うことを聞けば症状を治してくれると言った」

 

「・・・・その言うことって?」

 

詩音は真剣な表情でそう尋ねてくる。

それに合わせ、俺も真剣な表情で告げた。

 

「ああ、そのまま言うぞ。一週間に一回。僕にシュークリームを捧げるのですよ!あうー!だそうだ」

 

「・・・・えぇ」

 

真剣な表情で聞いていた詩音の表情が引きつる。

しかし俺はあくまで真剣な表情を維持する。

 

シリアスになりすぎてもダメだ、ここは少し気が抜けるくらいでいいんだ。

ここでは信じられないかもしれないが、後で実際に羽入に姿を現してもらえば何とかなる。

 

羽入というオヤシロ様が実在する事実と俺という仲間、これによって安心感を詩音に与える。

これでいけるはずだ・・・・きっとたぶん。

 

「オヤシロ様の伝説で鬼を鎮めたって話は鷹野さんから聞いたな?それは事実だった、シュークリームをはにゅ、オヤシロ様に捧げていると少しずつ俺の中の鬼が大人しくなっていったんだ」

 

自分でも何を言ってるのかわからなくなってくれるが、それでも頭を回すんだ俺。

どうにかちょうどいいタイミングで羽入がこっちに来てくれたら助かるんだが。

 

ていうか今日、羽入を見てないぞ。

 

「鬼である俺達の前にオヤシロ様は声だけじゃなくて姿も現してくれる。この綿流しが終わったら会いに行こう」

 

「う、うん。わかった」

 

何と見えない表情をする詩音の頭を撫でる。

後で大急ぎで羽入と話を合わせないと。

 

「・・・・でもすぐには鬼は静まらないんだよね、お兄ちゃんを襲わなくてもおねぇや礼奈を私が襲うことも」

 

「・・・・自分を信じられないならずっと俺と一緒にいな。二人なら詩音も不安にはならないだろ?」

 

「・・・・うん、お兄ちゃんが一緒にいてくれるなら大丈夫」

 

そう言って詩音は微笑みながら抱き着いてくる。

・・・・とりあえず今はこれで大丈夫か。

 

これからしばらくの間は詩音のケアに集中したほうがいいな。

 

「よし、じゃあみんなのところに戻ろ・・・・」

 

「お兄ちゃん?」

 

「・・・・詩音、()()()()()()()()()()()()

 

詩音にみんなのところに戻ると言おうとした瞬間、周囲から嫌な気配を感じて言葉が止まる。

そして勘に従って周囲を見回せば、案の定いやがった。

 

「・・・・最悪のタイミングできやがったな」

 

舌打ちをしながら背中に移動させた詩音をかばいながら睨みつける。

俺の睨みつける方向には周囲の闇に溶け込むように黒の服を着た男達。

 

鷹野さんの部下の裏の部隊、山狗。

 

なんてタイミングで出てきやがる!

でも奴らを見て、なんとなく鷹野さんの考えを理解する。

 

鷹野さんは詩音が雛見沢症候群を発症しているのを知っていた。

そしてそんな詩音に鬼のことを吹き込み、あわよくば俺を殺させようとした。

 

そして俺を殺して完全に末期症状となった詩音を山狗部隊が回収する。

 

それによって綿流しの日に俺が死に、詩音が行方不明になる。

オヤシロ様の祟りの完成だ。

 

たとえ失敗しても今みたいに強引に詩音を攫うつもりで山狗ども待機させてやがったな。

そして邪魔な俺はここで殺すつもりか?。

 

「俺らの姿が構造物が邪魔で見えなくなって焦って出てきたのか?素直にご主人様のところに帰ってろよ」

 

「「「・・・・」」」

 

俺が挑発するように話しかけるが相手からの返事はない。

・・・・相手は三人か?周囲を探るけど他に気配はなさそうだ。

 

とりあえず、山狗隊長の男はいなさそう。

 

「・・・・・お兄ちゃん」

 

「詩音、俺の背中にしがみついてろ」

 

不安そうな声が背中から届く。

本当に最悪のタイミングで出てくれた。

 

せっかく良い感じに終わりそうだったのに一気にややこしくなった。

今の疑心暗鬼に近い状態の詩音にこの場面はどう見える?

 

・・・・ここを切り抜けたら鷹野さんを殴ってもいいよな?

 

「男女がこっそり話し合ってるのに邪魔をするとか人としてどうなの?もしかしてあんたら彼女いない感じ?だったらごめん」

 

「「「・・・・」」」

 

無視か。

 

男達は無言のままゆっくりとこちらへと近づいてくる。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

()()()()()を確かめながら冷静に観察を続ける。

 

そんな中、一人の男が小さな声で呟くのが聞こえた。

 

「・・・・運が悪かったな」

 

男がそう言ったと同時に一気に俺たちとの距離をつめようと足に力を込めるのが見えた。

 

「運が悪いのはあんたらだよ」

 

それが見えた瞬間、俺は懐に入れた物を取り出す。

 

手に確かな重さを感じながらも相手にそれを向ける。

 

「っ!?とまれ!?」

 

相手が俺が出したものを見て動きを止めるが、俺はそのまま()()()()()()()

 

俺が引き金を引いた瞬間、静けさを切り裂くような大きな音が空に響く。

 

腕に伝わる衝撃に耐えながら冷静に相手を見据える。

お前らの最大のミスは子供が相手だからとなめて十分な武装をしてこなかったことだ。

 

「・・・・銃を持っているのか」

 

男が進もうとした地面に直撃した弾を確認し、相手は固まる。

当たり前だろうが、自分が今日狙われるってわかってるのに何も準備していないわけがないだろ。

 

「・・・・ガキだからってなめんなよ。こっちは今よりもっとガキの頃から球遊びしてたんだぞ」

 

訓練ありがとうございます茜さん。

そして貸してくれてありがとう葛西。

 

訓練してくれた茜さんと葛西に内心で礼を告げる。

銃の訓練は大臣の孫の誘拐事件が解決した後から習い始めてた。

 

本格的なのは最近だが。

 

山狗と直接戦って、バットや格闘技では限界があると感じたからだ。

もちろん使わないならその方がよかったが、そうも言ってられなくなった。

 

頼んだ俺も俺だけど、喜んで教えてくれる茜さん達も茜さん達だと思う。

梨花ちゃんに言われてから茜さん達に頼んでもらっておいて正解だったな。

 

「・・・・言っとくが今のわざと外した。そっちが妙な真似をしたら殺す。躊躇うと思うなよ」

 

「「「・・・・」」」

 

銃口を相手に向けながら冷静にそう告げる。

周囲の警戒も忘れない、狙撃はない、障害物が邪魔で俺たちを狙えないだろ。

 

仮に狙えたとしてもこんな綿流しで人が集まってるのに発砲許可が下りてるとは思えないけどな。

 

隠密部隊が襲撃を予想されてる時点でお前らは不利な状況に自ら飛び込んだだけだ。

 

「俺が銃を撃った時点でお前らの負けなんだよ。早く逃げないと銃声を聞きつけて村の人たちが来るぞ?」

 

「「「・・・・っ」」」

 

 

帽子で表情は見えないが、動きから相手の焦りが伝わる。

さっさと帰って鷹野さんに怒られろ。

 

「・・・・撤退するぞ」

 

代表の男がそう言うと同時に山狗たちが消えていく。

そして周囲の気配が完全になくなったのを確信した後に銃を下した。

 

「あー心臓に悪い。まさか本当に使うことになるとは」

 

銃を懐にしまいながらため息を吐く。

覚悟決められて接近されたらやばかった。

 

こっちは訓練はしたけど人に向けて撃ったことなんてないんだ、本当に人に撃てたかわからない。

 

葛西には念のため礼奈達のことを守ってくれるように頼んでいたけど、こっちの護衛をしてもらうべきだったか。

 

「・・・・お兄ちゃん、今のは何?」

 

俺が銃を閉まったのを確認した詩音は不安そうに尋ねてくる。

そうだよな、そりゃ気になるに決まってるよな。

 

くそ!本当にややこしくしやがって!

 

「あー二年くらい前に俺と葛西がこっそりさっきの連中の邪魔をしたことがあってな。それでけっこう恨まれてるんだよな。まさか今くるとは思わなかったが」

 

「・・・・」

 

「詩音には怖い思いをさせちゃったな。大丈夫だったか?」

 

「・・・・あはは、それは大丈夫だよ。私も園崎家の人間だもの、あれくらいは慣れてるよ」

 

「え、まぁそうか。だったらよかった」

 

詩音は俺の問いに詩音は苦笑いを浮かべながらそう答える。

そして心配そうな表情でこちらを見つめる。

 

「お兄ちゃんも大丈夫だった?前に葛西とこっそり何かしてるのは知ってたけどここまでとは思わなかった」

 

「ま、まぁこれでも詩音のお母さんに鍛えられてるからな。あれぐらいは何でもないさ」

 

「・・・・そうなんだ。あ、とりあえずみんなのところに早く戻った方がいいよね。ここにいたら危ないし」

 

「っ!それはそうだ!悪い詩音、細かい話はあとでするから」

 

詩音に言われてその通りだと気づく。

詩音の様子に固まったが、最優先はここから離れることだ。

 

「・・・・大丈夫だよ、状況はわかったから。それにお兄ちゃんが私と同じだってことがわかった、それだけで私には十分だよ」

 

詩音は微笑みながら俺の手を握る。

本当に安心したような笑みを浮かべる詩音に不安を抱くが今確認してる暇はない。

 

「よし、急いでみんなのところに戻ろう」

 

詩音の手を引いて祭具殿から離れる。

 

・・・・梨花ちゃんになんて説明しよう。

 

 

 

 

 

お兄ちゃんに手を引かれながら考える。

 

さっきの連中が襲ってきた理由はお兄ちゃんの言っていた葛西とやらかした結果なんかじゃない。

奴らが襲ってきた理由、それは間違いなく私達が鬼だからだ。

 

さっきの連中の正体は何?

 

少なくとも雛見沢の人間じゃない。

だったら外から来た人間。

 

お兄ちゃんは葛西と何かをしてたせいだって言ってたけどそんなはずはない。

だって園崎家の関係ならお母さんやおねぇが見逃すはずがない。

 

もっとお兄ちゃんに対して厳重な警備があって当然だ。

 

だから園崎家の関係で狙われたわけじゃない。

 

・・・・奴らは私とお兄ちゃんが二人になった途端に現れた。

 

私とお兄ちゃんの共有点・・・・それは鬼であること。

 

奴らはどこからか私達が鬼であることに気付いたんだ。

そして襲ってきた目的は私達を殺すか、捕らえて研究するつもりなのだろう。

 

・・・・お兄ちゃんはこのことに気づいてない。

 

知らせるべき?でもそんなことしたらきっとお兄ちゃんは私を守るために戦うに決まってる。

 

だったら知らせちゃダメだ。私がお兄ちゃんを守るんだ。

 

お兄ちゃんが鬼だとわかった時、すごく嬉しかった。

一人ぼっちじゃなかった、この気持ちになっていたのは私だけじゃなかった。

 

それが分かった瞬間、すごく安心したんだ。

 

・・・・絶対にお兄ちゃんは殺させない。

 

外部の人間は全て敵だ、守るために園崎家の力だって必要になる。

 

・・・・少し前まで恋のことで頭がいっぱいだったのに。

でも、不思議と前より心が軽く感じた。

 

自分のやろうとしていることがお兄ちゃんのためになると心から思えるからだろう。

 

安心してお兄ちゃん、私が絶対に守るから。

 

・・・・そのためなら私の中の鬼すらも完璧に自分の物にしてみせるから。

 

 

 


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