レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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悲劇の種

「なにを、言ってるんですか?」

 

鷹野さんからの予想外の言葉に私は震えながらそう返す。

お兄ちゃんを殺す?私が?

 

言ってる意味がわからない。

どうして私がお兄ちゃんを殺さないといけないの?

 

いつもの私ならその言葉を聞いた瞬間に殴りかかるくらいはするだろうけど、今の私は歪んだ笑みを浮かべる鷹野さんに震えながらそう返すことしかできなかった。

 

「だって殺してしまえばもう彼は誰のものにもならないでしょう?魅音ちゃん、梨花ちゃん、礼奈ちゃん、沙都子ちゃん、誰も彼を手に入れることなんて出来ないわ」

 

「だからってお兄ちゃんを殺すなんて!」

 

「でもそうしないと彼はいずれあなた以外の誰かのものになるわよ?」

 

「っ!?」

 

鷹野さんの言葉に熱くなった私は一瞬で凍り付く。

固まった私を見た鷹野さんは笑みを絶やすことなく言葉を続ける。

 

「礼奈ちゃんはいつも笑顔で可愛いわよね。とっても素直だし守ってあげたくなるわ。梨花ちゃんは自分の武器をよくわかってるわ、あの笑顔で甘えられたら誰だって好きになっちゃうでしょうね」

 

鷹野さんの言葉を聞いて礼奈と梨花ちゃんの姿が頭に浮かぶ。

二人とも私から見ても魅力的な女の子だ、鷹野さんの言葉に納得してしまう。

 

「沙都子ちゃんも明るくていたずら好きな子、ああいう子が好きな男の子は多いでしょうね、そして最後はあなたのお姉さん。彼女の魅力はあなたが一番わかってるんじゃないかしら?」

 

今度は沙都子について話し、そして最後のおねぇについて短く私にそう告げただけで終わった。

確かに、おねぇの良いところは私が一番知ってる。だって姉妹なんだから。

 

おねぇを含めてその全員の誰もがお兄ちゃんが惚れたとしても不思議じゃないほど魅力がある。

そんなことは最初からわかってる。

 

だから私は彼女達に負けないようにこれまで必死に頑張ってきたんだから。

 

「今日の出来事の差で、彼女達が彼を手に入れるかもしれないわよ?」

 

「っ!!」

 

鷹野さんが私の不安に追い打ちをかけるように言葉を続ける。

 

「ねぇ?だから言ってるでしょ?彼を殺せば彼女達は絶対に彼を手に入れることは出来ない」

 

「っ!そんなことでお兄ちゃんを殺すなんてするわけが!」

 

鷹野さんの言葉に狂いそうになる私は大声に抵抗する。

人殺し、それもお兄ちゃんを殺すなんてことをしていいはずがない。

 

「ふふ、誰も彼を手に入れられない・・・・殺したあなた以外はね」

 

「・・・・え?」

 

その言葉で私の思考は一度停止する。

今度こそ本当に鷹野さんの言葉の意味が理解できなかった。

 

「想像してみて?眠りにつく彼。彼が最後に見るのは誰?彼が最後に思うのは誰?眠りにつく彼の最後を見届けるのは誰?彼を殺したのは誰?」

 

鷹野さんの言葉が固まる私の頭の中に入り込んでくる。

血が流れ、目を閉じようとしているお兄ちゃん。

 

その瞳に映るのは。

頭の中で想うのは。

最後を見届けるのは?

 

彼を殺したのは。

 

 

頭の中でお兄ちゃんが現れる。

血が口からこぼれ、服は赤く染まっている。

 

そんな彼を私が抱きしめていた。

大事そうに、今にも壊れそうな物を傷つけないように優しく包み込むようにその子はお兄ちゃんを抱きしめている。

 

 

そして今にも目を閉じようとするお兄ちゃんの口から言葉が洩れる。

 

「・・・・詩音」

 

最後に彼がそう言って目を閉じる。

 

その瞳の最後まで私だけを映しながら。

意識のある最後の瞬間まで私を想いながら。

 

私だけが彼の最後を見届ける。

 

目を閉じて動かくなった彼を見て、私は・・・・

 

「ね?彼はあなたのものになったでしょう?」

 

「っ!?」

 

想像の中で響いた鷹野さん(悪魔)の声に我に返る。

 

っ!?私はなんてことを想像して。

 

してはいけない想像をしてしまい血の気が引いていくのを感じる。

ダメだ、これ以上こんなことを考えたらおかしくなる。

 

「ふふふ!冗談が効きすぎちゃったようね。ごめんなさい」

 

顔を青くさせた私を見て鷹野さんが先ほどの怪しい雰囲気から一変して明かる気なものに雰囲気を変える。

 

「今日読んだ本にそういった人物が登場したからつい言ってしまったの、ごめんなさい」

 

「・・・・言っていい冗談と悪い冗談とありますよ」

 

明るく笑う鷹野さんに私はつい睨みつけながらそう返す。

それを見た鷹野さんは反省したように頭を下げてきた。

 

私は先ほどの考えと気持ちを忘れようとため息を吐く。

そして痒みを覚えて首筋を爪でかく。

 

「ふふ、首が痒いの?」

 

「・・・・まぁ少し、それより私はもう帰りますから」

 

鷹野さんのおかげとは正直言いたくないけど、気持ちは落ち着いた。

あのまま帰ってたら衝動のまま自殺してたかもしれないし、まぁ話せてよかったかもしれない。

 

「あらあら怒っちゃったかしら。もう少し話さない?まだ良い方法があるのよ」

 

「・・・・次こそ真面目にですか?」

 

「ええ」

 

「・・・・」

 

鷹野さんの言葉を信じて帰らずに席に残る。

このまま帰っても良くてお兄ちゃんに謝って終わり。

 

状況の改善にはならない。

それなら藁にも縋る思いで鷹野さんの話を聞いてみるのもありか。

 

「詩音ちゃんはこの雛見沢の昔話を知ってるかしら?」

 

「えっと、おやしろ様の話ですか?聞いたことはありますけど詳しくは覚えてないです」

 

以前に教えられた気がするけど雛見沢の歴史になんか興味のなかった私は適当に聞き流したと思う。

 

ていうかどうしてここで雛見沢の話が出てくるの?

確かに前に礼奈達から鷹野さんは雛見沢の昔話をするのが好きだって聞いたことあるけど、もしかして縁結びの伝承でもあったりするのだろうか。

 

「昔、雛見沢には鬼が住んでいた。村の人は鬼を鎮めるために年に一度生贄を鬼に差し出していたの。その鬼は生贄の腸を食べていたらしいわ。そしてこれが雛見沢の祭りの綿流しの由来ね」

 

「・・・・それがどうしたんですか?私、そういう怖いのは葛西で慣れてるので怖がりませんよ」

 

子供の時に葛西からそう言った話は聞いている。

おかげでトラウマになってるものもあるけど、これくらいでは怖がったりしない。

 

「ふふ、それは残念ね。続きだけど、鬼に食われて消えた人を鬼隠しにあったと村の人は言ったそうよ?今でも村の人たちはそれを信じてるみたい」

 

「・・・・さっきから何が言いたいんですか?」

 

伝承の説明ばかりで話が見えてこない。

その話がこの状況の打開と何が関係あるというのだろうか?

 

「この伝承を利用するのよ。綿流しの日に彼と一緒に雛見沢を逃げるの。愛の逃避行ね」

 

「はい?」

 

またしても予想外の鷹野さんの言葉に思わず変な声が洩れる。

 

「みんなに奪われるのが心配なら奪われないところまで逃げちゃうのはどうかしら?綿流しの日に逃げれば信仰深い村の大人たちは鬼隠しにあったって思うかもしれないわよ」

 

「・・・・それはないと思いますけど」

 

確かに雛見沢の大人たちはそういった信仰に対して異常な反応を見せる時がある。

だとしても私達が逃げてそう判断したりはしないだろう。

 

確かに逃げれさえすれば園崎も何も関係ない。邪魔者もいないし、お兄ちゃんとずっと二人っきりで最高だ。

お互い中学1年だけど、バイトとかで何とか生活することだってできるはずだ。

テレビで見るものでそういった話も珍しくない。

 

でもそれは物語の中だからできることだ。

現実ではそんな簡単じゃない。

 

特に私の場合は園崎が逃がしてくれるわけがないし、何より今のお兄ちゃんが私についてきてくれると楽観的に考えることは出来そうにない。

 

「あらそうかしら?良い案だと思ったんだけど、それに彼が拒否しても無理やり連れて行ってしまえばいいのよ。連れて行ってしまえば後は女の武器で」

 

「・・・・それも本で読んだんですか?」

 

私は思わず鷹野さんをジト目で見つめながらそう確認する。

 

「もしかして鷹野さんって恋愛経験があんまりないんですか?」

 

「・・・・そんなことないわよ?」

 

私の言葉に間をおいて目を逸らしながらそう答える鷹野さん。

美人だけど性格が捻くれてるから、きっとそのせいで。

 

私は思わず同情的な目で鷹野さんを見つめる。

 

「こ、告白ならいっぱいされたのよ!?ただ勉強や交友関係を優先しただけで、決して恋愛経験ゼロなわけじゃ!」

 

鷹野さんが聞いてもない言い訳を勝手に話し始める。

 

どうやら私は相談する相手を間違えたようだ。

まぁ、そんなことは最初からわかってたけど。

 

「・・・・ありがとうございました」

 

「ちょっと待ちなさい!私は決して恋愛経験がないわけじゃないだからね!いい歳して誰とも付き合ったことがないとかまさかそんなことないんだからね!」

 

私は未だに早口で言い訳を続けている鷹野さんに頭を下げて席を立つ。

今度、富竹のおじさんに会った時に今日のことを教えてあげよう。

 

 

 

・・・・ああ、首が痒い。

 

 

 

 

 

 

「詩音!あいつ、本当にどこ行ったんだ!!」

 

詩音が走っていった方向へ走り、周囲を見渡すが彼女の姿は見えない。

もう探し始めて30分以上が経つ。

 

これだけ探して見つからないとなると、すでにここらあたりにはいないのか?

素直に家に帰っていればいいが、どこか危険な場所に行ってたりしたら笑い話にならない。

 

すでに礼奈たちにも探してもらってる。

詳しい事情は説明してないが、何かあったことは察してくれたようで何も聞かずに協力してくれた。

 

「・・・・なんて言えばよかったのかなぁ」

 

自分の言ったことを振り返って思わず項垂れる。

詩音の両親が叱るならともかく、俺があんな風に叱るのは正しいかったのか?

 

精神年齢で言えば上になるけど、俺と詩音は同い年だぞ。

もっと正論を正面から言うんじゃなくて、同い年で兄ならではの言い方だってあったんじゃないか?

 

詩音の行動で魅音が傷つくかもしれないと思って言ったけど、詩音には反省がしてほしかったけど傷ついてほしかったわけじゃない。

 

「あら?ちょうどいいところに」

 

「・・・・鷹野さん?」

 

項垂れるのをやめて詩音を探し出そうと顔を上げたタイミングで視界に女性の姿が目に映る。

視界の先にはこちらを面白うに見つめる鷹野さんの姿があった。

 

「もしかして詩音ちゃんを探してるのかしら?」

 

「っ!?詩音に会ったんですか!?」

 

鷹野さんの口から出た彼女の名前に思わず詰め寄って答えを聞く。

よりによって鷹野さんに見つかってたのか。

 

「ええ、さっきまで近くのカフェで話してたの。事情は彼女から聞いたわ、あなたも大変だったわね」

 

「・・・・そうですか、それで詩音はどこに?」

 

「家に帰ったわよ。落ち込んでたけど恋愛経験豊富な私の話を聞いて落ち着いたみたい」

 

鷹野さんがカフェで詩音に話したことを説明してくれる。

 

話の際にやけに自分が恋愛経験豊富だと強調してくる。

まぁ鷹野さんほど美人ならそりゃモテるだろうけど。

 

話を聞いて詩音が反省していることと落ち着ていることはわかった。

話を聞く限り感情のまま危険なことをすることはなさそうだ。

 

あとで魅音に詩音が家に帰ったことを確認してもらおう。

 

「ご迷惑をおかけしてすいませんでした、そして話を聞いてくれてありがとうございました」

 

「ふふ、いいのよ。私も話を聞けて楽しかったから」

 

楽しかったって、まぁ他人の失敗談を聞くようなものだからか。

鷹野さんが言ったら嫌な考えしか浮かばない。

 

「彼女も反省してるようだし許してあげてね。あなたに嫌われたら彼女死んじゃうかもしれないわよ?」

 

「・・・・嫌いになんてならないですよ」

 

「ならよかったわ、だったら機嫌取りにまた二人でデートでもしてあげたらどう?それこそ綿流しだって近いでしょう?」

 

「・・・・まだ一か月以上先ですよ」

 

鷹野さんから出た綿流しという言葉に警戒が強まる。

まさか、詩音に何か吹き込んだか?

 

今年は原作では梨花ちゃんの両親がこの人に殺されている。

それは必ず阻止するし、他の人だって殺させるつもりはない。

 

詩音が狙われてるのなら、綿流しの日はずっと一緒にいるべきか?

当日は梨花ちゃんの両親にくっついているつもりだったけど、予定を変更するか。

 

「考えてあげてね?私、彼女のことを応援してるもの」

 

鷹野さんは俺の言葉にそう言って微笑む。

そして俺と別れ、人混みの中へと消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 


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