レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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狂気の種

「あーわからん。もうすぐ綿流しなのに」

 

鷹野さんが消えた後に項垂れる。

正直、梨花ちゃんの両親の殺される可能性は低いと思う。

 

原作と違い、梨花ちゃんの両親は雛見沢症候群の研究に協力的だ。

それゆえに鷹野さんが二人を殺す理由なんてない。

むしろ守るべき対象なくらいだ。

 

逆に村の中で一番殺される可能性があるのは誰か。

うん、考えるまでもなく俺だな。

 

悟史達の両親の件でやらかしてるし、ダム戦争の時も邪魔してるからね!間違いなく鷹野さんには目をつけられてる。

 

とりあえず、さっき話した感じでは何か俺に言ってくる様子はなかった。

だからこそ何をしようとしてるのか判断が難しいんだが。

 

あの人のことだ、詩音に何か余計なことを吹き込んだりしてるかもな。

 

「とりあえず礼奈達と合流するか」

 

みんな今も詩音を探して走り回ってくれている。

鷹野さんの話によると詩音は家に帰っているらしいから魅音に確認してもらえばすむ。

 

「あれ?灯火?」

 

みんなを探しに再び走りだそうとしたタイミングで背後から声がかかる。

振り返れば買い物袋を持った悟史の姿があった。

 

「一人?今日は詩音とデートなんじゃなかったの?」

 

「デートって、いやまぁそうだけど。詩音はもう帰ったよ、悟史はどうしてここに?」

 

詩音のことについては適当に誤魔化してこちらからも尋ねる。

こいつが一人でいるって何気に珍しい気がする、いつも沙都子と一緒だし。

 

「ほら、もうすぐ母さんが退院するでしょ?だからお祝いにプレゼントを買おうって沙都子が」

 

「ああ、それで興宮に来てたのか、じゃあ沙都子も一緒か?」

 

「いや、沙都子は一人で選びたいらしいから別行動だよ」

 

こちらの質問に答えながら手に持った袋から何かを取り出す。

今の説明を聞く限り、あの袋には母へのプレゼントがあるんだと思うが。

 

「ほら、暖かそうなマフラーでしょ?」

 

「うん、もうすぐ6月だぞ?」

 

自信満々な表情で見せてきたプレゼントに思わずそう返してしまう。

相変わらずの天然さだ。

 

これでクラスの女子の大半がこいつに惚れているのだからバカにできねぇ。

年下の女子から見れば悟史は憧れの王子様にでもなってるんだろうな。

 

「それで詩音とのデートはどうだったの?」

 

「・・・・」

 

俺のツッコミをスルーして今日のことを聞いてくる。

悟史になら話してもいいか。

俺も誰かに相談したかったし。

 

「今日はまぁ、いろいろあった」

 

俺は悟史に今日の詩音との出来事を説明する。

悟史は俺の話を黙って聞いてくれる。

 

「俺の言葉を聞いた後、詩音は泣きながら走っていってしまった。鷹野さんの話だと、もう落ち着いて家にいるみたいだけど」

 

「・・・・」

 

「どうすればよかったんだろうな。他の言い方あっただろって今になって後悔してる」

 

自分で話しながらまた気分が落ち込んでいく。

詩音と会った時にどうすればいいか案が出ない。

 

「うーん」

 

俺の話を聞いた悟史は腕を組んで声を上げる。

悟史は俺の話を聞いてどう思ったのだろうか。

 

悟史ならどうするのか意見を聞いてみたい。

 

「うん、やっぱり灯火はモテモテだね」

 

「いやどうしてそうなった」

 

悟史のずれた答えに思わずツッコミを入れる。

この話を聞いて惚気に聞こえたんだったら楽観的すぎるだろ。

 

「詩音はきっと焦ってたんだと思うよ。このままじゃ灯火が誰かに取られるってさ」

 

悟史はゆっくりと自分の意見を口にする。

 

「好きな人から自分のことを恋愛対象には見てくれていない。そして周りにはライバルがいっぱい、だから焦って強引にでも話を進めようとしたんじゃないかな」

 

「・・・・悟史、いつから恋愛マスターになりやがった」

 

まるで詩音の気持ちがわかると言いたげに言葉を口にする悟史。

悟史の話を聞いてもいまいち納得は出来ないが、悟史はそう確信しているようだった。

 

「僕もまぁ、詩音の焦る気持ちはわかるから」

 

納得いかない表情をしていた俺に悟史は自分の心境を少し明かす。

 

まぁ確かに、俺から見ても礼奈は悟史のことをそういう対象と見ていない。

完全に男友達って感じ、礼奈は悟史が自分に惚れていることに気付いてすらいない。

 

学校の子供たちの間で妙な同盟でも出来てるのか、礼奈や詩音たちは未だに告白とかされてないし。

 

ちなみに俺もない。

そして悟史は二回ある、それも興宮の学校の子。

 

なんだこの差は。

そもそもどこで知り合いになりやがった。

 

「きっと詩音は今落ち込んでると思うなぁ。うん、僕だったらしばらく立ち直れないね」

 

「おい」

 

無責任にそう告げる悟史をジト目でにらみつける。

俺が知りたいのはそこからどうやって立ち直るかなんだよ。

 

「え?付き合えばいいと思うけど」

 

「いやお前、魅音とか梨花ちゃんはどうするんだよ。あっちは親にまで話がいってるんだぞ」

 

これしかないだろと言いたげにそう口にする悟史。

 

そりゃ、詩音はそれで解決するかもしれないが、その場合その他の反応が怖い。

 

お前はあいつらの光のない目を見たことないからそう言えるんだ。

 

雛見沢症候群を発症してるんじゃないかと本気で思ったくらいだぞ!

 

「それも簡単だよ。全員と付き合ったらいいんだ」

 

「・・・・本気で言ってる?」

 

まさかのハーレム発言。

礼奈を除外して全員雛見沢の御三家の娘ってわかってるんのかこいつ。

 

「詩音も魅音も梨花ちゃんも沙都子と全員付き合ったらそれで解決でしょ?」

 

「解決でしょ?って簡単に言うなよ!?あとサラッと自分の妹を売るな」

 

まさかこいつ、将来沙都子が嫁に行き遅れになると思って俺に売るつもりか。

しかもきっちり礼奈はハーレムから除外してやがる。

 

「ていうか全員と付き合うなんて本人達が納得しないだろ」

 

漫画じゃないんだ、ハーレムなんて簡単にできるわけがない。

少なくとも俺だったら逆ハーレムの一員になろうとは思えない。

 

「そこは灯火の腕の見せ所だよ。あ、噂をしたら」

 

 

「「お兄ちゃん!!」」「灯火!」

 

 

悟史のそういった直後、こちらに魅音達が走り込んでくる。

全員息が上がっていて、今まで必死に詩音を探してくれていたことがわかる。

 

「お兄ちゃん、詩音ちゃんは見つかった!?」

 

「ああ、どうやら家に帰ったらしい。魅音、悪いけど確認を頼む」

 

「わかった!」

 

俺の言葉を聞いて近くの公衆電話に走り込む魅音。

これで帰ってくれていればとりあえず安心できる。

 

「はう、しぃちゃん大丈夫かな?かな?」

 

心配そうな表情で公衆電話へ向かった魅音を見つめる礼奈。

そして礼奈の横にいた梨花ちゃんが俺を見ながら口を開く

 

「何があったか、詳しくは聞かないほうがいいですか?灯火」

 

「・・・・ああ、それで頼む梨花ちゃん」

 

「・・・・はいなのです」

 

悟史はともかく、梨花ちゃん達には言えない。

このことで彼女達の友情が壊れるなんてことにはしたくない。

 

「今、家に電話してきた。とりあえず詩音は家に帰ってるみたいだよ」

 

「そうか!ありがとう魅音、これでとりあえず大丈夫だ」

 

電話を終えた魅音からの報告に安心して息を吐く。

とりあえず詩音もゆっくり考える時間がいるだろうから今日のことはまた今度にするか。

 

「悟史君も一緒だったんだね」

 

「うん、母さんの退院祝いのプレゼントを買いに来てたんだ」

 

「・・・・みぃ、可愛らしいマフラーなのです」

 

とりあえず詩音が家に帰ったことを確認したみんなからも落ち着いて話し始める。

みんなには今度何か奢らないと。

 

「よし!あたしは一応詩音の様子を見てから帰るよ!みんなはどうする?」

 

「みぃ、今日はクタクタなのです」

 

「僕も遅くなると沙都子が心配するから帰ろうかな」

 

魅音は一度両親のいる興宮の家に顔を出そうようだ。

一応、魅音には悪いが今回のことは深く聞かないでくれと頼む。

 

「うん、詳しくは聞かないよ。あとで詩音の様子がどうだったかお兄ちゃんに教えるね」

 

「ああ、頼む」

 

俺の言葉に頷いた後に走って人混みの中に消えていく魅音。

すでに時間は夕方だ。

 

俺たちも暗くなる前に雛見沢に帰らないといけない。

 

 

「・・・・」

 

「礼奈?俺たちも帰るぞ」

 

魅音が消えた方向をじっと見つめ続ける礼奈に呼びかける。

あれだけ探し回ったんだ、礼奈も詩音を心配してくれているのだろう。

 

「・・・・悪いな礼奈。あまり詳しいことを話せなくて」

 

「ううん、それは大丈夫。ただ」

 

「ただ?」

 

てっきり詩音のことを気にしてると思っていたが違ったのか?

礼奈は消えた魅音の方向を見つめながら小さく呟く。

 

 

 

「さっきのみぃちゃん、すごく怖い顔をしてた気がしたから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「詩音」

 

「・・・・おねぇ」

 

私が自分の部屋のベッドで横になっている時、ノックもなくいきなり扉が開く。

扉の方に目を向ければ、私の姉がこちらを見下ろしながら立っていた。

 

「ノックくらいしてよ。ていうかこっちに来るなんて珍しいじゃん」

 

ここに来た理由は想像できる。

雛見沢に帰らずにわざわざ私のところに来るんだ、どう考えても今日のことだろう。

 

「あんた、あたしに化けてお兄ちゃんに何を言ったの」

 

「・・・・」

 

こちらの言葉を無視して私に聞いてくるおねぇ。

どうやら私がおねぇの姿でお兄ちゃんを騙そうとしたことはバレてるようだ。

 

内容はバレてないっぽいけど、私が変装してるのを見られてたか。

 

「別に?ちょっとお兄ちゃんをからかっただけだよ。それにすぐにバレたし」

 

「ちょっとからかっただけで、お兄ちゃんがあんなに必死にあんたを探すわけないでしょ!!」

 

「・・・・」

 

私の言葉におねぇが声を荒げる。

私が鷹野さんと話をしている間、お兄ちゃんは私を必死に探してくれていたらしい。

 

それを聞いてお兄ちゃんに申し訳ない気持ちを抱く。

謝らないといけないよね、でもなんて言えば。

 

そもそもお兄ちゃん的には自分にというか、おねぇに謝ってほしいみたいだし。

 

「・・・・ごめんなさい、おねぇを利用してお兄ちゃんと恋仲になろうとした。おねぇには悪いと思ってるよ」

 

声を荒げるおねぇに対して深く頭を下げる。

どうせ失敗したことだ、隠してたってあまり意味はない。

 

「お兄ちゃんは私が変装がバレて気が動転して逃げちゃったから探してくれてたんだと思う。あとでちゃんと謝るよ」

 

「・・・・」

 

「反省してる、二度とこんなことはしない」

 

私は頭を下げ続けたまま謝罪の言葉を口にする。

そんな私の言葉を聞いた後、おねぇはそっとため息を吐いた。

 

「嘘ばかりだね。悪いとも思ってないし、反省なんてしてないでしょ」

 

私の謝罪に対しておねぇはため息と共にそう告げる。

 

まぁバレるよね。

私だって無理があると思うし。

 

「あんた、こんなことしてたら一人ぼっちになるよ」

 

おねぇは冷たい表情で私に告げる。

しかしその言葉は私に対して脅しにはならない。

 

友情より恋を優先して何が悪いんだ。

 

「・・・・これはゲームじゃないんだ、私はみんなで正々堂々とお兄ちゃんを手に入れる勝負がしたかったよ。それでもし負けても泣きながら勝った子を祝福するつもりだった」

 

「・・・・」

 

おねぇは悲しそうな表情を私を見ながらそう告げる。

うるさい!それはあんたの考えでしょ!

 

おねぇの言葉を聞いて苛立ちと共に身体の痒みが増す。

私は苛立ちの表情を抑えられず、おねぇを睨みつけながら首を掻く。

 

「だったらなに!?私の気持ちなんて今のあんたにはわからないでしょ!園崎家次期当主のあんたにはね!」

 

「・・・・」

 

「もしあの時、私達の名前が入れ替わらなかったから!私が魅音であんたが詩音だったなら!あんたは私と同じことしてなかったって断言できるの!?ねぇ、答えなよ魅音(しおん)!」

 

「っ!?」

 

私の言葉に魅音は目を見開く。

園崎家も友達もそして好きな人だってあんたは簡単に手に入る。

 

自由だって私と比べれば雲泥の差だ。

 

本当はそれは私の物だったはずなのに!

本来は私のだったものをあんたにあげるんだ、好きな人くらい私がもらったっていいでしょ!!

 

「私はお兄ちゃんを手に入れる!あんたは立場や友達や自由とかで満足してればいいじゃない!」

 

私は気持ちのままに魅音に言葉をぶつけて睨みつける。

そんな私に魅音は黙っていた口を開ける。

 

「あんたの考えはよくわかったよ。でもだからって譲るつもりはない、私だってお兄ちゃんのことは好きなんだ。その気持ちで負けるつもりはないから」

 

「・・・・」

 

「そっちがその気ならあたしも本気でいくよ。じゃあね()()

 

魅音は睨みつける私を見下ろしながら部屋を後にする。

私は苛立ちのまま閉まった扉に向けてベッドの枕を投げつけた。

 

怒りと痒みで頭がどうにかなりそうだ。

 

「絶対にお兄ちゃんは渡さない」

 

お兄ちゃんは私のものだ。

 

先ほどの鷹野さんとの会話が蘇る。

 

もし魅音にとられるようなことになったら、私は。

 

 

 

 

 

 

 

 


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