レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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綿流し

またこの日がやってきた。

 

多くの人で賑わう様子を見て、そんな感想が漏れる。

 

綿流しはこの雛見沢で年に一度の大きなお祭りだ。

本来ではあれば一年でもっとも楽しみな日。

 

なのに一年でもっとも憂鬱な日になるのだから笑えない。

 

しかし、今回の綿流しは憂鬱な日になる可能性は低いはずだ。

というより去年の綿流しを無事に超えた時点で今年と来年は特に何も起こりえない。

 

原作での今年の犠牲者である梨花ちゃんの両親が殺される理由もない。

そして来年の犠牲者である悟史とその叔母も問題ない。

 

もう悟史達は両親と暮らし始めているんだ、鉄平と叔母の2人が悟史達にちょっかいをだすなんてことは出来ない。

公由さんとだって変わらず仲良くしているからより完璧だ。

 

つまり、もはや山場は圭一君が来てからの綿流しの日のみ。

いや正確には来年の綿流しを越えてからになるだろう。

 

その時から鷹野さん達の研究が中止になり、精神的に弱くなった鷹野さんが本当の黒幕に利用される。

 

利用された鷹野さんは梨花ちゃんを殺し、雛見沢の住民すらも皆殺しにする。

 

再来年の犠牲者である梨花ちゃん。

梨花ちゃんを守り通して綿流しの日を越える。

それでようやくハッピーエンドだ。

 

まぁとりあえず今年は俺が狙われてるみたいだし、一人にならないようにだけ心がけよう。

狙われてる俺が下手に梨花ちゃん夫婦の近くにいるのも危ない。

 

警戒しながら適当に楽しむとしよう。

 

「お兄ちゃん?難しい顔してどうしたのかな?かな?」

 

「ん?いや今日は何が起こるかなって思ってさ。毎年ろくな目に遭ってないからな」

 

去年はメイドを着て、その前の年で酒に酔ってメイド服を着て冥途を彷徨い、さらに前の年にもメイド服を。

 

・・・・んん?なぜかメイド服しか着てないな俺。

 

毎年なぜかメイド服を着ることになっている俺。

まるでそれが運命だと言わんばかりに。

あれか?大きな運命を変えた代償的なあれか?

 

だとしたらこの運命の連鎖はなんとしても回避だ!

 

この世界では強い意志こそが強固な運命を作り上げる。

つまり俺がメイド服を着ているのは誰かの強い意志によって着る運命にされている可能性がある。

 

誰だ?礼奈か?いやそれとも毎年俺にメイド服を着せてくるあのおっさんか?

いややっぱりどう考えても入江さんことイリーだろ。

 

あの人ほどメイド服に執念を持ってる人はいないし。

よし、今日会ったらしばいとこ。

 

「・・・・あれだ、あのメイド服を売ってるおっさんの店にさえ行かなきゃいいんだ。簡単なことだ」

 

「お兄ちゃん?大丈夫?メイド服着る?」

 

「大丈夫だ礼奈、あとメイド服は着ない」

 

心配そうな表情でメイド服を進めてくる礼奈をスルーする。

まずい、礼奈の中で綿流しの日に俺がメイド服を着るのが恒例行事みたいになってる。

 

「あ!いたいた!お兄ちゃん、礼奈!!」

 

「遅いですわよお二人とも!」

 

俺がどうにかして礼奈の考えを改めさせようと悩んでいると人混みから魅音と沙都子が現れる。

その後ろには詩音と悟史の姿も見えた。

 

「よし、全員揃ったな」

 

「うん、じゃあ最初はどこから回ろうか」

 

みんながいることを確認した魅音がそう提案する。

それに対して礼奈は周囲を見回した後に魅音に尋ねる。

 

「あれ?梨花ちゃんがまだだよ?」

 

「ああ、梨花ちゃんは両親と一緒にいるってさ。だから私達とは回れないって言ってた」

 

「そうなんだ、じゃあ後で梨花ちゃんのところに遊びに行こ!」

 

梨花ちゃんがいないことに気付いた礼奈が魅音にそう尋ね、魅音が答える。

そう、今回梨花ちゃんは両親と一緒にいる。

 

これは梨花ちゃん自身が言い出したことだ。

そもそも梨花ちゃんは今年に入ってから両親の傍にずっといるようにしている。

 

自分が一緒にいれば二人を殺す隙なんてないだろうと。

 

原作では今夜梨花ちゃんの両親が狙われる、心配なのは当たり前だ。

 

確か原作では梨花ちゃんのお父さんが飲み物に毒を盛られて殺された。

 

まさか梨花ちゃんのいる時にそんなことはしないだろう。

梨花ちゃんはお酒だって平然と飲めることは鷹野さんだって以前の綿流しで知ってる。

 

間違えて梨花ちゃんが毒の入った飲み物を飲んでしまったらなんてことがある以上、鷹野さんも下手なことはしないはずだ。

 

「ほら、お兄ちゃん行こ!まずは沙都子が好きなリンゴ飴だって」

 

「っ!ああ、行くか!」

 

魅音に手を引かれて人ごみに入る。

その時に空いていた左手で後ろにいる彼女の手を握る。

 

「ほら、詩音も行くぞ」

 

「・・・・うん、お兄ちゃん」

 

静かにみんなを見ていた詩音を引っ張る。

そんな俺に詩音は小さく笑みを浮かべて応えた。

 

今日の俺の任務は自分の身を守ることともう一つ。

詩音のことをちゃんと見ていること。

 

あの泊まり以降、詩音はずっと元気がない。

聞いても何でもないとしか言ってくれなかった。

 

だから今日で詩音をどうにか元気にしてやりたい。

 

「今日はもうこの手を離さないから。手汗とか気になっても離さないから覚悟しとけ」

 

「・・・・それはちょっと困るかも」

 

俺の言葉に苦笑いを浮かべながらも俺の手を小さな力で握り返してくる。

祭りの終わりにはいつも通り腕を組んでくるくらいに元気になってくれるといいんだけどな。

 

「にーにー、後ほど家で話し合った通りに動きますわよ」

 

「そ、そうだね」

 

「おいそこの兄妹、何の内緒話をしてるのかな?かな?」

 

この二人、また何か企んでやがるな。

礼奈の真似をして首を傾げながら可愛らしく尋ねる。

 

「なんでもないですわ。あと灯火さんが礼奈さんの真似をしても気持ち悪いだけですわ」

 

「うん、それは俺も自分で思った」

 

沙都子の冷めた目に俺も素直に同意する。

 

そんな無駄話をしながら屋台を巡っていく。

リンゴ飴にたこ焼きに焼きそば、いつもの定番の物を次々を食べていく。

 

ちっ、入江さんに会わないな、今日は来てないのかな?

 

あと鷹野さんもいない。できれば見つけて監視しておきたかったんだけど。

 

綿流しもどんどん終盤に近付いていく。

もう少ししたら梨花ちゃんの舞が始まるし、そうしたら川に綿を流して終わりだ。

 

まぁ、このまま何事もなく終わってくれれば文句はない。

 

「さて、みんなで十分食べて回りましたし、そろそろゲームでもしませんこと?」

 

「へぇ、沙都子からゲーム提案か。いいね!乗ったよ!」

 

ある程度みんなで回ったタイミングで沙都子が妙なことを言い出す。

さっき悟史と話し合っていたのはこれか。

 

だとしたら、だいたいこれから提案してくることはわかる。

 

「ゲームは二人ペアに分かれて行いますわ!内容は簡単ですの!梨花の下にそれぞれ屋台で手に入れた物をもっていってどれが一番嬉しかったかを決めてもらいますの!」

 

「ほーなるほどね。ここにいない梨花ちゃんが審判ってわけか。手に入れる物は何でもいいの?」

 

「ええ、屋台で手に入れた物でしたら何でもよろしくてよ。ペアでしっかり話し合って決めて下さいまし」

 

沙都子の説明に魅音が頷く。

ふむ、内容は確かに面白そうだ。二人ペアにする理由がバレバレだが。

 

「じゃあ早速ペアを決めますわよ」

 

「・・・・じゃあ私と沙都子、そして悟史に礼奈、あとお兄ちゃんと詩音で別れよっか。それでいいよね沙都子?」

 

「え?ええ、構いませんけど」

 

ペアを決めようと動こうとした沙都子よりも先に魅音が組み合わせを決める。

沙都子としても悟史と礼奈を組ませるのが目的だっただろうから文句はないのだろう。

 

そして魅音はそれがわかった上で俺と詩音を組ませるように動いたか。

 

・・・・理由はやっぱりあのお泊りの夜のことだろうな。

 

「礼奈もそれでいいよ!はうー!頑張ろうね悟史君!!」

 

「う、うん!頑張ろう礼奈!!」

 

礼奈が悟史に笑いながら悟史とのペアを了承する。

ちっ!悟史め、今回ばかりは許してやる!!

 

俺も詩音とは話がしたかったからちょうどいいしな。

 

「じゃあ梨花ちゃんの舞が始まる前に集合ね!それと一番いらないものをあげたペアには罰ゲームを受けてもらうよ」

 

「おっほっほっほ!親友の私が選んだものが一番に決まってますわ!せいぜい最下位にならないように気を付けてくださいまし!」

 

そう言って魅音と沙都子が人混みの中へと消えていく。

悟史も明らかに緊張した様子を見せながらも礼奈と歩いて行った。

 

そして残ったのは俺と詩音だけ。

 

「うっし!じゃあ俺らも探しにいくか!正直罰ゲームの内容は予想できるっていうか、絶対に受けたくない」

 

絶対メイド服だ、断言できる。

この運命を覆すため、この勝負は負けられない。

 

「・・・・お兄ちゃん、ちょっと話があるの」

 

「ああ、ここで話せるか?」

 

「・・・・少し静かなところに行きたい」

 

「・・・・わかった」

 

俺が屋台を巡ろうとした時、詩音に手を引かれて止められる。

そして真剣な表情でそう告げた。

 

ここで断るなんて選択肢はない。

そのために二人っきりになったんだから。

 

詩音と二人で人混みから外れる。

そして原作では同じみの祭具殿にやってきた。

 

ここらなら人も来ないだろう。

念のため周囲を確認するが、特に人の気配はない。

俺の気にし過ぎだったか。

 

まぁでも念のため祭具殿と周囲の構造物を盾に出来る場所に移動しておくか。

 

「ここでなら話せそうか?」

 

「・・・・うん」

 

俯いたまま俺の後をついてきていた詩音が小さく頷く。

そして、ゆっくりと口を開いた。

 

「・・・・お兄ちゃんはさ、鬼の存在を信じる?」

 

「・・・・鬼?」

 

詩音から出てきた言葉に嫌な予感を覚える。

どうしてここでそんな単語が出てくるんだ?

 

「前に鷹野さんが言ってたの。この村には昔鬼がいて、そしてその鬼を鎮めるために村では毎年生贄を出していた。それがこの綿流しの由来だって」

 

「・・・・あの人はまたそんなことを」

 

以前に俺たちにも言っていたことだが、詩音にまで言うとは。

 

「・・・・園崎家はだいだい鬼を継承してきた家なの。頭首になる者の名前には鬼の文字を入れて、背中には鬼の刺青を入れる」

 

「・・・・ああ」

 

園崎お魎、園崎蒐、そして園崎魅音。

それぞれに鬼の文字が入っている。

 

蒐は詩音たちの母である茜さんの本来の書き方だ。

過去に色々あって鬼の文字を外したことを酒の席で教えてもらったことがある。

 

「私は今まで鬼なんて信じてなかった。園崎家も鬼の名を入れたり背中に刺青をしてるけど、ただそれだけだって思ってたの。でも違った、鬼は本当にいたんだ」

 

そう言って詩音は濁った目をこちらに向ける。

 

まずい、この状況は本当にまずい。

 

内心で冷や汗を流しながらどうするべきかを考える。

 

「目には見えなくても鬼はずっと雛見沢にいたんだよ!見えなくても気配はあったの!!そして鬼は(魅音)に目を付けた。そして自身の腹を満たすために私の中に入ったんだ」

 

詩音は深刻そうな表情で顔を手で覆う。

 

「鬼がずっと私の中で囁いてるの。こんな都合の良いことなんてあるはずがない。騙されるな、このままじゃ大事な人を取られるぞって」

 

詩音は震えながら鬼の言葉を口に出す。

詩音の中では本当に自分の中に鬼がいると思い込んでいるのだろう。

 

なんでだ、一体いつからこんなことになってやがった。

 

今の詩音を見て思い当たる状態なんて一つだけしかない。

 

今の詩音は雛見沢症候群を発症している。

 

鬼なんているわけがない。鬼の気配だって羽入が近くにいただけだ。

雛見沢症候群が進行している人は羽入の気配を感じれるようになるからな。

 

くそが!鷹野さんの狙いはこれか!!

どこかで詩音が発症していることに気付いた鷹野さんが余計なことを吹き込んだんだ。

初めから俺なんて眼中になく、詩音に目をつけてやがったんだ!

 

 

まだだ、まだ詩音は末期症状じゃないはずだ。

末期症状なら疑心暗鬼で攻撃的になってるし、痒みで首にもっと傷跡があるはず。

 

今の詩音はまだ凶行に出たわけでもないし、首も服で隠れているがはっきりとした傷も見えない。

だったらまだなんとか出来る。

 

「このままじゃ本当に夢のようになっちゃうの。私がお兄ちゃんをこ、殺して死んだお兄ちゃんにキスをして嗤って」

 

「詩音」

 

ぶつぶつと呟く詩音に呼びかける。

 

今の詩音の気持ちをしっかり考えてから発言していくんだ。

ここを間違えると本当に取り返しのつかないことになる。

 

「鷹野さんから聞いた鬼は毎年生贄の人を食べていた。それが綿流しの由来で、鬼の自分が綿流しの今日俺を襲うかもしれない。それであってるよな」

 

「・・・・うん」

 

「だとしたら大丈夫だ。詩音は俺を襲わない」

 

「・・・・どういうこと?」

 

俺の言葉に詩音は訝しげにそう問いかけてくる。

それに対し俺も笑みを浮かべて口を開く。

 

「だって俺も鬼だから」

 

俺は自信満々の笑みでそう告げた。

 

この状況を変えるには詩音を口先で騙しきるしかない。

 

・・・・俺は鬼いちゃんだぞ!とかで通らないかな。

 

 

 

 


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